全文 柳家 松乃介
ACT P
マケイヌ
01
とどのつまり彼奴と俺はウマが合わないって言うか、好きじゃなかったって言うか。
とにかくそうなんだな、うん・・絶対そうだ、最後に奴に会った日は今でも忘れられない。
「貴方・・さ、やっぱり良い人ね。」
「何だよ急に、気味が悪いな・・。」
「いや、思ったまま言ってみただけよ、気にしないで・・続きしよ。」
「え・・ああ。」
あんな時に一体何が言いたかったんだろう、全然解らない。
俺が理解不足なのかそれとも奴がイッちゃっているのかも謎のままで全く音沙汰無し。
電話掛けても繋がらないし、俺自身考えない方が気が楽で日々をなあなあに過ごしている。
「慎也ちゃんさあ・・負けず嫌いなんだよね、悠ちゃんに惑わされっぱなしで・・それで・・。」
なんて感じで知った風に俺の部屋でくつろぐ此奴は菜緒、所謂腐れ縁の彼女だ。
中学校からずっと一緒でそのまま今でも遊んだり飯食ったりしてる菜緒と俺。
まるで兄弟の様に何でも一緒だった、そんな中で彼奴と出会ったんだ。
「だって彼奴どう考えても変だろ、大分前も其処の商店街の小道歩いてたら立ち止まって・・。」
「立ち止まって?」
「『一体この空間に何人の人が居たんだろう、慎也どう思う?』とか電波みたいな事言うんだぜ?怖いだろ、普通。」
怖いな、絶対、うん。
俺が横でぶんぶん頷いてる横で菜緒がじっと見詰めている。
「悠ちゃんってミステリアスなんだよ。」
そう言う問題じゃねえって。
「だからそれを通り越してるだって・・はあ、お前に言っても解らないか。」
「うん、だって私悠ちゃん好きだもん。」
又見当違いな事を・・独り相撲みたいで疲れたのでベッドに横になった、
もう寝ないでよー!と騒ぐ菜緒を放っておいて気が収まる迄菜緒を無視して遊んだ。
・・って言うか何で彼奴の事ばっかり此処最近話してんだろ。
最後に会った日から更に大分前の事。
「もし私が菜緒の事好きって言ったら・・慎也、私と友達止める?」
マンションの屋上、洗濯物を干していた時彼奴が家に来た。
事前に電話で知らせるだとか、そんな事は全然しない、
理由を尋ねると出来るだけ未来に予約はしたくないだとか言っていた。
まあ、どうでも良いけど、俺も暇だし洗濯を手伝わせた。
「何お前、ソッチ系なの?確かに女でも可愛いと思うタイプかも知れねえけどな。」
「例え話よ、でどうなの?」
いつもそうだ、変な宗教か映画みたいな例え話が好きな奴だ、
勝手にするのは構わないが微妙に答え辛い事ばっかりで好い加減に答える事にした。
「別に・・お幸せにって花束贈ってやるよ。」
「本当に嫉妬しない?」
顔を真近くに近付けて念を押して来る、思わず後退ってもう一度頷く。
「ふーん、じゃあ私の物にしても良いの?菜緒を。」
「はあ?・・まあ本人が嫌じゃないなら構わないんじゃないか、俺の物でも無いし。」
「そうかな、私が思うに私と慎也が両端に立ってて、
彼女がどっちに行くかとするとやや慎也よりの方に行くじゃない?」
「じゃない?って何だよ、やや慎也よりって中途半端な表現だな・・。」
いちいち突っ込むのも何となく言い分が解るのも嫌な感じだな、こう考えると此奴と知り合って結構長いんだな。
「だから慎也が俺の物になれって言えば手に入る訳よ、私より可能性として。」
言うだけ言ってぱっと俺から離れて今度は物憂げに空を眺めていた、セミロングの髪が軽く揺れて・・。
話はさっぱりだったが解ったのは結構此奴は美人だって事だった。
「その前に菜緒は物じゃないだろう、もし俺やお前がそう言っても普通嫌がるぞ。」
「・・そうね、物じゃないなら普通はね、でも本気で慎也の事が好きなら頷くかもよ。」
「好きならな・・。」
レズ告白なのか彼奴の脳内会議の締めに俺を使ったのかは謎だ。
それ以降はこっちが話し掛けても普通の返答だった、考え事をしてるんだろう、何故かそう思った。
「菜緒、じゃあお前俺の物になれ。」
それを思い出してある日、奴の言う事を確かめようとした。
いつも通りの俺の部屋で、ライトノベルを読んで俺のベッドに寝転ぶ菜緒に徐に言ってみる。
「え・・それって・・。」
「なれ、なるんだ、さっさと答えろ。」
俺が強く言うと、顎に指先を当ててうーんと唸り出した、何の冗談?とか考えてるに違いない。
「何の冗談?・・じゃあってどう言う意味?」
「なれ、俺の物になれ。」
オウム返しだ、必要以上の事は言わない、
彼奴に言われた事で本当にどうなるかの実験だと言えば意味が無いからな。
「えー、えー・・うん・・解ったよぉ。」
菜緒は俺の物になった。
呆気無い迄に簡単だった、奴の言う事は当たってしまった。
・・と言うか俺も解ってたけど、此奴流され易いからな。
端から見れば仲の良い恋人なのかも知れないが持ち主と物の関係だ、
彼奴に言われなければ今の俺達の関係は無かったのかも知れない・・。
夢を見た、又彼奴の夢だ。
真っ暗で何も見えない俺の部屋、でも何故か此処が俺の部屋だと解るのは夢だからか。
そしてぼんやりと奴の身体が浮かんで来る、間抜けにも俺は口をぽかんと開けて見上げている。
「言った通りでしょう、菜緒は貴方の物になった。」
「ふん、言われなくても解ってる、彼奴俺の事昔から好きだったからな。」
「・・ええ、羨ましいわね。」
黒い空間に輪郭、悠がふわふわと揺れる、立っていると言うよりかは浮かんでいるみたいで、
とても夢チックで幻想的だ、俺も奴と同じで浮いているのか視点が固定されずに揺れていた。
「お前には居ないのかよ・・彼氏とか。」
「生まれてから一秒も出来た事が無いの、私はそう言うものが手に入らない人間なのよ。」
又いつもの癖だ、妙な喋りだ、此奴は何処に居たって変わりはしない。
「何だよそれ、お前が欲しがらないだけだろ、寒い事言うな。」
「あははっ・・そうね、確かに寒いわね。」
受けてしまった、俺も空笑いしたが自分の言った事が可笑しい事とは思わなかった。
「じゃあ、誰かに暖めて貰わないと要けない・・。」
何で夢ってのはこうも中途半端に終わるのだろうか、菜緒を取り敢えず起きて直ぐ殴っていた。
「何の夢だったの?」
しこたま殴られて反省した菜緒はもう半べそだ、本人には悪気が無いのがより腹立ってやり過ぎたな。
最初は『お腹空いたからなの?』等と如何にも天然ですと言わんばかりのボケをしてくれた。
まあ大分絞ったので落ち着いた、夢の続きが気になるが今となるとそう執着してもな・・。
「彼奴だよ、あの女。」
此処で『あの女さんって人?』って聞き返したら半殺しだ。
「悠ちゃんの事だよね、エッチな夢だったんでしょう?」
ふざけてるのかちょっと怒り顔を作ってその後笑う、
無感動に見ていたらもう一度だけ殴ろうかと思えて来る。
「はあ、だったらどれだけ良いか・・彼奴は夢の中でも訳の解らない事を・・。」
「ほーらやっぱり、慎也ちゃんも悠ちゃんの事好きなんだ。」
確信でもある様な言い方、腐れ縁だからって何でも知ったかぶられても困る。
「違う・・あの時・・いや、何でも・・。」
「???」
あの時、彼奴が元気が無くて会った最後の日、何故か見てられなかっただけ。
俺って結構ロマンチストなんだ、と思った夜だった。
そして無言になった俺達二人に電話があった。
「慎也くん?悠の母だけど、あの子・・見てない?」
悠のおばさんとは何度か話位した事はある、だが掛かって来たのは初めて。
そして結構問題ありな感じだとは解った。
「ちょっとね、こっちでも色々あってね、悠もその事で落ち込んでたんだけど・・。」
「いえ、見てませんね・・俺も見たら捕まえておくんで・・はい、ええ・・それじゃ。」
誰だった?なんて一々答えてられなかった、菜緒を置いて俺は家を出た。
「ははは・・馬鹿じゃねーの、何処捜しても見付かる訳ねーじゃねえか・・。」
夕方の大通りの真ん中、此処も何度も来てた。
近所とか俺達が良く行く場所、色々回ったが彼奴は居なかった。
「考えてみたら彼奴と何処か行く様な事、あんまり無かったからなー・・
彼奴が普段何してるとか全然知らねーし・・それに俺昔っから捜し物は苦手だし。」
周囲の奴等は何一人でぶつぶつ言ってんだろ、暑さでやられたか?
でも俺にはどうでも良かった、自棄で叫ぶのも飽きて肩を落として帰ろうとした。
pipipipipi……
携帯電話が鳴って立ち止まった、さっきから俺を見てた奴の視線が好い加減ウザったいが気にせず取る。
「慎也、私・・解る?」
どっちの所為なのか音が悪かった、向こうは公衆電話らしい、
そんな事はどうでも良いが相手が解らない筈が無い・・今捜している奴の事を。
「解ってるに決まってるだろ、何処に居るんだよ。」
「じゃあ・・私の名前を言ってみてよ。」
人の話を聞いてないみたいだ、此方が喋ってるのに割り込んで・・。
「悠だろ。」
「ふふふ・・正解、じゃあ今度は私の事好き?」
電話越しの声は淡々としている感じと楽しそうな感じと両方だった。
俺には正直なのを考えているのか1%も解らない。
「何言い出すんだよ、嫌いなダチをわざわざ捜す訳ないだろ。」
「・・まあ良いわ、私ならそう遠くない処に居る・・私に逢いたい?」
「おいおい、お前アレか?俺に会いたいと言わせたいのかよ?」
二問目で気付いたぞ、此奴からかってんな。
全く人が心配したら本人結構けろっとしてるのはちょっと頭に来るぞ。
ぷつっ。
「おい・・。」
切れた、と言うか切りやがったのか?いや、公衆電話だしなあ。
まあ良い、俺の答えは決まってる。
遠くないんだろ?だったら捜してやるよ、寂しがり屋の彼奴を。