●JR西日本 新幹線500系電車
 

~ しがらみは騒音よりも厚い壁 ~


助手:

フランス国鉄のTGVが、試験走行で574.8km/hという世界記録を達成ましたね。(※1)

博士:

1990年に515km/hの記録を既に作っていたとはいえ、約60km/hのアップは日本のリニアモーターカーの581km/h(2003年)と並ぶ立派な記録じゃな。

助手:

確かに鉄輪で地上を走る物体のスピードじゃないですね。リニアは「鉄道」とはいえ宙に浮いていますから。

博士:

とはいえ、今回の記録はモーター出力をアップした速度記録達成専用車じゃし、架線の電圧もアップして臨んだらしいの。この記録達成にかけたコストは数十億円らしいぞ。

助手:

なぜにフランスはそこまで力を入れているのでしょう?

博士:

おそらく新興各国で計画されている高速鉄道建設の受注を狙ったデモストレーションのためじゃろうな。

助手:

営業&広告というわけですか。しかしゼロ戦より速いとは、正直、悔しいなぁ。(※2)

博士:

なにと比べているんじゃ。比べるなら新幹線じゃろうが。


【「レイ、V-MAX発動!」ぢゃなくて500系】

レイズナー顔

「そ~ら~に~ あおい流星~♪」



助手:

しかし新幹線の営業速度記録を持っている500系は、2007年7月で東海道区間から引退だそうですよ。(※3)

博士:

500系は1997年3月22日(東京乗り入れは11月29日から)の運行開始から10年しか経ってないのじゃがな。

助手:

一時はTGVと並ぶ営業速度で世界一に返り咲いたのに!(※4)。おまけにカモノハシ顔の700系よりずっとかっこいいのに!(※5)

博士:

確かに惚れ惚れするフォルムじゃのう。

助手:

どうしてこんなにかっこいい500系が憂き目にあわなければいけないんですか?

博士:

それは一言で説明するとしたら東西の事情の違い、かのう?

助手:

は?

博士:

それにはいろいろと事前の説明が必要じゃの。君、500系のフォルムの理由を説明できるかね?

助手:

バカにしてないでくださいよ。実はスピードを出すだけなら技術的にそれほど難しくはなくて、主な理由は騒音対策でしょ?



【解説1】

「25メートル離れた場所で75デシベル以下」と定められた世界で最も厳しい環境省の基準と、欧米と比べて断面積が3分の2しかなく、これまでの形状の車体が300km/hで突入すると爆音が発生するトンネルが500系開発陣の前に立ちはだかった。
彼らはそれらをクリアするために、500系にこれまでにない空力性能の向上と安全対策を図った。


盛り込まれた新機能
 ・トンネル突入時の衝撃音を回避するための、先頭車両(27m)の半分以上を
  占めるロングノーズ(15m)。
 ・風きり音を低減するための特殊形状パンタグラフ。
 ・航空機のように円形の車体断面。
 ・円形形状車体のための曲面ガラス窓
 ・高剛性と軽量化を両立するアルミニウム合金のハニカム構造の車体。
 ・走行時に空気抵抗を生じさせないプラグドア。
 ・安定した走行を実現し乗り心地を向上させるセミアクティブサスペンション。
 ・安全に停止するためのセラミック噴射装置付き高性能回生ブレーキ。


ちなみに、バードウォッチングを趣味とする当時のJR西日本 総合企画本部 技術開発室長、仲津英治氏が、ロングノーズのヒントをかわせみの嘴から、パンタグラフの低騒音化装置(ヴォルテックスジェネレーター)のヒントをふくろうの羽から得たというのは有名な話である。
結果、空気抵抗は従来の新幹線と比べて3割減少し、その騒音は路線の全区間において、1992年から運行していた300系が270km/hで走っているときのものを下回ることに成功した。空気抵抗の低減は電力消費量を0系を100%としたときと比べると18%も減少させた。
計画における運行速度は320km/hを想定していた。設計上の限界は365km/hであり、試運転で計測した実車データでの理論値は400km/h近くに届いたらしい。



博士:

うむ、君にしては上出来じゃ。

助手:

(自慢げに)さらに付け加えるなら、約100億円の資金と6年の時間を費やしたんですよね。

博士:

では、あのロングノーズ、本当に騒音対策のためだけかと思うかね?

助手:

なに言っているんですか? かわせみが音を立てず水面に飛び込むことから、その嘴(くちばし)にヒントを得たロングノーズは有名な話じゃないですか。

博士:

はたしてそれだけかのう? 700系はあんなに長くないじゃろ?

助手:

だったら、あの長い鼻はなんのためにあるというのですか?

博士:

「カッコ良いから」じゃよ。

助手:

は!?

博士:

カッコ良いから長くしたのじゃよ。開発者がそう発言している。男のロマンじゃ。(※6)

助手:

は!? 「かっこいいから」!? 全てにおいて経済効率優先の今時にですか!?

博士:

そうじゃ。かっこよさとスピードと乗り心地、環境保全を追及したからこそ500系は大人気なのじゃ。

助手:

そんな今時スーパーカーみたいな!? そんなことがあってよいのですか?

博士:

まったくもって常識的に君の認識は正しい。なので500系が男のロマンを追求した代償は大きかったのじゃ。


【解説2】

ロングノーズにより前後両端車両のドア配置はオリジナルで数が少なくなってしまい、乗客の乗降に時間がかかり障害が発生した。
また、ロングノーズで失われた先頭車両の座席数を、編成全体で300系と同等にするために、座席と座席の間を1,040mmから1,020mmに詰めた。
しかしそれでもドアや座席の配置が他の車両と違うことで、ダイヤ変更時などの運用に支障が生じた。
車体断面の面積は先代300系と比べたときに10%削減されていた。つまり小さい。円形の断面を持つ車体形状は乗客に圧迫感を与えた。
結果として、圧迫感を感じる車内に乗客から不満が出た。あえて500系を避ける客もいた。
さらに東海道区間において300系と同じ最高速度である270km/hしか出せなかったことは致命的だった。
これは信号システムとカーブが多いという制約によるものである。300km/hを実現したのは、山陽区間のみだった。
とどめはコストである。1編成で最高約40億5000万といわれる700系と比べて、500系は50億円~52億円といわれている。


博士:

JR東海はこの車両を購入しなかった。座席配置から運用に融通が利かず、居住空間が狭く、値段が高い500系をJR東海が採用する理由がなかったのじゃ。

助手:

なぜ、JR西日本はこんな高コストでオーバースペックとも言える車両を作ったのでしょう?

博士:

一言で言えば、航空機とのシェア争いじゃ。博多空港は他の空港と比べて都市部に近く、そのことから新大阪~博多間は飛行機に客を奪われていた。そのシェア奪還のためのスピードと外見のインパクトだった。

助手:

しかし、その結果、独自の座席配置による運用障害を発生させ、居住空間を犠牲にし、おまけに高コストというわけですか。

博士:

そうじゃ。しかしなにより東海道早期引退の一番の理由はJR東海の意向を無視してしまったことじゃろう。東海道区間と山陽区間があっての新幹線じゃからの。

助手:

TGVと違って新幹線は速度記録の前に様々なしがらみを振り切らないといけないのですね(涙)。

博士:

しかし、そんなしがらみまみれの中、我が道を突き進んだからこそ500系は歴史に残る傑作車両であり、人気者なのじゃ。

助手:

しかしそれでも短命では時代のあだ花です。

博士:

そういうな。よし今夜は東海道から去り行く500系に一献といこうじゃないか。

助手:

おごりですか?

博士:

割り勘じゃ。しがらみが生じるからの。

助手:

けち~。



※1:

2007年4月、パリとストラスブール間の試験走行において。モーターの出力も架線電圧もアップした特別な記録挑戦用専用車で達成。

※2:

式艦上戦闘機五二甲型(1943年)の最高速度は559.3km/h。

※3:

2007年7月 N700系導入と入れ替わりで。

※4:

1964年に200km/hの営業速度で運転を開始し、後に210km/hまでアップした新幹線であるが、TGVが1981年に営業速度260km/hで運行を開始し営業速度世界一の座を明け渡す。さらにTGVは1990年に営業速度300km/hを達成した。そして500系が1997年にやっと営業速度でTGVに並んだわけである。1997年に始発駅から終着駅までの平均速度(242.5km/h)と2停車駅間の平均速度(261.8km/h)が,世界記録としてギネスブックに掲載された。

※5:

世界の高速鉄道

■1964年:日本:新幹線(0系):210km/h
■1967年:フランス:TGS:200km/h
■1981年:フランス:TGV:260km/h
■1983年:イタリア:ペンドリーノ:250km/h
■1990年:スウェーデン:X2000:210km/h [TGV]
■1993年:フランス:TGV:300km/h
■1997年:ロシア:ソコル:250km/h [ドイツ]
■1997年:日本:新幹線(500系):300km/h
■2000年:アメリカ:アセラ・エクスプレス:240km/h [TGV]
■2000年:イタリア:チザルピーノ:200km/h
■2001年:フランス:TGV:320km/h
■2002年:ドイツ:ICE:300km/h
■2003年:中国:上海浦東国際空港アクセス用トランスラピッド(リニア):430km/h [ドイツ]
■2003年:イタリア:ユーロスター・イタリア:300km/h
■2004年:韓国:KTX:300km/h [TGV]
■2007年:台湾:台湾高速鉄路:300km/h [TGV/新幹線/ICE]
■2007年:スペイン:AVE:330km/h [TGV/ICE]

※6:

現近畿車輛株式会社理事・研究開発部長 岩本謙吾氏が「新幹線EX 2007 Vol.3」(イカロス出版)にて「やはりカッコがいいから長くしたんです。」と仰られております。それに比べて、N700系はJR東海のサイトに「カッコ良いかカッコ悪いかよりも(中略)必然的にたとりついたカタチ。」と書いてあります。男のロマンがわかってないな~。





LAST MODIFIED :

3/MAY/2007

ON SET :

20/DEC/2009