かいたひと 柳家 松乃介
窓から差す朝焼け
別れ話に最適の喫茶店は、頼んでもいない珈琲と彼女の煙草の匂いがした。
其れは何故だか思い出した前に見た映画のワンシーン。
気怠い身体を起こし気の抜けたワインに口を付ける。
髪を結い、ふと窓に目を遣るとあの時の夜景が、
影法師みたいに浮かんで消えた、目の奥に灼き着いたままで。
出逢いは夏。
黒いシャツに袖を通し、帽子を目深に被り、下を向いてだらしなく猫背に歩く。
足が速まった、只でさえ焼ける程暑い。
気が付けば日陰を歩いていた。
冬生まれだからか、暑いのは昔から駄目だ。
実はそこから剰り覚えていない。
いつの間にか他愛ないやり取りになっていた。
自分の性格から親しい友人等居る筈も無く、人との会話は慣れてない。
仕事の自慢話や過去の話、学生時代の流行歌に習慣、
会話が尽きて恐る恐る顔を覗くと彼女は本当に可笑しそうに声を上げた。
自分の顔が怯えた様な、申し訳無さそうな顔が可笑しかったのだろう。
実際、そうなんだ・・僕の様な人物の話を聞くなんて彼女には勿体無いから。
はきはきと息の詰まる事が無いかに彼女は明るく、良く喋る人だ。
話題が豊富でどんな時でも笑顔で嫌味が無く、
時々吃驚する程大人びて見えたりと掴めなく、僕を虜にした。
そしてあの日、雪の日、好きだった列車、今年三度目になる旅行。
僕の中で楽しい思い出となり、彼女は僕と時を重ねていく、ずっと二人笑顔で。
でも何故か悲しい思い出。
あれから半年、逢えない電話と出張先の距離。
手を引く彼女を少し困り顔で追い駆けて行く。
泳ぎが得意な彼女を必死に息を吐き向こう側の島迄泳いで行く。
有り触れた部屋に一人、彼女がドアをノックするのを待ってる。
夢でせめて彼女に逢えたらと目を閉じる。
だって彼女が手を引くから。
先に着いた彼女が僕が来るのを見ているから。
趣味の良い、美味しそうなケーキを二つ持ってドアを叩くから。
肩を揺すり彼女が僕を起こすから。
朝焼けが近付いて、僕は彼女にワインを注ぐ。
今日は記念日、何の記念かは忘れたけど僕と彼女の思い出の日。
思い切って彼女に聞いてみようか。
眼鏡を外し、真面目な顔で見つめる、彼女の顔がぼやけて良く見えない。
目を擦り彼女に再び見る。
・・やっぱり君は何時も僕の表情を見て笑うんだ。
あとがき
今回は男性歌手が唄ってるっぽい歌の歌詞をイメージして作りましたです。
『映画のワンシーン』『有り触れた部屋』、
私の作品には良く出る言葉ですが、今回もありますです。
こんな感じです。