Mus!c For The Masses
Home > L!ve > Beck ('00)

Beck / Osaka Jo Hall(2000.5.17)

 Beckのライブに行っていつも感心するのは、彼が一流のエンターテイナーであることだ。選曲、ステージング、全てにおいてネガティブな意味ではないエンターテイメント性を感じさせてくれる。アルバムでは小難しい顔をしながら多様なサンプルをカットアンドペーストの手法で斬新に張り付けていくのに、ライブではサウンド自体はデジタルにも関わらず、ちょっと情けないダンスやパフォーマンスが適度に交えられることによって、手作業で作り上げられて行くような錯覚を起こさせてくれる。それは初めて見たときにも感じたし、去年も、そして今回もやっぱり感じた。

 Beckが大阪城ホールでライブをやる。「本当か?」と思った。確かに彼はもはやメインストリームだ。カウンターカルチャー路線の彼の音楽が大阪城ホールで聴けることはある意味痛快だ。バラードを歌い上げるでもなく、バリバリのロックスターでもない華奢な男が持てる限りの音の断片をつなぎ合わせて作り出す場で1万人が踊る。メインストリームが複数現れ、カウンターカルチャーさえもメインストリームになり得る時代、あらゆる選択肢が許される今だからBeckの輝きは増す。

 ライブは本編とアンコールを入れて約2時間続いた。オープニングからBeckのダサさが爆発する。バンドの演奏が始まりしばらくして大声援に迎えられて登場したBeckはブレイクに合わせるようにキメのポーズを取る。一昔のバンドのようなパフォーマンスに会場は大喜び。Beckが動くと声援が起こる。もちろん、かっこよさに魅了されるわけではなく、ヘンテコな動きを見て笑う観客の方が多い、というのは言い過ぎか。踊るにはちょっと難しい目の曲の後で突然演奏された"Looser"でひときわ会場のボルテージが上がる。後ろの外人さんは何か叫んでる。前半は最新作"Midnite Vultures"のおとなしい目の曲を中心に進んでいく。

"C'mon Osaka! Osaka People Are Power People!" Beckが煽る。観客が応える。

 個人的に、ライブでのBeckの音楽に乗るのは苦手だ。元々が不思議なガクッガクッと来るような曲が多いのに、ライブでアルバムと違う順序で演奏されると知らない間に曲と身体の動きがずれてしまう。バックバンドが一旦引っ込むまでは部分部分では盛り上がるものの、少々ボルテージは低めだ。"Keep crapping your hands" Beckが叫ぶと拍手が増える。そんな感じで中盤に差し掛かった。

 Beckのエンターテイナーぶりはここからピークに向かって突き進む。バンドが引っ込んでギターとハープを持ったBeckは前作"Mutations"の曲を続けざまに4曲歌う。Beckの曲には新しさと古さが同居している。不可思議なリズムの中に懐かしげなカントリーの香りが感じられたりする。そんな彼のルーツがリズムの武装を手放して表現された"Mutations"はサイドワークに近いものだったことは確かだ。「前作はサイドワークだから今回は演奏しない」、Beckはそんなことは言わない。ほとんど最高のタイミングで観客の待っているものを出すカンは天才的だ。

 "Mutations"のアコースティックセットの後で再びバンドメンバー登場。"Tropicalia", "New Pollution", "Where It's At"の3連発でこれまでの歓声の100倍ほどの歓声が上がる。意表をついた上手な歌を聞いて静まりかえった会場の熱気を沸点近くまで引き上げる。ここで本編が終了。しばらくしてアンコールが始まる。アンコール1曲目は"Sexxlaws"。ブラスセクションが縦横無尽に走り回るこの曲は"Mutations"を通ってきたからだと思う。ファンキーさの中にもこれまでにない歌の力を感じさせる。これでほとんど体力は尽きたというのに、さらに"Devil's Haircut"が始まる。そして、曲が終了すると"Keep out"を示すテープがステージに張られ、テレビの砂嵐が消えるように照明が消える。

 Beckのライブにはあらゆる要素が存在する。古さ、新しさ、リズム、歌、パフォーマンス、音の分厚さ、繊細さ、そんなものが全てごちゃ混ぜになった上でパッケージ化されている。もちろん、このパッケージという意味も「エンターテイナー」と同じくネガティブな意味ではない。様々な音がパッケージ化されて、楽しむことができる素晴らしい場を作り出す、そんなカンがBeckの最高の武器であると改めて思った。まさに、文字通り「音楽」を体験した2時間だった。