●FIAT (Bertone) X1/9
 ~ ベイビー・フェラーリ ~

イタリアが産んだコンパクト・ミッドシップ・スポーツ
 今回御紹介するのは、“プアマンズ・フェラーリ”、もしくは“ベイビー・フェラーリ”と言われた、フィアット社(後にベルトーネから販売)の「X1/9」です。

 昔、私のアルバイト先(ギター工房)の社長が、雑誌に載るほどこのクルマのファンだったので、私にとって懐かしいクルマです。いまでも、もし、お金と時間があるなら欲しいです。
 実際、当時の私の後任アルバイトさんは買ってしまいました(笑)。


【写真01:初期1300ccヨーロッパ仕様】
ランプがクリア。かっこいい
 
【写真02:後期(1984)1500cc】
僕はアメリカの安全規格にあわせた大きなバンパーがあまり好きではない。
ポルシェ914もそうなんだけど。
 
【写真03:後ろ姿】
後ろ姿もかっこいい。



 デザインはカロッツェリア「ベルトーネ」の当時のメインデザイナーであるマルチェロ・ガンディーニによるもの。

● ガンディーニの作品の一部 ●
カウンタックランボルギーニ
ストラトスランチア
5(サンク)ルノー
BXシトロエン
ギブリマセラティ


 X1/9のデザインの元は、1968年にガンディーニが手掛けたアウトビアンキ(フィアットの子会社の自動車メーカー)のショーモデル「アウトビアンキ・ラナバウト・バルケッタ【写真04】」です。
 これをベースに、この頃のベルトーネデザインの特徴であるウエッジ・ラインを強調した感じですね。

【写真04:Autobianchi Runabout】
当時の人々の未来感がわかるデザイン。
 



革命的コストダウンの秘密はびっくりアイデア!
 さて、X1/9の特徴は、イタリアの大衆車メーカーであるフィアットが初めて売り出した、コンパクトで安価なミッドシップ・スポーツであるということです。

 ミッドシップとは車体中央部にエンジンを搭載するレイアウトの事です。前後の重量バランスが程よく、運動性能に長けるレイアウトなのですが居住性が悪いので、主にスポーツカーやレーシングカーに採用されています。

 本国では1972年発売なのですが、その価格は同じコンパクト・ミッドシップ・スポーツである、ロータスヨーロッパ(イギリス)やポルシェ914(ドイツ)に比べてもかなり安いものだったそうです。
 それまで需要の小ささなどから高価にならざるを得ないミッド・シップスポーツカーは、フェラーリなど一部の高級メーカーのみのものでした。
 ですので、誰の手にも届く価格のミッドシップ・スポーツカーというのは驚くべきことだったのです。

 その安価の秘密は、コロンブスの卵的な発想にありました。
 X1/9は、FFレイアウトのセダン、フィアット128【写真05】というクルマのシャーシの前後を反対にして流用することでコストを下げたのです。【図01】

【図01:レイアウト変化図】
 
 トヨタがこれを真似して、カローラのシャーシをひっくり返してMR2(AW12)を作ったことは有名。


【写真05:fiat128 (1975年クーペモデル)】
 ダンテ・ジアコーサ博士によるFFレイアウト創世期の名車で、素晴らしいパッケージングとハンドリングで大ヒットし、バリエーションも多数あります。
 


 この128も自動車史においてミニと並ぶFFレイアウトの元祖的存在のひとつであることを知っていただければ、X1/9を産んだアイデアがどれだけ驚くべきものであったことかが皆様にも理解いただけると思います。

 また、パーツの多くも他の車種からの流用でした。
 当初採用された1300ccエンジンは128のもの、そして後に採用された1500ccエンジンはリトモのものでしたし、ドアノブはランチア・ストラトスと同じものです。

 しかし、ブレーキは当時にして4輪ともディスク式。サスペンションも4輪独立を採用しており、ピストンやオイルパンなどの細かいパーツも大衆車よりも一クラス上の贅沢な仕様となっています。
 これらのことから、「手を抜いていいところ」と「手を抜いてはいけないところ」を熟慮してあることがわかります。
 このような努力の結果、コストが下げられたわけです。恐らく設計者はかなり考え抜いたのではないでしょうか?情熱が伝わってきます。


安価でも高いポテンシャル
 X1/9の重量は約880kgと重めとなっています。128よりずっと重いです。

 これはクローズドトップとくらべると剛性が落ちるタルガトップのボディを北米輸出を踏まえた安全対策の為に補強した結果です。
 またエンジンも1300cc/1500ccと非力な印象を受けます。

 しかし、X1/9のスポーツカーとしての質は決して安っぽいものではありませんでした。
 タルガトップの開放感とミッドシップ独特の切れ味の鋭いハンドリングはスポーツカーとして大変楽しいものだと聞いています。
 運動性能のポテンシャルもかなり高かったようで、エンジンをパワーアップしてレースにも参戦しています。


イタリアの粋に溢れたX1/9に栄光あれ!
 ちなみに1974年から始まった日本での正規販売では売れなかったようです。
 理由は値段だと思います。クラウンと同じ値段だったという話ですから。
 当時は「外車」の値段がべらぼうに高かったので仕方ないことなのかもしれませんが、いくらなんでも品質に対して高過ぎですね。

 また、“リトラクタブルライト”、“ミッドシップ”という「男の夢3点セット」の2つまで備え(あともうひとつはガルウィング)、走りの実力もあるのに、“プアマンズフェラーリ”故、スーパーカーブームでも全く注目されませんでした。

 しかし、海外ではフィアットからベルトーネに引き継がれつつ(1983年、ベルトーネはカロッツェリアながら生産能力もある)18年間にわたり16万台が販売されました。

 X1/9は商業的成功をおさめたわけではないかもしれませんが、自動車史に残るべき隠れた名車であることは確かです。
 「誰の手にも本格的スポーツカーを」という作った人々の情熱をガンディーニの精悍なボディに包んだ粋なスポーツカーだと思います。


 
18/SEP/2002