繊細な空間を作り上げたアルバムを聴いて抱いた「何だか凄そう」という期待で臨んだ初来日公演は、曲の間に長いMCを挟むだけでは飽き足らず、演奏を中断しての雑談がライブの流れをズタズタにしてしまい、アルバム同様に煙に巻かれた印象。ただ、昨年リリースした"About
A Boy"と"Have You Fed The
Fish?"の2枚のアルバムでは、楽曲の良さがストレートに飛び込んでくるようになっただけに、嫌な予感は残りながらも再度期待充分で挑んだ再来日公演。
会社を早めに抜け出し、急いでクアトロに向かう。到着した18:50頃には大方の客は入っている雰囲気で、前方のフロアは詰まっていたけど、真ん中のブロックは自由に身動きが取れて背伸びせずにステージが見える程度で快適。会場にはビートが効いた曲が流れるものの、「早く出てきてくれ〜」というような切迫した空気は起こらず、自然体のユルい雰囲気。開演時間から10分が過ぎてもステージ上にはスタッフがウロウロ、15分が過ぎたくらいでは、「きっと酔っぱらうためにアルコールを注入してるんだろうなあ」という余裕があったものの、20分が過ぎてもPA卓の人は立ち上がってオシャベリし、相変わらずステージ上を何をするでもないスタッフがウロウロ。30分が過ぎる頃には、「ホンマにいい加減な野郎や。酔いが回ってロクでもないライブしやがったら許さん!」という怒りが段々沸き起こってくる。
結局、19:35頃にベース、ドラムス、キーボード、ギター、そしてDaemonの5人がダラダラと悪びれる様子もなく登場。丸々とした身体にヒゲ面でニットキャップというアルバムの精緻化された音からは想像できない風貌。ジャケットやインナーでの全身写真はオフ気味のが多く、それ以外はコラージュしたような写真が多いのも改めて納得。まずは軽くオシャベリしてから"40
Days, 40
Fights"でライブはスタート。演奏に関しては特筆すべきものは特になく、無難にこなしたという印象。前回の来日時と大きく違う点は、MCは多いものの一人で舞い上がったり、ライブ自体の流れを止めることは皆無で、単なるコミュニケーションを超えたフレンドリーなインタラクティブ性を演出し、ライブの目線をオーディエンスの目線に合わせたところだ。
タバコとアルコールも良い意味でライブのリラックスした温度を維持し、「何かリクエストはない?」とか「大阪は俺が知っている三つのクレイジーな街のうちの一つだ」「今日は長い時間演奏するよ。そうだなあ、最低でも45分はね」などとオーディエンスのライブへのコミットを助けるMCを挟みながら、アルバムではヒネった音処理が施された曲も実にシンプルに演奏する。元々、メロディ自体は美しく、即効性があるだけに、表現方法を分かりやすくすると楽曲の切れ味は研ぎ澄まされ、パフォーマーとオーディエンスの視線が一致すると持ち味はピークへ達する。その結果、現実感な美しさを伴った"Silent
Sigh"で、遅刻事件へのわだかまりは解消。その後数曲を演奏し、20:35頃に「5分から10分くらい休憩するけど、また戻ってくるよ」と言い残して一旦メンバーは退場。
珍しく約束通り、約10分後に再度メンバーが登場して第二部がスタート。そして、ここからが長い長い。アコースティックギターで弾き語ったり、ピアノで弾き語ったり、バンドアンサンブルを聴かせたり、即興で替え歌をやったりとアルコールが増えるに連れて新技が繰り出される酔拳状態。最終的に、Daemonの本性が現れたのはCurtis
Mayfield の名曲"People Get Ready"ではなく、"File Me
Away"で見せたオーディエンスとの絡み。酔っぱらいセクハラオヤジモードのDaemonは「僕は結婚していて子供もいるけど、君だったら〜♪(意訳)」とか「違う違う、君じゃなくて、君だよ〜♪(意訳)」などとフロアを見て歌いながら、一人の女性に「君の名前は何ていうの〜♪」と歌う。で、その女性が「ヨーコ」と答えると、「Oh、ヨーコ!僕はJohn
Lennon。僕はJohn
Lennon♪」「そんなに困った顔しないでくれよ〜♪」と歌い続ける。「本性が現れた」の意味はDaemonのセクハラぶりだけではなく、次々と沸いてくる(?)フレーズとメロディで、ちょっと大袈裟にいうと「この人にはメロディと歌詞が神様から降りて来るのかも知れない」と感じた時間だった。
その後は、"Magic in The Air"や"You Were
Right"などの後に、「個人的に大好きな曲」というMCで"How?"を演奏。トリッキーなオリジナルの構成を必要充分に再現して、シッカリそしてシットリとBadly
Drawn Boyのアイデンティティの刷り込みにも成功。「さすがに、これで終了か」と思ったけ後に始まった"The Further I
Slide"では、途中でにメンバ紹介をしながらそれぞれのメンバと頬ずりするDaemon。美しいシーンではないけど、ホンワカした雰囲気が伝わってくる。そして、「今日は本当に楽しい時間をありがとう」というMCに続いて、"Pissing
in The
Wind"でシメ。演奏後にステージ前方に出てきたメンバ全員で肩を組んで丁寧にお辞儀をしながら帰って行くのを見て、楽かった時間の充足感と終わってしまった喪失感が共存する不思議な感情が起こった。
ライブが終わった今でも、歌いながら、ギターを弾きながら、話しかけながら、あらゆる瞬間でオーディエンスとインタラクションし続けたDaemonのパフォーマンスが頭に浮かぶ。アルバムで表現されるスマートさと歌心のバランスを反転させて、過剰なまでに人間臭さを持ち込んだ初めて体験する種類の楽しい時間で、「エクスペアリエンス=体験」という言葉がピッタリの双方向のライブだった。(2003/3/30) |