バレンタインデイ・キッス


                                     睦美
                                     朋子
                                     ザザ子





第一幕 二月十三日

マンションの一室
睦美・朋子がソファーに座ってテレビを見ている

睦美   ねぇ、まだ台所使えないの?
ザザ子  うーん、もうちょっとまってぇ。もう少しで完成なの。
睦美   何回あのセリフを聞いたか・・・
      もう!!コーヒーも飲めないじゃないの!!
テレビ  ・・・今日は明日に控えてのバレンタインデー商戦が
      激しく繰り広げられました。ここ銀座でも・・・
睦美   ねえ、まだ?
ザザ子  まだぁ。
睦美   ・・・もう!!もう、あったまきた!!

(睦美、 ソファーから立ち上がって台所のほうへ行く)

睦美   ちょっと!!入るわよ!!
ザザ子  きゃー!!だめだって!!はいっちゃだめー!!
睦美   ちょっと!!コーヒー入れるぐらいいいじゃないの!!
ザザ子  だめぇ!!だめ!!みちゃだめぇ!!
睦美   きゃっ!!

(睦美ソファーに帰ってくる)

朋子   いいじゃない。ザザ子はザザ子なりにがんばってるん
      だから。
      明日は大事な日だしね。(睦美の方に向き返って)
      きゃっ!!どうしたのよ!?
睦美   チョコひっかけられた。
朋子   大丈夫?
睦美   熱い。
朋子   もう・・・ちゃんと拭きなさいよ。
睦美   いいわよ。食べるから。

(睦美顔についたチョコをなめ始める)

睦美   ところで、あなたの方は大丈夫なの?
朋子   何が?
睦美   チョコ。
朋子   まぁ、ね。昨日のうちに作っといたから。
睦美   さすが朋子!!抜け目無いわね!で、どんなの?みせ
      てよ。
朋子   いやよ。恥ずかしい!!いくらお姉ちゃんでも見せら
      れないわ。
睦美   そんなこといわないでみせなさいよ。ね!ね!
朋子   いや!!
睦美   んん!!じゃ、誰に渡すのかぐらい教えてよ。
朋子   それは・・・
睦美   分かった!!あの人でしょう!?企画部の竹本さん。
      そうでしょ!?きっとそうだわ。あの人かっこいいもん
      ねぇ。しかもいいポストに座ってるし、出世も間違いない
      しね。
      でもあの人ファン多いわよ。大丈夫なの?
      あ、心配ないか。そういえば、こないだいっしょに食事
      したとかいってたもんねぇ。
朋子   まだ、そんなんじゃないわよ。
睦美   ・・・まだ?まだってなによ!!
      まだってことはちょっとはそういうことがあるの?うそ?
朋子   だから、なんでもないって。
睦美   ちょっと待って!!じゃあ、あんたは私が知らないうちに
      あの竹本さんとそんないい仲になってたってわけ?
      しかも告白することがメインイベントのバレンタインデー
      においてあんたはすでにいい仲の彼にチョコを渡すっての?
      ばかいってんじゃないわよ!!
      明日のバレンタインデーという日を前にして、
      世界人口の約半分が成功するか否かの不安と戦っていると
      いうのに!!
      フランス人も!!アメリカ人も!!インドネシア人だって
      戦っているのに!!
      何一人で勝ち確定の勝負に挑もうとしてるのよ!!
朋子   そ、そんな・・・(朋子、睦美の気をそらすようにテレビを
      指差して)あっ、あっ、お姉ちゃん、見て!!すごいねぇ、
      一個1500円のチョコだって!!
睦美   ふん。でもね、あなたまだ分かってないようだから、教えて
      あげる。
朋子   何を?
睦美   あなたもザザ子も明日は手作りのチョコを渡すんでしょ?
朋子   それがどうしたの?
睦美   古いわ。古いのよ!!感性が!!
朋子   どうして?いいじゃない。気持ちを込めて作ってるんだから。
睦美   それが古いっていうのよ。分かる?
      最近の男の人はそういう気持ちだとか心だとかを込めました
      っていって
      ものを渡されてもそれを重く感じるだけなのよ!!
朋子   そんなことないわ!!
睦美   シャラップ!!ノー!!ユー!!ロング!!リッスン!!
朋子   単語ばっかりね。
睦美   とにかく、男はそういうのは求めてないってことよ。
朋子   じゃあどんなのがいいの。
睦美   答えはそこにあるわ。(テレビを指差す)
朋子   テレビ?
睦美   そう。
      この不況、不況と騒がれるこの世の中においても
      一向に減らない高級店のグルメ番組やその紹介番組。
      どうしてだと思う?
朋子   さあ。
睦美   その裏側にはお金という物質への憧れ。
      そして、それを裏付ける高級品への欲求があるのよ!!
朋子   そうかしら。
睦美   ということは、世の男どもの求めるものも気持ちや心の
      こもったチョコではなくて、
      高級感あふれるリッチなチョコってことなのよ!!
朋子   なんかこじつけてない?
睦美   あんたいちいちつっかかるわね。素直に納得しなさいよ。
朋子   無茶いうわ。
睦美   分かったわ。じゃあ私の完璧なバレンタインデー・
      ゲッチュ大作戦を特別にあなたに話してあげる。
朋子   あんまり聞きたくないなぁ。
睦美   なんて?
朋子   聞いてます。お姉さま。
睦美   まず、渡すチョコは・・・さっきテレビでやってた
      チョコ、いくらだったって?
朋子   たしか・・・1500円。
睦美   ふん。二流品ね。私のチョコは一粒が1500円よ。
      これぐらいの、このちっちゃな、鹿のフン級の粒が!!
      1500円なのよ!!
朋子   すごい!!
睦美   それを本命の人には四粒。
朋子   なんか少なくない?
睦美   ばかいってんじゃないわよ!!高いんだから!!
      そして、キープの人は二粒、そして保険の人には一粒
      づつ!!どう?これが穴の無い計画っていうものよ。
      これこそ愛のじゅうたん爆撃!!愛の黙示録よ!!
朋子   超小型爆弾ね。
ザザ子  できたー!!

(ザザ子 入ってくる)

睦美   やっとコーヒーが飲める・・。
朋子   やったね!!ザザ!!で、どんなの作ったの?
ザザ子  へへー、秘密!!
朋子   何よー!!隠すことないじゃない!!
睦美   あんたもさっき隠したじゃない。
朋子   何よ!!じゃ、ザザは誰にそのチョコ渡すの?
ザザ子  んーとね、営業二課の佐々倉さん。
睦美   あいつかぁ、あいつのどこがいいんだろ。
朋子   そんな言い方ないんじゃない?ザザは大切に思ってる
      んだから。
睦美   だって、あいつ、私と同じ部署で知りすぎるほど知っ
      てるんだもん。あいつのあだ名しってる?「ノブナガ」
      よ、「ノブナガ」。あのちょびひげどうにかならない
      ものかしら。
ザザ子  ぶーん。
朋子   落ち込まないで、ザザ子。いいすぎよ!!お姉ちゃん!!
睦美   しょうがないじゃない。
      私たち三姉妹が同じ会社で働いてるんだから。
      あんた達が社内恋愛なんてしたら相手の情報がいやでも
      耳に入ってきちゃうの。
      ま、明日はがんばんなさい。

(睦美キッチンに入っていく)

睦美   きゃー!!
朋子   どうしたの?おねえちゃん!!

(睦美戻ってくる)

睦美   壁が・・一面の壁が黒い!!
朋子   はぁ?
ザザ子  あっ、ごめんなさい。作ってたらチョコがちょこっと
      だけ飛んじゃって。
睦美   ふざけんなよ。
朋子   ベタね・・・。チョコだけに。
睦美   はぁ?
朋子   べたべた。
睦美   お前ら殺す。

暗転


第二幕 二月十四日

ザザ子がソファーに寝そべって雑誌を読んでいる

(睦美帰ってくる)
睦美   ただいまぁー。
ザザ子  おかえりなさーい。
睦美   あれ、ザザ子、もう帰ってたの?
ザザ子  うん。
睦美   で、どうだった?ちゃんと渡せたの?チョコ。
ザザ子  うん、ちゃんと渡せたよ。
睦美   へえ。で、それからそれから?
ザザ子  それから・・・何?
睦美   いや、何って。それだけじゃないでしょう?
      「ありがとう」とか、「今度食事でもしません
      か」とか相手に言われなかったの?
ザザ子  うん、ありがとうって。
睦美   それだけ?
ザザ子  うん。それだけだよ。
睦美   ・・・あんたどんなチョコ渡したの?
ザザ子  普通のチョコだよ。ちょっと大きめかな?
睦美   他に変わった点は?
ザザ子  お姉ちゃん、刑事みたい。
睦美   いいから。
ザザ子  別にないよ。
睦美   おかしいな。あのノブナガなら飛びついて
      くるのは目に見えてるのにな。んー、別に
      うちの妹は格別不細工ってこともないし・・・
ザザ子  あ、そういえば。
睦美   ん?何?
ザザ子  渡す前に一回落っことした。
睦美   まさか、割れたの?
ザザ子  真ん中からバックリ。
睦美   それ失恋してんじゃん!!あげる前から失恋し
     てんじゃん!!ハートブレイクじゃん!!
ザザ子  だめなの?
睦美   いいもだめも告白になってない。
ザザ子  えー、じゃあ、食べてくれないのかなぁ。
睦美   かわいそうに、ザザ子。もうちょっとかしこく
      生まれてきたら幸せになれただろうに。
ザザ子  せっかく味付けも凝ったのに・・・。
睦美   は?あんたチョコに何かいれたの?
ザザ子  よだれ。
睦美   は?
ザザ子  ザザ子のよだれ。
睦美   あんた・・・それ犯罪だよ。
ザザ子  なんで?なんで?よだれはザザ子の一部だよ。
      私の細胞の一部だよ。私の細胞が好きな人の中
      で生き続けるって素敵じゃない?
睦美   このパラサイト・イブ!!
ザザ子  ぶーん。
睦美   そういえば、朋子はまだ帰ってないのね。
ザザ子  ぶーん。
睦美   まぁ、そうでしょうね。勝ち確定の勝負してまさ
      かおめおめ帰ってくるわけないわよね。どうせ今
      ごろはどっかのレストランでいい感じに・・・。
      もしかしたら今日は帰ってこないかもしれない。
      くっそー!
ザザ子  ぶーん。
睦美   あんたねぇ、いつまですねてんのよ!!そんなす
      ねてる暇あったらコーヒーでも入れてちょうだいよ!!

(ザザ子しぶしぶキッチンへ向かう)

ザザ子  お姉ちゃんはうまくいったの?鹿のフン大作戦。
睦美   あんた!!昨日の聞いてたの!?
ザザ子  ばっちりと。
睦美   ・・・まぁ、隠すことじゃないからいいけど。
      当然うまくいったわよ。私の計画にぬかりはないの。
ザザ子  じゃあ、なんで今日はお食事いったりしないの?
睦美   痛いこというわね。違うのよ!!私の計画ではこうなの!!
      今日私の愛をうけとった男どもは三月十四日まで
      この愛に感動し、嬉しさをかみ締める。そして、
      三月の十四日にはこの愛に応えるべくすんばらしい
      プレゼントをもって私の前に現れる。そして私はそれ
      を比較検討しつつ私にふさわしい男を選ぶ!!こうなのよ!!
ザザ子  ふーん。
睦美   あんた、私ばかにしてる?
ザザ子  してないよぉ。
睦美   あーあ、でも、こうしてバレンタインデーの晩を男の人と
      過ごせないっていうのもなんかさみしいわねー。
ザザ子  お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!

(ザザ子、グラスを二つ手にもって部屋に駆け込んでくる)

睦美   どうしたの?
ザザ子  あのね、あのね。隣の人けんかしてる。
睦美   隣の人?あの新婚夫婦?
ザザ子  あのね、旦那さんが職場でチョコいっぱいもらって
      きたんだって。そんで奥さんが怒ってんの。
睦美   うそ?興味ある。
ザザ子  はいこれ。(グラスをわたす)
睦美   用意いいじゃない。

(二人壁際にいって聞き耳をたてる)

睦美   うわー、やってるやってる。
ザザ子  すごいねー!!

(壁にものがあたるすごい音 びくつき飛びのく二人
しかし、すぐにもとの姿勢に戻る)
(二人玄関の方へいって、必死に表を覗く)

男の声  そんなにいうならでてってやるよ!!バカヤロー!!

(ドアをしめる激しい音)
(二人ソファーのところに帰ってくる)

睦美   ・・・バレンタインもいいことづくめじゃないんだねぇ。
ザザ子  うん。恐かった・・・。

(静かになるふたり
そこに朋子が帰ってくる)

睦美   あら、おかえりなさい、朋子。
ザザ子  おかえりぃ、お姉ちゃん。
睦美   ね!ね!遅かったじゃない。何してたのよ!!
ザザ子  ふざけんじゃなーいわよう!!
睦美   ね、どうだったの。竹本さんに渡したんでしょ?聞かせてよ。
ザザ子  ふざけんじゃなーいわよう!!
睦美   うるさいのよ、あんた!!だいたいそれ誰の真似なのよ!!
      こんな女の話に少年誌のキャラを持ち込まないでよ!!
朋子   ・・・ふられたの。
睦美   え?
ザザ子  ふざ・・・(睦美の殺人ブローでザザ子マットに沈む)
睦美   本当なの?
朋子   本当よ!!なんでこんなウソつかなきゃならないの!?
      ほんとにほんと・・・正真正銘・・・私、ふられたんだぁ。
睦美   ・・・そう、つらいね・・・泣いていいんだよ。

(睦美両手を広げる)

朋子   うぅ・・・お゛ね゛い゛ぢゃーん!!

(朋子 睦美の腕に抱かれる)

睦美   ・・・こんなにいい子なのにねぇ。かわいい子なのにねぇ。
ザザ子  私もいい子ッス!!
睦美   やかましいわよ!!
朋子   うっ・・・うっ・・・うっ・・・
睦美   どう?落ち着いた?

(朋子 首を縦にふる)

睦美   でも、ひどい男だね。竹本って奴は。どんな汚いふら
     れ方したの?聞かせてよ。
朋子   あのね・・・今日ね、朝一番乗りで出社してね。チョコ
     を竹本さんの机の中に入れたの。
睦美   意外と古い手を使うのね。
朋子   そしたらね。仕事終わったあとに竹本さんに呼び出され
      てね。いっしょに食事しようっていわれたの。
睦美   よく聞いときなさい。これが本来のバレンタインよ。
ザザ子  なるへそ。
朋子   そしてね。お食事しにいったの。「ベル・エ・キプ」
      っていうフレンチレストランよ。
睦美   なつかしい名前だな。
ザザ子  なんでなつかしいの?
睦美   こんなとこでからまないでちょうだい!!
      話がややこしくなるわ!!
朋子   そこにはのりたまっていうディレクトールがいて・・・
睦美   拍車をかけないで!!どうせだれも分からないんだから!!
朋子   そこでの食事はすごく楽しかったわ。おいしいワインも
      飲んで・・・。でも・・・そう、さあ、デザートを食べ
      ようかとしたときに彼の電話が鳴ったの!!
ザザ子  あちゃー。
朋子   彼は・・・彼は気まずそうにしながら電話をとったのよ。
      きっとあれは彼女よ!!私は・・・私は遊ばれただけなんだわ!!
睦美   でもさ、それだけじゃ電話の相手が彼女かどうかなんて
      わからないんじゃない?
朋子   ううん!!私見たの。彼が食事が終わってからトイレに
      いったときにこっそり電話を盗み見したの。電話の相手
      は「たかこ」。「たかこ」!!「たかこ」!!憎いよ!!
      憎いよ!!「たかこ」!!
睦美   よしよし・・・でも、朋子がだめになるなんて。
      わからないものね。
ザザ子  唯一の正統派だったもんね。
睦美   私は違ったっていってるの?
ザザ子  あーあ、でも結局うまくいったのは睦美おねえちゃん
      一人だけかぁ。
睦美   ・・・ザザ子。実はお姉ちゃん。いってないことがあるの。
ザザ子  何?
睦美   私ね、本当は好きな人がいるの。
ザザ子  知ってるよ。あちこちにいるじゃん。
睦美   違うの。本当に好きな人が。この人だけって決めた人が
      いるの。でもね、いつもはこんなだけど、いざとなっちゃ
      うと勇気が出ないものね。好きってずっといえなかったわ。
      それで今日こそはって思って・・・
ザザ子  告白したの!?
睦美   ううん。できなかった。
      でも、こうなることは分かっていたから。手紙を書いたの。
ザザ子  なんて?
睦美   ずっとあなたのことが好きでした。
      私、勇気がなくてこんな形でしかこの気持ちを打ち上げる
      ことができません。ごめんなさい。って。
ザザ子  チョコは渡したんでしょ?
      その手紙のほうもちゃんと渡したの?
睦美   渡した?渡してはいないわ。
ザザ子  じゃあ、そのままもって帰ってきたっていうの?
      お姉ちゃんのいくじなし!!
睦美   もって帰りなんてしないわよ。
      職人さんにたのんでチョコの中に入れてもらったのよ。
ザザ子  入れたって・・・あの鹿のフンのなかに?
睦美   うん。
ザザ子  あのくそながい文章を?
睦美   涙目になってたわ。職人さん。
ザザ子  神技ね・・・。
睦美   その手紙にはまだ続きがあるの。
ザザ子  まだあるの!?
睦美   この愛を受けてくださるなら今夜電話ください。
      ずっと待ってます。って。
ザザ子  いよいよ神技ね・・・。
睦美   でも、こないの・・・電話が。実はお姉ちゃん、
      むっちゃどきどきして待ってたのよ!!
      むっちゃどきどきして!!でもこない・・・。
ザザ子  お、お姉ちゃん・・・そんなことないよ!!
      きっとくるよ!!絶対くるって!!だから待とっ!!
      ねっ!!ねっ!!(朋子のほうをむいて)お姉ちゃん!!
      ねぇ、朋子お姉ちゃんも応援してあげようよ!!
      睦美お姉ちゃんの恋が上手くいくようにいっしょに
      祈ってあげようよ。
朋子   そうね・・・がんばってお姉ちゃん!
睦美   ・・・うん、待つわ!!

(しばらく電話をじっとみつめる三人)
(電話鳴る ジリリーン ジリリーン)

ザザ子朋子  きたっ!!

(睦美ためらいつつ電話のところにきて受話器に手を伸ばす
しかし、受話器をとることができず二人のほうに視線を送る
大きくうなずく二人 決心したように受話器をとる睦美)

睦美   もしもし・・・えっ!!本当ですか!!分かりました!!

(受話器を置く睦美)

睦美   ノブナガがおなかいたで入院したって!!
ザザ子  うそ!!
朋子   なんでなんで!?
睦美   睦美の細胞がパラサイトに成功したからよ。
ザザ子  佐々倉さん、ごめんなさーい!!

(暗転)


第三幕 決断

ザザ子  ・・・こないね、電話。
睦美   ・・・・。
ザザ子  もう11時か・・・。ねっ、筑紫さんみよっか!?
朋子   ・・・見ないわよ。
ザザ子  ・・・。
睦美   ごめんなさいね。あなたたちまで暗くさせちゃって。
朋子   ううん。何いってんの。
      私たちのことなんか気にしなくてもいいのよ。
ザザ子  そうだよ。
      お姉ちゃんの電話が今一番大事なことなんだから。
朋子   どうせ、私達、もうふられちゃったし。
ザザ子  私もふられたの?
朋子   当然でしょ!!病院送りにしたんだから!!
睦美   私もやっぱりだめなのかなぁ。
朋子   ・・・あのさぁ、ちょっと聞いときたかったんだけど、
      お姉ちゃん、あの小さなチョコの中に手紙入れたんでしょ?
      ちゃんと読んでくれたのかしら。
睦美   どういうこと?
朋子   見つからないんじゃない?あの手紙。
睦美   そんなことないわよ!!おみくじクッキーと似たような
      ものじゃない!!
朋子   おみくじクッキーはね。分かるわ。なぜならおみくじが
      入ってるクッキーって名前だもの。きつねうどんといっしょ
      よ。きつねうどんにあげが入っていなかったら何?
      それは素うどんよ。
睦美   ・・・・!!!でも!!食べたら紙の食感が・・・。
朋子   それもないわね。さっきもいったけど、おみくじとつ
      いていて初めてクッキーの中におみくじが入っている
      と分かるものなのよ。私の実験では、おみくじクッキーを
      普通のクッキーといって渡した場合、10人に7人がおみくじ
      を胃の中に飲み込むわ。自分の未来がそこにあるとは知らずにね。
ザザ子  なんて説得力なの!?でも、実験にはまるで意味がないわ!!
朋子   ちなみにチョコチップクッキーといって渡した場合には、
      少し高くなって10人に8人。
睦美   ・・・じゃあ、じゃあ!!私の必死の思いは!!
      あの人の胃の中ってこと!?
朋子   そうね。あの大きさからすれば、もう少し早くて小腸ってとこね。
睦美   ああぁぁぁ(打ちひしがれる睦美)
ザザ子  職人さんがんばったのにねぇ。
朋子   何もあんなに小さなチョコにすることなかったのよ。
睦美   あぁ、私の思いが小腸に吸収されたなんて!!
ザザ子  (はっ!!何かを思い出すザザ子)ねぇ、朋子お姉ちゃん。
      睦美お姉ちゃんが好きな人ってもしかして寺内さん?
(睦美・びくっ!!)
朋子   さぁ、名前は聞いてなかったけど・・・。
睦美   ザザ子!!何で知ってるの!?
ザザ子  いや、別に・・・なんとなく・・・それとなく。
睦美   何か隠してるでしょ!?ザザ子!!
ザザ子  あ・・・その・・・今日、寺内さん、何かちっさい
      ものを落としたとかいって、探し回ってたから・・・
      もしかしたら、それがお姉ちゃんのチョコかな・・・って。
睦美   うそ!!
朋子   それでどうなったの。
ザザ子  一個は冷蔵庫の下で、一個は排水溝の中にはいってって、
      分かんなくなっちゃったらしいけど。
朋子   ドラゴンレーダーでもなけりゃだめね。
睦美   まだよ!!だって、あの人には4つもチョコ渡したんだもの!!
      そのために4つも渡したんだもの!!
朋子   後の二つは?
ザザ子  あと一個は、掃除のおばちゃんが3秒セーフ。
睦美   ババァ!!!
朋子   お姉ちゃん落ち着いて!!
睦美   三秒だからって!!落ちて3秒だからってあいつ
      が食べていいものじゃないのよ!!
朋子   お姉ちゃん落ち着いて!!
睦美   ・・・あぁ、せっかくのチョコも、私の思いも、
      ゴキブリとババァの餌になるなんてひどすぎる・・・。
      小腸どころか口にすら入らなかったなんて・・・。
朋子   大丈夫よ。おねえちゃん。まだ一つあるわ。その一つは
      きっと寺内さんの胃の中に入ったわよ。
      ザザ子!!そして最後の一個は!?
ザザ子  ここに。
睦美朋子  なんであんたがもってんのよ!!
ザザ子  だって・・・落ちてたから・・・。
朋子   落ちてたからあなたのものにしていいってことないでしょう!!
      しかも、寺内さんが探してるのを知ってたのに、
      なんでそんなことしたの!!
ザザ子  一個1500円のチョコってのを一度食べてみたかった
      んだもん!!うう・・・(ぐずるザザ子)
睦美   最後の希望までこのバカ妹のために失ってしまったのね・・・。
朋子   ほんとにもう!!・・・はっ、お姉ちゃん!!
睦美   何よ!!もうほっといてよ!!この恋に破れた
      ぼろきれのような女を笑うがいいわ!!
朋子   ちょっと早まらないで!!よく考えてみてよ!!
      お姉ちゃんのチョコは今一つここにあるのよ!!
睦美   ・・・?
朋子   つまり!!今からでもこれを寺内さんに渡すこと
      ができるってわけよ!!これでちゃんと食べてもらえれば
      結果オーライじゃない!!
ザザ子  さすがお姉ちゃん!!
      これで私が食べずに置いといたかいがあるってものね!!
朋子   都合のいい解釈ね。
ザザ子  結果オーライ!!
睦美   ・・・だめよ。
朋子ザザ子  え!?
睦美   時計を見なさい。もう11時半。
      今から彼を呼び出してチョコを渡そうにも時間がない。
      もう明日になってしまうの。2月15日になってしまうのよ!!
      15日になってしまえば私の勇気を後押ししてくれていた
      バレンタインという魔法はとけてしまう。
      私は愛をうちあげる勇気もない臆病な女に戻ってしまうのよ!!
ザザ子  そんな・・・。
(静まる三人)
朋子   そうかも知れない・・・。お姉ちゃんのいうとおりかも知れない。
ザザ子  お姉ちゃん?
朋子   バレンタインっていうのは魔法の一日なのよ。
      臆病な女が唯一心に秘めた相手に愛を告白できる特別な日なのよ。
      でもね、そんな魔法がかかっていても本当に臆病な女には
      意味がないの。私も今日、好きな人に遊ばれていたことが分かって
      本当にくやしかった。でも、私が本当にくやしいのはこのことじゃ
      ないの。本当にくやしいのは・・・本当にくやしかったのは、
      今日っていう日に「好き」っていえなかったことなの。
      私は逃げたのよ。告白してもしかしたらその場で断られるん
      じゃないかっていう恐怖から逃げたのよ。
      ・・・こんな臆病な女は初めからだめだったのね。
      私も・・・お姉ちゃんも・・・。
(睦美・朋子うなだれる)
ザザ子  ・・・違うよ。
(睦美・朋子ザザ子のほうをみる)
ザザ子  お姉ちゃん達、間違ってるよ!!
      バレンタインは特別な日じゃない!!魔法の日なんかじゃないよ!!
      バレンタインは何も臆病な女に告白させるための日じゃないの!!
      バレンタインは大好きな人のためにチョコを選んであげて、
      そして、それで愛する人が喜ぶ顔をみたい、喜ぶ顔をみて自分
      も幸せになりたい。そんな日なのよ!!
      それを「好き」っていえなかったなんていって、
      せっかくの楽しい日を台無しにしているのはお姉ちゃんたちよ!!
睦美朋子  ・・・・。
朋子   お姉ちゃん、自分でいったよね、臆病だったからだめだったんだって。
      気付いてんじゃない。そのとおりよ。お姉ちゃん達が相手のこと
      好きだっていう気持ちはチョコでしか表せない程度のものなの!?
      バレンタインの今日しか表せないものなの!?
      臆病な自分をバレンタインのせいにしないでよ!!
朋子   ・・・そうね・・・。
睦美   あたし達、バレンタイン、バレンタインっていって
      なんとか自分の臆病さから目をそむけようとしていただけだったのね。
      反省するわ・・・。
(ザザ子にやり)
ザザ子  じゃ、どうするの?
睦美   え?
ザザ子  今なら告白できるんじゃない?
睦美   え!?そんないきなり・・・。
      それにザザ子が別に今日が特別な日じゃないっていったんじゃない。
ザザ子  そうじゃないよ。
      今日お姉ちゃんが自分の臆病なことに気付いた。だから今日告白するの。
睦美   ・・・・わかったわ。でも、どうやってしよう?
ザザ子  電話でいいんじゃない?
睦美   電話・・・。
ザザ子  待ってるよりかけるほうがずっと楽しいよ。
(睦美 電話に近づく
心配そうに朋子ザザ子のほうに振り向く
二人大きくうなづく
睦美 意を決したようにダイヤルを押す)
睦美   もしもし、夜分遅く申し訳ありません。
      井ノ原ですが、寺内さんでしょうか?
      あの・・・どうしても伝えたいことがあって・・・
      いえ!!あのチョコのことなんかどうでもいいんです!!
      ・・・あの・・・
(二人のほうを助けを求めるように見る。二人大丈夫ジェスチャー)
睦美   あの・・・す・・・す・・・すいかはお好きですか?
(二人だめだめジェスチャー!!睦美泣きそう)
睦美   い、いえ!!バナナでもいいんです!!
      あ、あの・・・す・・・好きです!!
(二人狂喜乱舞!!はなちょうちん)
(睦美電話をきって帰ってくる。満面の笑顔!!)
ザザ子  やったね!!お姉ちゃん!!
朋子   かっこよかった!!お姉ちゃん!!
ザザ子  で、なんて?
睦美   ありがとうって!!ありがとうっていってくれたの!!
朋子   大成功じゃない!!
(三人大喜び と、そこに電話の鳴る音)
(朋子電話に出る)
朋子   はい、井ノ原ですけど・・・あ、竹本さん・・・
      いえ、なんとも思ってないですよ。
      ・・・別に竹本さんにいうことはなにも・・・・・
      えっ!?おばあさんが倒れた!?
      ・・・じゃあ、たかこ、さんてのは・・・おかあさまの名前!?
(見てた二人はここぞとばかりいけいけモード!!)
(うなずく朋子)
朋子   ・・・あ、じ、実は、本当は、
      今日、いいたいことがあったんです・・・あの・・・好き!!!!
(二人再び狂喜乱舞!!)
(朋子電話をきって帰ってくる)
睦美   やったわね!!朋子!!
ザザ子  やったね!!お姉ちゃん!!
朋子   あなたセリフがさっきといっしょよ。
ザザ子  ごめんなさい。
睦美   でもよかったわ。まさか私たち二人ともうまくいくなんて!
朋子   そうね!!勇気をだすってことがこんなに大事なことだったなんて。
睦美   そして、なんて楽しいこと、だったなんてね。
ザザ子  よかったね。お姉ちゃん達!!
睦美   ありがとう。ザザ子。あなたがいってくれなかったら、
      私たちずっと臆病だったに違いないわ。
ザザ子  ううん。楽しいバレンタインになってよかったね!!
睦美   ありがとう。
朋子   そうだ!!あなたも電話してみなさいよ!!佐々倉さんに!!
ザザ子  まさか!!入院したっていってるじゃない!!
朋子   それもそうか。
睦美   でも、私たち二人だけ幸せ絶頂っていうのも悪いわね。
ザザ子  いいのよ。私はいつでも好きっていえるから。
      退院したら告白しにいくわ。おわびもかねてね!
      ところでさ、二人ともうまくいったんだし、
      これからパーティしようよ!!パーティ!!
睦美   だめよ。もう夜も遅いし。
朋子   仕事もあるし。
ザザ子  意外と冷静なのね。
睦美   ま、あんたのためにコーヒーぐらいいれてあげるわ。
      今日はちょっと見直したわよ。ザザ子。
ザザ子  えへへへ。
(睦美きっちんに入っていく)
睦美   きゃー!!!
朋子   お姉ちゃん!!どうしたの!?
睦美   壁が・・・黒い壁に一面のありが・・・!!!
朋子   まさか・・・あなた・・・。
ザザ子  ・・・片付けるの、忘れてた。
睦美   すぐに片付けなさぁい!!!!
ザザ子  ごめんなさぁーい!!!

(幕)








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