かいたひと 柳家 松乃介
 
 
誰もが信じて疑わない、瓦礫の上での素晴らしい演奏会
 
 
 舞台は限り無く広く。
 音楽は壮大で、有りとあらゆるものが演奏される。
 素晴らしい演出で我々を何時も驚愕させる。
 それが必要だ、何時でも何処でもそれだけを考えていた。
 間違ってはいないが矛盾がある、証明してやろう、と。
 「もっと!もっと!・・遣っても遣っても足り無い程にっ!」
 有り触れた部屋、限り在る空白。
 「物に制約等無い、生き死にを越えた結末と・・。」
 他に何も居ない、誰に言う迄も無い言葉の散乱。
 「厭・・其れ以上・・何も仮もを超えた・・。」
 「誰もが信じ、疑えも使無い様な・・。」
 幼い容姿に似合わない口調、場所に合わない、無理矢理着て見せた正装。
 蝶ネクタイが捻れ、裾も皺になっている。
 左手には錆びて正確に計れもしない様な傾いた天秤、右手には丁寧にリボンを結ばれた指揮棒。
 「観客が居無いと始まら無い、出来るだけ能力の劣る存在だ。」
 「見上げるだけで・・其れ以上何も使無い物・・。」
 声を張り上げ出来るだけ目線を遠くにして。
 喋り終わると同時に時を知らせる為鐘が鳴る、それを見て鼻を鳴らした。
 「既う必要無い。」
 針を力を加え曲げて、時計を止めた。
 「そろそろ時間だ、おっと・・時間は既う無く成ったんだった・・。」
 台詞の後、引き付けるかに身を逸らし笑い出す。
 もう一つの時計が少し遅れて針を刻んでいたが、其れには気付かなかった。
 笑い声に掻き消されたから。
 「此処で良い、まあ、何処に行こうと変わらない、球状の世界に中心何て存在使無い・・尤も・・。」
 公園は他の人物も其処に歩いていた。
 其処で一番高い位置に在るジャングルジムに立つ。
 「既う演奏を始めて居るのか・・指揮者も無しに。」
 その声に通りすがりの者が振り向くが、直ぐに眼を逸らし又普段通りに歩き出す。
 子供が何をしている?ヒーローごっこ?外見と容貌から浮かぶ人々のイメージだ。
 「其うか・・練習中だったのか、本番を迎える迄の。」
 納得して口を歪め、喉の奥で笑う、手袋を閉め直して、ふう・・と息を軽く吐いた。
 「聞けっ!」
 振り向く者、聞こえない者、聞かない者、幾つもの人に届いただろうか。
 「計れる訳が無いだろう、天秤は錆びて使い物に成ら無い。」
 左手に持っていた天秤を精一杯掲げる。
 「左手なら尚更、何も乗せて居ないのに最初から傾いて居る。」
 目線は遠くを向いたまま、だが鼓動は早く、声も騒音に掻き消されそうだ。
 「新しい天秤に変える?其れも無駄だ、何時かは又錆びる・・。」
 掌を返して天秤を重力に任せる、天秤は元から脆かったのか結合部が外れ、形を変えた。
 皿が二つ、どちらか片方は皿が割れている、其れに眼も向けず右手の指揮棒に括られているリボンをゆっくり解く。
 「偉大で見た事も無い様な素晴らしい演奏会の始まりだ。」
 眼を閉じて指揮棒を揺らす。
 「ちゃんと君達のパートも用意して在る、簡単だから直ぐ覚えられる。」
 少しだけだが人垣が出来始めた。
 笑う声、離れる者、興味本位で近付く者、様々だ。
 「良い声で歌って呉れ・・。」
 一瞬だけ皆に眼を向けて、再び眼を閉じ、指揮棒を振る。
 何時しか握っていた指揮棒が光を帯び刃に変わる。
 「踊れとは言って無いぞ・・まあ、良い。」
 先程迄の人垣は散り、離れていく。
 彩る赤が混じり舞台は段々と華やかになる。
 演奏もスピードを増して。
 段々と・・終わりが近付いて・・。
 ・・。
 ・・。
 舞台は変わり白い壁の中。
 音楽は無し、何も音を鳴らせない。
 演出は・・何も為されていない、止まったまま、それが自然な姿と言う様に。
 「演奏は・・未だ、終わっては・・居ないっっ!!!」
 只、一人の声。
 「何故だ?何故!?皆が望んだ筈だろう!?違うと言うのか、嘘、嘘だろう!!!!!!!!!!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・其うか・・・・。」
 壁に近付いて額や手、もう何か判らないまま打ち付けて赤を彩る。
 白い壁に赤が映えた。
 「ふふっ・・きがつかなかったよ・・。」
 迷いが消え、辺りを囲っていた壁は消え、土が現れる。
 瓦礫の上、未だ誰も居ない、錆びた匂いを運ぶ風の中。
 良く見れば其処はあの日の公園、鉄パイプの瓦礫はジャングルジムにも見える。
 少し肌寒い・・青い寝間着が瞬きの間にあの日の正装に変わる。
 ネクタイは捻れて、同じ場所に皺が出来て、全てあの時のまま。
 「まっていてくれたのか、しきしゃがいないとはじまらないからな。」
 眼を向け、空間に留めて置くかにそっと声を出す、
 震えた、今迄とは違う何か見据えた感の在る小さな声。
 とても幼く、年相応と思わせる。
 顔も何処か力が抜けた様に熱の冷めた表情。
 風が吹き声に答える、瓦礫の欠片が少し崩れた。
 「えんしゅつもなかなかだ・・。」
 「すこしおくれてしまったが、はじめよう。」
 誰もが信じて疑わない、瓦礫の上での素晴らしい・・演奏会。
 楽器は泣く様な、弦楽器にも似た風の音と時折鳴る瓦礫の鍵盤の、演奏は確実に終わりへと近付いて行く。
 少年の夢の遠く、全ては無かった事になる迄、ずっと。
 
 
 
 あとがき
 
 総纏め作品二作目です。
 子供、夢、殺戮、音楽、絶対的な者を欲求、或いは自身へ欲求する、虚勢、疑問、失敗、世界の終わり、死。
 此等今迄のテーマが混じっています、何処と無く主人公の『少年』が誰かに似ている様な・・。
 こんな感じです。
 
 
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