ガソリンエンジンとはガソリンと空気を適切な割合で混合した気体(混合気)を圧縮し、火花で点火して燃焼を行わせ、これが膨張するときの圧力と体積の変化を力学エネルギーとして取り出す装置です。理想的には外気圧と等しくなるまで燃焼ガスを膨張させてやれば、そしてシリンダーとピストンが断熱体であるならば燃焼によって生じたエネルギーを最も効率よく取り出せることになる。
  逆に言うと、膨張比(たいていの場合は圧縮比に等しい)が小さい場合、まだガスが高い圧力を持っている状態で放出することになる。つまり音は煩く燃費は悪くパワーは出ない。一般に、圧縮比9付近のエンジンの熱効率は(いちばん燃費の良い運転条件で)40%程度で、膨張比を高めれば高めるほど熱効率も高くなるのだが、圧縮比も高くなるという問題が起こる。気体を圧縮すると温度も高くなるので燃料に自然発火する可能性が出てくるので適当な圧縮比を設定する必要がある。(仮に点火火花が飛ぶまで発火しないようにしたとしても、なおノッキングと言う問題は生じる。)

 点火をするとまず、点火プラグの周辺で燃焼が始まり当然その周辺で温度と圧力が増大する。そして圧力の波は音速で周辺に伝わり、まだ燃焼に参加していない混合気を圧縮して、燃焼室形状が悪くて圧力伝播にくらべて燃焼進行が遅い場合、あるいは燃料のオクタン価の低い場合、そしてもちろん圧縮比が高すぎて温度が不適切に高い場合には燃焼面が到達するまえに燃焼室の末端で自己発火が生じる。言い換ええるとノッキングは混合気の火炎伝播における最終燃焼部分(端末ガス)が自己発火することに起因している。その際の局所的な圧力上昇によって燃焼ガス中に圧力振動を生じる。この現象をノッキングといっているのだ。この結果、「コツコツ」と言うノック音を発生するとともに熱伝達を促進して熱損失の増大と燃焼室まわりの加熱を生じ、さらにノッキングに有利な状況をもたらす。また、強いノックキングは出力を低下させるだけではなく、ガスケットの破損やピストリングの焼付きなどのエンジン損傷を起こす。特にターボ車などでは一瞬でピストン溶融することがある。
 端末ガスは火炎伝播の進行とともにほぼ断熱的に圧縮されて温度、圧力が上昇して前炎反応が急速に進んで自己点火に至る。端末ガス全体が完全に同時に自己点火するわけではなく、前炎反応の進んだところから次々に点火すると考えられる。(見かけ上以上に早い火炎伝播の形をとる場合もある。)しかしきわめて短い時間に密度の高い端末ガスの燃焼が行われるため、燃焼室内に圧力の大きな不平衡を生じることがノッキングの原因であり、圧力の不平衡が大きいほどノッキングの効果も大きい。

 ノッキングの発生を防止するためには、端末ガス中の前炎反応があまり進まない間に火炎伝播を完結させなければならない。混合気側では、オクタン価が高いこと、混合気のの温度・圧力が低いこと、過濃または希薄混合気の使用、EGRの適用などによって防止できる。機関側では圧縮比の低下、点火進み角の減少、燃焼室形状による端末ガスの冷却の促進と水やメタノール噴射による端末ガス温度の低下、乱れの増強による火炎速度の増大、火炎伝播距離の短縮、回転数の増大による前炎反応時間の短縮などによって防止できる。一般的にはノックセンサを使ってノッキングを検知し点火時期を遅らせてノッキングの発生を防止する制御をしている。ノッキングの検出には振動センサをシリンダブロックに取り付けシリンダ内の圧力の変動をブロック表面の振動として検知する方法や各シリンダの点火プラグの座金部に圧電素子を組み込みシリンダ内圧力の変化を検出し、各シリンダごとに点火時期を制御するシステムがある。ノッキングから生じる圧力振動は燃焼ガスの音速と燃焼室の形状寸法(主にボア径)から決まる特定周波数のシリンダ内の気柱共鳴振動である。ノック検出法の決定にはノッキングによる振動の周波数分析を行い、共鳴周波数を見いだす方法がとられている。しかし点火時期を遅らせると、運転性能が落ちる方向になり、クルマへの支障はないが、せっかくの性能を無駄にして走ることになってしまう。

 オクタン価はガソリンのアンチノック性を表したもので、結局「どれだけ高い圧縮比を許すか」と言う値である。一般に、オクタン価を7向上させると許容圧縮比は1向上する。しかし、同じ燃料、同じ圧縮比でもエンジンによってノッキングしたりしなかったりする。映響が大きいのは燃焼室形状というよりはバルブ配置で、サイドバルブなどでは90オクタン燃料を与えても圧縮比は6がやっとですが、対抗バルブ配置のOHV、あるいはOHCとなると半球形燃焼室の採用によってこれが一気に9程度まで向上する。つまり燃焼室形状よりも、燃焼室内部での気流の流れ方によって向上させるほうがこれからは賢明である。
 オクタン価の基準を設定するためにヘプタン(C7H16)100%を起こし易いものの標準(オクタン価0)にし,2,2,4-トリメチルペンタン通称”イソオクタン”100%を起こし難いものの標準(オクタン価100)とした。(つまりオクタン価98のガソリンとは、イソオクタン98%に対しヘプタン2%で混合してつくった燃料と同じアンチノック性を持つガソリンである。)100オクタン以上の場合はイソオクタンに四エチル鉛を添加したものを標準燃料として使用している。(一部の航空機燃料に使われているガソリンは、オクタン価が130程度あり、基材としてアルキレートガソリンやトルエン、さらにオクタン価向上剤として自動車では禁止されているアルキル鉛が使用されている。)日本工業規格(JIS)では、2号(レギュラーガソリン)が89以上、1号(ハイオクガソリン)は96以上とされているが石油メーカーによってオクタン価の違いがある。オクタン価を表すのにリサーチオクタン価(RON)とモーターオクタン価(MON)の2種類があり、RONが低速時(3000rpm以下)のアンチノック性を、MONが高速時(3000rpm以上)のアンチノック性を表している。日本のガソリンスタンドでは前者のRON表示に決まっているが国によってはモーターオクタン価(MON)を使用しているところもある。またアメリカなどはRONとMONをたして2で割るという表示もあるので注意する必要がある。オクタン価のLONとMONの差をセンシティビティといい、CFR機関(標準機関)の運転条件のちがいによるアンチノック性を表すものや、自動車が道路を走行している条件のロード(走行)オクタン価などもある。
 注意しなければならないのはエンジンによって要求するオクタン価が違うということで、エンジンがノッキングを起さないで運転できるための、最低限度必要なガソリンのオクタン価をオクタン価要求値(ONR)と言う。一般に圧縮比が高く、高出力のクルマほどオクタン価要求値は高くなる。もしONRよりも低いオクタン価の燃料しか与えられないならば、ノッキングを起こし難い運転条件を用いる(そして燃費を悪化させる)か、過給エンジンならば出力低下を承知でブーストを落とす、あるいは効率の低下を忍んで圧縮比を下げてしまうかを強いられる。(逆にONRよりもオクタン価の高い燃料を与えても出力も効率も向上しない。)言い換えるなら、ONRの高いエンジンほどハイオクの恩恵を受けることになる。また低いオクタン価のガソリンで運転するように設計された圧縮比の低いエンジンにハイオクを入れても効果はない。
 最近ではガソリンエンジンの代替燃料としてエタノールがアメリカ・ブラジルで、メタノールおよびMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)が西ドイツで使われ始めている。これらの燃料はガソリンと比べてオクタン価が高くアンチノック性に優れているが、エタノール・メタノールは沸点が低くエンジンが温まったときにペーパーロックを起こしやすい。また、メタノールには金属腐食の問題がある。一方MTBEはエタノール・メタノールほどペーパーロックの心配はなく発熱量も高いのだが日本ではMTBEはNOxの増加防止のために使用に制限されている。実際の所は数種類のガソリン基材をブレンドしてあらゆる温度の環境下で、一定の性能を保つようにしている。