30日〜10日




-30日ー
最近、僕はアツシに興味を持ちはじめている。
ちょっと普通じゃないアツシの観察は、僕にとっては中々の暇つぶしだ。
水さしを眺めながら、不思議そうな顔をしたり、テレビから聞こえてくる音や、
テレビにうつる人間を眺めては、驚いている。

親父は一体コイツをどこで拾ってきたんだろうか?



-31日-
今日はいつもの時間になっても、中々アツシがこなかった。
僕は自分で車椅子に乗り、アツシの部屋があるだろう、メイド達の家の方へ向かった。
メイド達の家までは、一旦屋敷を出てからいかなくちゃいけないから面倒だ。
しかも石畳なので、車椅子の僕にはちょっと辛いものがある。
ガタガタと椅子を鳴らしながら、僕は両手に力を込めて車椅子を走らせた。
途中までは調子よくこいでいたものの、やはり石畳のみぞに車輪がはまってしまいね
僕は身動きがとれない状態になっていた。
車輪を前へやったり、左右に揺らしたり
そうしているうちに、メイド達の家の方から騒ぎ声が聞こえてきた。

またアツシを苛めている様だった。
ガラスか何かが割れる様な音がして、叫び声が聞こえてくる。
僕はそこがどういう状態になっているのか、凄く気になったよ
叫び声はアツシじやなく、メイドの女の声だったからね。
アツシがキレて何かしてるんじゃないかな、って思ったのだ。
焦る僕の気持ちとは裏腹に、車輪は已然溝にはまったまま
僕は半ば強引に、車輪を動かした。
ガタンっと音がして溝から抜ける事が出来た。
僕は急いで、メイドの家の方に車椅子を傾けた。
勢い良く走っていたのだ。
どんな状況なのまか、すぐさま見たかった。

車輪の真下にある、石に気がつかなかった。

その時は自分でも笑っちゃったんだけど、スローモーションで自分が
車椅子ごと倒れて行くのがよくわかった。
なんでこんなにゆっくり倒れてるんだろ、って
そう思いながら、僕は石畳にほおずりしていた。
右の義足がはずれてしまった。
肩が鈍く痛い。
ほっぺたは擦り剥けているだろうなぁ。
手の甲から血が見える。
そう瞬間に、僕の脳に様々な情報が流れてきたと同時に、体中に激痛が走って行った。
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ
痛いよぉ
顔が痛い、足が痛い、腕が痛い、肩が痛い

僕がこんなに痛いのに、どうして誰も助けにこないんだっ!
相変わらずメイドの家の方は、叫び声が続いている。
僕なあんな大きな音で倒れたのに、だれも気がつかない

痛い。
早く立ち上がりたいけど、立ち上がれない。
誰も助けにこない。
僕は小さな声でアツシの名前を呼んだ。
別におかしい事じゃない
アツシはあの家の中にいるし、僕のメイドだ。
僕がアツシの名前を呼野は可笑しい事じゃない。
でもそれなら・・・どうしてもっと大きな声で呼ばないんだろう・・・・

石畳に寝転がって、血を流しながら、僕は空を眺めた。
なんだか頭がボーッとする。
空の青が眩しい。

すると、メイドの家の方からバタンっという音が聞こえた。
僕は顔だけをそっちに向けると、顔面蒼白のアツシがたっていた。
今にも泣きそうな、怒りにも似た様な表情だ。
物凄い勢いで僕のところへ駆け寄ってきた。
「大丈夫ですかっ!!血が・・・すいません、すいません」
アツシの謝る声がずっと頭の置くを響いて行った。
「僕が行くのが遅れたから・・・でもあの人達が、
悪口ばかり言うものだから・・・・・・・」

そう言って僕はアツシに担がれて、屋敷の方へつれていかれた。
何かアツシが僕に言っていたけれど、頭がボーッとしてて、あまり憶えていない。
倒れた時に頭をぶつけたかな・・・・・・




-1日-
傷はさほど対した事なかった。
擦り傷と打撲ぐらい。

今日はアツシは早めに僕の部屋に来た、親父や他のメイド達に、昨日の僕の事で
虐待されたかな?と思ったけど、特に傷らしい物は見当たらなかった。
そういえばアツシはどんなにメイド達に殴られたり、蹴られたりしても
傷が残ったり、怪我をしたりはしてないなって、今頃僕は気がついた。
随分頑丈なんだね。



-2日-
コンコン、とノック。
昨日からアツシは何だか早く僕の部屋にくるようになった。
また一昨日の様な事があると困るからだろう。
「おはようございます、今日はお天気ですよ」
そう言って、アツシはガタガタと車椅子をベッドの横へ持ってきた。
「どこか行くの?」僕はアツシに聞いた。
アツシは、「お天気がいいので、散歩に行きましょう」と、微笑んだ。
でも僕は、トイレとか、そういうの以外車椅子に乗りたく無かった。
振動が傷に響くのだ。
痛いから、行きたく無い。
返答に悩んでいると、アツシはまたニコリと笑って
「ベランダでお散歩しましょう」と言った。
それならあまり移動する事もないと思い、僕は首をコクリと下に下げた。

それから何時間そうしていたか、僕はアツシとベランダで日光浴をした。
太陽がぽかぽかと暖かい。
凄く気持ちがよかった。
辺りを見回してみた。
僕の部屋のベランダからは、庭が一望できる。
花達で沢山の温室も、ここから見る事ができる、もちろんメイド達の家も見える。
ふと僕は一昨日の事を思い出した。
メイド達の家の方から聞こえてきた叫び声
アツシが言っていた様な「あの人達が悪口ばかりいうものだから」とかなんとか
誰が誰の悪口を言っていたのか、何の叫び声だったのか。
僕はアツシがボコボコにされて、それ見ていたメイドが叫んだリしているのかな
とか、思ったりしたけれど

アツシはバタバタと、タオルをはたきながら「あったかくて、気持ちいいですね」
「僕太陽大好きです」と、繰り返していた。

「一昨日のアレは何だった?」
アツシに問うた。
タオルをはたく手がとまり、アツシの表情も下をうつむいたまま、固まってしまった。
「なんでもないです、ちょっとしたいざこざです」
バタハダとトオルを畳んで、部屋の中へ入って行ってしまった。

僕はもう一度アツシに聞こうと、首を部屋の方へ傾けた。
部屋の中、アツシはもういなかった。

う〜ん
悪口って、やっぱ僕の悪口なのかな?
でもメイド達のそんな戯れ言今に始まった事じゃないし、僕は屁とも思って無いけど。
わざと聞こえる様に言う奴もいするしね〜
そういうヤツには、僕だって大人しくしている訳じゃないけど。
じゃあ、アツシが僕の為にキレたって事?
ま〜その悪口が、僕の悪口なのか
それとも
親父の悪口っていう事も考えられるよね〜

そうだよぉ
アツシは親父の囲いじゃんか。
僕の悪口聞いたくらいでアツシがキレるかよ。
なんだよ
なんだよ
なんだよ・・・・・

何か最近僕へンじゃないか?????
アツシ何かどうでもいいじゃん。

イライラしてきた、誰の為にアツシがキレたのか、凄く知りたくなってきた。
でも僕はその気持ちを表に出したくない
認めたくないし、こういう感情って変だ。
可笑しい。
怒りのぶつけ場所がいまいち解らなくなった僕は、メイド達の家を凝視しながら
「騒がしいメイドは、いらねぇよ」
と呟いていた。

僕って馬鹿?



-3日-
あの人はだれだったんだろう。
聞き覚えのある声だったような、懐かしいような。
あの香りは何だろう。
鼻の奥をつく香り。

ああ・・・・・・薔薇の香りだ。




-4日-
今日は事件があった。
刑事は事件です、と大騒ぎしていた。
こんな田舎町でこんな事がおこれば、そりゃ〜毎日退屈しているヤツラには、相当な
暇つぶしになるだろう。
何人か人が死んだというのに、凄いはしゃぎようだ。
だから僕はコイツラ大嫌い。
僕はあんまり憶えていないけど、きっと僕の時も凄いはしゃぎようだっただろ。

早朝、まだ薄暗い時間だった。
外から僕の部屋に時折入る、赤い光りで目が覚めた。
ねぼけた頭で車椅子に何とか乗って、僕は窓は窓の外を見た。
パトカーが止まってる。
1.2.3・・・3台。

メイド達の家の方で何かあったみたいだった。
騒がしい声が幾つか聞こえ、泣叫ぶ声が聞こえ
家の中から黒い袋が
1.2.3・・・・3つ。

3人死んだ。

メイドが3人死んだってさ。
事件だ、事件だと刑事が僕の部屋まで乗り込んで来た。
ノックもせず、ドカドカと僕の部屋に。
その時僕の部屋には、アツシがいた。
突然入ってきたヤツラにアツシはどう対応していいのか解らない様子だった。
あたふたと、開けっ放しのドアを閉めたり、僕の顔を見て不安そうになったり。
僕はそんなアツシに「大丈夫だよ」と小さい声で言った。
刑事は僕の部屋の窓から、メイドの家が見えるのを確認してから、僕に問うてきた。
「不振な人物をみたかい?」
煙草臭い香りがした。
「見たよ、アンタだ」
ククク、と僕は笑っていた。
刑事は少し居所の悪そうな顔をした後、ハハハと笑った。
窓辺の薔薇をひとつ取って、僕の足下に置いた。
「不憫な子だ」
そしてドアの前に歩いて行った。
-とっとと出て行け。
ドアノブに手を当てた。
-嫌なヤツめ
パタン
-死ね


殺された(らしい)メイドは、家の仕事もさぼってばかりの奴等だったらしい。
メイド苛めもしていたらしくて、他のメイド達からは相当嫌われていたみたいだ。
それぞれ自分の部屋のベッドの上で、バラバラになっていたらしい。
頭を潰されているのもいれば、足を潰されているヤツ、腹をえぐられているヤツと
それぞれ違った部分を潰されていたそうだ。
刑事が言うには、部屋中に血がちらばっていたくらいだから、犯人も沢山の返り血を
浴びているという。
犯人がこの家にいるようなら、血まみれの洋服か、血を浴びない為の布が出てるはずだ
とも言っていた。

でも犯人がすっぱだかで犯行におよんでたらどうすんだ
洗ってしまえば終わりじゃないの




-4日-
先日の一件から、家はずーっと慌ただしい。
今日僕はアツシをつれて温室へ行こうとした。
石畳を車椅子で通ってる途中、メイド達の家の前を通った。
沢山のメイド達が住んでいるにも関わらず、家の廻りは已然として
黄色いテープがはり巡らされている。
僕がそのテープを手にとって見ていると、車椅子をひいていたアツシが
「メイドの皆さんは、仕方なくこの近辺の貸家に住んでいるそうです。
小さな部屋に大人数で、息がつまるそうです」
そしてニコリと笑った。
無邪気に笑うアツシが可笑しくて、僕は少し笑いが込み上げてきた。
「だれに聞いた?」
アツシはニコニコしながら、「優しくて、綺麗なメイドさんです」と笑った。
そんなヤツいたっけか?
そう思いつつも、僕らは温室へ向かった。
しかしドアが開かなかった。
多分、刑事がメイド達に言って入れない様にしてしまったんだろう。
どうしてそういうの、僕に一言も言わないのか。
どうして僕に承諾もなくそういう事をするのか。
この温室は僕の温室だっ!!!
ドアをガンガン叩いた。
鎖がジャラジャラと音を立てた。
僕はアツシに落ちていた石を拾う様に言った。
「石でどうなさるんですか???」
そんなのこの状況みりゃわかんだろっ!!
鍵ぶっこわして中に入るんだっ!!!
僕の部屋に薔薇がないんだっ!!!!!!!!!!
僕は薔薇の香りを聴きたいんだっ!!!!!!!

僕は汗を滲ませながら、ドアにからまっている鎖がガンガン叩いた。
殴って、ぶつけて・・・
でも石の方が先に砕けてしまった。
 ふと気がつけば、僕は薔薇を手に入れられないという現実の前に、
自分の両手で鎖を殴ったり、引っ張ったり・・・・
手に走る痛みで我に帰った。
両手の平が血でたまってく。
ポタリ、と一雫
僕の義足の上に落ちた。
黒いズボンの一転が更に黒さを増した様に見えた。
ズボンにしみ込む血液の向こうにアツシが見えたので、僕はアツシに手当てを
してくれと頼んだ。
血が沢山でているだけに、痛みも結構あった。
でもアツシが動かない。
「アツシ、痛いんだよ」
顔を挙げてアツシの方を見た。
ポツリ、ポツリと・・・・・・・

「痛いのは僕、泣きたいのも僕、早く手当てして」
アツシが何故泣いたのか、僕には理由は解らないし
泣いたアツシの顔を見て、正直僕は狼狽えたりしてしまったんだけど

今までの僕だったら・・・・・・
こんな怪我なんかしちゃって、手当てをメイドに頼む事もなかっただろうし
そのメイドに自分でも君が悪くなるくらい、優しく接しなかった。
この状態が他の人から見て優しいといわれるモノかわからないけれど、
僕にとってはかなり優しい気がする。
そう思うのも、何か変。

僕は何か変?




-5日-
自分でも馬鹿な事をしたと思ってる。
手が痛い。
アツシは包帯巻くのもへたくそで、巻いても巻いてもすぐほどけてしまう。
しかも過剰な包帯の巻方だし、どうすんのコレ。
アハハハ
何か笑えるっ!
へったくそだなぁっ!




-6日-
「お早うございますっ」
といつもの挨拶でアツシが僕の部屋にくる。
「傷の手当てと、包帯の取り替えと、それから・・」
そう自分で確認するように、ひとつひとつ傷薬を出す。
「あ・・・」とアツシが言うので、僕はアツシの次の言葉を待ちながら
アツシの方を見ていた。
「メイドさん達、お家に戻れたそうです。やっと兎小屋から脱出だそうですよ」
コロコロコロと転がって行く包帯を追い掛けながら、アツシが言った。
「ふ〜ん」
僕は適当に相づちを打った、でもアレ?
何かおかしくない?
おかしいでしょ?
アツシ
お前はどこで寝泊まりしてんだ??
他のメイド達と一緒じゃないのか???

一瞬にして僕はそう思ったが、待て待て
アツシは親父のモノだった。
親父のとこで寝泊まりしてるのか。

馬鹿な事考えた。
僕って馬鹿。
つぅかもう何だか




-7日-
窓の外を見ると、アツシが楽しそうに犬と走っていた。

僕の中が何かおかしい
僕にこんな感情あったのか。






-8日-
アツシが部屋に来たけれど、そうそうと追い出してしまった。
2人だけになるのが、なんだか嫌だ。
自分が自分でいられなくなりそうだ。

アツシアツシアツシアツシ
アツシ。

名前を口の中で呟くたび、僕の中に何か違ったものが走っていく。
どうしよう、僕。
どうしたらいいんだろう。


太陽が高く高く、上の方で笑っていた。




-9日-
昨日は何となく、日記を書く気になれなかった。
僕はこんな自分の感情もセーブできないんだろうか。
自分が・・・自分でも思っていた以上にお子様な気がしてきた。
昨日はそんな感じで、アツシを部屋にもいれなかった。
今日もそう。
どうしよう、僕。



-10日-
毎日毎日ドアの前で、アツシが待っていたというのを僕は知らなかった。
何をしているのか、アツシは・・・

いつも通り、アツシを追い出した後僕がたまたまドアを開けた。
そうしたら、ドアの向かいにアツシが座っていた。

涙を滲ませていた顔が忘れられない。
そしてその時アツシが言った言葉にも。

僕の悩んでいた事なんて忘れてしまいそうなくらい、衝撃的だった。
なんて・・・
なんてことを・・・・・・

頼むから嘘だと言ってくれ・・・
無邪気に笑うアツシだけでいい
僕はそのアツシだけでいいんだよ・・・
次へ ミモノTOP