秘密基地「道楽庵」

クワガタあれこれ


ミヤマの嫁殺し

 クワガタ飼育者の中では、「ヒラタの嫁殺し」というのは非常に有名な話である。
 気性の激しいヒラタクワガタの雄が雌を真っ二つにちょん切って殺してしまうという事件は、ヒラタクワガタを飼った人なら、誰しも一度は経験があるのではないだろうか?
 私は本土ヒラタクワガタとセレベスオオヒラタクワガタで「ヒラタの嫁殺し」を経験してしまった。両者とも雌が産卵した後に殺されている事から、交尾を済ませ、せっせと産卵している雌に雄が更に交尾を迫ったもんだから、雌が雄の性的な要求を拒否して、雄が逆上して、大顎で挟み殺したものと思われる。
 これは、人間の世界にもありがちな話ではないかと思われる。好き好き大好きで、エッチして、彼女の方が妊娠して、それでも彼氏の性欲はギンギンのビンビンで、更に妊娠中の彼女にエッチを迫り、拒否され、逆上!血の気の多い彼氏は彼女をぶっ殺し、そこまで気が強くない彼氏は他所に愛人A子さんを作ってしまう。もっと気の弱い彼氏は風俗嬢に走る。もっともっと気の弱い彼氏は、一人寂しく自慰行為に耽る。全ては雄の性欲の強さが為せる業であると言える。
 私はヒラタクワガタの「ヒラタの嫁殺し」を経験する前に、「ミヤマの嫁殺し」を経験した。
 ミヤマクワガタというのは、「深山(みやま)」という名前が示すように、わりと涼しい高地に生息するクワガタで、温度管理をしないと累代飼育が難しいと言われている。特に私が住む京都市の夏は、盆地特有の強烈な湿度を伴う蒸暑い地域であり、なかなか思ったように飼育するのは難しい。
 それでも、ミヤマクワガタの累代飼育を成功させたいと思い、やや小ぶりなミヤマクワガタの雄雌ペアを買ってきた。いわゆる「ワイルド」と呼ばれる野外採集個体なので、雌は既に交尾済みかも知れない。
 小ぶりとは言え、雄の頭部はミヤマクワガタの最大の特徴であるモッコリと張り出した耳上突起がある。子供の頃、この鎧武者のような突起がカッコ良く見えたものだ。オオクワガタの実物を見た事が無かった私の子供の頃、ミヤマクワガタはノコギリクワガタと並ぶ人気種であった。
 ミヤマクワガタの飼育ケースに敷くマットは通常のクワガタ用のクヌギのフレークではなく、カブト虫用の腐葉土マットが良いという情報があったので、試してみた。この他にも、腐葉土の層の下に園芸用の黒土を敷くと産卵率が高まるという情報もあったが、今回は腐葉土マットの産卵セットにとどめておいた。
 連日35度を超える京都の猛暑の中では、ミヤマクワガタには気の毒な環境であったが、ペアを産卵セットに投入した。
 翌朝、飼育ケースを確認すると、内羽根を広げたまま雌が真っ二つにされていた。まったく何てこったい?せっかくミヤマクワガタの累代飼育に挑戦しようとした矢先に、こんな事になるなんて…。
 ミヤマクワガタの累代飼育を諦め切れなかった私は、すぐに後妻さんを探しに行った。クワガタ・ショップに丁度良いサイズのミヤマクワガタのワイルドの雌がいたので、迷わず購入、再び惨劇のあった産卵セットに投入した。
 1週間経っても、惨劇は起こらなかったので、安心して、雌の産卵の兆候を観察していたが、卵はどこにも見当たらなかった。オオクワガタのように産卵木に穿孔するわけではないので、産卵の状況が掴みにくい。よく飼育用の透明プラケースの底に卵や幼虫が見えると言われるが、なかなか見えない。
 そうこうしている内に、何を血迷ったか、またもや雄が雌を殺してしまって、ここで漸く今シーズンのミヤマクワガタの累代飼育は断念してしまった。


コクワガタは多頭飼育

 コクワガタはオオクワガタと同じドルクス系のクワガタであるが、オオクワガタとは逆に小ささが大切なポイントであると思う。
 オオクワガタのようなワイドな体格の迫力は無いけれど、小さい身体に不似合いなほど大顎が長い。昆虫図鑑などで紹介されているコクワガタは、それほど大顎が長いという感じではないので、身体と大顎の長さのバランスは地域差があるのかも知れない。私が飼育している京都産のワイルド固体は、大顎が長くてカッコ良い。
 コクワガタの何が良いかっていうと、非常に小さな玩具のような、カラクリのような、精密機械のような感じが良い。
 小さな昆虫ならば、コクワガタより小さい昆虫ならば、蟻とか蚊とかダニ、ノミとか…、いくらでもいるが、やはりあの小ささでありながら、クワガタであるというのがポイントなのである。
 小さいので、ついつい多頭飼育してしまう。時々、雄同士で喧嘩している事もあるが、基本的には小さなコクワガタがコソコソ動いている姿は非常に微笑ましい光景である。
 喧嘩の痕跡は、脚が1本取れてしまっていたりして、可愛そうな気もするが、冬に越冬させた時には、オスを1匹ずつ個別の小さな飼育ケースに入れて冬眠させたが、何かしっくりこない。
 コクワガタは集団生活をしている姿を、机上の片隅で見ていると幸せな気分になる。
 コクワガタを冬眠させると、そのまま死んでしまうので、冬も暖房で一年中活動させたまま飼育しているという話も聞くが、やはり自然のサイクルからはずれるので寿命を縮めるという話も聞くので、私は「冬眠派」である。自然のサイクルに従うべきであるとか、そんな偉そうな事ではなく、冷暖房で温度管理をしない常温飼育なので、寒い冬は寒く、暑い夏は暑く。特に私が住んでいる京都市は盆地特有の夏は蒸暑く、冬は底冷えという最悪な気候風土であるので、クワガタには申し訳ないが、彼らは結構環境に適応する能力は高いと思う。(東南アジアあたりの大型のヒラタクワガタの仲間は、仮に放虫されても、日本の寒い冬は越せないと高をくくられていたが、ところがどっこい、彼らは日本の冬に適応し、種が近い本土ヒラタクワガタと交雑し、日本固有種を危機に陥れていると言われている。)
 冬眠中に死んでしまった者もいるが、それはコクワガタに限らず、他のクワガタもリスクは同じだと思う。冬眠中もマットの乾燥を防ぐ為、霧吹きをして保湿するが、あんまり湿度を高めると凍死なんて事になるので、気をつけなければならない。
 自然界でオオクワガタと交雑したコクワガタが非常に稀にいるらしい。「オオコクワガタ」と呼ばれる、この雑種は長生きしないので、そのままの形質が受け継がれ、種が固定される事はないそうである。小さなコクワガタの雄がオオクワガタの大きな雌を果敢にモノにしたのか、大きなオオクワガタのロリコン気味の雄が、小さなコクワガタの雌を手籠めにしたのか、いずれにしても想像しにくい。
 それでも、私がズボラに育てたオオクワガタの幼虫は見事にコクワガタよりも小さく育ってしまったのを見ると、このサイズならば、バランス的にオオクワガタとコクワガタの雑種ができても不思議はないのかも知れない。
 オオクワガタと異なり、コクワガタには商品的な価値は無い。そんなコクワガタを、お金を掛けてブリーディングしても赤字ではないかと思うけれども、小さな幼虫が変態していき、羽化する様子はオオクワガタでは味わえない魅力があるのである。
 プライス・レス、お金で買えない価値がある。


雌クワガタは見分けられん

 自慢ではないが、私はクワガタの雌の種類を見分けられない。
 雄なら、その長い大顎の形状など、判別する手がかりが多いが、雌は大顎が短いし、基本的に同じような丸っこい形状でどれも同じにしか見えない。
 ノコギリクワガタは、なんとなく赤褐色の体色なので、辛うじて見分けられるが、同じノコギリクワガタであっても、奄美大島にいるアマミノコギリクワガタは体色が真っ黒なので、こうなると分からない。
 ミヤマクワガタの雌は脚の付け根あたりに、体毛が生えているので、なんとなく分かるが、他に同じように体毛が生えている種類がいたら、さっぱり分からない。
 コクワガタは小さいから、なんとなくそうではないかと思うけれども、栄養状態によって小さい雌クワガタというのは、いくらでもいるもので、体格の大小だけで判断するのは、乱暴である。
 この前、羽化後、飼育瓶の蛹室で、外羽根が固まるのを待っていたヒラタクワガタとオオクワガタの雌が飼育瓶の空気穴の通気シールを破って、脱走してしまった。夜な夜なカサコソ音がしたので捕まえた雌と、夜に部屋の天井あたりをブンブン飛んでいた雌を捕まえた。体長はほぼ同じで、大きいからオオクワガタという判定はできない。ヒラタクワガタよりオオクワガタの方が身体に厚みがあると言われているが、比較してもよく分からない。最終的には外羽根にタテ縞が見える方がオオクワガタであろうという事で、なんとか結論づけた。
 このような有様なので、私は野外採集しない。雄は見分けられても、雌が見分けられないからである。
 上級クワ人は、幼虫ですら、その種類を見分ける事ができると言う。雌クワガタを見分けるより、更に凄いと思う。私は未だに幼虫の雄雌も見分けられない。


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