全文 柳家 松乃介
02
駅に来ていた、そう遠くないって言い方が引っ掛かった。
じゃあ近くも無いんだと思った、安直過ぎるがまあ良いか、半ば自棄だし。
五反田、高輪台、泉岳寺、三田、大門・・さあ、何処行きに乗ろうか。
北行きだろうな、単純に確率高いからな・・手持ちの金はかなり少ないので一番ギリギリの切符を買った。
「馬鹿だ、やっぱ馬鹿だ俺。」
駅を下りて町を歩きながら、はっきり言って見付けられないだろう、
此処に居るとも限らないし・・段々馬鹿らしくなって来た、それに金が無いから帰り歩きじゃん。
揚々としたオジサンが買って行ってよ、瀬戸物市らしいが・・。
町は楽しそう、夕方で投げ売り目当てなのか人が多いのとあの女の所為でぐちゃぐちゃだ。
お祭り好きないつもの俺、店を茶化して金は全部菜緒持ちで遊ぶわ飲むわ・・。
「くそ、菜緒呼ぼうかな・・あ・・・・・・え!あ・・おい!」
その瀬戸物市の中、人混み、何処かのおばさんの足の間、
流れる髪を耳で留め手を遣り少しはにかんでいて、
町の騒々しさも忘れている様に見えた、あの雰囲気・・。
「ふふ・・良く解ったわね、瀬戸物市と呼んで此処に来たの?」
「いいや、偶々持ってる金で乗れる電車が此処迄だったんだよ。」
やっと実感沸いて来た、本当に凄過ぎるよおい。
出来るものだな・・ま、二度と無さそうな偶然だけど。
「凄い偶然ね・・。」
「それより、何でガキじゃあるまいし家出なんだよ。」
感動の再会はどうでも良い、俺に面倒掛けやがって理由を説明しろ。
「そうね・・此処で話しても芸が無いから、場所を移しましょう。」
・・つーか何処だ此処。
変な屋敷に連れて来られた、獅子威しとかある凄い奴。
当たり前の様に入って馬鹿でかい座敷に通された、
テーブルとかも高そうでつやつや、Yシャツの俺が浮きまくってる、そしてがらーんとしていた。
「座って。」
「はいはい・・。」
此処お前んちかよ、って聞こうとしたが思い止まった、そんな訳無い。
友達の家・・でも無さそうだ、流石に失礼にも程がある。
「私、此処に住む事にしたの・・只広過ぎるのよ。」
「は?」
冗談好きで謎々な此奴の新種の・・とは思えなかった、この部屋を見て、そして此奴を見ると。
「一緒に住まない?それが御爺様の約束なの。」
「おい・・勝手に話を勧めるな、誰だよ御爺様って。」
何だか此奴は酔ってるのか訳解らない事ばかり先々喋ってる。
テンションヤバイんじゃねえの、しかも何か電波っぽい雰囲気出てるし、御爺様とか。
「家出の理由は御爺様よ、私は御爺様の処にお世話になる事にしたの、
条件は・・信頼出来る人と一緒に暮らす事・・つまりは貴方・・よ・・。」
「でさっきは皿か茶碗でも探してたのか、未だ此処には食器が無いのか?」
自分でも解ってた、さっきのは聞かない事にしてる、わざと・・。
此奴がますます遠くて嫌な話になりそうだから。
「・・慎也。」
怒った、親の声色で何が言いたいか解る子供みたいな感じ、
俺は咄嗟に顔を見ない様にした、手元に煙草とか間が保つものが欲しい。
「何だよ。」
答えてしまった、黙ってるともっとまずくなりそうな気がした、それと喉が渇いた。
「菜緒の事を気にしているの、それとも只単に私の事嫌なの?
貴方電話で言ったじゃない・・しかも居るかどうかも解らないのに此処迄来た。」
今度こそ黙る番だと思う、何も言えない、ましてや今日昼寝してて夢を見たなんて言ったら不味い気がする。
「私は菜緒が居ても構わないわよ、私も彼女信頼出来るし・・食べる物も何も困らない、だから。」
「お前何言ってるんだよ、学校は、俺はオカンにどう説明するんだよ、
お前の親放って置いて良いのかよ、ガキじゃねえんだ・・現実的に考えろよ!」
最後はこうやって後悔する番だ、更に此奴が促す様に落ち込んだ顔。
こんな表情を垣間見たのは二度目だ、一度目はあの日、さっぱりの意味だった台詞を吐いた日。
『貴方・・さ、やっぱり良い人ね。』
この台詞はそう言う意味だったのだろうか、俺はいつもの変な妄想なんだと思ってたのに。
「現実的?これは夢じゃないし充分現実よ、夢の様な現実・・
学校でも家に帰っても皆、私は可笑しいとか夢見がちだとかそんな事ばかり、
何が要けないのよ、夢の様な楽しい生活を夢見て・・現実なんてどうだって良いじゃない?
慎也に菜緒、貴方達は私を理解してくれる本当の親友だと思ってたのに・・当てが外れたかな・・?」
顔を覆った、テーブルに肘付いた、鼻を啜っていた、
こんな表情を垣間見たのは初めてだ・・いつも俺の前では自信たっぷりに謎々な奴だった。
生活感は無いし、オバサンともびっくりする程似てない、何考えてるか解らない。
ちょっとだけ見えた此奴は、只ちょっと夢見がちな女だった。
誰か嘘だと言ってくれとも思う、不意に後ろに影と物音で振り返った。
「菜緒・・!」
「慎也ちゃんが出た後ね、電話が掛かって来たの・・それで此処に。」
菜緒がぽつんと立って、ゆっくり俺の横に座った、勝手に入って来たのか隠れてたのかは解らない。
「でお前は此処に住むのか?」
「ううん、慎也ちゃんに任せるって言ったの、私は慎也ちゃんの物だから・・ね。」
冗談の様な本気の様な、何とも中途半端なコメントだった。
菜緒も言いはしないがこの状況なら幾ら押しに弱いとは言え首を振っているかも知れない。
二人共俺を試したんだ結局、だからわざと俺に捜させて・・そして菜緒は黙ってた。
「もう良いだろう、どっちにしろ俺は誰のものか解らない家に住めなんて無理だ、帰るぞ。」
彼奴の顔は見れなかった、無言だったので未だ泣き伏せていたのかそれとも俺を睨んでいたのか。
どっちでも似た様なものだと思った。
一日経って、朝彼奴が夢に出て来なかった。
前は嬉しい分でもこんな事考えもしない、俺はやっぱり彼奴が好きだったんだ。
「何考えてるか解らないし、妄想爆発の女が・・。」
今になって解るのはそんな謎々な処が好きだったんじゃないかとも思う、横の菜緒と比べて特に。
夢の様な生活が出来る、彼奴は言った、俺は彼奴の期待には添えなかった。
現実に不満も無いし、彼奴の言う夢の様な生活の方が不安だ、だが彼奴はそれを選んだ。
御爺様がどうとか言うのは結局聞けず終い、パトロンか好事家の足長おじさんだろうか。
少しだけ彼奴の事が解ったのに距離は離れてしまった、そして又同時に謎が増えた。
「慎也ちゃんは・・何で悠ちゃんを振っちゃったの?」
いつの間にか起きてた菜緒が半身を起こしてカーテンがゆらゆらするのを寝ぼけ目で見てる俺を覗き込んでいた。
「なんで・・って、俺には彼奴の考えが解らないからさ。」
マジになって答えてるって・・俺も堪えてるな、笑えない洒落も出るし。
「好きなんでしょう、慎也ちゃん、解ろうとすれば良いじゃない。」
「そうだよな、好きなのにな・・彼奴のあんなトコも。」
やっとだ、此処に達したのはやっとだった。
俺は全部解ってたのに一歩足りなかった、菜緒の後押しを待っていた俺は案外せこい奴なんだと思った。
だけど考えは固まった、ご褒美位やろう。
「ほら、頭でも撫でてやろう、どうだ嬉しいだろう。」
「え・・い、良いよ・・それよりも悠ちゃんに逢いに行ったら?きっと喜ぶから。」
「だな、じゃあ・・お前は後で来い、きっちり話を付けに行ってやる。」
我ながら菜緒なんかに頼ってたんだな・・とちょっと思った、でも良いや、吹っ切れたし。
今度は勘じゃなくてきっちり財布に金を入れてあの町へと向かった。
この気持ちは・・あの日からなんだろう。
理由は解らないが落ち込んでた彼奴。
虐められたのか親に晩飯抜きにされたかどっちだと訊ねた。
今思うと軽率だったが励ました事になったらしい、気が緩んだのか涙を見せた。
思わず俺の手が伸びて髪に触れて・・抱き締めてしまった。
いつから俺はフェミニストになったんだ、あとメロドラマも裸足で逃げるとか。
「やれやれ・・。」
調子は戻した、後は彼奴が拗ねてないか次第だな。
電車の中では暇はしなかった、どう彼奴を口説こうかばっかりで、
何故か空いているのにシルバーシートに座っていた、意味なんて少しも案山子も無いけどな。
隣には俺の独り言を聞いて不可思議な顔をしていた爺さんとオバさんが居た。
ずっとこっちを見てたが無視、俺の頭は彼奴一色なので、別に・・もっと見たって良いぜ?
「・・悠くんを、宜しくお願いしますね・・貴方なら彼女を幸せに出来そうだ。」
「んー・・何か言ってたか?あの爺さん・・ま、良いや。」
あの時、隣の爺さんが席を立つ際にそう呟いていたのは・・ずっと後で気付いた事。
「慎也・・どうしたのよ、朝早くに。」
「ちょっとな・・入れてくれよ。」
いつも通りと迄は行かないけど普通の会話で屋敷を通された。
見れば見る程でかい・・中心地よりちょっと遠いが何億するんだよって屋敷。
昨日は直ぐ入ったが今日はぐるぐる回って眺めてみた、台詞考えの時間稼ぎだが何も浮かばない。
ますます御爺様が気になるぞ、これも聞けたら聞こう。
「はい。」
和式の家で紅茶なのは此奴らしかった。
こう暑いのにホットなんか飲む気はしない、やっぱり怒ってるんじゃないのか?
「あのな・・考えたんだよ、色々と。」
ちょっと飲む振りでカップを置いてそれらしくしてみた。
「・・・・・・。」
黙ってるよ、俺も考え中だから場が繋げないじゃないか。
暫く考えても何も必勝法が出ない。
・・考えはもう止め、思ってる事言いまくろう。
「俺は此処に住みたい訳じゃないが、お前がそれで喜ぶなら居ても良い。」
何だ、この無理矢理和訳した英文みたいなのは、でも伝わったのかちょっとだけ顔付きが変わった。
「・・本当に?」
なんてしおらしく聞き返して来る、もう一度頷いた。
「慎也は嫌なんでしょう、信念を曲げるつもりなの?」
「いいや、嫌じゃなくて面倒・・でもこの位の我が侭なら聞いてやらん事も無い。」
「ふーん・・慎也私の事好きなんだ。」
「だから言ってるじゃないか、偶然でも此処迄見付けに来ただろ?」
「運命かもね。」
又始まった・・だが少しほっとした。
やっぱり、こんな滅茶苦茶でどうしようも無くイッちゃってる此奴が好きだ。
俺も阿呆だな・・こんなのの為に馬鹿でかくて住みにくい処に住んで、毎日顔突き合わせて・・。
そしてもう一つ・・頷いたら今迄に帰れそうに無い・・この屋敷と・・此奴の夢の中に・・。
「慎也ちゃんー!悠ちゃんー!」
ドアを叩く音と聞き慣れた声が聞こえる、結構早めに来たな・・。
「はいはい・・今行くわよ。」
うざったそうな言い方にも自然と笑みが零れる、俺も似た様な顔なんだろう、こっちを見て笑ってる。
屋敷がどうこうより、只悠と一緒に暮らせる、そう考えると良い処ばっかりかも知れない。
結局俺は此奴に振り回されて現実なんて忘れてしまう事になったけど不思議と楽しくて仕様が無い。
他の誰も知らない、三人だけの変な空間、俺達はずっとそれを繰り返して・・笑って。
三人でベタベタして遊んで、寝たくなったら寝る、
悠が言う夢も悪くない・・それを心底願った彼女と一人の気紛れのお陰で。
真っ白なシーツの上、眩い明るさを持つ光の中、屋敷の天井は遙か遠くて、あるのか無いのだか解らない位。
俺達三人が寝転んでいつも菜緒が真ん中、
背の高い俺と悠の間に挟まってまるで二人の子供の様で・・。
「悠ちゃん、私と慎也ちゃん・・どっちが好き?」
「人と物じゃ比べられないよな、悠。」
「ふふふ・・そうね・・。」
「あー、酷いなあ。」
ところであの商店街の小道には・・あれから何人の人が通ったのだろう。
次へは……ありません。
後書き
久しぶりに書いた『ちょっとながいすとーりー』。
本当にちょっと長い感じに仕上げよう(つまり中編)と制作しました。
恋愛もので私にしては割と普通で・・。
主人公でありながら他の人物に影響される感じを目指したんです、
独特の一人称と冗談ばかりの文・・結構書き易かったので又書こうかな・・。
取り敢えずなかなか試験的でしたが上手く行きました、何事も挑戦とはよく言ったものです。
あと実は相互リンクHP『
副題』様のお誘いで書いた文章でもあります、
キーワードが入ってるだけであまり関係無い話になりましたが・・許して下さいです。
でわ、この辺で・・。