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開場前から厚生年金会館の周りには長い列ができ始め、これから始まるライブへの期待感を増幅させる。開場が始まると、今度はツアー関連グッズの長い列ができる。相変わらずH.I.P.はこの辺りの仕切りの手際が悪く、1カ所でしか販売しなかったものだから行列は3階までにも及んでしまい、長い間待たされた上にライブ前には買えない人もかなりいたようだ。
3階の席に向かう。久々の席のあるホールでのライブ。それにしてもステージが遠い。正面の前から3列目だから見やすいのは良いのだが、やっぱり遠い。ステージ上にはアコースティックギター、椅子、ドラムセット、ドラムセットの両隣に椅子が数脚、その横にはターンテーブルが置いてあった。時計を見ていなかったのではっきりとしたことは分からないが、15分程度遅れて照明が消えて、メンバーがステージ上に現れた。
歓声が起こる。いや、歓声というか、悲鳴や絶叫といった方が良いかも知れない。とにかく、男も女も若い人も少々年いった人もみんながBeckの登場を心から喜んだ。ステージ上には、腕にヒラヒラのついた安全ピンのプリントTシャツを着たBeckの他に、ギター、ベース、キーボード、ドラムス、そしてバイオリンなどのストリングス2〜3人、ブラスセクション2人の総勢約10人の彼のバンドが陣取る。オープニングチューンは"Mutations"から"Cold
Brains"だ。Beckは予想以上にちゃんと歌を歌える。但し、3階席のためか低音が飛び込んでこない。何か「あちら側」で演奏している音を聞いているようだったのが残念だ。ボーカルの音量もかなり小さかったような気もした。Beckのアコースティックギターに要所要所にストリングスが絡み、キーボードがSE的に音を挟む。"Mutations"の落ち着いた歌の世界が次々に再現されていく。ミラーボールに紫や青の照明を当てるオーソドックスな演出が、アコースティックで幻想的な雰囲気の曲にマッチしている。曲の間にときどきメモを見ながら怪しげな日本語で何か言っている。でも、イマイチ何を言っているのか分からない。最後の方には、「はぁ」というつっこみさえ起こる始末。それでも、とにかく反応が暖かい。誰もが彼のカリスマ性に引き込まれているようだ。"Mutations"からの曲は、彼が音の素材の再構築者であるだけでなく、ゼロから音楽を作り上げるクリエイターであることを改めて示した。それまで感じることがなかったような、「歌心」がストレートに伝わってくるような暖かいステージだった。途中、「大阪で初めてやる曲だよ」といって演奏された曲は、ギターのカッティングが"Mutations"のテイストとは違いアクセントとして効果を発揮していて、今年リリースされるという新作への楽しみも出てきた。落ちついた曲が連続して演奏された後、"Tropicana"で客のテンションを引き上げながら前半戦が終了した。
約15分の休憩を挟んで再びBeck登場。前半戦の「歌」のステージから「リズムとダンス」のステージへ一気に変身。"Odelay"からの曲を中心にした構成は、一気に観客の興奮を頂点に到達させる。前半戦はひっそりと置かれていたターンテーブルもフル回転でリズムを紡ぎ、ブラスセクションの兄ちゃんはスポットライトも当たっていないのにポーズをつけながら踊り続ける。バイオリンの兄ちゃんまでもが楽器を使って踊り出す始末だ。前半戦座って歌を聴いていた客も、皆立ち上がり踊り始める。Beckも踊る。相変わらずヘンテコリンなダンスだ。客は彼が歌と違う行動を取ると大歓声をあげるが、本当は彼のダンスを見て笑っていることをBeckは気が付いているんだろうか。"The
New Pollution"などでヒートアップさせた後、"Where It's
At"のギターのイントロが鳴らされる。ここが一つ目のクライマックス。"Crap Your Hands!"に応え、"Where It's
At"を叫ぶ。この曲が聴けただけで満足だ。相変わらずバックメンバーも楽器を振り回しながら踊っている。ブラスの兄ちゃん面白すぎ。ボディービルダーのような振りで踊り続ける。演奏する方も聴く方も楽しくて仕方がない時間が過ぎていく。
ここでDJ
Swamp以外のメンバーは引き上げ、しばしのDJタイム。基本的なスクラッチやミックスなどの間に、曲芸的な動きを取り混ぜたり、スクラッチで"Smoke
On The
Water"やベートーベンの運命を演奏するなど、ただの自己満足的な技術披露の場ではなく、エンターテイメントとして成立させていたのが素晴らしい。彼のパフォーマンスのおかげで身体はクールダウンしながらもアドレナリンは全開のままだ。そして、再びメンバー登場。"Devils
Haircut"が始まる。会場中ノリまくり。クリエイターであり、エンターテイナーである彼の実力を思い知らされる。結局、この曲がラストになった。客電がついた後もしばらくアンコールを求める拍手が鳴りやまなかった。「えー、もう終わり?」という声があちこちで起こっていたし、自分自身もそう感じていた。ところが、8時半頃かと思って時計を見ると何と9時。時間感覚も完全に狂わされるほど、彼のマジカルワールドにどっぷり浸かっていたことを実感。
「どうせ座ってみるから長袖でいいか」と思って長袖のTシャツで行ったのが運の尽き。Tシャツは汗でびしょびしょ、身体もいい感じに疲れている。前半と後半の全く異なるアプローチの音楽を一度のライブで体験できるとは得した気分だ。もちろん、Beckだからできたライブであることはいうまでもない。Beckみたいな奴が同世代にいることは誇りだと心からそう思えるライブだった。 |