日常というもの




12月も半ば過ぎとなり世間はクリスマスでにぎわう寒い雨の降りしきる夜だった。
朝から降る雨は気温を夜と共に下げ震え上がらせるほど俺等を虐めていた。
世間一般でかっぱと呼ばれる雨具を上下に着込んでるものの自転車に乗っていてはフードも飛ばされ大して役立たない気がする。
しかし、こんなことはいつものことだった。俺と深谷はそんな学校からの帰路の途中だった。

「なぁ北島、俺さぁ今年のクリスマスも寂しい夜迎えそうなんだけど。
 誰か俺を好きな人いないの?」
『お前を好きな人?さぁね、俺は知らないね』
「マジかぁ〜ショック....」
『ごめんごめん、ホントはいるいる。俺本人の口から直接聞いたから』
「マジか!?誰々?教えてくれよ!!お前の彼女みたいな人だったら最高なんだけどな!」
『....教えない!!ま、年があけたら教えてやるさ。クリスマスまでに告ってくれるといいな 笑』
「絶対だぜ!?教えろよ!んじゃ、また来年学校が始まったら会おうぜ」
『おう、今日は雨降ってるしさっさと帰るか。事故んなよ 笑』
「当たり前 笑 じゃ、またな!」
『おう、また!』

そんな色恋沙汰の話しをして俺達は別れた。
雨は激しさを増してまるで滝のようだった。
雨具があるもののさすがに服の下まで濡れてると感じるほどだ。
そんな中、俺は家路へとついた。そこまでならいつも通りだった。
そう、日常というのは怖いもので慣れてしまうといつも通りと感じてしまう。
そんな当たり前のことが崩される恐怖とはこの上ないものだろう。
つい昨日まであったものを失う恐怖。その恐ろしさは計り知れないものだ。
俺はその恐怖にぶちあたったのだ。

夕食を終え、くつろいでいる時、俺の携帯が鳴った。
俺の携帯に電話をかけてくるやつは珍しかった。
『はい』
俺はその一言の後、何も言わなかった。
いや、言えなかったと言うべきだろう。
それはあまりにも突然でまさに俺の日常を一瞬にして奪っていった。

さっきまで降りしきっていた雨は止んでいた。
雲もなく星空がみえるほど晴れていた。
この空が、もっとはやくに見えていれば!!
俺はそう悔やんで仕方なかった。
愛用の自転車で大急ぎで時枝病院に向かった。

病院に着くと、クラスメイトや俺の知らない顔であふれていた。
『深谷は!深谷の様子は!?』
急いでクラスの奴に聞いた。
答えはまだ手術中でわからないのだそうだ
俺は、なぜ深谷が病院に運び込まれたかを聞いた。
なんでも、俺と別れた後、あいつはいつものように帰り道を急いでいた。
アイツの手は今日の気温と雨でとても冷えていたそうだ。
アイツも俺と同じくかっぱを着ていた、しかしそのかっぱが原因らしいのだ。
目撃した人の話しによると、どうやら、追い風の強風でかっぱに付属されたフードが
アイツの視界を覆ってしまい、前方がまったく見えずにふらふらとしていたそうだ。
ブレーキをかけようにも、冷えきった手で思うように動かなかったのだろう、
そのまま川の橋の上から川へダイブしたそうだ。
高さはかなりあるらしく、川底も浅くてかなり危険らしい。
日常が引き起こした事故なのだろうか。

深谷はよく言っていた。
俺の夢は種を蒔く人になることだと。
いろいろな人に種を蒔くことのできる人になることだと。

医師達の懸命の処置も空しく、深谷は明け方息をひきとった。
俺の中から日常が奪われた瞬間でもあった。
悲しみなどという軽いものではない。
日常を奪われるということは絶望より深い奈落の底へと落ちるということだと、俺は痛感した。
また、同時に深谷の夢の意味に気付いた。
だって、そうだろ?深谷のために集まってきた人がそうだ。俺もそうだ。
これだけの人達に深谷は種を蒔いてきたんだ。
アイツがこれから先、生きて行けたならもっとたくさんの人に種を蒔いていただろう。
深谷が蒔いた種はこれから先、ここにいる人々の中で立派に成長していくだろう。
俺の中でもまた。



年があけ、世間は正月でにぎわっていた。
朝から少しばかりのぱらつく雨が俺を正月から少し遠ざけていた。
毎年恒例の年賀状も今年はどことなく見る気がしない。
しかし、そんな中に一枚の年賀状が目にとまった。

「明けましておめでとう!!!
 去年はすっげえたのしかったよ!!!
 お前と出会えて良かった!!って、ちょい恥ずかしいけど(笑)
 今年も、種蒔く人に近付ける様がんばるので、応援してくださ〜い
 んじゃ、今年も宜しく!!!また、学校でな!!
                          深谷 優 」

アイツが死んで以来、初めて涙がでた。
年賀状っていう当たり前の文面も今の俺にはとてつもなく残酷だ。
その反面、すごく嬉しかった。
けど、もう返信してもあいつの元には届かないんだ。

『そういや、アイツのこと好きな人....言えずじまいだったな。
 悔しいけど、俺の元彼女だよ。お前が、聞いてきた日
 あの日そう告げられて、別れたとこだったんだ。
 だから、あの日言えなくてさ。また、学校始まったらあえると思って.....
 今、後悔してるよ。日常なんて自分がつくり出してる虚像なんだって。
 俺の声、お前に届いてるかな?』

ふと、風が吹いた。
ぱらついていた雨が雪へと変わっていた。

『ハハハ、そうだな。そうだよな。
 ちょっと遅いけど、メリークリスマス!!深谷!!』