全文 柳家 松乃介
 
 
 ぐるぐる掻き混ぜられた、好きなだけ召し上がれ。
 
 
 
 03
 
 三番街の気温が予定通り下げられた日、皆が冬服をそろそろ着込むのにも一人だけ倣わない、理由、忘れてたから。
 暑くても普通裸では歩かないのに更に寒くなってもだ・・外に出た時に漸く異変に気付く。
 「あうー・・寒いーーー!!」
 叫ぶ彼が周囲に誘う笑い、腹が立ってもう一度叫んでもやっぱり寒さと笑いは止まらなかった。
 今日は休日、カーラにとっても他の者にとってもそれなりにくつろげる日である。
 
 昼間飯時の少し前、決まって栄える場所、クロワッサンの地下のゴミ溜めの様なバー、
 平日のこの時間は店主のベンが暇そうに欠伸を垂れている、
 今日は仲間達が集まり酒と下らない話題で盛り上がる格好の場になる、金儲け出来る日に。
 がたがた震えながら階段を下りて、顔を出すとおー、皆が驚く。
 「カーラ、馬鹿だな・・寒かっただろう?」
 長髪とお洒落なバンダナにスマイルとジョークが売りのヨースが早速彼に挨拶、お決まりで中指立てる合図。
 震えながら脇を固めても真似てカーラも、元々彼がカーラに教えた、当然意味は知らないけど何と無くカーラは気に入ったサイン。
 「ほらあたしの勝ちね、50ピオル出して。」
 「ちぇ・・流石にそんな馬鹿しないと踏んでたのにー。」
 ビリアード台に座りテーブル越しに金を投げて盛り上がったのはキサラとミワだ、
 気温が変わる今日カーラがいつも通り裸で来るか、裸に賭けたキサラの勝利、ミワが負けて悔しがっている。
 「ねえねえカーラ、君どーして服着ないのよっ!負けたじゃないのよー。」
 舌の回らない発音と無意味なハイテンションだがミワは面子で一番頭が良い。
 芸術家で数学者見習い、唯一優良種的な職を持っているが・・
 その知能に引かれた様に性格は滅茶苦茶で・・カーラと似た面もあるが違うのはミワの方は意図的に崩している。
 何故そうするのかと聞くと純粋に楽しく居たいからだと笑う彼女、天才の考えは理解出来ないものだった。
 「だってさー忘れてたんだよ、昨日は寒くも無かったのに今日いきなり寒いなんて可笑しいぞー。」
 「・・確かにな、地球や首都コロニーなら毎日気温が変わるからな・・気付かない事は少ない。」
 カウンターで静かにしていたのはガリル、カーラが来る前に来てもう三杯は飲んでいる、仕事の都合で暫くは此処に居るらしい。
 面子では少し浮いて見える彼も若い頃は悪さをしたもので未だ抜けきれない何かが彼とカーラ達を繋げているのかも知れない。
 「おっさん地球行った事あるか?行きたいよなー映画みたいだもんなー、そう言やフィーも地球から来たんだってさ。」
 コロニーの外の世界、それもコロニーじゃない星、カーラの大好きな映画に良く出る舞台・・地球。
 そのまま夢を膨らませて好きな映画を頭中で並べて浸ろうとする彼に全員の声が。
 「フィー{って誰(なんだよ)}?」
 ぴったりと揃う様で一人一人ちょっと違うのが彼等らしかった、声の直線に押されて驚き皆を見るカーラ。
 「んーと、ああ皆知らなかったんだ、
  フィーはオレが映画の題名思い出してた時に通り掛かって顔見たら思い出したんだ、背が小さくて煙草が嫌いだって。」
 その場に居る全員さっぱり解らない説明で更に映画を見たら怒っただとか賭博場に行ってもやっぱり怒っただとかと淡々と話し始める。
 取り敢えずにキサラが咳払いで気を引き彼の口を止める、素直に首を彼女の方へ。
 「題名って何の映画?」
 「運命の恋人、フィーはアレ好きらしいぜ、オレはやっぱりアクションとか女が出るのが好きだけどなあ、変な趣味してるよな。」
 至って普通の趣味だ、ベンが呟いた、誰でも知ってる有名どころで当時は名作と言われている程。
 只三番街の人間には恋愛ベタなのと臭いセリフが鼻についてあまり好かれていない、フィーがかなりの正当派だと言うのが解る。
 「運命の恋人ねえ・・そのフィーって奴を見たら急に思い出せたと・・お前惚れてるんじゃねーの其奴に。」
 「ほれてる?」
 どちらかと言うと彼は惚けた顔で居た、オウム返しされたヨースは溜息混じりに次を。
 其処でヨースの前にキサラが舞い込んだ、自分が言おうとして邪魔をする。
 「あんた彼奴と居ると凄く楽しかったり急にヤリたくなったりするでしょう?何か話してる時の顔、楽しそうじゃん。」
 「顔?」
 次は横からの茶々、やれやれとカウンタ席から立ち上がって煙草を吹かせ指を差して、
 無言での仕草に渋い顔、全員真似て何処か渋い表情に・・カーラもにやりと笑うが間抜けで渋さは一つも見当たらない。
 「俺が当ててやろう、きっと此処に居る奴等には無いものを持った女だろう・・
  ガードが堅くて弱々しいが可愛らしい、後世間知らず、地球の女は大体そんなのだ。」
 「堅い?可愛らしい?世間知らず?んーどーだろーなー。」
 まあ一番の世間知らずはお前だろうな、ガリルは肩を叩く。
 腐きりったスラムで必死に生き抜かない適当でそれでも苦労知らずの彼、全員首を傾げたくなる。
 「ガリルったら地球の女に何かされたの?偉く叩き口調じゃーん。」
 「五月蠅い。」
 この中で三番街から外へと出た事があるガリルとミワの二人、他の面子は想像しか出来ないが何と無く解る。
 事実肝心のカーラが疑問符でも当たっている、古物屋の眼は流石に鋭い。
 「今度此処に呼べよ、地球の奴なら金持ってそうだ。」
 ベンにとっては性格も惚れた晴れたも二の次、お客と常連を歓迎する次第だった。
 「うーーーーん・・・・・・じゃあオレの運命の恋人はフィーかなあ・・?」
 何かが引っ掛かって悩みから出なかった、口にしても湧かないが何故か運命の恋人と言う単語が離れない。
 怒りっぽくて、煙草が嫌いで彼女の前で吸えない、映画も趣味が合わない。
 あと、偶に照れる時ドキッとする・・それだけ。
 「漸く落ち着きが出るんじゃないのか?良い事だよカーラ。」
 皆カーラの前に立って当初の居場所から遠ざかってしまったヨースがずずいっと前へ。
 落ち着き?又疑問を増やされ考えに考え・・悩む、解らない・・そして最後。
 「あああーーーーーもうっ・・ぱーんち!」
 軽めのブローが腹にめり込んだ、軽めだが的確で適度に重い、急に遣られてぐっと押された。
 「く・・て、てめえ何すんだよ畜生!」
 「わーヨースが怒ったぞー・・逃げろぉ〜。」
 「こら待て!てめえ絶対犯すぞカーラー!!」
 ビリヤード台に上って走り回る、狭い店内を・・台を挟んで輪を作り追い駆けっこ。
 走るなー!ベンが言うのも聞かず止まらず、ミワやガリルを時折盾にして逃げる、
 キサラはバタバタと怒鳴り走り回るのを煙たがってさっさとカウンタに非難して傍観していた。
 「・・カーラはその子と引っ付くと思う?賭けようよ。」
 彼女はベンに小声で言う、賭け事好きのキサラの良くある提案、負け続けの彼だが直ぐに乗った。
 「良いぜ、じゃあ俺は引っ付く方な、1200ピオル。」
 「10000ピオル・・あたしが引っ付く方よ。」
 この場合の10000ピオルは別に意味は無い、100000だって良い位の勢いで。
 「止めた、引っ付くに決まってる。」
 「そう・・ね。」
 時間は過ぎる、思い思いに朝迄ずっと話して飲んで・・教会の一つも無いスラム三番街の休日での過ごし方。
 
 約束、平日“偶然”暇なフィーは渋々仕方無い表情で承諾した、公園の一番大きな木の下で時間を気にして。
 「・・遅い。」
 公園は滑り台もブランコも何も無い、小汚いテーブルと椅子が数席、あとベンチが四方に四つ、子供も居なく只の空き地に等しい。
 三番街に子供は少ないので無意味だが大人にとっては便利な場所でもある、ゴミ溜めの町中で此処は一応は広々とした空間。
 暇潰しにいつか彼が買っていたホットドッグ屋をからかって・・。
 (流石に一人だと居心地悪い・・何よあの男さっきからこっち見て・・。)
 彼女は何処だろうと目立つ、背が低く美術人形の様な愛らしい瞳に傷一つ無い手足・・
 スラムではなかなか目に掛からないタイプの女、住む世界が違うのよ、等と彼女は胸の中で舌打ち、でも顔は普通に健やか。
 ・・何やら走る音が聞こえた、やっと来たかと顔を向ける。
 「フィー、やっほー!」
 また何処かで覚えた様な挨拶で彼が駆けて近付く、思わず一歩下がってしまう程の元気で。
 ドタバタ凄いスピードでぶつかりそうな勢い、距離が縮んで行くが減速の影は見えず・・。
 「きゃ・・!」
 「よっと・・っ。」
 寸前で嘘の様に止まる、物凄く近い間に手が入るかどうか位で・・カーラがフィーを見下ろす。
 流石にちょっとぐらついて彼女の肩に両手を置いてあはは、無意味に笑顔を浮かべてやっと我に返る。
 「遅いじゃないの!何してたのよっ!」
 「えーっと服探してた、寒くなって来たからなー、家の管理人さんに貰ったんだー、格好良いでしょ?」
 確かに目が痛くなる距離で見る彼の上半身はいつもの裸とは違う、合皮で茶色の・・。
 (カウボーイ・・の衣装かしら?良くこんなのあったわね・・。)
 胸元のひらひらが煩わしい気分にさせる、そして革と香水の匂い。
 「・・はっ!・・離れなさいっ!」
 並んでみると目線を合わせるのも恥ずかしい、やっと思い出した。
 (見下されるのも嫌だし・・大体何でこんな奴と・・。)
 「え?うん、ほい。」
 とんっ・・触れてた肩から手を離して胸を軽く押す、思いも寄らぬ離れ方・・彼が、で無く彼女が離れた。
 「・・ちょっと!無闇に押さないの、あと触らないで!もうっ・・。」
 「あはははは。」
 悪気も無く笑顔でこうも来られると怒る気が段々と失せるフィー、でも怒らないともっと遊ばれる不安もある。
 「・・全く、私は今日君に仕方無く付き合ってあげるんだよ、遅れるなんて駄目でしょう?」
 何故か彼相手だと口調が先生か親の様になってしまう。
 「そーだねえ・・ごめんな、フィー。」
 そーだねえの五文字を溜めるに溜めて暫く唸る、それもそうかと頷いてちょっとトーンが落ちて謝罪。
 急にしおらしくなって逆に自分が悪く思えて来るフィー、でもカーラは悪くないとも言えず・・大体彼女だって今日は暇で・・。
 「わ、解れば良いのよ・・ほら、早く何処かに行きましょう。」
 「なあなあデートデート、デートだろコレ?」
 「そうね、じゃあデートらしく・・食事に連れて行ってくれる?」
 「おうっ!今日は何食べようかなあ・・。」
 二人は端から見ると良いコンビに見える、暇人同士、最近の平日の過ごし方。
 フィーはカーラと出会ってから少し気になっていた事があった。
 
 「君、何で毎日遊んでるの?両親は?仕事してないの?あとさっき言った管理人って誰?何?何でそんなに明る・・。」
 「はに?」
 謎な感動詞で答えるカーラ、疑問の連続を投げられて彼の頭では整理出来ない状況を表している様だ。
 何処で何時聞こうか迷っていて食事所のスラムにしてはましなカフェでピザに齧り付くカーラに。
 ・・ちょっと待ってみるが一向に彼の『はに?』から進まない、マゴマゴして何故か半泣き。
 咳払いしてもう一度。
 「何で毎日遊んでいるの、お仕事とかしないの?」
 口を大きくはっきりと、アナウンスの練習の様にする彼女に素早く。
 「仕事とかすると遊べないじゃん。」
 しな・・の時点で答えていた、其処迄馬鹿じゃないらしい。
 微妙に自分が馬鹿を見てテーブルの下に隠した拳をぐっと握るフィー、顔は笑顔で心は鬼の形相。
 「でもそれだと御飯とか食べれないでしょう?お父さんとかお母さんに食べさせて貰ってるの?」
 先程よりはちょっと早口で次に進む。
 「ううん、居ないよどっちも・・飯なら一応食べてる、ベンと同じ事聞くんだな。」
 「お金はじゃあどうしてるの?そのベンって言うのはお友達?」
 言いつつ段々と彼の口から解る彼の日常・・こんな事普通は聞きたくない、まるで自分がカーラを気にしているみたいだから。
 でもそんな駆け引きよりこの変な青年の実体が知りたいし彼なら駆け引きなんて解りはしないと思い素直になれる。
 「ああ、クロワッサンの地下でバーやってる、あとなヨース、彼奴もちょっと前にお尻撫でながら聞いてたな、何で皆聞くんだろーねー。」
 因みに彼の友人ヨースは彼を友人以上に見ている様だ、やっぱり気付かないカーラ。
 フィーはちょっと引きながらも平然そうにふーんで流す、
 解ったのは友人も一応何人か居てヨースと言うのはかなりやばそうな友達で彼はやっぱり無職ででも困ってないと言う事だ。
 一番の謎は未だ解けてない。
 「その服を貰った管理人って言うのは?」
 「アパートの管理人さんね、眼が細いけど結構美人で休日の夜に遊びに行くと紅茶とお小遣いくれるんだー・・って、あ!」
 慌ててバタバタピザを置いてテーブル越しに手を伸ばした、何?と左右見回すフィーだが特に何も、理由を聞こうと開けた口を手が塞ぐ。
 「言っちゃイケナイって言われてたんだった・・フィー、誰にも言うなよ、解った?」
 「んぐんぐ・・。」
 二度こくん、口を塞がれて驚くが取り敢えず落ち着いて手を離させる様に手首を取って押すとそんなに強い力じゃない、口が動く。
 ほっとして又ピザと向き合う彼を見て整理するとやはりスポンサーが居るのは間違い無い、管理人だろう。
 (きっとその女に色々されている、とか・・?まあこの子顔は良いから・・それに内緒にしてる所もかなり怪しいわね・・。)
 少し寒気を感じるのは此処がオープンカフェだからでも無い、カーラの純朴な笑みを改めて見る。
 「君、その管理人に何か酷い事されてない?」
 「ううん、優しくて美人。」
 (美人は酷い事しないって思ってるのかしら・・。)
 かなり面白くない、二度も美人を連呼されて拳がずっと固まったまま。
 「わ、私はどう・・かしら、美人?」
 「フィーが?フィーも美人だと思うけど・・ちょっと管理人さんとは違うなあ。」
 ぐ・・声が漏れそうになる、顔も険しくなるが最後の一歩で我慢、その管理人と比べられるのは凄く面白くない。
 深呼吸して空笑いしながら睨む、それが通じたのかちょっとカーラも押された表情。
 「私とその人どっちが美人?私じゃないかな?」
 私って言いなさいよ!彼女が空気でそう語ると野生の勘か彼の顔が引き攣った。
 「フ、フィー・・かなあ・・。」
 「え?そう?あはは煽てないでよー・・もう。」
 催促しておいて彼女は困ったなあと顔を隠す、さっきの怖いオーラも消えるとカーラが疲れを覚えた。
 直ぐに回復して今度はスパゲッティ、フィーはサンドウィッチだけだった。
 (なかなか見る目はあるみたいね・・。)
 結局自分が言わせた美人には取り敢えず満足した様だ、彼女もなかなか強かである。
 機嫌を取り戻したのか会計を自ら進んで支払った。
 
 「あーあー、ガリルとミワ、更にキサラも発見ーー!おおおーい!!」
 オープンカフェから出て数歩先程のカーラ身辺の話を、すると彼の目線に知った後ろ姿が見える、通常では解らない遠さに三人。
 カーラの得意技、会った奴は忘れないし知人が居れば解る、視力は何故か抜群。
 大声と恥ずかしい位陽気な奴に振り向いて彼等二人も歩み寄るが面倒そうだ、そして近付きもう一人に気付く。
 「あー・・んと、カーラ、この子が噂の・・?」
 「どもー、ミワでっす!君がカーラの彼女のフィーね宜しく!」
 早くも女性陣はフィーを右や左からで噂のガールフレンドを見ては頷いたり偶に触ったりと珍種扱い。
 抓まれて触られていきなりのスキンシップに身体が揺れる、わざとらしい咳払いでフィーがするとやっと止まる。
 「そうそうフィーな、俺達デートしてるんだぜ、良いだろ?」
 得意気にはしゃぐのに吹き出してしまうのはちょっと遠くで見るガリル、それに釣られて残り二人も・・フィーは。
 「な、なに言ってるの、君は・・違うでしょう?」
 恥ずかしくて赤面して否定してた、又雰囲気でカーラを威嚇している。
 カーラは後ろのフィーの方、振り向くのが怖くなって頬を掻く、勘が怖がっている。
 「私達はちょっとガリルの稼ぎに貢献したげよーと思ってねー、ま仕事ね。」
 「ふーん、解らないけど頑張れよー。」
 実際に何も解ってない、彼は取り敢えず応援してやっとフィーを見る。
 居心地悪そうだが愛想笑いして・・そして微かにカーラを睨む高度な表情をしている、彼以外にはバレバレだが。
 「あんたもね・・あとフィー、簡単に喰われんなよ・・面白くないからさ。」
 「喰われる?そ・・そのそれって・・どう言う・・。」
 こめかみを指差してキサラが最後に。
 三人はバラバラに背を向けて行って終った、フィーは最後のキサラの言葉で狂わされっぱなしだ。
 因みに彼はと言うと・・ラムの瓶で又遊んでいた。
 何故か暫く動かないままの二人、又指が向けなくなって引っ張って、それでも未だ懲りずに弄ってる。
 (喰う・・ま、まさかね・・ちゃんと止めれば大丈夫よね。)
 見た目はそうだが中身はガキだし今迄も止めろと言えば止めたし今の所自分は優位に立っている筈だ。
 でも何故か動揺する、フィーはなかなか純情だった。
 「なあなあ、今日ってデートじゃなかったのか?朝はデートだったのにもう終わったのか?」
 「いや・・その・・だって恥ずかしいでしょう?人前で堂々とそんな事・・。」
 明るく聞かれても困るのが本音、彼の前では威張っていても恋愛やその次は彼の方が詳しいだろう、地球では殆ど男と遊んでない。
 スラムに来て自由になったが・・その辺は未だ慣れないし染み付いた向こうの常識が否定していた。
 彼と出会って何度目かのはぐらかしを済ませるとカーラが。
 「うーんそーかなー、良いじゃんフィーは俺の運命の恋人らしいからさ。」
 「え、え・・ええーー!?・・そ、そうなの?」
 思わず疑問で返すが恋人なんて言うものは人に聞くものじゃないのは周知の事実である。
 「うんうん、デートしてるのは恋人だぜ、運命の恋人だって皆言ってたんだけどなー。」
 それでも何故か自信満々のカーラ、初めて主導権を取られたフィー。
 「君が前に言ってたあの映画の話よね・・ちょっと待って、だからと言って私達は・・。」
 「フィーって俺の事好きじゃないのか?」
 「いや、嫌いじゃないけど、でも君って・・大体幾ら何でも強引過ぎ・・。」
 「だったら良いじゃん、恋人ー。」
 訳も分からず握手、寒いコロニーの中でも彼の体温は熱い・・フィーは呆気に取られながらも手を抜こうとする。
 だががっしり取られていて軽くじゃれている程度になってしまう、カーラも調子に乗ってぶんぶん腕を。
 「解った、解ったから取り敢えず離しなさいっ!」
 「はに?・・はーい。」
 手を拡げて繋いだ掌を離すと今迄引っ張った勢いでふらつく、一歩下がって深呼吸してフィーは頭を抱えた。
 「なあなあ俺達これで恋人なんだよなー、いやー恋人だったら毎日遊んで毎日ヤれるんだって、面白そー。」
 「え、え・・ええーーー!?・・や、やるって・・ち、ちょっと待ちなさい君っ!」
 「ん、何?」
 どんどんと話題が彼女の意図しない方向に曲がって行く、勘違いさせると身が危ないと感じて大声。
 もう形振り構ってられない、道端では人が見ているが此奴よりは無害だ、急ごう。
 「恋人って言うのは相手の事思いやったりとか、助けたりとかするものなの、
  毎日遊んで毎日・・じゃないの、それだったら私は恋人になってあげないからっ。」
 ちょっと微妙に妥協が入ったが取り敢えず言った、フィーが一呼吸置くとほえー・・無駄に関心している。
 カーラには彼女が思いやりと述べるのにも無理があるとは思わない、彼女も精一杯でかなり無茶苦茶な状況だ。
 「うーん・・恋人になってくれないのかー・・。」
 ちぇっ。
 ガッカリした様に小石を蹴っていた、自分で急に話を進めておいて彼は無駄に上下が激しい。
 その捨て犬にも似た表情が何処か可愛らしくて同情を誘う、だがフィーは其処で頷いてしまっても要けない。
 (この子、微妙に上手い・・ついOKしたくなっちゃうじゃない・・。)
 その後カーラは大分落胆したのかあまり喋らなくなった、彼女の方も悩んでしまう。
 道を歩いて元気の無いカーラ、ある意味異様で彼を知る者は通り過ぎる際に盛んに首を傾げている。
 そして隣ではフィーが時折顔を覗く・・カーラはそれすらも気付かず下を向いている。
 やがて最初の公園に戻った、フィーが少し前を歩いてカーラが彼女の足を見て着いて行く、自然と彼女の知っている数少ない場所の此処へ。
 「ねえ、君・・。」
 取り敢えず話し掛けてみる、ずっと下を向いてもう動いていない足を見ている、自分が足を止めているのにも気付かない。
 「き・・カーラくんっ!」
 「へ?ああ、どうしたんだフィー。」
 足を一回踏んで名前で大声で、夕方の広めの公園とホットドッグ屋台に響いた細い言葉。
 やっと顔を上げて彼らしくない普通の顔で、それでも彼は充分様になっている。
 「じゃあさ、なってあげるよ・・恋人に、だから落ち込まないの。」
 「んに・・?」
 もう彼は忘れている、何で落ち込んでいたのかも。
 只何と無くどんよりで只でさえ回らない思考がもっと駄目になっていて何言ってるのか解ってない。
 フィーはもう半ば自棄になっている、最後の一押しは彼の『んに・・?』だった。
 「なってあげるって言ってるでしょっ!!?返事しないとなってあげないからっ!」
 「え?ホントか?うんうん、返事するって!」
 やっと動いた、そしてブンブン頭を振って漸く笑顔、其処で我に返るのは彼女。
 (結局こうなるのね・・嫌いじゃないけど、幾ら何でも早過ぎ・・。)
 ついつい情が入ってしまったがもう引けそうに無い、肩を落とした、それにも構いもせずに今度はカーラが手を伸ばす。
 「恋人ー・・確かあの映画だと夕暮れに抱き合ってキスするんだよ。」
 あっと言う間に腕の中に入る、そして腕で締め付けられるフィー、何かとんでも無い事を言っている様な・・。
 顔が近付いて来て急ぐ、これは不味いと早口で。
 「ちょっと待ちなさいっ!離して、離さないと取り消しちゃうからっっ!!」
 これを言うと彼が離れる、要領を得て取り敢えずほっとしながらフィーが指を立てる。
 馬鹿みたいに二つの目を寄せてじっと見る。
 「良い?急にキスなんてしたら恋人止めちゃうからね、私がして良いよって言う迄絶対駄目よっ、解った?」
 「ほうほう・・はーい。」
 こうなると彼は従順だ、此処迄流されてしまったが結局彼女のペースになっている、カーラの扱いにはもう慣れていた。
 「あと明日にでも髪切りなさい、それと管理人さんとかさっきのキサラさんとかと・・へ変な事しても駄目だからね。」
 「髪ね、うんうん。」
 自分の前髪を引っ張ってみる、別に伸びたからで特に意味は無いので彼にはどうでも良い。
 最後の変な・・の下りは最初の髪の時点でもう聞いてない。
 「じゃ俺とフィーは運命の恋人同士だな。」
 「あー、はいはい・・。」
 これがフィー=クロノフとカーラサリー=スウェッドの恋愛の経緯である。
 スラム街での珍しいコンビ、一週間もすれば街全体に知られていた、狭い街で毎日騒いでいる二人を見れば自ずと知られて行く。
 その後の二人はと言うと。
 
 「ねえ、カーラ来てない?あの子又何処かに行って・・。」
 クロワッサンへと降りる階段を小走りに、足音でもう気付き掌を拡げているベン、そして回りの面子もやれやれと。
 「フィーちゃん、今日はどうしたの?又カーラが何か。」
 「あの子又料理すっぽかして逃げたのよ?今日はあの子が作る日なのに。」
 凄い形相でビリヤード台をぐるぐる回り隅々迄見て回るのにミワが軽く相槌、
 カーラが居る所は彼女の自宅・・老人の家か自室だ、もう自室はとっくに捜したし老人の家は彼女の家でもある、残るは此処。
 「フィー、あんたさ・・昨日も同じ事言ってなかったっけ?」
 「昨日は掃除当番なのっ、もう直ぐ逃げ出すんだからー。」
 キサラにも昨日同じ様な・・昨日が掃除当番で今日が料理当番、因みに明日は彼の苦手な算数テストの日だ。
 どれもカーラには性に合わなくて何時も逃げ出す、キサラや他の面子の元に逃げ込むのを追い掛けるフィー、日課になりつつある。
 「おお怖、カーラも災難だなあ・・。」
 「ヨースくんは黙ってて!これは私とカーラの問題なの。」
 いつの間にか彼等にも遠慮無しにバシバシと、キサラやミワよりもこう言う所は気が強い。
 もう一度冗談半分に怖がってみせてヨースはスロットマシーンから離れた。
 がたっ、その横、妙なクロスが掛けられて微妙にごそごそ動くものが・・。
 それに今度はガリルが堪らず息を漏らした、するとフィーの目が。
 「カーラ、出て来なさいっ!」
 「ふえ・・ごめんフィー・・。」
 観念してクロスを払い姿を現す・・当然皆隠れてたのを知っていたが黙っていた、我慢していた分笑いが漏れる。
 カーラ、髪型以外は変わらない相変わらずの・・でもいきなり落ち込んだ表情で。
 それとガリル、彼は以降も何故か此処に住み着いている、理由をカーラが聞くとやっぱり楽しいからとはにかんでいた。
 「何で逃げるの?別に難しい事じゃないでしょ料理なんて・・。」
 「だってさー、折角休みなのにさー、皆と遊びたいじゃんー。」
 観念しつつ此処に来てやっとのラムを飲む、そしてミワに同意を求めるが二人共フィーに睨まれて固まる黙る。
 あれから半年、もうずっとカーラとフィーは一緒に居る、だがあの時とは少し変わっていた。
 カーラが彼女を追い掛けていた所から彼女が追い掛けるのに、理由は彼女が挙げた恋人の条件、料理に勉強、掃除は彼には面倒でしか無い。
 「ふーん、じゃあ別れちゃおうかな私。」
 「ええー!ちょっと待ってフィー、やる、やるからー、ねっ。」
 最後には結局カーラの俊足も雲隠れも弾かれる、フィーの勝ち。
 勿論彼女も冗談・・の筈だ、今ではお似合いの恋人同士でお互い・・。
 「俺なら何時でも空いてるぜ?怖いフィーなんか別れて俺んトコ来いよ、週に一度しかヤラせてくれないんだろ?」
 「カーラを変な道に引き込まないで!それに何処で聞いたのよ?カーラ、貴方が言ったんでしょう!」
 「言ってない言ってないホントだって、余計な事言うなよヨース〜・・。」
 「やっぱり言ったんじゃないのっ。」
 前にも増して騒がしくなったクロワッサンと・・第九コロニー三番街、通称SWS。
 カウンタで喧噪から逃れたキサラと仕事上定位置のベンが話す、指差してブランデーを運ばせて頬杖付いて横の大騒ぎを眺める。
 「料理って一体何作らされるんだ?彼奴。」
 「前聞いたのはサラダだってさ・・ま、カーラが野菜を切るってだけで偉業よ。」
 「カーラが作ったサラダか・・。」
 きっと想像が付かない代物、作ったのは先週、エプロン姿のカーラが台所で唸りながら。
 
 「ほらフィー見て見て、出来たぜサラダ!」
 ナイフを持った方をぶんぶん振り回して飛び跳ねて、やっぱり一番の笑顔で。
 呆れながらも何処か彼女も嬉しそうに近寄って見る・・カラフルなドレッシングに独創的なトッピング、可愛らしいハートマークのお皿で。
 「なあ、ご褒美のキスは?約束だろ、早く早くー。」
 「危ないからナイフ置きなさいっ、全くもう・・。」
 彼へのご褒美、何時も面倒臭がって料理も掃除も算数も出来ない彼、でも笑顔が良くて明るくて。
 三番街、最低のスラムで一番ぶっ飛んでいる男はエプロンを肩に掛けて彼女に夢中のカーラサリー=スウェッド、二十一歳。
 「・・・・・・屈まないと・・その、届かないじゃない、早く屈みなさいよっ。」
 ぐるぐる掻き混ぜられた、好きなだけ召し上がれ。
 
 
 前へ
 次……は無いです。
 
 
 後書き
 初の中編、長編以外できっちりと設定を作って書いた事が無いのでかなり苦戦しました。
 SF設定でメインは恋愛、そしてコメディ風に説明文もちょっとタッチを変えました。
 そして設定もたった三部構成の割には練ってますので消化出来ない部分も多いです、でも恋愛なので流れ的にはOKですね。
 キャラクターには特に拘りを入れて主人公とヒロインを初めサブキャラもふんだんに持ってます。
 こう言うのも良いですねー、ちょっと恥ずかしいノリですがいつもの暗い感じのを弾けさせれて楽しめました。
 でわ、この辺で・・。
 
 
 人物設定
 
 カーラサリー=スウェッド
 二十一歳、無職、赤い長髪と赤い目、スラムの孤児ながらも何故か明るい性格と強運で生き抜く青年。
 その今時珍しい性格と割と良い顔立ちに惹かれる者も多い、
 彼の住むアパートの管理人に好かれていてヒモ生活に興じているが本人に自覚は全然無い。
 映画が好きで特に好きなのは古い地球のガンアクションとポルノ、典型的な少年好みである。
 得意な事は身体を動かす事と人の顔を覚える事、苦手なのは算数と難しい事。
 
 フィー=クロノフ
 十六歳、独学生、家事手伝い、黒い長髪と黒の目、地球出身者で一週間前にSWSで来た少女。
 本来ならスラムに来る様な身分では無いが祖父が住んでいるのもあって単身で祖父の元へ。
 現在は祖父との二人暮らし、金銭面の都合で地球では貧乏だったがSWSでは充分大金持ちだ。
 スラムの女には無い繊細な顔立ち、美人だが性格はなかなか気丈で打算的、煽てに弱い。
 独学生と言うのは学校に行かず勉学に励む者の事、地球で少し前に流行った言葉である。
 
 ガリル=フォード
 三十五歳、古物商、茶髪の短髪と茶の目、出身はSWSだが現在は仕事の都合で首都コロニーや地球を行き来している。
 若い頃はSWSで名の知れた悪ガキだがその反面頭も良く二十を過ぎた頃に古物商に。
 SWSではガラクタでも地球では高価なコレクションになる所に目を付けた、それだけで無く知識も交渉術も上手く懐が深い。
 カーラ達とは少し離れているが良き友人で良くカーラとは昔の地球映画の話題で花を咲かせている。
 
 ベン=デュゼル
 二十九歳、自営業、黒髪の短髪と茶の目、SWS出身で両親は病気と事故で死亡、
 二人の残した遺ったクロワッサンの土地で酒場とゲームセンターを経営しそれなりの生活を送っている。
 ゲームセンターの方は殆ど開店休業で誰も来ないので馴染みの仲間が集まる酒場にいつも居る。
 
 キサラ=クレマンジェ
 二十三歳、ウェイトレス、金髪に赤いメッシュを入れたパンクヘアーに青の目、
 首都コロニー出身だったが孤児で施設へ、
 だが施設も手一杯で地価の安いSWSへと送られたのが一歳の頃、従ってSWS以外での記憶は全く無い。
 それから仕事を転々として今は喫茶店の不良店員。
 勝ち気でひねた性格だが心情は真っ直ぐな所もある、趣味はギャンブルで良くベンと賭け事をして遊んでいる。
 
 ヨース=バンチェフ
 二十四歳、自営業、金髪のセミロングに青の目、SWS出身で両親と共にハンバーガー屋を経営。
 調子の良い性格で両刀だが意外と面倒見が良い。
 カーラに良くスキンシップを求めたり変なジェスチャーを教えたりするが本人は全くその隠れた意図には気付かない。
 
 ミワ=コヤナギ
 二十歳、数学者見習い、芸術家、藍色の短髪と金の目でトレードマークは赤い手首に巻いたバンダナ。
 出身は第五コロニーのスラムで十歳の頃SWSへ、
 母親は売春婦だが勉強熱心で彼女も真面目に勉学に取り組み今は優良種を凌ぐ程の頭脳を持つ。
 数学者として優良種から雇われつつもう一つ絵画や彫刻等の芸術分野でも活躍、地球や首都コロニーでもそれなりに名が知れている。
 幼い頃は勉強だけの生真面目娘だったが何の拍子か急に明るく子供っぽく性格が変わった、
 とある芸術家に会ってからと述べる者も居るが詳細は不明、だが本人はかなり意識的に性格を変えている様だ。
 
 
 用語
 
 優良種
 選ばれた者達の末裔と呼ばれる人種、並の人間に比べ高い頭脳と技巧能力を持つ場合が多い。
 彼等が現在地球やその他を支配している、比率は常人が百に対して三の割合である。
 見た目の違いは無い、生物的には全く人間と変わらない。
 優れているのは早期教育が盛んだからである、実際には遺伝的な要素は低い。
 偶に常人でありながら特殊な技能に長けた人間は優良種になる事も出来る、作中人物のミワはその候補生である。
 
 常人
 普通の人、と言う意味だが数年前から「優良種じゃない人」と言う意味として使用され始めた。
 つまり選ばれなかった人間、選民的な差別用語である。
 
 地球
 主に優良種が住む人類の中心都市、現在は約三十億人程度の人工。
 野菜、穀物が良く採れ何より人類発祥の土地だけあって地価がコロニーの数百倍は高い。
 
 首都コロニー
 地球の次に重要視される都市、巨大で施設も治安も良いが優良種達の人種差別が蔓延っている優良種の楽園。
 他のコロニーと地球の橋渡しになっていて貿易等で多くの金が動いている。
 
 第九コロニー三番街
 通称ストロベリーウォータサラダ、SWSとも呼ばれるスラム街。
 第九コロニーは所謂中弛みで現在十五あるコロニーの中でも一番治安や施設の無い場所である。
 特に施設は酷く数百年前の機械が平気で現役だったりと文化はかなり遅れている。
 今は三番街と一番街を残して他の街は停止している、
 コロニーとしてもかなり弱っていて第九コロニーの延命の為に取った手段だが住民の数は少ないので誰も依存は無い。
 理由は住民の質の悪さでスラム化し優良種が殆ど居なくなったから、変人や奇才が何故か多く居る。
 この物語の舞台。
 
 エリル=ルーカス
 旧暦の二十一世紀の地球で世界的に人気のあったモデル、
 抜群の美貌とスタイル、そして露出度でタブロイド紙からトップに上り詰めた。
 その後人気だけで女優に転身したが演技の腕は今一。
 
 
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