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僕はRadioheadの信奉者ではないし、神格化もしていない。もちろん、素晴らしい音楽を出し続けているし、前回見たライブでは身体のそれまでに感じたことがないような衝撃を受けた。だからこそ、今回のライブが楽しみと同時に不安でもあった。「あのライブを越えられるんだろうか…」
オープニングアクトはClinic、去年リリースのアルバム"Internal
Wrangler"の音はユニークだったが、やはり日本盤がリリースされていない状況で大阪城ホールはハードなコンディションだ。ほとんどの観客は座って、曲が終わると拍手をする、淡々と進んでいく。それでも、ClinicはCDよりもライブの方が断然面白かった。ピアニカの音をうまく使い、ウネリ感を出しながら演奏していく。知らない間に身体が反応する。周りの人も次第に身体を動かしていた。全部の曲がショートバージョンっぽく、6時ちょうどに始まったライブは6時半ちょうどに終わった。
ここでセットチェンジ。否が応でもテンションが上がっていく。期待と不安が交錯する中、始まりの時間が近づいてくる。そして、そのときは突然やってきた。
ものすごい歓声だ。4年間の渇望感が一気にエネルギーに解き放たれる。"The National Anthem", "Hunting
Bears"と来て、"Morning
Bell"と続く。間にはThomの日本人のような発音の「こんばんは」というMCが挟まれる。それだけで大歓声。そして、曲が始まると、すーっと歓声が止み、曲に聴き入る。
Radioheadというバンドは、Thom Yorkeのボーカルがどうしても注目されるが、ライブで見るとバンドとしての存在感が圧倒的だ。全てのメンバーの個性と持ち味が正のフィードバックを起こしている。自分たちが何をすべきか、どうあるべきかを完璧に理解しているんだろうと思う。主張しすぎることもなく、退きすぎることもない。ステージから数十メートル離れた僕に届くエネルギー量はとてつもなく巨大で、見ていて、聴いていて、時間が経つ感覚は全く麻痺してしまった。
特に中盤の"Exit Music"〜"No
Surprises"の美しさにはただ立ちつくすしかなかった。普段はバンドと一緒に歌ったりもするが、このときばかりはRadioheadの音を一つたりとも聞き逃したくない、そんな思いで集中して聴いた。震えが止まらなかった。ただ、できれば"Exit
Music"の後のセッティングの時間がなければ良かったと思う。あの時間が短ければ短いほど、"Exit Music"と"No
Surprises"のシナジーが太くなったと思う。それが残念だ。
そして、彼らはライブバンドでもあると実感できたのは、"Kid
A"と"Amnesiac"の曲を演奏しているときだ。クラブ風にアレンジに、情感豊かな歌、何かに取り憑かれたようにThomはタンバリンを叩く。曲の表情が豊かだ。そして、圧倒感とともに感じられる切迫感、自分たちの身体を削りながらも全てを表現しようとしている様が少し痛々しかった。全体的に「盛り上がりに欠けた」という意見の人もいるようだが、僕は「音に集中していた」人が多かったんだと思う。少なくとも、僕は、あの場所で、彼らの放つ音を失うのは勿体ない、そう思ったから演奏中は声も出さなかったし、歌いもしなかった。
本当にあっという間に本編が終わりアンコール。シンプルな"Permanent Daylights"やカバー曲の"The Thief"を挟み、"The
Tourist"で2回のアンコールが終わった。バンドのメンバーが嬉しそうに、そして深々と客席にお辞儀をして帰っていったのが印象的だった。
結論から言うと、僕の不安なんて全く意味のないものだった。確かに、衝撃度は前回のツアーの方が大きかったが、鳥肌が立つような感覚は今回の方が数倍大きかった。Thomは何カ所も音を外していたけど、そんなもの問題じゃなかった。全てをねじ伏せるだけの音楽の力があった。こんなライブ、いつまで続けられるんだろう。いつか、突然止まってしまうんじゃないだろうか、そんな心配さえわき上がる。
でも、これがRadioheadなんだろう。
今回のライブは、オリコンで"Kid
A"をアルバムチャート上位に押し上げた層のリスナーが見るべきものだった。頭の中がクエッションマークで一杯になったリスナーも、このライブを見れば少しでもRadioheadを理解できたと思う。それは僕も同じだ。今回のライブで少し理解が深まった。でも、まだ知らない彼らがたくさんありそうだ。そう、楽しみや驚きはまだまだこれからなのかも知れない。あまり音楽やバンドを神格化したくはないが、この日の彼らを見るとそれも許されるかな、そんな風にも思えた。 |