見た目からして不思議。普通の戦車にあるはずの砲塔(ターレット)がない。
平べったい! 車高低い! と思ったらクローラ(※1)が上下に伸び縮みして、車高や姿勢が自在に変化する。「なんじゃこりゃー!」と叫ばずにはいられない。
戦車なのに戦闘が嫌いで退却が得意という主人公のWEB配信アニメ、「やわらか戦車」が流行ったのは記憶に新しいが、それを地でいっている。やっぱりこのSタンクも仲間から「っていうかさ~、おまえそれでも戦車?」とか言われてそうだ。
「第2次世界大戦でも砲塔のない戦闘車両があったけどさ~、そいつら突撃砲とか、自走砲とか、駆逐戦車で、戦車じゃなかったじゃない?もしかしておまえもそのクチ?」
ノォ~ン!いまでこそ引退途中ではあるが、Sタンクは立派な戦車! しかも主力戦闘車両=MBT(Main Battle Tank)だったのだ!!
砲塔が無いのは、車体そのものが砲塔という考え方からである。
そのために普通の戦車にはない高い運動性能と姿勢制御性能が盛り込まれているのだ。
【Sタンクの特徴】
・無砲塔 |
→強度面で有利。また全面投影面積を小さくすることで被弾の可能性を抑える。 |
・主砲 |
→62口径105mmライフル砲。形式名L74。2,000m以内であれば当時のソ連戦車を撃破できた。無砲塔化によるロングバレル。 |
・ダメージコントロール |
→鋭い楔(くさび)型形状。被弾しても砲弾をはじくため。 |
・姿勢制御 |
→油圧ダンパーにより姿勢制御が可能。 |
・自動装填装置 |
→西側戦車では初めて。無砲塔化の恩恵 |
・速射性能 |
→毎分15発で発射可能。4秒に1発が撃てる計算。これは早い。 |
・50発の砲弾を搭載 |
→5発入り主砲カートリッジを10個搭載 |
・補給の早さ |
→10分で主砲カートリッジを交換可能。スウェーデン製兵器は多勢で攻めてくる相手を少数で迎え撃つ想定をしているので、補給時間を短くするように工夫されています。 |
・主砲カートリッジ交換 |
→車体後部のハッチから行う。戦闘中でも作業者の安全性が高い。自衛隊の90式戦車などは車体上部から装填します。 |
・乗員 |
→戦車長、砲手兼操縦手、無線手兼後方操縦手(自動装填装置故障時の装填手も兼ねる)という変則的な3名配置。通常の自動装填戦車は、戦車長・砲手・操縦手が普通。 |
・一人でも運用可能 |
→史上唯一です。 |
・後ろ向き |
→無線手兼後方操縦手、つまり後ろ向きに座った乗員がいて、向きを変えることなく前進と同じように後進することができます。 |
・ドーザー(※2) |
→標準装備。機敏に陣地構築が可能。一般的にはオプションとして取り付けられるものが多いが、Sタンクは全ての車両についている。 |
・2種類のエンジン |
→ガスタービンとディーゼルの2種のエンジンを搭載。加速と巡航で使い分けます。砲塔がない分、運動性を重視しています。 |
・水上浮航能力 |
→水上浮航用のフロート装備。森と湖の国ですので当然ですね。 |
・生存性重視 |
→車体前部にエンジンルームを装備。前方から被弾した際に乗員の生存率をあげるための工夫。 |
いかがだろうか?他に類を見ない独自機能満載戦車、Sタンクのスペックは。
航空機「サーブ35 ドラケン」の項でスウェーデンの歴史的、政治的背景について説明したが、物量で押してくるであろう仮想敵ソ連に対抗するために、独自の兵器開発と運用方法に徹したのがスウェーデンであり、このSタンクは、その独自兵器群の中でも著しくスタイルにスウェーデンの防衛戦略の独自性が現れた例となっている。
このSタンクの開発において、スウェーデン陸軍は戦車部隊の将校たちにアンケートを実施し、自国にふさわしい戦車を入念に検討したそうである。結果うまれたのがこのデザインなのだ。
開発は機関砲メーカーとして世界的に有名なボフォース社を中心に、戦闘車両メーカーのランズバーグ社、自動車メーカーのボルボ社の3企業が手を取り合って行った。
森林地帯を低い姿勢で移動。配置に付いたらドーザーで壕を掘り、森の合間を縫ってやってくる敵戦車を待ち伏せ。
敵が現れたら自動装填を生かした1発/4secの速射性能で砲弾のシャワーを浴びせる。
撃ちもらしたら即退却。
逃げるときは無線手兼後方操縦手が操縦。後ろ向きなのに機敏な動きで全速力。
ダッシュはガスタービンで素早く、巡航はディーゼルで燃費良くスタコラサッサ。
追いかけてくる連中は2,000mから返り討ち。
スウェーデンは外国に攻め込む気が全くない。そして兵員も武器も豊富なソ連と違い、戦車は貴重な戦力であり、乗員はもっと大切な宝である。となると1両あたりの乗員は減らしたい。そして戦車が簡単にやれられてもらっても困るのだ。切実に。
そのためにエンジンルームを乗員より前部にもってきてある。乗員生存性を少しでも向上させるための工夫である。
ちなみにイスラエルのメルカバ戦車も同じ理由で同様のレイアウトを採用している。
というわけで、スウェーデンの事情に特化し、個性溢れるSタンクだったのだが、現在はドイツのレオパルド2戦車(※3)を改造したStrv 121及びStrv 122の導入により、退役過程にある。
理由として、Sタンクの汎用性の無さが問題となり断念した、というのが通説となっている。
また、砲弾の進歩により、もはや楔形状で被弾ダメージを抑えるのは難しい。そして野暮ったい外見から意外ではあるが、想像以上に先進技術の塊である戦車は開発に膨大な開発費がかかる。なので商売として外国に輸出する可能性でもない限り、戦車の独自開発は難しかったのだろう。同じスウェーデン製の兵器である戦闘機ドラケンが外国でも活躍しているのと対照的である。
輸出のための商品として考えるとSタンクは個性が強すぎた。その個性を生かす場所と戦術があまりにも限られていたのだ。
しかし、そんなSタンクではあるが、意外なところに影響を与えている。
実は自衛隊の74式戦車の開発の際、Sタンクの待ち伏せ戦法主体のスタイルや自由自在に動くダンパーなどを参考にしたそうなのである。ちなみに主砲も同じ系統の機種を採用している。
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