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前回の単独来日では、クアトロにブラス隊6人を引き連れて、瞬間最大人数14人で目眩くサイケデリックワールドを体現したSpiritualized。不協和音の一歩手前で偶発的のように、しかし必然的に生み出されるサイケデリアは
余りに衝撃的で、Spiritualized流のガレージ"Amazing
Grace"リリース後ということもあって、ライブ感覚が強く押し出されるという予感はあったけど、やっぱり楽しみだった。そして、その予感は総論としては当たっていたけど、常人のステレオタイプなロジックを嘲笑うかのようなクライマックスには恐れ入った。
定刻を少し過ぎた頃、BGMがフェードアウトされると同時に照明が落とされた。その後、オルガンのような音のループが続き、5分ほどしたところでメンバが登場。ボーカル&ギター、ギター×2、ベース、ドラムス、キーボード、パーカッションの7人編成。残念ながら生ブラス隊はいなかったが、狭いクアトロのステージ上に7人もいると圧巻だ。前回、横を向いたまま演奏を続けたJasonはステージ右端に腰をかけた。横を向いて座って歌うフロントマンというのも特異だ。
ライブは"All of My
Thoughts"でスタート。リラックスしたAメロと緊迫した間奏やアウトロの対比が強烈なインパクトを生み出す。特に、時々刻々と変化していく複数のギターノイズの絡み合いと、その後ろで焚かれるフラッシュの激しさはクライマックスかと思うほど強烈だ。挨拶代わりの軽いサイケデリアを見せた後は、ロックモードの"Electricity"、スローサイケデリアの"Shine
A Light"、ポップブルースの"Walking with Jesus"と来て、新譜"Amazing Grace"から"Hold
on"へと流れる。音の少ないイントロから始まり、言葉を選ぶように丁寧に歌い上げていくうJasonのボーカルに、途中からギターが重ねられるシンプルでいて必要十分なアレンジは曲の秀逸さが素直に表れており、起承転結の「起」を完璧に締めくくった。
その後は"Amazing Grace"からのリアリティ溢れる直球勝負の楽曲が続く。痺れるようなロックモード"She Kissed
Me"、ゴスペル"Lord Let It Rain on Me"から非常に長い感情変化の周期と広いダイナミックレンジを持った"Oh
Baby"、"Ladies And Gentlemen We Are Floating in
Space"のフレーズを挟みながら、時計の進む早さを抑える"Anything
More"への流れで「結」が終了。「起」を受けながら、ギターノイズを抑え気味にしたSpiritualized流ルネッサンスと呼びたくなるような人間を中心に据え、会場の空気をホンノリ温めていくような曲が続いたのが意外だった。その一方で、予想範囲内ではあるが、ジワジワと神経や時間感覚が麻痺していくようなサイケデリアは影を潜め
ていたことが物足りなかった。
タイトな演奏が基盤を支える中、主旋律上で微妙に揺れるJasonのボーカルの"Cheapster"で再度ロックンロールモードの「転」
へと突入。"This
Little Life of
Mine"もコンパクトな曲の中に、今のSpiritualizedが抽出されていて、アルバムでは物足りなかった"Amazing
Grace"のプリミティブさがライブの場で効果を発揮し、ライブの流れをコントロールしていく。そして、この流れの中でこそ生きる"Let It
Flow"。女性コーラスのループを使ってジワジワとアチラ側の扉のノブに手をかける。この曲を前半にやっていたら、緩い流れの中に埋没していただろう。まさに、セットリストの組み立ての妙だ。但し、完全にアチラ側に導くことはせず、ギターとドラムスが活躍するロックモードへと揺り戻しが起こり、大きな歓声と共に始まった"Come
Together"で興奮を駆り立てられたところで「転」は終了。"Come
Together"に関して言えば、前回の生ブラスをフィーチャーした印象が強烈だっただけに、あの昂揚感が感じられなかったのは残念だった。
そして、「結」ではマクロ的にはそれまでの流れを引き継ぎながらも、"Broken Heart"や"I Think I'm in
Love"ではクライマックスへ向けた仕込みを粛々と開始。"Run"ではロックモードからサイケデリアモードへのシフトチェンジが行われ、ギター、リズム、キーボード、ボーカル総動員で緻密なカオスを形成し、それまでの消化不良を一気に解き放つ世界を構築。この曲で終わっても構わないと思うくらいの圧倒感。ただ、ここでライブは終わらない。続く"Smiles"は前の曲で作り上げた世界をアッサリと取り壊し、淡々と抑揚のないメロディにボソボソとボーカルを重ねていく。「前の曲で終わった方が良かったんじゃないの!?」と思った直後から、常人の想像力を凌駕する光景が始まる。
後ろからの照明とフラッシュライトに浮かび上がったメンバは楽譜に表現できるのかと思うようなやりたい放題に音を発し続ける。確かに、ギターもキーボードもパーカッションも、それぞれが好き勝手演奏しているような感じなのに、全体の中で必要不可欠なピースとしての存在意義を持っている
凄さ。昂揚感とかサイケデリックという言葉が薄っぺらく感じてしまうほど濃密で、時間感覚を麻痺させる音と光の洪水が360度の方向から身体に突き刺さり、それまで控えてきた狂気の世界をこの一点で解き放ったような凄み。
そして、激しいギターのノイズとドラムのロールが身体に染み渡り、「ずっとこの音に溺れていたい」と思った瞬間に音は止まった。表層的には、「起」「承」「転」で築いた流れを吹っ飛ばしてしまう「結」。但し、脈々と流れるSpiritualizedの音のDNA上で全てが繋がっているという意味では決して突拍子なものではなかった「結」。予想できなかった展開に、ライブ終了後はしばらく呆然となった。そう、ちょうど去年のSigur
Rosのライブを見た後と同じような状態だ。
MCはラストの曲が終わったときのJasonによる"Thank
You"という言葉以外は一切ナシ。曲間はオーディエンスからの無駄な声援を抑制するためのように、SEが流される。あの場で行われていたのは、音楽というメディアを使っての一方向のコミュニケーション。それでいて、閉塞感や圧迫感、抑え付けられたような感じはしない不思議な感覚。インタラクティブなライブは楽しいが、一方向でもその完成度が高ければぐうの音も出ない。それにしても、このライブの完成度を目の当たりにすると、クアトロ規模の少人数で共有するだけではもったいないと改めて思ってしまう。ちょっとでも彼らの音が気になれば、あらゆる予定をキャンセルしてでも体験すべき音だと思う。(2004/3/14) |