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Richard Ashcroft / IMP Hall

 残された大物の初来日に、会場にはライブ開始前から充満しているようだった。突然のThe Verveの解散から再結成、"Bitter Sweet Symphony"から"Urban Hymns"での頂点、そして再びの解散からソロの発表。そのいずれのプロセスにおいても、The VerveとRichard Ashcroftは来日しなかった。スローからミディアムテンポを主体としたThe Verve時代の極限までに張りつめたテンションでの世界の構築からのパラダイムシフトを認めるのに時間がかかった人も多い。そして、僕自身もそうだった。ソロの音とバンドの音が違うのは当然だと分かっていても、その大きな表現方法の変化にはとまどいを隠せなかった。ゆっくりと、ゆっくりとソロアルバムを咀嚼できるようになった時点での来日、まさに個人的には絶好のタイミングだった。

 ライトが落ちるとテープがかかり、しばらくしてバンドメンバーの登場。ドラムス、ベース、キーボード、サックス、パーカッションと大所帯だ。その後、しばらくしてRichardが登場し、まだ1曲も演奏していないにも関わらず、この時点で最初の盛り上がりのピークを迎える。1曲目はソロアルバムからの曲"Brave New World"だ。激しいギターの音はなくとも、十分に存在感のあるボーカルが訴えかけてくる。1曲が終わるごとに、会場は拍手で埋め尽くされていく。誰もが彼を待ち望み、渇望している。誰もが彼を、そして彼の曲を愛し、Richard自身も演奏を、歌うことを、曲を、そしてオーディエンスを愛しているようだ。恥ずかしくなるほどクサイ表現だけど、本当にそういった雰囲気で埋め尽くされていた。

 基本的にはソロの作品とThe Verve時代の作品を織り交ぜながらライブは進む。「ソロになったんだから昔の曲なんてやらねーぜ」的な変な拘りがない分、非常に流れがよい。The Verve時代の曲も落ち着いたものが多く、ソロアルバムとの曲とのつながりもスムーズだ。中盤過ぎのアコースティックギターで歌われた"The Drugs Don't Work"が第二のピークか。とにかく音の抜け、声の抜けがよくて、「歌」が直接訴えかけてくる。特別な飾りはなくとも、ストレートに、素朴に歌の力が会場を覆っていく。何ともいえない幸福感を感じることができた。それまでの落ち着いた流れを断ち切るように、ハードに演奏される"New York"で本編は終了。Richardとメンバーは一旦引き上げている。

 アンコールではまずRichardがアコースティックギターを持って一人で登場し、"History", "Song For Lovers"を歌う。The Verveバージョンのどこか悲壮感と切迫感を感じた"History"とは別の曲のようなリラックスした雰囲気に仕上がっている。さらに、"Song for Lovers"もアルバムバージョンでのお涙頂戴節のクサイ部分が抜けていい感じになっていた。そして、再びバンドメンバーの登場。「次は、"Bitter Sweet Symphony"」というと、再びアコースティックギターでの弾き語りが始まる。最後までギターとドラムスのみで演奏され、最後のブレークを合図に例のループが始まる。"Bitter sweet symphony, that's life. My Life, Your Life", "Music!"と歌い続けられ、Richardはステージを後にする。

 本当にストレートに音楽のみで勝負したライブだった。曲と歌、そしてオーディエンスとアーティストとの愛。心をかき乱されるような感動はなかったが、ホッコリと暖かい感動で心が充足された。ソロアルバムの時点でパラダイムシフトなんて起こっていなかった。きっと、彼はずっと彼でいて、それまでよりも彼らしさを出しただけだった。派手なパフォーマンスやMCがたくさんあるわけではなかったが、彼の世界はあの場所で十分再現されていたと思う。そして、多くの人がそれを感じ取り、もっと彼の音楽と彼のことを愛せるようになったと思う。期待を遙かに上回る素晴らしいライブで、手に余るほどの幸福感と勇気を手に入れることができた。