めるへんちっく

深い、深い森の中、『彼』は一人寂しくご飯を作ってました。
「あぁ〜、今日も誰も遊びに来てくれないな・・・。寂しい」
そう言った『彼』の目には心なしかうっすらと涙が。
「でもいいもん。僕にはちゃんと友達がいるんだから!いつも忙しそうにしてるから 遊びに行けないんだけどさ・・・。」
そう言うと、グっと拳を作り『彼』は天井を見上げました。
「いいや、ご飯食べよ。」

『彼』の名前は憲くん。お酒とヤザワが大好きな30ちゃい。
ちょっと涙もろくて甘えん坊な彼は、洋服を作って人々に幸せを配る小人さんです。 他にも仲間がいるのですが、それぞれ違うお仕事があるので今はなかなか会えません。 たまに会うとお酒を飲み過ぎてハメを外してしまい、仲良しのテルさんのお家に泊め て貰い、しょんぼりしながら帰ってきます。

ちりりん・・・。
鐘の音と共にテルさんが部屋に入ってきました。
「あれ?テルさん、どうしたんです?」
憲くんは突然の来訪者にきょとんとして、入り口に立ったままのテルさんに視線を投 げかけます。
テルさんも憲くんと同じ人々に幸せを運ぶ小人さんです。彼のお仕事は床をきれいに 飾ること。年に一度のクリスマス等で、ツリーや壁は気合いを入れて飾ったけど、床 までは気が回らない事ってありませんか?
そんな時に、テルさんはみんなに気づかれないようにツリーの飾りを落として床を装 飾してくれるんです。
「お前聞いてないのか?これからタカクの家に行くぞ?」
そう言うと、テルさんはちょっとぐったりした様子で部屋の中央のソファーに腰を下 ろしました。
「タカクさんがどうしたんです??」
話の先が見えない不安を声に含めながら、憲くんは大好きなミルクを木の実をくり抜 いたコップに入れてあげました。
「ん、俺も仕事場で聞いてすっ飛んできたから詳しくは判らないんだ。」
テルさんは出されたミルクを一気に飲み干して、小さなため息混じりにそう言いまし た。
「ふぅん・・・。」
納得してそうな相づちをしますが、そのちっちゃな目には不安の色がより一層濃くなっ ています。
タカクくんは、ボーっと過ごしている人々にちょっとしたきっかけを与え、普段、人々 が見逃しているような小さな感動を与える仕事をしている小人さんです。
会社帰りにふと夜空を見上げて感動することはありませんか?
人々に気づかれない様にきっかけを作り、視点を変えさせ、少しでも心を軽くしよう と懸命に働いているのです。
でも、タカクくんには一つ難点が・・・。
それは、お酒を飲み出すと止まらなくて、ついつい周りの小人さん達にからんでくる ことです。
憲くんもそれは十分知っているので、それが原因で大けがをしたのでは?ととっても 不安になっているのでした。
「んじゃ、行くぞ。あ、ちゃんと頭巾を被ってけよ?」
そう言うと、さっさとテルさんは出ていってしまいました。
「あ、待ってくださいよぉ!」
慌てて追いかけた憲くんでしたが、テルさんはあっという間に森の中に消えていって しまいました。
「あれ?もういないよ・・・。」
憲くんは誰の気配もない森を不安そうに見つめました。
「おっす。」
「うひゃぁ!?」
突然声をかけられ、憲くんはびっくりして飛び上がってしまいました。
「んなにビビるなよ、俺がヘコむじゃないか。」
突然現れたのは、シュウさんでした。
彼も憲くんやタカクさん達と同じ、人々に幸せを配る小人さんです。
彼のお仕事は可愛い小物類を作り、そっと人々配ることです。
いつの間にか机の上に見たことのない小物が置いてあることはないですか?それはきっ とシュウさんの仕業ですよ。シュウさんは、自分が置いた小物を見た人々がびっくり している所を見るのが大好きなんです。いたずらっ子だから気を付けて・・・。
「シュウさん、僕、テルさんに置いて行かれちゃったよ・・・。」
そう言いながら、憲くんは何かに気がついたように急いで部屋に戻り、身支度を整え ました。
「あ、頭巾を・・・。」
彼らはこっそりと幸せを運ばなくてはいけないので、人間の街の近くに行くときは頭 巾を被っていきます。誰がデザインしたのか判らないですが、その頭巾はフグ・・・ もとい、『鮒』っぽいデザインになっています。
この頭巾を被れば、人間の大人には絶対姿を見られる事はありませんが、警戒心のな い子供達にはまれに見つかってしまう事があります。そうなったら、さあ大変。悪気 のない子供達にもみくちゃにされてしまうので、慌てて森の中に帰って行きます。そ んなわけで、あの街には長い間、『森には小人さんが住んでいて、幸せを運んでくれ る』という伝説があります。街の子供達は一度は小人を見たことがありますが、大人 になるにつれ、いつしか忘れてしまいます。寂しいことですね。
「お待たせ、シュウさん。・・・あれ!?」
急いで身支度を整えてシュウさんに話しかけたつもりだったのですが、当の本人の姿 はそこにありませんでした。
「あれ?また置いて行かれちゃった??あ?」
憲くんがションボリとして地面を見ると、そこにはシュウさんの書き置きがありまし た。
「先に行く。街ではガキにみつかんなよ。道しるべにメガネ置いてくから辿ってこい 。」
シュウさんらしい単刀直入な手紙です。読み終わり、森に目を向けるとそこには点々 とメガネが置いてありました。
タカクくんのお家にはテルさんやシュウさんと一緒に行くので、憲くんは詳しい道を 知らないのです。しかも、タカクくんのお家は街を挟んだ向こう側の森の中。たった 一人でタカクくんのお家に行くのは不安で一杯です。
「でも、タカクさんに何かあったんなら、行かなきゃ!!」
こうして憲くんの初めての一人旅が始まったのでした。

トコトコ・・・。
どうやら森の中をグルリと通り、街には近づかないで済む行き方のようです。
「ちょっと時間掛かるかもしれないけど、危なくないからいいや。道標もあるしね。」
シュウさんが置いていってくれたメガネを頼りに森の中を進んでいくと、二股の道で なんとメガネが途絶えてしまいました。
「え!?何でぇ〜??」
突然のハプニングに弱い憲くんはパニック状態になり、あっちフラフラ、こっちフラ フラ・・・。
「あれ?憲さん、何してるんですか?」
右側の小道から、ひょっこりとバカちゃが顔を出してきました。しかもその手には大 量のメガネが・・・。
「あー!大原、お前何持ってんの?」
大原くんが持っているメガネに気づいた憲くんは、噛み付きそうな勢いで問いただし ます。慌てふためいている憲くんとは対照的に、大原くんはとっても落ち着いたポヨ ポヨした様子で憲くんの問いに答えました。
「え?メガネですよ。落ちてたから拾ったんです。気に入ったのがあればどうぞ??」
「ばかぁぁぁぁぁーーーー!!!それはタカクさん家までの道標なの!」
「ほえ?」
全く緊張感のない大原くんと、必要以上に緊張している憲くん。あまり会話がかみ合 いませんね。
「あ、タカクさんの家ですか?僕、道知ってますよ。」
どうしようもなくなって、今にも泣きそうになっている憲くんに救いの手が延べられ ました。大原くんがメガネを拾わなければ問題は起こらなかったんですけどね。
そんなこんなで、憲くんの一人旅はポヨポヨバカちゃとの二人旅になりましたとさ。
(つづく)

ユウ様から(ほとんど無理矢理…スイマセン)頂いた小説です。
すっっっっごく可愛くて最高〜!
こんな小人さん、うちにも来てくれないかな〜(笑)
続きも楽しみにしてます♥


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