ちなみに、討論会では10分で読み切らないと減点される為、10分以内で読める量しか論文にできない、という制約があります。あと、予選稿は勉強量、作成時間ともに少ないので拙いものです。まぁ、笑って下さい(笑)
問題(商法)
甲株式会社は、定款で株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨定めていたところ、甲社の株主Xは、取締役会の承認を得ることなく株式をYに譲渡した。XおよびYのいずれからも譲渡承認請求がなされないうちに、甲社の定時株主総会の時期を迎えるに至ったので、これを知ったYはXに委任状を書かせて、自己を代理人にして総会に出席することとした。
他方、甲社の法人株主である乙株式会社の代表取締役は、甲社の代表取締役から今期の定時総会にかける議題につき決議が成立するか微妙なところもあるので、何とか助力してもらいたいと依頼されていたが、甲社の定時株主総会が自社の総会開催と重なるため、自社の顧問弁護士である丙(甲社の株主ではない)を甲社の総会に代理人として出席させることとし、その旨甲社に事前に申し入れた。
当日、甲社は、Yによる議決権の代理行使については、代理人を株主に限る旨の定款規定を理由に、総会会場への入場を拒絶したが、事前に申し入れのあった乙社の顧問弁護士丙については入場を認めたところ、丙は、総会議場において専門的な知識に基づき、何度も質問に及び、議題につき意見を積極的に陳述するに及んで、総会の雰囲気も変わり、結局、決議がかろうじて成立するにいたった。
@Xが議決権の代理行使を拒絶されたことを理由に、決議取消の訴えを提起したとして認められるか。
A総会に出席していた他の株主丁が、丙を代理人とする議決権行使が、甲社の定款違反の行使であることを理由に、決議取消の訴えを提起したとして認められるか。
出題:駒澤大学 山田泰彦教授
本問を考察するにあたり、まず結論を述べる。
問い@について、Xの決議取り消しの訴えは認められない。
問いAについて、丁の決議取り消しの訴えは認められない。
以下、結論に至った理由を述べる。
本問においては、定款による株主総会の議決権代理行使資格の限定がまず問題となる。
甲株式会社は定款により、議決権代理行使の代理人を、株主に限る旨定めている。しかし、このような定款規定は、単に委任状の提出だけを条件として、株主の代理人による議決権の行使を認めている商法239条2項の趣旨に反するおそれがある。果たして、かような定款規定は有効なのであろうか。
議決権代理行使資格の限定をする定款規定は、従来その存在理由を、総会屋による総会攪乱の回避に置いてきたが、現実に総会荒らしをするような人物は、公開されている株式を取得し、代理人ではなく株主として総会に参加すると考えられ、代理人として株主総会に参加するような総会屋は極めて稀であると考えられることから、総会屋による総会攪乱の回避は、この定款規定の有効性、及び必要性を示すものとはいえない。
そもそも総会荒らしは、議決権の代理行使資格を限定することで防止されうるような事柄ではなく、議長権限の適切な行使と、或いはそれで不足であれば、必要に応じて警察権を行使する事によって対処することが十分に可能である。
また、代理行使権者が総会を荒らすなどの場合に限り、かかる定款規定を適用する、という場合には、果たして定款規定を適用し、代理人の入場を拒むべきかどうかの判断を、株主総会開会の直前という、短い限られた時間のうちに行わなければならず、その判断を誤る恐れも大きい。
これにより会社は総会決議取り消しの訴えを受ける恐れに、絶えずさらされることとなり、決議が非常に不安定となる。
思うに、このような定款は、閉鎖的、小規模な会社コントロールの行われていた1950年以前の会社法の基でこそ、その存在を認容できるものであり、1950年改正により、会社法が株式譲渡自由の原則を採った時点で、代理行使権者を限定するような定款規定は排除されるべきであったと考えられ、現在においても当然に、かかる定款規定は無効に解するべきである。
しかし、本問甲株式会社は商法204条1項にのっとり、定款で株式の譲渡を制限している、いわゆる閉鎖会社である。果たして、閉鎖会社であっても公開会社と同様に、代理行使権者を株主に制限する定款は無効となるのであろうか。
商法204条1項は、1966年改正により、小規模・閉鎖的な会社の実情に合わせて改正されたものである。同条が、会社の閉鎖性を認容している趣旨からすると、確かに、閉鎖会社においては、株主以外の第三者の会社への加入を拒んでいるということから、会社の閉鎖性を維持するために、例外的に定款による代理行使資格の制限が有効である、という見解も成り立ち得る。
しかしながら、あくまで商法、会社法は大規模、公開会社に適用することを念頭においており、閉鎖会社というのはあくまで例外的存在であり、会社法を閉鎖的に解するべきではない。
商法条文においても、閉鎖会社についての規定は、株主となる者を限定するにとどまり、議決権行使権者までをも制限することを認めるものではない。そもそも誰が株主になれるか、というのと誰が株主総会で議決権行使をできるのか、というのは別問題でなのであり、むしろ会社は、株主に対し信頼をする以上、株主の選任する代理人に対しても信頼するべきである。
また、閉鎖会社は一般的に株主が少なく、信頼し得る代理人を別の株主から見出すのは容易ではなく、株主は実質的に議決権を失ってしまう可能性がある。よって閉鎖会社においても、株主の議決権の保護という観点から、公開会社と同様に、かかる定款規定は無効と解するべきである。
次に、株式の譲渡を制限する定款規定に反する株式譲渡の効果につき検討する。株式の譲渡につき、取締役会の承認を必要とする旨定めている場合において、当事者間の合意によって譲渡契約をしたにもかかわらず、譲渡の当事者のいずれも株式会社の取締役会に対し、譲渡承認請求をしていなかった場合、すなわち定款規定に反して行われた株式譲渡契約の効力は発生するのであろうか。
思うに、会社の定款規定に定められている、譲渡承認請求を行わなかった以上、当事者間の譲渡そのものを無効と考えることも出来る。
確かに閉鎖会社にとっては、譲受人が、会社の株主となるのに好ましい人物であるかどうかを見極める必要があるため、会社との間では有効とすることは、商法204条1項が、株式譲渡制限を認めている趣旨に反するため許されない。
しかし、当事者間においてはどうであろうか。当事者双方が合意の上での株式譲渡契約を行っており、また株主としての権利を行使できないという不利益を被る譲受人も、1990年に改正された商法204条ノ3を根拠に、譲渡承認請求は出来る。にもかかわらずそれを承知で譲渡をし、しかも譲渡承認請求を行わなかったのであるから、あえてこの譲渡契約を無効と扱う必要は無い。
よって当事者間においては、株式譲渡は有効である。
次に、総会決議取消の訴えにつき検討する。総会決議取消の訴えは、商法247条1項より提訴権者が株主、取締役、監査役の三者に限られており、同条同項の各号により、その取消原因が定められている。但し、その瑕疵が余りに軽微である場合は、決議に画定性が求められていることを鑑み、決議を取り消すことは認められない。
以上の考察より、Xが議決権の代理行使を拒絶されたことを理由に、決議取消の訴えを提起したとして認められるのであろうか。この点につき検討する。
まず、XY間の譲渡契約は、取締役会の承認を経ていない以上、もっぱらXY間での相対的効力を生じさせるにとどまり、甲株式会社に対しては、なんらの効力も生じない。
そうであるから、甲株式会社にとっては、依然としてXは株主として扱うべき人物である。よって、甲株式会社が株主総会においてXの代理人であるYの入場を拒んだのは誤った取り扱いであったといえる。だが、そうであるからといって直ちに決議取り消しの訴えを提起して、それが認められるわけではない。
本問においては、X及びYは、甲株式会社に対する譲渡承認請求を怠ったことから、Yを、Xの代理人として株主総会に出席させようとするに至った。確かに、Yの入場を拒否した点が、商法239条2項に違反し、取消原因となる点は疑いが無い。
しかし、思うに、Xは既に、Yとの間では株式譲渡契約を結んでおり、株主としての権利も当然にYに譲渡している。もはやXは、間もなく株主から離脱をすると考えられ、訴えにつきXには利益がない。よって、あえてそのような立場の株主であるXの決議取消の訴えを認める必要が無い。
以上より、Xの決議取消の訴えは認められない。
では次に、総会に出席していた他の株主丁が、丙を代理人とする議決権行使が、甲株式会社の定款違反の行使であることを理由に、決議取消の訴えを提起したとして、認められるのであろうか。この点につき検討する。
商法247条1項1号により、定款に違反した決議方法は取消原因となる。
確かに、丙は甲株式会社の株主ではないのであるから、表面的には丙を代理人とする議決権行使は無効となるにも考えられる。
しかし、先ほど述べたように、議決権の行使権者資格を制限する定款、それ自体が無効であり、甲株式会社の株主である乙の意見を代弁している丙の議決権代理行使は有効と解するので、これは定款に違反した決議方法とはいえない。
よって、丁の決議取消の訴えは取消原因を欠くものである。
以上より、丁の決議取消の訴えは認められない。
以上の考察より、冒頭で述べた結論に至った。
以上
本問を考察するにあたり、まず結論を述べる。
問い@について、Xの決議取消の訴えは認められない。
問いAについて、丁の決議取消の訴えは認められない。
以下、結論に至った理由を述べる。
まず甲株式会社は定款により、議決権代理行使の代理人を、株主に限る旨定めている。
しかし、このような定款規定は、単に委任状の提出だけを条件として、株主の代理人による議決権の行使を認めている商法239条2項の趣旨に反するおそれがある。 果たして、かような定款規定は有効なのであろうか。
そもそも議決権とは、株主が会社に対し意思を反映させる重要な手段であり、それを妨げる事は本来許されるべきものではない。従って議決権行使については、制度上最大限の保護が必要となる。
まず、昭和57年1月26日に東京地裁が判示したような、会議体の運営は構成員のみによって行うのが本則という主張は、もはや条文上認められているはずの議決権代理行使という制度そのものを否定するものであり、支持できない。
次に、議決権代理行使資格の限定をする定款規定は、昭和43年11月1日の最高裁判決などが、その存在理由を、総会屋による総会攪乱の回避に置いてきた。以下この点について検討する。
まず、非株主である代理行使権者が総会を荒らすであろう場合に限り、かかる定款規定を適用する、という主張がある。しかしこれでは代理人の入場を拒むべきかどうかの判断を、株主総会開会の直前という、短い限られた時間のうちに行わなければならず、その判断を正確に行うことは非常に困難であり、不可能に近い。
またこれにより、会社は総会決議取消の訴えを受ける恐れに、絶えずさらされることとなり、決議が非常に不安定となるため、この主張は支持できない。
そもそも総会荒らしは、議決権の代理行使資格を限定することで防止されうるような事柄ではない。商法237条ノ4に基づく議長権限の適切な行使と、或いはそれで不足であれば、必要に応じて警察権を行使する事によって対処することが十分に可能であるといえる。
また294条ノ2の2項は、総会屋に対する利益供与も禁止しており、これに反した場合は247条1項1号より決議取消原因となるので、株主が、会社と総会屋との癒着を指摘し、対応することも可能である。
このように総会屋による総会攪乱の回避は、既に立法的解決がなされており、この定款規定の許容性、及び必要性を示すものとはいえない。
思うに、このような定款は、閉鎖的、小規模な会社コントロールの行われていた1950年以前の会社法の基でこそ、その存在を認容できるものであり、1950年改正により、会社法が株式譲渡自由の原則を採った時点で、代理行使権者を限定するような定款規定は排除されるべきであったと考えられている。この点は、昭和36年5月1日付の法務省民事局長通達によっても明らかである。よって現在においても当然に、かかる定款規定は無効に解するべきである。
しかし、本問甲株式会社は商法204条1項但書にのっとり、定款で株式の譲渡を制限している、いわゆる閉鎖会社である。
果たして、閉鎖会社であっても公開会社と同様に、代理行使権者を株主に制限する定款は無効となるのであろうか。
商法204条1項は、1966年改正により、小規模・閉鎖的な会社の実情に合わせて改正されたものである。
同条が、会社の閉鎖性を認容している趣旨からすると、確かに1950年以前の、閉鎖的な会社法制時代には、定款による代理行使資格の制限は有効とされていた。そうであるから現在においても閉鎖会社においては、株主以外の第三者の会社への加入を拒んでいるということから、会社の閉鎖性を維持するために、例外的に定款による代理行使資格の制限が有効である、という見解にも一応の説得力はある。
しかしながら、閉鎖会社は一般的に株主が少なく、少数派の株主は、信頼し得る代理人を別の株主から見出すのは容易ではなく、株主は実質的に議決権を失ってしまう可能性がある。
そもそも閉鎖会社というのはあくまで例外的存在であり、会社法を閉鎖的に解するべきではない。あくまで会社法は大規模、公開会社に適用することを念頭においているのであり、これを超えることは、立法的手段によってのみ可能であって、解釈論に許されるものではない。
この点、商法条文においても、閉鎖会社についての規定は、株主となる者を限定するにとどまり、議決権行使権者までをも制限することを認めるものではない。
よって閉鎖会社においても、株主の議決権の保護という観点から、やはり公開会社と同様に、かかる定款規定は無効と解するべきである。
では以上を踏まえた上で、まずXが議決権の代理行使を拒絶されたことを理由に、決議取消の訴えを提起したとして認められるかにつき検討する。
まず、XY間の譲渡契約は、当然に契約当事者間では有効であるが、取締役会の承認を経ていない以上、閉鎖会社である甲株式会社に対しては有効ではない。
従って、甲株式会社にとっては、依然としてXは株主として扱うべき人物である。よって、甲株式会社が株主総会においてXの代理人であるYの入場を拒んだのは誤った取り扱いであったといえる。
だが、そうであるからといって決議取消の訴えを提起して、直ちにそれが認められるわけではない。
確かに客観的にみれば、株主が議決権行使を出来なかったというのは瑕疵であり、通常であれば決議を取り消す原因となり得る。
しかしながら、総会決議を取り消すにあたっては、決議の確定という、他の株主や会社債権者の期待を裏切ることになるから、株主であるXの立場なども加味し、行使されなかった議決権の性格等も、個別具体的に考慮する必要がある。
従ってその上で瑕疵が余りに軽微である場合には、決議に確定性が求められていることを鑑み、決議を取り消すことは認められないものと解する。
これを踏まえた上で検討すると、確かに、Yの入場を拒否した点は、甲株式会社がXの議決権を行使させなかったことになるから商法239条2項に違反し、取消原因となる点は疑いが無い。
しかし、Xは既に、Yとの間では株式譲渡契約を結んでいる。つまりXは、間もなく株主から離脱をするのであり、株主としての権利も当然にYに譲渡している。しかもYが進んでXに委任状を書かせており、議決権の行使を望んでいたのは、株式を譲り受けたYであると解される。
従ってXは既に総会に対する関心を失っているものといえ、仮にYがXの代理人として総会に出席していたとしても、その議決権行使は、Xの意見の代弁ではなく、Yの意思によりなされていたと考えられる。
この点を斟酌すると、確かに決議はかろうじて成立したとはいえ、仮にYが総会に出席していたとしても、その議決権はXの意思を反映したものではない。
従ってXの議決権をYが代理行使することが拒まれたことは、決議取消の訴えを認めてまでして、保護するだけの瑕疵とは言えない。
以上より、Xの決議取消の訴えは認められない。
では次に、総会に出席していた他の株主丁が、丙を代理人とする議決権行使が、甲株式会社の定款違反の行使であることを理由に、決議取消の訴えを提起したとして、認められるのであろうか。この点につき検討する。
商法247条1項1号により、定款に違反した決議方法は取消原因となる。
確かに、丙は甲株式会社の株主ではないのであるから、表面的には丙を代理人とする議決権行使は定款違反であり、取消原因となるようにも考えられる。
しかし、先ほど述べたように、議決権の行使権者資格を制限する定款、それ自体が無効であり、甲株式会社の株主である乙の意見を代弁している丙の議決権代理行使は有効と解するので、これは定款規定に違反した決議方法とはいえない。
よって、丁の決議取消の訴えは取消原因を欠くものである。
以上より、丁の決議取消の訴えは認められない。
以上の考察より、冒頭で述べた結論に至った。
以上
今大会でとうとう引退。という節目の大会。最初で最後の予選突破、学校代表となりました。3年生が僕しか出なかったので、負けられない予選ではありましたが。
予選で審査していただいた教授から、「無効説では厳しいよ」といわれはしましたが、信念に基づいて無効説で挑みました。結果、本戦では芳しい結果は出せませんでしたが、言いたいことは、言えました。満足です。因みに、立論は4位だったものの質問の部で3位。
| 1位 2位 3位 |
東京高裁判事 | 東京高検検事 | 弁護士 |
学者 |
小計 |
学生審査員 |
小計 | 合計 | |||||||
| 専修 | 明治 | 駒澤 | 中央 | 早稲田 | 慶應義塾 | 専修 | 駒澤 | 明治 | |||||||
| 中央 | 89 | 85 | 77 | 70 | 81 | 80 | 482 |
\ |
26 | 27 | 25 | 26 | 27 | 131 | 613 |
| 早稲田 | 86 | 80 | 78 | 73 | 83 | 78 | 478 | 29 |
\ |
26 | 24 | 24 | 24 | 127 | 605 |
| 慶應義塾 | 85 | 93 | 73 | 73 | 78 | 74 | 476 | 27 | 25 |
\ |
24 | 24 | 23 | 123 | 599 |
| 専修 | 88 | 76 | 69 | 72 | 80 | 65 | 450 | 24 | 27 | 24 |
\ |
25 | 25 | 125 | 575 |
| 駒澤 | 87 | 88 | 71 | 65 | 70 | 66 | 447 | 21 | 23 | 23 | 24 |
\ |
21 | 112 | 559 |
| 明治 | 69 | 69 | 62 | 66 | 69 | 58 | 393 | 17 | 17 | 18 | 21 | 19 |
\ |
92 | 485 |
芥川賞作家Xは、友人の芸術家Yをモデルとする小説を出版しようとした。Yは、この小説中の前科や病歴に関する詳細な事実の記述がYのプライバシーを侵害するとして、当該小説の出版差止を求める訴訟を提起した。これに対してXは、小説中にプライバシーを侵害する記述があったとしても芸術的昇華が十分であり、芸術に高められた表現によって一般読者をして作品全体が作者の芸術的想像力の生み出した創作であって虚構であると受け取らせるに至っており、プライバシー侵害の問題は生じないと反論した。
この事例における憲法上の問題点について論ぜよ。
出題:明治大学 小山廣和教授
本問を考察するにあたり、まず結論を述べる。憲法13条により導かれたプライバシー権を根拠とし、不法行為の発生したことを理由に民法709条及び1条3項を援用して、Yの出版差し止め請求は認められる。
以下、結論に至った考察を述べる。
まず、Yの主張するプライバシー権とは何であろうか。プライバシー権とは、憲法の条文上には規定はないものであるが、人権が守られる上で必要となる観念であり、人格的生存に関わる私的事項につき各自が自立的に決定できる自由を国民に与えるものであり、憲法13条により導かれるものである。
本問においては、Xの出版した小説がYのプライバシー権を侵害しているかどうかがまず問題となる。
この点、Xの出版しようとする小説には、Yの前科や病歴に関する詳細な記述がなされている。思うに前科は、個人のプライバシーのうちでも、最も公開されたくないもののひとつであり、その公開によって、当人の精神的苦痛にとどまらず、社会的信用等をも失墜させる可能性が非常に高い。よって、前科を公開せしめんとする行為は、予防されるべきものである。
また、Yの病歴についての詳細が記されていることについて、病歴は、モデル小説におけるモデルを読者が特定するのに、大きな手がかりとなり、前科が公開されることにより為されるプライバシー侵害を助長するものである。
また、今日の日本では、病名により、残念ながら不当な差別を受ける場合があり、その点でも病歴の公開がYに精神的苦痛を与えるおそれがあり、プライバシー権を侵害するおそれがある。
以上の、前科及び病歴の記述につき、Xは、芸術的昇華が十分であり、芸術に高められた表現によって、一般読者をして作品全体が作者の芸術的想像力の生み出した創作であって虚構であると受け取らせるに至っていると主張する。
この点確かに、一般読者においてはXの主張するように虚構に受け取る読者の方が、購入者全体においては多いものであろう。
しかし、Yにとっては一般読者という不特定多数の人間に、個人情報を知られることが苦痛であるのは勿論のであるが、Yの周辺にいる読者に知られたくないことを知られることの方が、むしろ苦痛ではないだろうか。
この点考察してきたように、Xの記述した小説には、前科とともに病歴に関する詳細な記述があるので、Yの病歴のみを知る人物がこの小説により、Yの前科までを知りうることになる。よって、一般読者による視点につき論じるまでもなく、Xの出版せしめんとする小説は、やはりYのプライバシー権を侵害するものといえる。
だが、一方でXにとって小説の出版という行為は、憲法21条による保障を受けているものであるといえ、ここで憲法13条により導かれるプライバシー権と、憲法21条による表現の自由が衝突することになるので、Yがプライバシー権を侵害されたからといって、無条件にYの差止請求を認めることは出来ない。
憲法21条1項は、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障するものであり、Xが本問におけるモデル小説を出版する行為は、まさにこの条文により保護されているとも考えられるものである。
しかしながら、憲法12条は、国民の権利の濫用を禁止している。よって、表現の自由権にのっとった、どのような表現でも、無尽蔵に認められるというわけではない。政治的思想の発信など、国民個人が、個人の内面を他者を傷つけない形での表現を国が制限をするのは、認められるべきではないが、他の国民の人権を傷つける場合には、いずれの人権を厚く保護すべきかを検討する必要がある。
この点確かに、憲法というものは、そもそも国家権力と国民の間の関係で保障される権利や自由とされてきた。確かに、私人間紛争に対し、安易に憲法を用いて解決を図るのは、私的自治の原則に反し、かえって私権を害してしまう危険性もある。よって、私人間紛争について憲法は、28条などの、そもそも私人間に対し適用することが内容上明白である条文を除いては、適用は出来ないと考えることが出来ないわけではない。
しかし、私人間であるからといって、人権が侵害されているのを、見過ごしてはならない。よって、憲法を根拠に、私法上の権利を導き、もって私人間での紛争解決を図るべきである。
それでは、ここで本問におけるYのプライバシー権とXの表現の自由権について比較衡量する。
まず、本問において、Yは芸術家であり、政治家や公務員などの公人ではない。よって、Yのプライバシーの公開によって、国民全体が享受する利益は、せいぜい国民個人の興味に帰す程度のものであり、享受することが必要不可欠な利益が与えられるというものではない。またYの前科や病歴の公開は、Yが生活する上で内心的に苦痛を与え、しかも外部からの評価がおとしめられる可能性があり、容認できるものではない。
一方でXの執筆し、出版しようとしているものはモデル小説であり、特に政治意思や思想を表現しようとするものではないと考えられ、本人が、芸術的昇華を高め、芸術的想像力の生み出した創作であると読者に受け取らせる内容であると主張している点からして、本小説は専ら芸術的性質を持つものと考える。
しかしながら、いずれ題材を芸術的昇華させるのであれば、Yの前科や病歴の詳細を用いる必要性に乏しく、XはYのプライバシー権の侵害を回避しつつ出版を行えたにもかかわらず、それをしなかった。この点でXは表現の自由権の濫用によりYの人権を侵害したと考えられる。
よって、本問ではXの出版行為は権利の濫用にあたり、Yのプライバシー権を侵害しており、Yの主張を受けて保護すべきであると解する。
では、そのYの保護はどのように図ればよいのであろうか。本問ではYは、Xの出版しようとしている小説の、出版差し止めを求めているが、この手段は適当であろうか。
まず問題となるのは、出版の差し止めが、憲法21条2項の禁止する、検閲にあたるかどうかという点である。
この点公権力による出版差し止めは、常に憲法21条2項によって禁止されているという見解がある。しかし、本問の如く、出版されれば重大な人権侵害が発生する場合には現実問題として、事前抑制が認められなければならない。
これについて、裁判所が行う差し止めは、その手続が公正な法の手続によるものであり、本条文が設置された背景にある、言論の弾圧などをもたらすものではないので、常に禁止のされる検閲には含むべきでないと解する。
確かにYのプライバシー権は侵害されている。しかし、出版の差し止めは、出版物全体の公開を阻むものであるので、できるだけ避けるべきであるし、民法709条は、権利侵害を発生させた不法行為につき、金銭賠償による解決を定めている。
だが、本問においてYのプライバシー権を保護するのには、出版差し止め以外には手段がない。なぜなら、損害賠償等を行っても、Xの出版を差し止めなければ、Yのプライバシーが不特定多数の人間の知るところとなることに変わりはなく、本質的な問題解決とはならない。よって、権利の濫用を禁止した民法1条3項に反するXの出版行為を差し止め、出版により発生するであろう人権侵害を予防するべきであると考える。
予選会2位。というか1位と同点だったんだけど、先生の判断で僕の負けになりました。結構自信あったんだけどな・・・。ま、オーソドックス過ぎるかな、とは思ったけど。
でも本大会では質問の部5位で、またしても質問賞受賞。やった!
ちなみに改訂稿つくったはずなんだけど、どっかに無くしてしまった・・・。
「株式の消却に関する商法の特例に関する法律」第3条には、「公開会社は、定款をもって、経済情勢、当該会社の業務又は財産の状況その他の事情を勘案して特に必要があると認めるときは、取締役会の決議によりその株式を買い受けて消却することができる旨を定めることができる」と定められている。株式消却に関する商法212条および212条ノ2の規定と比較し、同特例法の特徴に触れながら、取締役会による株式消却が「特に必要あると認め」られる具体的場合について論じなさい。
出題:早稲田大学 大塚英明教授
これより本問を考察し、最後に結論を述べる。まず商法212条について述べる。商法212条は資本減少の規定に基づく株式消却と、定款の規定により配当可能利益を用いて株式消却をすることについて示している条文である。
この点、資本減少規定に基づく株式消却を行うのにあたっては、商法375条より総会での特別決議において承認を受けた場合にしか援用できない。これに対して定款の規定による消却のばあい、後述する212条ノ2の存在を鑑みるに、定款とは原始定款、あるいは総株主の同意をもって変更した定款であることが必要と解する。
他方、212条ノ2は企業の財務政策の観点から、配当可能利益を使って発行済み株式総数を減少させることを容易にするために設けられたものであり、株主総会での通常決議によれば、特に定款に定めのない場合にも株式の消却を出来る旨、定めたものであり、平成六年に新設されたものである。
ここで両条とも、株主総会における定款変更あるいは株式消却の議決があって初めて株式の消却に着手することが出来る。
しかしながら、現実に株式の消却をすべき状況は、必ずしも株主総会の頃におとずれるものではなく、経済情勢などの状況から、株式消却に最適だと判断される時点での株式消却を許容するものではない。よって、株式消却の目的の1つである、株主への実質的利益還元を実現するのが確実になされるものではない。
よって平成9年、株式消却手続特例法が設けられ、経済情勢などの判断から、取締役会の決議をもって株式を消却することの出来るようにしたものである。これにより、すぐに株式消却をするものでなくても、来たるべき消却の時期のためにあらかじめ特例法第3条1項にあげられた通りに定款を作成しておくことで、経済情勢等の変化に機敏に対応をすることが出来る迅速性が確保されたといえよう。
これより、商法212条及び212条ノ2と比べて、株式消却手続特例法は決議対象が取締役会になったことで、消却の実行につき、簡略かつ迅速に行えるものであり、実際にこのように迅速に消却手続が行われることは日本企業の株式評価の向上などの経営政策的観点からも求められていた。
さて、特例法の特徴につき、まず、第1条に本法の目的が示されている。ここで、本法の目的は「資本市場の効率化と活性化を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与する」ことである。
よって、商法と違い目的が条文で示されている以上、特例法援用の取締役会による株式消却は、少なくとも今述べた本法の目的に準じていなくてはならない。
次に、本特例法単独では導けるものではないが、発行株数が過剰になったときに行う株式消却と新株発行はパラレルな関係に立つ。新株発行と株式消却とを合わせて見たとき、新株発行は資金需要があれば、発行予定株式総数の範囲内で行えるから、会社の側からして、利益償却や資金獲得がともに機動的、弾力的に行うことが出来るといえる。そして、新株発行、株式消却ともに取締役会権限において実行できることで、より経営の迅速化が図られるものである。
次に、本法は国内の経済状況の閉塞感の打破の1つの手段として設けられた。企業の国際化に加え、国内金利の低下なども資金の効率的運用という観点から、外国、とりわけアメリカ流の株主重視型経営への転換を模索する各企業の意識からも、株式消却手続の簡易化が必要とされる社会情勢の下で、もはや商法212条、及び212条ノ2のみをもっては経営に不都合である、という現実があるのである。
それではここで、特例法第3条について検討する。まず前提として、特例法による株式消却よりも厳格な手続を要する212条或いは212条ノ2が適用されるケースにおいては、あえて手続の簡易な本特例法の適用の可否を論ずるまでもないものである。
また、第3条1項には「公開会社は」と書かれており、これは第1条と同じものである。であるから、非公開会社には本法の適用はない。この点、商法212条や212条ノ2においては株式消却を行う要件に、公開会社であることは含まれていなかった。これは特例法の目的であるうち「市場の活性化」という点からして、非公開会社の株式が消却されたところで、「市場の活性化」という目的に影響を及ぼすものでないからである。
さて、再度第3条1項を見るに、本法は「経済情勢、当該会社の業務又は財産の状況その他の事情を勘案」した上で、株式消却の必要性の判断がなされる。しかしこの点「その他の事情」という広範な意味をもった文言が含まれている点が、問題となる。しかし、だからといって本条適用範囲を厳格に捉えるのでは、本条の適用のチャンス自体が失われかねず、目的の達成に繋がるものでない。思うに、ここでは本条が212条ノ2の特例として存在しているのであるから、完全に明文化できない、予想外の事柄の発生を想定している文言であると解する。つまるところ、この「その他の事情」という文言は、取締役会、またこの文言を定款に入れる際の株主に、消却を行う権利を広く認めているもの、と解する。
次に、特例法第3条の特例にあたる、第3条の2につき検討をする。本条は資本準備金での株式消却を規定した条文であり、時限立法として成立し、その失効時期が一度延長をされているものである。
何故、わざわざ配当可能利益だけでなく、本条によって資本準備金による株式消却までが認められるのだろうか。
この点、この条項の法案提出がされた背景として、本国の社会経済状況が停滞していたことが挙げられる。よって、株式消却のチャンスを増やすことで、従前よりもより消却が行われ、ひいては株式市場の需給バランスの回復が目指されているものと考えられる。
これまで、商法において資本準備金は資本の欠損の填補、または資本組入れにしか利用できなかったものであり、このいわば「手付かずの財源」までを用いることで、本法の有効活用が目指されているものである。日本ではバブル期の資金調達に伴い、過剰資本となっている企業も数多く見られることから、資金の効率的運用の手段の一つとなるものである。
しかしながら、そもそも株式消却の資金として商法では資本準備金については認めていなかった。この点、資本準備金は資本に近いものであり、資本準備金の減少は実質的に減資に非常に近いものとも考えられ、厳格な手続の元で行われる減資との差が生じているため、資本準備金を用いる消却が取締役会の決議のみで為し得ることに、確かに抵抗感もある。
だが、資本準備金を株式消却に使用する旨の定款を定める際に、株主総会での決議がなされていることから、これを越えてまでの会社債権者保護までを厳格に求める必要はないと考えられる。
また、社会の要請と、商法におけるこれまでの資本準備金の扱いから考え、資本準備金による消却があまりに行われるのは返って経営の圧迫を招きかねず、だからこそ特例法3条ノ2には失効が予定されているのである。
以上より、株式消却手続特例法は、経済的理由、また経済情勢を受ける企業経営の観点から存在が要されるところであり、商法212条及び212条ノ2による株式消却では制度として不十分であるから、特例法として制定されたのである。
よって、EPS、1株利益やROE、株主資本利益率を高め資本効率重視を意識する、といった場合や、単純な利益処分案の一形態のしての株式消却など、必ずしも会社経営の切迫から要求されているものではない事柄の達成のためであっても、本法の定める消却株式数の上限や取得価額の制限を逸脱せず、また定款の内容に背くものでなければ、広く公開会社の取締役会による株式消却は認められるべきであり、インサイダー取引等の不公正取引目的の株式消却を除けば、特例法3条における「特に必要があると認め」という文言は特別の意味を持たないものと解する。
以上
これより本問を考察し、最後に結論を述べる。
はじめに、会社の自己株式取得は、資本維持の原則の観点から原則として禁止されているが、商法210条は、この例外として自己株式取得の許される場合を示しており、同1号により、株式消却時の自己株式取得が認められている。
以下、まず商法212条について述べる。
商法212条は資本減少の規定に基づく株式消却と、定款の規定により配当可能利益を用いて株式消却をすることについて示している条文である。
この点、資本減少規定に基づく株式消却を行うのにあたっては、商法375条より総会での特別決議において承認を受けた場合にしか援用できない。これに対して定款の規定による消却のばあい、後述する212条ノ2の存在を鑑みるに、定款とは原始定款、あるいは総株主の同意をもって変更した定款であることが必要と解する。
他方、212条ノ2は企業の財務政策の観点から、配当可能利益を使って発行済み株式総数を減少させることを容易にするために設けられたものであり、株主総会での通常決議によれば、特に定款に定めのない場合にも株式の消却を出来る旨、定めたものであり、平成6年に新設されたものである。
ここで両条とも、株主総会における定款変更あるいは株式消却の議決があって初めて株式の消却に着手することが出来る。
しかしながら、現実に株式の消却をすべき状況は、必ずしも株主総会の頃におとずれるものではなく、経済情勢などの状況から、株式消却に最適だと判断される時点での株式消却を許容するものではない。よって、株式消却の目的の1つである、株主への実質的利益還元を実現するのが確実になされるものではない。
よって平成9年、株式消却手続特例法が設けられ、経済情勢などの判断から、取締役会の決議をもって株式を消却することの出来るようにしたものである。これにより、すぐに株式消却をするものでなくても、来たるべき消却の時期のためにあらかじめ特例法第3条1項にあげられた通りに定款を作成しておくことで、経済情勢等の変化に機敏に対応をすることが出来る迅速性が確保されたといえよう。
以上を考査した上、商法212条及び212条ノ2と株式消却特例法を比較するに、相違点が4点挙げられる。
第一に、株式消却を実行できる主体が、商法においては特に制約がなかったが、特例法においいてはその主体が公開会社に限られている。第二に、消却決議が商法においては定時総会において為されていたのに対し、特例法においては取締役会になっている。第三に、特例法においては商法下でと違い、消却できる株式数に制限がされている。第四に、株式消却の財源につき、特例法においては、これまで認められていなかった資本準備金の使用が認められている。
さて、次に特例法の法制的特徴について見るに、まず第1条に本法の目的が示されている。ここで、本法の目的は「資本市場の効率化と活性化を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与する」ことである。
よって、商法と違い目的が条文で示されている以上、特例法援用の取締役会による株式消却は、少なくとも今述べた本法の目的に準じていなくてはならない。
次に、本特例法単独では導けるものではないが、発行株数が過剰になったときに行う株式消却と新株発行はパラレルな関係に立つ。新株発行と株式消却とを合わせて見たとき、新株発行は資金需要があれば、発行予定株式総数の範囲内で行えるから、会社の側からして、利益償却や資金獲得がともに機動的、弾力的に行うことが出来るといえる。そして、新株発行、株式消却ともに取締役会権限において実行できることで、より経営の迅速化が図られるものである。
また、立法過程につき、本法は国内の経済状況の閉塞感打破の1つの手段として設けられた。企業の国際化に加え、国内金利の低下なども資金の効率的運用という観点から、外国、とりわけアメリカ流の株主重視型経営への転換を模索する各企業の意識からも、株式消却手続の簡易化が必要とされる社会情勢の下で、もはや商法212条、及び212条ノ2をもってのみ株式消却を認めるのでは企業経営に不都合である、という現実があるのである。
それではここで、特例法第3条について検討する。
まず前提として、特例法による株式消却よりも厳格な手続を要する212条或いは212条ノ2が適用されるケースにおいては、あえて手続の簡易な本特例法の適用の可否を論ずるまでもないものである。
また、第3条1項には「公開会社は」と書かれており、これは第1条と同じものである。であるから、非公開会社には本法の適用はない。この点、商法212条や212条ノ2においては株式消却を行う要件に、公開会社であることは含まれていなかった。これは特例法1条に示された目的であるうち「市場の活性化」という点からして、非公開会社の株式が消却されたところで、「市場の活性化」という目的に影響を及ぼすものでないからである。
さて、再度第3条1項を見るに、本法は「経済情勢、当該会社の業務又は財産の状況その他の事情を勘案」した上で、株式消却の必要性の判断がなされる。しかしこの点「その他の事情」という広範な意味をもった文言が含まれている点が、問題となる。ここでこの「その他の事情」という文言は、取締役会、またこの文言を定款に入れる際の株主に、消却を行う権利を広く認めているもの、と解する。なぜならば本条適用範囲を厳格に捉えるのでは、本条の適用のチャンス自体が失われかねず、目的の達成に繋がるものでない。思うに、ここでは本条が212条ノ2の特例として存在しているのであるから、完全に明文化できない、予想外の事柄の発生を想定している文言であると解されるのである。
次に、平成10年に追加された、第3条の2につき検討をする。本条は資本準備金での株式消却を規定した条文であり、時限立法として成立し、その失効時期が一度延長をされているものである。 何故、わざわざ配当可能利益だけでなく、本条によって資本準備金による株式消却までが認められるのだろうか。
この点、この条項の法案提出がされた背景、また失効時期が延長された背景として、本国の社会経済状況が停滞していたことが挙げられる。よって、株式消却のチャンスを増やすことで、従前よりもより活発に株式消却が行われ、ひいては株式市場の需給バランスの回復が目指されているものと考えられる。
これまで、商法において資本準備金は資本の欠損の填補、または資本組入れにしか利用できなかったものであり、このいわば「手付かずの財源」までを用いることで、本法の有効活用が目指されているものである。日本ではバブル期の資金調達に伴い、過剰資本となっている企業も数多く見られることから、資金の効率的運用の手段の一つとなり得るものである。
しかしながら、そもそも株式消却の資金として商法では資本準備金については認めていなかった。この点、資本準備金は資本に近いものであるから、資本準備金の減少は実質的に減資に非常に近いものとも考えられ、厳格な手続の元で行われる減資と、本特例法での扱いの差が大きく、資本準備金を用いる消却が取締役会の決議のみで為し得ることには確かに抵抗感がある。
思うに、本条による株式消却につき、会社債権者の保護は3条の2の3項による、財源規制に留まっている。しかし、株式消却行為は不可逆であり、減資手続きの際のように、会社債権者による異議申立てに充分な力はない。よって3条の2における株式消却については、その実行条件は厳格たるべきものである。
以上より、株式消却手続特例法は、経済的理由また経済情勢を受ける企業経営の観点から存在が要されるところであり、商法212条及び212条ノ2のみによる株式消却は制度として不十分であるから、特例法として制定されたものである。但し資本準備金を用いる株式消却は、その財源の特殊性に鑑み、慎重に行われるべきものである。
よって、EPSやROEを高め資本効率重視を意識する、といった場合や、単純な利益処分案の一形態のしての株式消却など、必ずしも会社経営の切迫から要求されているものではない事柄の達成のためであっても、本法による株式消却は認められるものである。なぜなら取締役会が、その時点での株式消却を「必要」と判断しており、また本特例法に定められているように定款を定める際に、株主から株式消却の権限を授権しており、株主側から許容を受けているといえる。また株式消却が公開買付によってなされ、株式平等原則も守られているのであるから、本法の定める消却株式数の上限や取得価額の制限を逸脱せず、また定款の内容に背くものでなければ、広く公開会社の取締役会による株式消却は認められるべきであり、インサイダー取引等の不公正取引目的の株式消却を除けば、特例法3条における「特に必要があると認め」という文言は特別の意味を持たないものと解され、どのような状況にしろ取締役会が「必要」と判断した時点における株式消却は認められる。
但し、3条条文を引用する3条の2における株式消却ついては、実質的減資に近いことから、直ちに資本準備金を用いた株式消却を行わなければ、会社経営の存続が危ぶまれる、といったような場合、しかも配当可能利益を持たない場合に限って認められるべきものである。
初の全国大会に向け、かなり頑張って作った予選稿。予選出場4人。しかし先生は、僕ともう1名のどちらを勝たせるか決めあぐね、異例の決戦審査があった。その原稿はここには載せていないが、僕はそこで敗れてしまったわけである。無念・・・。ちなみに本戦では僕は質問できず。質問したかったし、準備はしていたのだが、残念ながら司会に指名してもらえなかった(涙)
一応解説しておくと、予選は実務ベタベタ。修正後は学者ウケよくなるように変えてみました。
Aは、駅前で見かけた女子大生Bに好意を抱き、駅から帰宅するBをマンションまで
5日間に渡り追尾していたが、やがてBと話をしたくなり、マンションの共用通
路にあるBの郵便受けから郵便物を取り出し、葉書を見たり封書を開封したりしたが、電話番号を知ることができなかったので、すぐにそれらを郵便受けの中に戻した。その晩、郵便物が開封されていることを知ったBは、薄気味悪さを感じ、翌日のごみ回収日には、収集車が来る数十分前にごみ袋を持参し、マンションの敷地内にある
ごみ集積場所の奥の方にごみ袋を置き、防鳥ネットを被せて出かけた。早朝からBのごみ出しを待っていたAはBがそこから立ち去った直後に、Bのごみ袋を取り出して開いたところ、意外にも破れたパンティストッキングが
入っていたため、それを持ち去ったが、 電話番号に関するものを見付けることはできなかった。このため、Aは、電話ではなく直接Bと話をしようと思い、その晩、いつも通り
Bを追尾し、 Bが室内に入った直後から、数回にわたり、Bの室のドアをたたいたり呼び鈴を
押し続けたりしたが、 誰かに追尾されていることに気付いていたBは、怖いので居留守を使い、出なか
った。 そこで、Aは、Bを通路に呼び出す方策として、共用通路に設置してあるBの
部屋の ガス栓と水道栓を閉め、使用不能にしたが、Bは、恐怖のため、室外に出て元栓
を開くこともできず、Aが諦めて立ち去るまでの数時間、室内で息を潜めてい
た。 Aの罪責を論ぜよ。(管理人註:本問はストーカー対策法施行前に出題されている)
出題:専修大学 佐々木和夫専任講師
これより本問を考察し、最後に結論を述べる。
はじめに、AはBを5日間に渡り、駅からマンションまで追尾している。 この行為は軽犯罪法1条28号に該当しないであろうか。 確かにAの行為はBに対する「つきまとい」とはいえるが、この時点でBは追尾を受けていることに気付いておらず、本罪の成立要件である「不安若しくは迷惑を覚えさせる仕方での追尾」に該当しないと考えられる。よってここでのAの行為は犯罪を成立させない。
次にAはBの居住するマンションに侵入している。 ここでAはマンションの共用通路に侵入しているので、「正当な理由がなく建造物に侵入」しており、侵入行為については故意もあるので刑法130条の住居侵入既遂罪が成立する。 またAがBの郵便受けを開いて葉書を見たり、封書の開封を行っている。この行為について、刑法235条の窃盗既遂罪が成立しないだろうか。
さて、窃盗罪の成立要件は、他人の財物を窃取することである。 この点、確かに他人の財物を不当に占有せしめんとしており、葉書或いは封書を郵便受けから取り出した時点において、窃盗行為の着手にあたると考えられる。 Aは、目的である「Bの電話番号」の示されている郵便物を発見できなかったために郵便物を郵便受けに戻しているが、目的である、電話番号の示されている郵便物が発見できていればそれを窃取していたと考えられる状況から、窃盗の故意があったと言え、刑法235条の窃盗既遂罪が成立する。
また、一見すると刑法133条の信書開封罪が成立するように見えるが、本問においては、窃盗既遂罪が成立し、窃取物の開封は不可罰的事後行為であるから、刑法133条の信書開封罪は成立しない。 ここで、成立する住居侵入既遂罪と窃盗既遂罪は牽連犯の関係に立つ。
次に、Aがマンション敷地内にあるゴミ収集場所からBのゴミ袋を開封して、パンティストッキングを持ち去った行為に付いて、刑法130条の住居侵入既遂罪が成立しないだろうか。
この点、本罪の客体は、「人の住居、若しくは人の看取する邸宅、建造物若しくは艦船」である。マンションの敷地内のゴミ集積場所というのは、文言上からは屋内施設であるか屋外施設であるかは判断できない。しかしながらマンション敷地は居住者にとってマンションと不可分であることから住居の一部と言える。よってゴミ集積場所が屋内、屋外どちらにあろうとも、成立要件を満たし、刑法130条、住居侵入既遂罪が成立する。
それでは、パンティストッキングを持ち去ったことに付いて、財産犯と考え、刑法235条窃盗既遂罪、或いは254条占有離脱物等横領既遂罪は成立しないのだろうか。 この点、財産犯罪はその保護法益が財物に限られる。よって、Aの持ち去ったパンティストッキングに財物性があるかどうかが問題となる。
本問において、Bはパンティストッキングをゴミとしてゴミ集積場所に廃棄している。これにより、もはやBがゴミに対して占有権、所有権を主張し得ない状態になっている。 では、Bがゴミを廃棄する行為が、ゴミを管理するマンション管理者等に権利を移管したものと考える事は出来ないだろうか。 しかし、当事者間にゴミの権利移転などを行っている意思はないと考えられるので、やはりゴミに財物性はない。 これより、財物でないパンティストッキングの持ち去りに付いて財産犯罪は成立し得えず、刑法235条窃盗既遂罪、刑法254条占有離脱物等横領既遂罪はともに成立をしない。 よって、ここでは住居侵入罪一罪が成立する。
次に、Aがいつも通りにBを追尾したという行為についてであるが、「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった」といえ、またBは何者かの追尾に恐怖を感じており、換言すると不安を覚えているといえる。Aにはつきまとう意思もあるのでここで軽犯罪法1条28号が成立するが、問題文の「いつも」という文言から常習性が認められる。よって複数回にわたる、Bが不安を感じるような追尾行為全体で包括一罪を成立する。 この直後、AはBを追尾してマンションに侵入している。ここでは初めに述べたのと同様であり、刑法130条住居侵入既遂罪が成立する。 この直後、AがBの室のドアを数回に渡って叩いたり、呼び鈴を鳴らしている。この騒音発生行為は刑法204条の傷害既遂罪或いは209条1項の過失傷害既遂罪を成立させないだろうか。
確かに、BはAの行動に対して恐怖を覚えてはいるものの、特にノイローゼなどの生理的機能傷害を受けたとは読み取れない。よって刑法204条の傷害既遂罪及び刑法209条の過失傷害既遂罪は成立しない。 それでは刑法208条の暴行既遂罪は成立しないのであろうか。 本問において、AがBの室のドアを叩いたり呼び鈴を鳴らしたのは、Bを室から呼び出す目的で行ったものであり、特にBに対して暴行を加えようという故意が見られない。よって、刑法208条の暴行既遂罪も成立しない。
次に、AはBを室から誘い出す方策として、ガス栓と水道栓を締めた行為は、「みだりにガス工作物を操作してガスの供給を妨害」し、また、「みだりに水道施設を操作して水の供給を妨害」しており、誘い出す故意の基、手段として行っているのでガス事業法53条2項と水道法51条2項にそれぞれ違反する。 またこの点、刑法118条1項のガス漏出罪、刑法147条の水道損壊罪や刑法261条の器物損壊罪が成立しないかどうか、検討する。 刑法118条1項は、「ガスを漏出させ、流出させ、または遮断し、よって人の生命身体又は財産に危険を生じさせること」でが成立要件ある。 この点、たしかにAはガスを遮断しているが、これによってBは恐怖こそ感じたものの、生命や身体、財産に危険を生じていない。よって本条は成立しない。 次に、刑法147条は「公衆の飲料に供する浄水の水道の損壊又は閉塞」を成立要件としている。 この点、本問においてAが閉塞した水道線はBの室のものに限られている。本条における「公衆」は少なくとも複数人数を指していると考えられ、本条は成立しない。 では刑法261条の器物損壊既遂罪は成立しないであろうか。 器物損壊罪における「損壊」の意義は「物の効用を失わせること」である。確かに本問ではAの行為により、Bはガス及び水道の一時使用不能状態に陥った。しかし、再び栓を開くという、容易な手段で使用不能状態を解消できることから、本問ではガス栓、水道栓の効用が失われたとは言えず、よって本罪は成立しない。 では、Aのガス栓及び水道線を閉塞しBを誘い出そうとした行為全体について、刑法223条1項の強要既遂罪が成立しないだろうか。 この点、Aは言葉に出してBに「害を与える告知」を行っていないが、言葉に出しての害を与える告知は要件ではなく、ガス栓や水道栓の閉鎖は強要の実行行為と認められる。 また、Aの行為は「Bを室から出そう」という目的の基に行われており、強要の故意が認められる。よって刑法223条1項強要既遂罪が成立する。 ここでは、ガス事業法53条2項違反と水道法51条2項違反がそれぞれ1罪成立するが、これらと刑法223条1項強要既遂罪が成立して観念的競合の関係に立つ。また住居侵入既遂罪が成立してこれと牽連犯の関係に立つ。。
これより、Aは住居侵入既遂罪と窃盗既遂罪の牽連犯、住居侵入既遂罪一罪、軽犯罪法1条28号違反の包括一罪、かすがい現象から三罪が観念的競合となる、ガス事業法53条2項違反、水道法51条2項違反、強要既遂罪と住居侵入既遂罪との牽連犯、以上の併合罪の罪責を負う。
以上
まずAは、駅前で見かけたBに好意を抱きマンションまで5日間に渡って追尾をしている。この点、なんらかの犯罪は構成されるのだろうか。
確かに、一般刑法において、ここでのAの行為は犯罪にあたらない。しかし、特別刑法たる軽犯罪法1条28号より、追随等が規制されている。しかし、本号の成立要件は「不安もしくは迷惑を覚えさせるような仕方でのつきまとい」である。これについて、必ずしも不安もしくは迷惑について、Bの主観は必ずしも必要とはされないと解するが、なお問題文から、Aの追尾行為が通常人において不安もしくは迷惑を覚えさせるような仕方であったとは読み取れず、Aの追尾行為は犯罪を構成しない。
次にAは、Bと電話で話したくなりマンション共用通路に侵入しBの郵便受けから郵便物を取り出して葉書を見たり封書を開封している。この行為は何らかの犯罪を構成するであろうか。
まずAのマンション共用通路侵入行為につき、刑法130条の住居侵入罪が成立しないであろうか。 思うに、本罪は住居権者または管理権者の意思に反する立ち入りを処罰するものである。またマンションに侵入をすることが予期されているのはマンション住人など、ごく一部の人間であり、市役所のごとし公共施設のように、侵入につき広く包括的承諾がなされているとは考えられない。よって刑法130条の住居侵入罪が成立する。
ここでAはBの郵便受けから郵便物を取り出しているがこの行為は刑報235条の窃盗罪を構成しないであろうか。 確かに、AがB宛ての郵便物を手にした時点で、Aの事実上の占有が及ぶため、窃取ということが出来る。 しかしながら、Aはすぐに取り出した郵便物を郵便受けに戻しており、本条の保護法益である平穏な占有が害されたとまではいえない。また、Aはそもそも不法領得の意思を持っておらず、窃盗罪は成立しない。
しかしこの点、正当理由なく他人の封書を開封した行為につき刑法133条が成立する。
次にAはBの電話番号を知ろうと、マンション敷地内のゴミ集積場にあったBのゴミ袋を開き、物色の上パンティストッキングを持ち去っている。この行為は何らかの犯罪を構成しないだろうか。
まず、マンション敷地内のゴミ集積場への侵入が住居侵入罪にあたらないかどうか検討する。
・・・・・・
次に、Aはゴミ袋を開封してパンティストッキングを持ち去っている。この行為は犯罪を構成するのか。 ・・・以下は特に変更なし
その後、Aは直接Bに会おうと、Bを追尾したうえ、Aの室のドアを叩いたり、呼び鈴を鳴らし続け、なおBが外に出てこなかったので共用通路にあったBの室のガス栓および水道栓を閉めている。この点犯罪は成立しているだろうか。
まず、AはBを追尾している。軽犯罪法1条28号は成立しないであろうか。 ここで、Bは実際に問題文より「恐怖」を感じている。またこのBが恐怖を感じたことが、およそ一般人とかけ離れた感覚によるものであるとは読み取れない。 よってAの行為は「不安もしくは迷惑を覚えさせるような仕方でのつきまとい」といえるので軽犯罪法1条28号の追随等の罪が成立する。
次に、これらの行為を行うにあたりAはマンションに侵入している。
・・・・・・
そして、AはBを呼び出さんとして数回に渡りBの室のドアをたたいたり、呼び鈴を押し続けたりし、またガス及び水道栓を閉めている。この一連の行為ののち、Bは自己の部屋からのからの脱出が困難な状態、すなわち監禁状態に置かれている。これよりAに刑法220条の監禁罪は成立しないだろうか。
―抽象的事実の錯誤論の展開―
しかし、そもそもBが恐怖を感じたのはAの追尾行為によるものであり、Aがドアをたたいたり、呼び鈴を鳴らし続けたりした行為によるものではない。またAは強要の故意も認められない。これより監禁という結果とドアをたたいたり呼び鈴を鳴らし続けたりする行為の間の因果関係が認められない。よって、そもそもの強要罪自体の存在がしないものと考えられる。
また、ガス栓および水道栓の閉鎖が監禁の実行行為と考えることは出来ないだろうか。 しかし、ガス栓および水道栓の閉鎖は、刑法223条の手段とされる脅迫にも暴行にもおよそ該当する行為とは言えない。よってここでは強要罪は成立しない。
では、ガス栓および水道栓を閉鎖した行為が何らかの罪にあたらないだろうか。
−ガス等漏出・水道損壊・器物損壊検討の上それぞれ不成立−
以上からAには刑法130条住居侵入罪、刑法133条信書開封罪、軽犯罪法1条28号追随等の罪がそれぞれ成立し、Aはこれらの併合罪の罪責を負う。
以上
予選2位(全4名)。う〜ん・・・、語句誤用が多過ぎる(苦笑)。つけなくてもいいのに、やたらと「既遂」とか罪名に書いてるし。まぁ、刑法未選択者の限界ですかな?ちなみに僕の書いた理屈(予選稿)は、実務上は一笑に付されることでしょう。残念ながら、ここまでの厳罰で臨む風潮は、現司法にはありません。本戦にて質問の部第五位入賞。この論文作成後、僕は強要罪につき、錯誤論を展開することを考案。だが、錯誤論は実務家にはウケがよくない。軽罰思考で書いた新案の方も、バランス感覚を欠いてしまっています。
リゾート開発業者Aは、スキー・ゲレンデ、テニスコート10面、屋内温水プール・屋外プール各1および高級ホテルを中心とした会員制リゾート施設を建設する計画を立て、会員権1口500万円で会員募集を始めた(会員は、施設オープン後、低廉な年会費と利用料だけで施設を利用する権利、および、会員権を第三者に売却する権利を有する)。Aが作成した会員募集用のパンフレットによると、このリゾート施設は、高級ホテルを中心とした敷地内に上記レジャー施設が点在し、会員は、ホテルに長期滞在しながら好みのスポーツ等を楽しむことが出来ると宣伝されており、平成8年1月着工、平成10年末完成、平成11年1月使用開始予定と記載されていた。Bはこの会員募集に応じて、平成8年6月に入会申し込みを行い、直ちに会員権代金の全額を支払った。なお、Bは、この会員権購入のために金融業者から200万円を借り、平成10年末までに利息を含め、全額を返済している。 ところが、Aがこのリゾート施設の建設に着工後、ホテル建設予定地の地盤に問題があって、基盤・補強工事等のため計画を大幅に上回る費用と時間を要したこと、また、何年に一度という天候不良に相次いで見舞われたことにより、工事が予定通り進捗せず、平成12年4月時点において、ホテルと屋外プールが完成して利用可能となっただけで、テニスコートとスキーゲレンデの完成までにはさらに約2年を要し、屋内温水プールに至っては、資金不足により未だ着工のめどすら立たない状況にあった。 そこで平成12年6月になって、BはAに対して、支払った会員権代金の全部又は一部の返還及び損害賠償を請求したいと考えている。このときBにとって考えられる法的主張を幾つか挙げてそれぞれについて検討した後、最後に結論を示しなさい。
また、Bが、健康維持のため、全シーズンを通して水泳することを主な目的としていた場合、結論に違いが有るかについても、併せて検討しなさい。
出題:中央大学 渡辺達徳教授
本問を考察するにあたり、まず、前提となる事柄について検討する。 はじめに、本問におけるAの債務の履行期について検討する。 本問で示されているとおり、履行期限は一見すると、平成11年1月のオープン予定日であると見ることが出来る。しかしながらこの予定日の日付はあくまでもパンフレットに為されたものであり、必ずしも契約書などの正式な書面にあらわされているわけではない。そのため、履行期は変動する不確定期限であると解される。勿論、その履行期の到来するのは平成11年1月以降である。
それでは、本問における履行の状況はどうなっているのであろうか? 本問では既に、ホテルと屋外プールについて平成12年4月までに完成されている。また一方でレジャー施設としては大規模なものであるスキーゲレンデを含め、依然としてリゾートとしての設備の完成には程遠い。よって本問においては依然として要素たる債務が為されていないと解する。 続いて、Bのとりうる法的主張について検討する。 はじめに、ホテル建設予定地に地盤の問題が有ることが発覚したのが、工事の着工後であり、AB間の契約が締結される前であった場合について考える。結果的にスキーゲレンデやテニスコート・室内プールが完成していないのであるから、履行に遅滞が生じていることは明らかである。また、債務者であるAは、債権者Bとの契約を締結する時点で、既に地盤の問題があることを知っているのであるから、工事に遅延が生じることについては、充分に予見可能な事象であり、この点で帰責性がないとは言えない。
また、天候不良に相次いで見舞われたことが、不可抗力であると考えることが出来るが、依然として施設の総完成までの見込みが立たないという状態にあることを考えると、天候不良という事象が発生しなくても、Bが履行遅滞に陥っていたことは明らかである。このような状態では民法541条に基づく解除をすることが出来る。それでは、このような場合の損害賠償についてはどうだろうか。本問において、民法416条で定められた条件で、具体的にどの点Bが損害を被ったのかを示すのは困難である。 また、民法709条に基づく不法行為責任の追及をすることも可能である。総完成が平成11年1月には達成できないことを承知で会員権の販売を行うという、悪質な業者に対しては不法行為の責任を追及することが出来るからである。 しかし、709条に基づく損害賠償の訴えをする場合には、債務者の故意・過失を、原告が立証せねばならず、あえてこのような手段を執る必要もないであろう。 これらよりもより実効性があるのは、契約内容の達成不可能な内容を契約したものとして考えた上で、本契約を原始的不能と考える方法である。そもそも契約の達成が不可能であったと考えると、契約が無効となり、契約を結ぶ前の状態となる。更に契約締結上の過失という理論を用いると、損害賠償を起こす場合は帰責性の有無証明は債務者が行うことになり、この方法が債権者にとって一番有利な法的主張方法であると解する。契約が無効となった場合、契約を期待したことによって生じた損害が賠償される。ここで、Bが会員権契約を行わなければ生じなかった金融業者との消費貸借契約の中で、利息を借金返済の際に払っており、Bにとっての損害であったと言える。よってBはこの利息について損害賠償請求をすることができる。
次にホテル建設予定地の地盤の問題の発見が遅くなったことが、もともとの地盤調査に落ち度があったからであるという場合、この場合は問題の発見が遅れたことについてAに帰責性があったと考えられる。この他に天候不良という事象があっても、確定した帰責性は消えないので、よって先程のケースと同じように民法541条に基づく解除の請求を起こすことが出来る。また、契約前から地盤に隠れたる瑕疵が有ったとも考えられるので、やはり契約締結上の過失だと考えられる。この場合もホテル建設予定地に問題があることが発覚したのが、工事の着工後であり、AB間での契約が締結される前であったと同様に、解除や損害賠償をすることが出来ると考えられる。
それではAに落ち度が無く、帰責性が無い場合はどうだろうか。債務者に責任事由が無い場合、天候不良という事象を含め、すべてのアクシデントは不可抗力ということになる。 この場合は解除や損害賠償をすることはできない。何故なら、解除や損害賠償をすると、帰責性が成立要件となっているからである。この場合には、民法534条に基づいて、債権者が危険を負担すると考えられる。 また、解除を行う場合において、催告が本来は必要になる。本問ではどうだろうか。本問ではBがAに対して催告を行ったかどうかは、文脈からははっきりしない。しかしながら平成12年6月の時点で未だ全ての施設の完成・オープンの目途が立っていない状況下では、仮に催告を行っても履行の完了をAが為すことは直ちには出来ない。よって本問の場合には仮にBが催告を行っていなくても解除を認めるべきである。
それではこれより、結論を述べる。 AB間の契約締結後に地盤の問題が発覚し、この問題についてAに落ち度が無く、帰責性を負わない場合ではBに特に訴えを起こす余地はないと考えられるが、それ以外の場合は原始的不能があったと解して契約を無効にして、500万円の全額を返還し、また、金融業者との契約で生じた利息分の損害を民法416条に基づいて損害賠償を請求するのがもっとも適切な法的主張だと考える。
さて、ここでもしBが健康維持を目的に全シーズン水泳をしようと考えてAとの契約を結んだ場合には違う点があるであろうか。 Bには健康維持という明確な目的があり、しかもこれをAに対して示していた場合は要素の錯誤であり、錯誤無効を主張することが出来る。しかしながら錯誤無効を主張する場合、原状回復は為されるが、損害賠償をすることが出来ないので、これまで検討してきたような原始的不能による契約無効を訴えるのに比べて有利とはならない。よって、もしBが健康維持を目的に全シーズン水泳をしようと考えてAとの契約を結んだ場合でも、結論に違いは出ない。
以上
予選4位(全5名)。はじめてまともに書いた論文。あまりにも話が飛んでいて読みづらい。省略が多く、初見では「ん?こいつ何言いたいんだ?」状態であることうけ合い。まぁ、力不足が露呈してますね。ちなみに本戦では質問の部7位(表彰圏外)