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Sigur Ros / Mielparque Hall
"( )"を聴いたとき、期待が過剰だったのか、"Agatis Byrjun"と前回のライブでかけられた魔法が解けていく感覚さえあったので、今回のライブは 正直どうしようか迷った。ただ、前回の圧倒的な存在感を忘れることができずに行くことに決めた。とはいっても、少なくとも来日公演の様子を知るまでは、ドキドキするような切望感があったわけで もなかった。

今回の会場は馴染みのない新大阪のメルパルクホールで、ゆったりしたシネコンのような椅子と予想外に近いステージが特徴だ。ステージ上にセッティングされたスクリーン にはSigur Rosのビデオクリップらしい映像が流され、数人のスタッフが携帯電話の電源を切るかマナーモードにするように繰り返し注意し、普通のライブとは違った雰囲気が充満している 。

開演予定時刻を10分ほど過ぎた頃に客電が落ち、ステージ上の行灯が"Svefn -G- Englar"のラストで流れる鼓動のようなSEにシンクロして光を放つ中、4人のメンバとサポートのストリングス4人が登場 する。オープニングは"( )"の1曲目"Vaka"でスタート。荘厳なピアノとストリングスに、息遣いまで伝わってくるJonsiの表現力豊かな声が重なった瞬間、早々とSigur Rosの世界観が構築完了。ただ、音のバランスに若干問題があって、キーボードが割れ気味になっていたのは残念だった。ピアニッシモからフォルテッシモまでの 異常に広いダイナミズムを生み出す"Ny Batteri"で起こった一回目の鳥肌は、意表を突いてノーマルなフォーマットを持った新曲"Gong"で多少は 落ち着いたものの、ストリングスとフルートのフレーズが印象的な"Olsen Olsen"で再発。

インターミッション的に挟まれた"Njosnavelin"の後は更に凄みを増していく。飾り音符のフレーズが耳に残るピアノと美しいストリングスを 核として、息苦しくなるほどの長いブレイクで静の力を見せつけた"Vidrar Vel Til Loftarasa"、Georgがドラムスティックでベースを弾くのに呆気にとられているうちに、ピチカートストリングスが重ねられ、 テンポを上げながらキーボード、ベース、ストリングス、ドラムスがユニゾンしてエンディングに向かって動の部分を見せつけた"Hafssol"は本編のクライマックスで、身体が震えて来るほど スリリングで圧倒的だった。ラストはステージを覆うブルーの照明と会場を照らすミラーボールが作り出すビジュアルイメージにマッチした新曲の"Smaskifa"で、一人ずつ徐々にメンバがステージを去っていく。

アンコールは、最後がアッサリし過ぎの感のある"Staralfur"、弓を使って弾くギターから発せられるノイジーな音と呪文的なコトバが不思議な広がりを感じさせる"Svefn -G- Englar"と続き、ラストは"( )"のクロージング"Popplagid"。少しずつ音を重ねる中で感情流出量を調節し、徐々に整然としたカオスへと落ち込んで行く部分、特に 身を削りながら魂を吹き込むようなOrriのダイナミックなドラミングに再び身体が震えた。Orriがドラムセットを壊しながら退場した後、会場に満ちた凄まじいまでの音楽のエネルギーの中で自然発生的に、そして必然的に起こるスタンディングオベイション。一人、また一人立ち上がって行く中で、メンバはサポートメンバも引き連れて拍手をしながら登場して、全員で肩を組み、深々とお辞儀。なおも止まないスタンディングオベイションの中、今度はスタッフも引き連れて登場し、再度全員で肩を組んでお辞儀。メンバが帰っていったスクリーンには、"TAKK Sigur Ros"の映像が あった。

彼らが引き上げた後、僕は口を開けて「ほー」という言葉にならない音を発することしかできなかった。これまでに見たライブ、というよりこれまでの人生で体験した出来事の中で最も美しく、力強く、悲しく、怒りに満ちあふれた時間だった。何度も身体が震えて、こみ上げるものがあった。全てが未体験で、例えるべき言葉、説明に適した言葉が 全く見つからない凄まじい時間。「見る」とか「聴く」というレベルではなく、「身を委ねて体験する」というような感覚。大袈裟じゃなく、そんな感覚が沸き起こった。

Sigur Rosの音楽は、悲しみであっても、怒りであってもそうしたエネルギーを貯め込める許容量が他の音楽よりも高い分だけ、臨界時の破壊力も並外れている。非現実と現実がシームレスに繋がった空間 。表面的にはドリーミーで癒しを感じさせながらも、実態は日常生活では滅多に体験することのない剥き出しの感情表現。こんな交わるはずのない対極にあるものを同居させてしまう柔軟性と懐の深さが 彼らの音楽の武器の一つで、彼らの音楽を聴くことは、これを体験しないと完結しないということを改めて感じさせられた。(2003.4.20)
Set List
  1. Vaka
  2. Milano
  3. Ny Batteri
  4. Gong
  5. Olsen Olsen
  6. Njosnavelin
  7. Vidrar Vel Til Loftarasa
  8. Hafssol
  9. Smaskifa

Encore

  1. Staralfur
  2. Svefn -G- Englar
  3. Popplagid