なにかに追いたてられるように爪を噛む。
のんちゃんがそんなに神経質ではないのは
師匠である私は良く知っている。
いつも朗らかに笑う。
私はそれが大好きなのだ。
でものんちゃんは爪を噛む。
まるでそれが義務であるように。
のんちゃんは爪を噛む。
『ネイル・クラッシャー』
のんちゃんは爪を噛む。
暇さえあれば爪を噛む。
ある時私は言った。
「そんなに爪噛んでるとなくなっちゃうぞ」
その時ののんちゃんの顔。
ものすごい顔してた。
今にも泣きそうで辛そうで怯えている表情。
そんなに強く言っちゃったかな…?
私はごめんとつぶやきのんちゃんを撫でると
のんちゃんは目を伏せながら手を組んだ。
「なくなっちゃったら…困りますよね…」
なにか哀れんだようにのんちゃんは零した。
のんちゃんは爪を噛む。
誰がなんて注意してもつめを噛む。
ある日のんちゃんの爪を噛む癖を治そうと
なっちがのんちゃんの爪にマニキュアを塗ってあげていた。
のんちゃんはひどく嫌がっていたけれど小さな小さな爪に
ピンク色の花びらが舞った。
「似合うよ」
なっちがそう言って笑うとのんちゃんは眉間に皺を寄せて
とってとってとせがんでいた。
「なにいってんのさ?せっかくやってあげたのに!」
のんちゃんはあまりに泣きそうな顔をして懇願するものだから
私はのんちゃんの手をぎゅっと握って爪を噛まないように
努力するか?と優しく問いただしてみた。
のんちゃんはぶんぶんと頭を縦に振った。
あまいよ〜とぶーたれるなっちを尻目に私は除光液をコットンに取ると
のんちゃんの小さな爪に丁寧に当てていった。
ふわふわとして柔らかい手だった。
でも乱暴に噛まれた爪が痛々しい。
のんちゃんはやたらとはやく、はやくと私をせかした。
雨が降り出した。
のんちゃんはびくっとして窓の外を見た。
「あめ…」
泣きそうな声でそう呟くとマニキュアを取り終わった片方の手の爪を
一心不乱に噛み始めた。
「コラ!今約束したばかりでしょ!除光液は毒なんだよ!」
そういってのんちゃんの口から手をはがすとのんちゃんはぺっと
爪を吐き出した。
のんちゃんは泣いていた。
「どうしてのんちゃんは何度言っても爪噛んじゃうの?」
「だって飯田さん、辻、爪噛むとお花が咲くんですよ。」
他の人には秘密ですよと言ってのんちゃんは小さな植木蜂を見て
にっこりわらうとカリっと人差し指の爪を噛んだ。
鉢の葉がちかっと光った気がした。
するとにゅるにゅると音がしそうな動きで鉢の葉は伸びて行き
ぐぐっとつぼみを開いてピンク色の花を咲かせた。
私はビックリした…
多分口は開きっぱなしでよく大きいといわれる目は
いつも以上に大きくなっていただろう。
辻はニコニコと笑っていた。
なぜ私はあの笑顔の意味をわかってあげることができなかったのだろう…
のんちゃんは爪を噛む。
のんちゃんは爪を噛む。
「ねえ…のんちゃん…痛くないの?爪」
「ん…」
のんちゃんは俯いた。
爪を噛む人は爪のことを言われるのがとても辛いらしい。
でもちゃんと治してあげないと…
私はそう思い何度ものんちゃんにいろいろな事で説得しようとしている。
「辻だけが痛ければ…みんな死なないで済むんです」
「え?」
そう言って辻はまた爪を噛み始めた。
のんちゃんは爪を噛む。
まるでそれが義務であるように。
のんちゃんが怪我をした。
小指の爪がドアーに挟まって剥がれてしまった。
「また生えてくるから」
そうなだめている横のテレビにニュースが流れた。
ピンポーン・ピンポーン
『大型石油タンカー座礁』
ピンポーン・ピンポーン
『東北の活火山、火山活動開始』
ピンポーン・ピンポーン
『大型旅客機墜落』
五分も立たない内に続けざまに違うニュース速報のテロップが
テレビの画面の上部に次々と映し出された。
私は3度目のピーブ音で異常を感じた。
「辻の…辻のせえだ…」
のんちゃんはテレビにかぶりついた。
顔は真っ青だった。
「しんじゃう…たくさんしんじゃう…」
のんちゃんはぽろぽろと涙を流し始めた。
「辻が爪を噛まなかったから…小指の爪…白い部分が悪いとこなんですよ…
だからいっぱい噛むように気をつけて…たのに…小指の爪…なくなっちゃって…」
ぼろぼろとのんちゃんが涙を流す。
私はおろおろとしてしまった。
「辻の爪が日本の命なのに…」
のんちゃんは爪を噛む。
まるでそれが義務であるように。
END
作者フリーの短編スレで辻の爪を噛む小説を見て
爪ネタでののかおがやりたくて書いてしまいました。
飼育の方に出すのはなんとなく気が引けたのでこちらで公開。
私も爪を噛む癖があるのでわかるのですが結構注意されると辛いんです。
わかってるけど止められないから。
痛いけど止められないから。
わかりにくいので補足ですが辻の爪が日本の命です。
爪が伸びて行く(白い部分が増える)ことは日本が汚れて行っている
ということの証なんです。
だからその悪い部分を辻ちゃんは噛んでなくそうとする。
そういうことらしいです。
ネイルクラッシャー 完