Talking With Shingetsu / M.KITAMuRA

新月は僕の知る限り、日本のロック・シーンが生み出した
最初のプログレッシブ・ロック・グループである。
ここでいうところの‘プログレッシブ・ロック’とは、キングクリムゾンや
その他のバンドを意識的にフォローしたという意味ではなく、
彼らの音楽がひょっとしたら、メディアや流通機構を通じて何かしらの有意義で
思索的な創造を行う事になるかも知れないという可能性を指している。
未だ新月の音に接した事のない人にとってはあまりに抽象的な説明に
なってしまうかもしれないが、新月の持っている音楽概念、創作意欲は、
これまでのロックグループとはそのスケールの大きさに於いて
かけ離れているという僕の主張をまず信用していただきたい。
ある意味でジェネシス、キング・クリムゾンが
われわれを魅了する際にもっともはっきりと認識し得るあのアンサンブル
による魔術性というものを彼らも追及しているのだ。
 新月は76年の夏、キーボード奏者花本彰と鈴木清生(B)、
ヴォーカリスト北山真の3人が作っていたグループと、
ギタリスト津田治彦とドラムの高橋の在籍していたHAL
というグループの合体がきっかけになって結成された。
 「当時のグループはいうなれば学生バンドだった。新月を結成した
最も重要な動機といえば、それよりもワン・ステップすすんだバンド形態、
つまりプロフェッショナルを目指したもの、よりつきつめたもの、
奥深い音楽をやりたかったからなのだ。」(花本)
 リーダーである花本は、新月が最初からある程度趣味的レヴェルから
脱却した地点から出発したことを強調する。
社会的レヴェルでの音楽家の影響力というものを
非常に強く認識しているようでもある。
 その後約半年間のリハーサル期間を誰に知られる事もなく
猛練習に費やし、新月が初めて聴衆の前で演奏したのは
77年の暮れ頃からだという。屋根裏などのライブハウスを中心に活動し、
着実に名前が知られるようになると、新月の存在は一部のファンの間
で非常にエポックなでき事として受け止められるようになる。(驚くべき事に
新月の出演したもっとも大きなコンサートは、
78年11月に本誌とOMNI−PRODUCTIONが
主催した「From The New World」である。)
 数少ないステージの根本的な原因は、無論彼らの大量の器材
の運搬の困難や、マネージメントの不備が災いしていた。
ZENレーベルのディレクター氏を「From The・・・」に招いていた
僕たちは、新月のステージが彼の興味を大きく惹いたことを知り、
またもやひとつの大きな確信を持つに至った。
                                       
                                       

 「マス・メディアが僕たちの音楽に商業的な価値を見出した事
に関して僕らは別に何の抵抗も持っていない。
むしろそれらは積極的に利用したいと思っている。
しかしここで最も大事な事は、僕らはそのための妥協を一切
行っていないという事だ」(花本)
 一般にこうした音楽は、ロックの世界でもきわめて
アンダーグラウンドな産物と思われがちである。実際にかつての
日本でこうしたロック・グループが売れたということはまるで
なかったし、まして生まれたことも皆無に近かった。新月は
こんな日本のシーンのメジャーとマイナーの間で何を強い
主張としてゆけばよいのであろうか。
 「ロックが興奮を促す働きだけではなく、覚醒促す事も可能
だという認識は、今は世界的な傾向としてみとめられている
のではないだろうか。僕たちの音は日常感覚だけで人生を
送っている人々に、いくつかのイマジネイティヴな要素を
提供する事になるだろうね」(津田)
 「音に対して固有の概念というものはあまり意識していない。
好きな受け取り方をしてくれればいいのです。新月の音には
強制的なものはあまりない。」(鈴木)
 「作曲や構成の段階で僕らが決定してゆくことは、第一に
聞き易さだといえる。実際にレコードになっている新月の音楽
は非常に聞き易く処理されていると思う。つまり素材は確固とした
ものであれど、そこに入り込むのはとても簡単な事なんだ(高橋)
 「ロックが一般的に肉体的な表現だとされているにもかかわらず
新月の音楽はきわめて精神的だ。ファンタジィーに関係した
内的な意識性をとても子どもじみたものだとしてかたむけようと
する傾向が強いが、そうした世界と日常との価値観、均衡の
ようなものの重要性の再認識を促すようなねらいがある。」(津田)
彼らの音楽が根本的な部分での現代との反発を呈していることは
発言からも明らかだ。
しかし彼らは現代の日本の状況にとても楽観的で希望的な一面も
持っているようだ。新月のデビューアルバムは、今年の4〜5月にかけて
箱根のロックウエル・スタジオでレコーディングされた。
この段階においても新月のメンバー5人と少数のスタッフの
完全に自由な録音が行われ、外的なものとの妥協は一切
シャット・アウトされることになった。特にレコーディング・エンジニアの一人
である森村寛が、サウンド面のまとめ役を行い、新月サウンドを
完成させる大きな力になっている。
 新月のファースト・アルバムについて、彼ら自身の口から
コンセプトを語ってもらおう。
 「もちろん最初は唯のロック・ファンの一人でした。僕の聴いて
いた音楽はもちろん‘プログレッシブロック’だったけれど、日本
のアーティストには満足できるものが全然なかった。バンドを
始めたきっかけはまあこんなものだけれど、その際にやはり
『ジェネシスとクリムゾンが大好きなので、あんな風にやって
行こう』ではどうしようもない事を切実に感じた。僕らは日本に
いるんであって、ヨーロッパンのロックは当然その国の音楽
でしかなかったわけだからね。そこで僕らは日本の風土とか、
要素とか、そういった日本的な土壌からマテリアルを捜す事が
最も必要な事だと感じた。」(花本)

  A面の1曲目「鬼」とB面1曲目の「白唇」は世界的視野の
中の日本のグループ新月を最も色濃く表しているといえる。
日本の民話的な風景の中で語られていく物語的な形式を持った
美しくも複雑な曲である。「白唇」は僕の作った曲だけれど、
白い唇の女というのは実は、‘もう一人の自分’の投影なのだ。
つまり内的な美を秘めた自己の女性原理への憧れを
表している。」(津田)
 オカルティズムやファンタジーを作品の中の支柱に置こうとする
ギタリストの津田は、レコードにおいてスティーヴハケットばりの
妖しい音色のギターをふんだんに聴かせてくれる。もちろんステージ
においても、キーボードの花本の操る重厚なオーケストレイションと
ともに新月の核を成している。ステージに於ける新月のヴィジュアルな
コンセプトは、ヴォーカリストの北山真の演劇的なステージ・アクトと、
高さ10数メートルの三面マルチスクリーンを使用した映像が、
多分日本では初の試みとして、大きな注目を集める事になるだろう。
7月25日、6日のデビュー・コンサートに期待しよう。

 新月の登場は果たして日本のロック・シーンに何をもたらすであろうか。
新月が今の音楽界の一般性から見ると特異な場所にいることは
否定できない。しかし彼らは独自のアイデアをテクニカルに
昇華してしまうだけの十分な要素を秘めている日本で唯一の存在だ。
時代の移行が彼らをメイン・ストリームに迎え入れる日は近いだろう。



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