全文章 柳家 松乃介
ACT S
Smith Avenue
きっとこの世界の何処かにそう、
此処と同じ場所が在り自分と全く同じ行動を繰り返している人物が居るだろう。
ルックのジェニーはある日マスとマスの間のその微妙な境界線を十字に行き来していた。
もう一人のルックのジェニーもそれを無意識に繰り返していたのに気付く。
先ずは軽く手を挙げて本当に自分が自分であるかを確かめる。
趣味や生年月日ホクロの位置に至る迄互いに探り合い在る処で二人は手を止め笑い出した。
でもその二人共に疑問が残る、自分達は二人居ても一つだけの物がある。
キングとクイーンだ、
互いに相談し合うが話が噛み合わず遠慮したり同時に声が出たりと意味が無い。
そこで本を閉じて終わる。
自分の大好きな本、
デビット=ウェイリーの『鏡台舞踊』を読んでいたレイは酷く疲れた顔で目を伏せた。
チェスに例えた人間の価値が垣間見える文章を巡らせ乍ら。
人と話すのが苦手だが礼儀を重んじ紳士的に振る舞おうと努力する彼は繊細で、
とても夢の中ではその本人とは思えない様な言動や行動を取る・・その日見た夢もそうだった。
見た事も無い屋敷で当然の様に下から二番目の引き出しに終われた口紅を取り銃を握る。
そして赤いカーペットを抱いて啜り泣く男達をヒールの先で踏み付け喉が枯れる迄叫び続けていた。
彼の肩を優しく揺する暖かい手が悪夢からの出口になった。
レイの執事がにこやかに笑う、爺や・・見慣れた自室と執事の笑顔に安堵の声を漏らす。
・・この先は書かれていない、
気紛れな作家ユリウス氏は色々と続編を執筆するのだが、
飽きっぽく連載中の作品そっちのけで又新しい作品に筆を取り乍ら、
今頃お気に入りのパイプを吹かし云々と思索を巡らせているだろう・・。
それは確か昨日古本屋で立ち読みした本、題名は・・思い出せない。
いや、そんな事より・・スミスが見付からない。
屋根の無い喫茶店、あそこならヘビースモーカーのスミスも大丈夫だし。
ハニービーズとベアーズの試合が在る球場、三万人の観客の中にも居ない。
美人局員の居る図書館も、拘りの骨董品屋もお手軽なショッピングモールも。
何処にも居ない、まるで集団で隠れているかの様に。
きっとあの山を越えたところで皆が集まり何かしているのかも知れない。
スモーカーのスミス、野球好きなスミス、
女好きのスミス、博識のスミス、お目が高いスミス、その他スミス大勢だけが歩く通りがあって。
彼等が一体何をしているのかは詳しくは知らない。
スミス主義を掲げてゲリラを起こすかも知れないし、
スミス国を作りスミスを中心とした生活をひっそりと送るかも知れない。
娯楽かも知れない、スミスランド・・世界中のスミスを集め展示しているのかも知れない。
彼等が何をしても自分達は狼狽する、もはやスミス無しでは何をするのも難しい。
そう考えているのは自分だけではない様だ、街はどよめきに溢れ出す。
解らず終いの此の騒動も自然と収まった、やっと安らかに眠る日々が帰って来た。
・・肩を優しく揺する暖かい手が悪夢からの出口になった。
執事がにこやかに笑う、爺や・・見慣れた自室と執事の笑顔に安堵の声を漏らす。
悪夢・・どんな夢だったか・・思い出せない。
いや、そんな事より・・ジャクソンが見付からない。
後書き
先ず最初に・・別にスミスには意味は在りません、
全世界のスミスさん、ジャクソンさん、勝手に名前を出して申し訳在りません。
今回はスミスと言う世界で一番多い名字を只名字じゃなく一つのタイプとして捕らえた作品です。
つまり黒人と白人みたいにスミスとジャクソンの民族だったら・・と言うもしもの話です。
(
気紛れな作家、のあたり)書いた本を立ち読みしていてスミスが居なくなって、
どうでも良いですが、文中のハニービーズとベアーズの試合は間違いなくベアーズが勝つでしょう。
では、この辺で・・。