Rough Trade設立25周年記念の冠が付いた同レーベルの新進気鋭バンドdelaysとBritish Sea
Powerのライブ。delaysはミニアルバム、British Sea
Powerはアルバムを1枚リリースしているだけで、一般的な知名度が高いとは言えず、うちのホームページのBBSに「1週間前にチケットを取ったら整理番号が100番台前半だった」という書き込みがあり、さらに不安は増大する。心斎橋パルコに18時50分くらいに着いてエレベータに乗ると、一緒に乗っていた女性が「スマッシュフレンズの人ラッキーやなあ。スマッシュはかなりチケット出したみたいやで〜」と言っているのを聞いて、テーブルが出た会場の様子が頭を過ぎる。
クアトロに入ると、こぢんまりした物品売り場が寂しい。ただ、左後方に人が分散しないように立ち入り禁止している効果もあるのか、それほどガランとした印象はない。まあ、テーブルは出たままだったし、10分前に着いた割にど真ん中の見やすい場所を確保できたので、決して人が多いとは言えなかったのだが。
告白すると、delaysのミニアルバムは持っていない。ライブに備えて買おうかと思ったけど、店頭で試聴したときにギター中心の爽やか系という認識を持ち、ミニアルバムまで買う必要はないと判断。スマッシュのホームぺージのアーティスト紹介でも「ネオアコ」という言葉が躍っていたので、アコースティックぽい音を予想していたのだが、何故かステージ上にはミキサーとシーケンサ(キーボード?)が置いてある。「ホントにネオアコかなあ」とちょっと興味が沸いてくる。季節感を出すためか、スタンドにはクリスマスツリーのイルミネーションが取り付けられていて、何だか可愛らしい。
開演予定時間を15分ほど過ぎたところで照明が落とされ、メンバが登場した。小顔で幼い雰囲気のGreg、眼鏡をかけてスマートな印象のAaronとメンバのルックスも爽やかで、この時点では何となく抱いていた音のイメージにピッタリ。ところが、演奏が始まった時点でこの印象は崩壊。Gregのボーカル透明感に溢れ、中性的なハイトーンボイスというのは予想の範囲内としても、キーボードを中心とした分厚いサウンドの壁が、感情を直接的に揺さぶって来るとは思わなかった。それだけならまだしも、打ち込みのリズムや深めにエフェクトがかけられたキーボードとドンドン意表を突く展開を見せられたときには、頭は「ネオアコ」の受け入れ体制になっていただけに呆気に取られてしまった。
ただ、そうした個人的な混乱具合を別にしても、約35分という短いライブの時間さえも彼らは上手にコントロールできていなかったように感じた。まず、楽曲の表面がツルツルし過ぎのザラツキ感が弱く、どうも耳に引っかからずに流れていってしまう。さらには、曲だけにとどまらず、ライブの流れもツルリとしていて、抑揚が感じられない。確かに、時間軸で微分してみるとノリや抑揚が感じられることもあるが、それが持続して表現し切れておらず、ノリどころの判別さえ難しかった。また、アルバムでどうかは分からないが、ライブでの演奏を聴く限り、楽曲自身の魅力も今ひとつで全体的に不完全燃焼。残念ながら、オーディエンスのテンションを上向きにして、次のBritish
Sea Powerにバトンを渡すことはできていなかったように感じた。
19時50分くらいにdelaysが終わって、セットチェンジが始まる。それほど大きいとは言えないクアトロのステージ上に何もないスペースが大きく作られると、アンプやドラムセット、マイクスタンドに花や蔦、鳥の置物が飾り付けられ、空きスペースには木の葉が蒔かれた。ステージ装飾が終わったのは20時20分頃で、照明が落とされると、delaysの爽やかさとは違ったクセがある雰囲気のBritish
Sea Powerのメンバが登場。
ライブは正統派ブリティッシュロック路線の"Fear of
Drowning"でスタート。CDではまとまっていたが、ライブではボーカルも演奏もテンションが異常に高い。ギターがかき鳴らされる度、声が発せられる度に、ピリピリしたような緊張感が会場を横切り、ポストパンクの危うさが充満する。特に、Yanのボーカルはテンション、声質、歌い回しがどことなくJoy
DivisionのIan
Curtisを彷彿とさせることさえあった。比較的親しみやすい楽曲でオーディエンスを温めた後は、アルバムでも異彩を放っていたガレージ風サイケデリアの"Apologies
to Insect
Life"。ドライブ感溢れるギターとキレ気味のボーカルが力ずくでリズムを引っ張っていくエネルギー爆発のこの曲では、キーボードを弾いていたヘルメットを被ったサポートメンバ(?)が太鼓を首からかけて、機械仕掛けの兵隊の行進のようにステージ上を歩き始め、その後は客席に登場。しばらくの間、太鼓を叩きながら客席を闊歩した後、何もなかったかのようにステージに戻って行った。ちょっと反則技という気もしたが、曲の持つエネルギーとパフォーマンスのキレ具合が巧く噛み合っていた。
その後はテンションは維持したまま、しかし、序盤と比べると淡々とライブは進んでいく。British Sea Powerは"Apologies to
Insect
Life"のような何かに憑かれたような曲を持つ反面、メロディアスで正統派の楽曲も多く、親しみやすい面も持っている。中盤ではこの楽曲の良さでオーディエンスを引きつけにかかったような流れだったが、似たタイプの曲が結構多く、「この曲さっきやってなかったっけ?」と思うことも何度かあった。個人的には"Favours
in The Beetroot Field"や"Remember Me"のようなロックモードよりも、"Something Wicked"や"Blackout"、"The
Lonely"のようなエネルギーをセーブしながらスペイシーな空間を作り出す曲に魅力を感じた。
「次が最後の曲です」というMCに続いて演奏されたのは"Carrion"。中盤の流れを無理なく受けるようなミッドテンポの曲は、リフでのYanのファルセットが印象的だが、序盤のテンションの高さを考えるとライブ全体を締めるには少しエネルギー不足。「これなら絶対にアンコールあるな」と踏んでいたのだが、"Carrion"が終わった後でYanが「ゴメンゴメン、もう1曲あったんだ」と苦笑いしている。そしてアルバムでもトンデモナイ世界を築いていた"Lately"。Nobleのギターによる抑え気味のイントロで始まる曲は、途中で何度もシフトチェンジしながら表情を変えていく。気づけばクールダウンしていた演奏は再び加速度を得て、ノイズとカオスの世界へと突入し始める。
一旦、カオティックの暴走世界を作り出してしまえば、そこはBritish Sea
Powerの独壇場。再びヘルメット兄ちゃんは太鼓を叩きながら会場中を行進するし、Yanはマイクを食べたり、ギターをかき鳴らしまがら客席にダイブするし、Nobleはヘルメット兄ちゃんにギターを渡して肩車するしのやりたい放題。彼らの音によって作り出された世界の中に、知らず知らずのうちに身を委ねていってしまい、それまでの中途半端な満足感は吹っ飛び、声を出して笑いながら踊りまくっていた。感心したのは、そんなカオスの中でも、それまでに演奏した曲のあらゆる要素がパフォーマンス込みでキチンと組み込まれていること。15分近く続いた演奏後、心底やられたって感じがした。そして、途轍もない満足感が残った。レーベルの社長がライブを見て契約を決めたという意味がよく分かった。
所々に反則技は使っていたものの、もの凄いライブだった。正直、生で演奏しているということ以外はアルバムと変わらないようなライブがある中、非常に内容の濃いライブだったと思う。British
Sea
Powerのメンバは約1時間10分という限られた時間の中で、アルバムで表現していたもの以外にも自分達がアノ時点で持っている全ての要素を埋め込みながらオーディエンスと対峙していた。バンドとオーディエンスで交わされる共通の自然言語の数が多くなくても、お互いが笑顔になれることを支えるプロセス、それがライブが持つ一つの重要な意味であり、大きな意味でのコミュニケーションだろう。寡黙なメンバが作り出した、豊かなコミュニケーション力を持ったライブだった。(2003/12/21) |