Mus!c For The Masses

Home > L!ve > Sigur Ros
Sigur Ros / Shinsaibashi Club Quattro (2001.10.12)
 Sigur Rosの名前を見たのは去年の春頃だっただろうか。All Tomorrows Partyに出るとかいう記事を雑誌で見て、その後はRadioheadのオープニングアクトを務めるという話を読んだ。で、Summer Sonicに出演するということで、興味津々でライブを見たところ、これが衝撃的。そのときのパフォーマンスについて、僕は、

そして、アイスランドのバンドSigur Rosのステージが始まる。MCは全くなく、最後の曲が終わっても淡々と帰っていく。メンバーの一人が軽く手を挙げるだけという超地味なアクトながら、その存在感は圧倒的。グッとトーンが抑えられた照明に深く澄んだ音が混じり合い、独特のシーンを描き出す。ギターをバイオリンの弓で弾いてみたり、通常のマイクとギターにつけられたマイクを使い分けることで、不思議な効果を生みだしてみたり、アイデアとしてはそれほど新しくはないんだろうけど、永遠に続くのではと思わせるようなリピートにやられてしまった。楽器音だけでなく、ボーカルも澄んでいて美しい。"Thom Yorke Meets Mogwai"といえるかもしれない。とにかく、この日のハイライトの一つだったといえる。

と書いた。あのときだけ会場の雰囲気が変わったような、そんな独特な空気が流れていた。

 そして、まさかの単独での来日。「客入るのかよ〜」と失礼なことを思ったり、「どういうノリをすればいいんだろ」とか考えながら、心斎橋のクラブクアトロに向かう。開演予定時刻の15分ほど前に着くと、意外なほどに客の入りがいい。場内は既に照明がやや落とされ、小鳥の鳴き声のSEが流れていた。これからライブが始まるとは思えない雰囲気だった。

 7時少し過ぎにSEが止まり、メンバーがおもむろに登場。そして、Summer Sonicと同じように淡々と演奏を始める。ライブパフォーマンスには衝撃を受けたものの、最新アルバム"Agaetis Byriun"からは実験的要素が散りばめられた静かで美しいポップスという印象を持っていたが、今回のライブでは、そういった「ポップス的要素」は排除するかのように、いつまで続くのか分からないようなイントロ、ビートを刻まないドラムス、どこまでも伸びていくような澄んだボーカルと他のバンドでは体験できないような世界を構築していた。普通、ライブが始まった瞬間は会場の雰囲気とテンションが一気に変わる。この日も雰囲気もテンションも変わったが、変わったテンションは「緊張感」という意味でのテンションだ。一気に、会場内の空気が引き締まった。そして、最初の一音が出た瞬間、Sigur Rosの世界が始まり、最後で驚くべき完結を見せる。

 ライブ中、ボーカルのJonsiは弓でギターをこすってサイケデリックなノイズを出しながら、不思議な音感のアイスランド語の歌を歌う。しかし、今回驚いたのは、バックの演奏力の確実性だ。ベースのGeorgは淡々としたベースラインで曲にビート感を与え、キーボードやシロフォンを叩く。ドラムスのAgustのプレイは見事の一言だった。通常のスティック、ブラシ、バチ(?)を使い分けながら、細心の注意を払いながらの繊細さから何かに取り憑かれたようなダイナミズムまでを的確に、感情豊かに叩き出す。さらに、彼は途中でイスを持って場所を移動し、キーボードも弾いていた。キーボードのKjartanはSEやキーボード、ピアノを弾いているが、ギターを弾いたり、ときにはフルートまで吹いていた。メンバーは様々な楽器を駆使しながら、独特の世界を維持していく。アルバムでは実験的な要素と感じたが、彼らとしてはごく自然に、当然のように演奏しているだけのようだった。

 美しくロマンティックな世界に、ときどき挟み込まれるサイケデリア。ステージのラストまではほとんどの曲がそういったパターンだった。少ない音で始まり、途中で激しいドラミングが挟まり、ループのようなボーカルとノイズが続く。そして、彼らの曲は、どんな閉塞的な曲にも、必ず「希望」や「広がり」というような未来を感じさせる部分がある。それは曲の中では微妙だし、もしかすると全く意図してなかったり、単に僕の勘違いなのかも知れないけど、そこに惹かれる。暗闇の中の微かな光の力強さに驚かされる。

 ただ、やっぱり全部が同じ調子だと飽きてくる。ちょうど、そんなことを考えているときにその曲は始まった。

 それまで抑えていたエネルギーを全て放出するような激しい曲だった。それまで立ちつくしていた観客がようやく身体を揺らし始める。キーボードもギターもベースもドラムスも、全てが別のバンドのように激しく、力強い。それまでの曲がまるでこの最後の曲のためのイントロのような感じさえした。それまでは、ハッキリしなかった曲の終わりも、この曲では明らかだった。この曲で彼らのサイケデリアワールドは完結した。言葉を失いそうになる圧巻のラストだった。

 時計を見ると2時間弱が過ぎていたことを知り驚いた。アンコールはなかった。これは当然だろう。あのラストの曲以上のものを見せろというのは酷だ。この日もメンバーは一言のMCもせず、Georgが軽く手を挙げただけで帰っていった。でも、その後再び全員で姿を見せ、はにかみながら笑顔で深々と挨拶をした。そして、再び帰っていった後、アンコールの拍手に応えるように再び現れて、深々と挨拶。少し前までアヴァンギャルドで力強い世界を作り上げたバンドとは思えないような、若く屈託のない笑顔に驚いた。

 世界は広い。彼らなら、音楽を使って宇宙人と交信できるかも知れないな、と本気で思いながら会場を出た。