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いやあ、期待の100万倍くらい良かった。というより、実はほとんど期待してなかったので、あまりのデキに驚いてしまったというのが正しいのかも知れない。「セカンドアルバムのあの斜めに構えた世界をどうやって再現するのか見に行ってみよう」程度の物見遊山的な動機で彼らのライブに行ったことを反省しなくてはいけない。ライブが終わったときには、興味半分の気持ちが「見て良かった。見逃さないで良かった」に変わっていた。それほど、期待を大きく裏切ったとんでもないライブだった。
そもそも、ライブのオープニングからしばらくして、僕の曲がった彼らの印象は叩きつぶされた。気難しくて完璧主義のPaul
Draperは直立不動で歌うのかと思いきや、マイクスタンドを掴んで、倒して、頭や腰を振りながら歌うし、曲は思いの外激しく、まさに「ロックンロール」だったからだ。もちろん、セカンドアルバム"Six"の複雑な構成の曲も演奏されているのだが、アルバムを聴いたときの組曲のような印象ではなく、ロックンロールだった。まず、それに驚かされた。
オープニングは"Negative"。"Six"の曲は「基本的にライブ向きじゃないんじゃないの?」と勝手に思っていた。それは、途中でリズムがどんどん変わって踊りにくそうだし、大体本当にあの複雑な曲をライブで再現できるのかという疑念さえ持っていた。ところが、ほぼ完全な形で彼らはライブでもCDの世界を再現してみせた。いや、CDの世界は再現していないかも知れない。CDで聞くよりも、ハードな部分はよりハードに、ときにはサイケデリックなギターを挟むことによって、よりライブで映えるアレンジになっていた。「"Six"の曲ってこんなにドラマティックでハードだったっけ?」という思いが何度もわき上がってきた。幾つかの独立したフレーズを無作為に組み合わせたような印象だった"Six"の曲が、あのような形態であるべき理由がライブでの演奏を聴いて分かったような気がした。あれは、必然だった。
これは、Paul
Draperの歌のうまさによるところが大きい。そして、彼のボーカルに加えられる各種エフェクトも絶妙に曲の雰囲気を出していることは明らかだ。しかし、何よりも素晴らしかったのはChadのギターだった。彼のギターの作り出す世界がなければ、Mansunのサウンドスケープは全く違ったものになってしまうだろう、と思うくらいに重要な役割を果たしていた。ファーストアルバムの曲では、やや激しさは押さえられていたが、それでも原曲の持つナイーブさのような部分を大胆にそぎ落とし、ラフに演奏していたのが印象的だ。そして、これがライブ全体のハードな雰囲気と緊張感を最後まで保ち続けるのに役だったと思う。
アンコールで演奏された"Legacy"は"Six"の中でも最も美しいメロディーを持つ曲だ。しかし、この曲も余分な美しさは取り払い、必要最小限のフレーズのみを演奏する。もう少し、エンディングの部分を聞きたいと思うところですっと止めてしまうあたりが憎らしいほど計算されている。ラストの曲もまさにロックンロール。激しいリズムとギター、躍動感のあるボーカルが絡み合う中でライブは終了した。終わった瞬間に完全に彼らの持っているものを見せて貰った、そんな満足感がわき上がってきた。彼らの音楽が斜めに構えていたのではなく、こちらが既成観念に当てはめてしまっていたのが"Six"を理解しにくかった原因であることがはっきりした。
Paul
Draperは「僕らはライブバンドなんだ。スピード感のあるグルーヴィなロックを作り続けていきたい」と言っていた。彼が本気であることが理解できた。小細工なしに独特の世界を提示できることがMansunの強みであることを実感した。「お見それしました」、彼に会う機会があったらそう謝りたい。 |