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Tears For Fears / Festival Hall

 Tears For Fearsは困ったバンドである。ライブ当時はアルバム2枚とミニアルバムを一枚出していただけであり、それほど激しく困ったバンドではなかったが、恐らく今来日してライブをされるとどういう顔をしてライブに行けばよいかは分からない。彼らの作品は1枚ごとにその音楽的指向性を大きく変えてきた。1stアルバムでは、シンセサイザーを使いながらもいわゆるエレクトロポップとは一線を画した内省的なサウンドを聴かせていた。シングル"Suffer Little Children", "Mad World", "Pale Shelter", "Change"はどれも人間の内面的な部分を物静かなシンセサイザー中心のメロディに乗せて聴かせるものだった。そして、次にリリースされた"The Way You Were"も基本的には同じ路線だった。しかし、その次にリリースされた"Mothers Talk"でサウンドは大きく変わる。いきなり、ビートが利いたサウンドにギターがからみ、シンセサイザーがリードをなぞる。サウンドは力強くロックっぽくなった。確かに、"Shout"なんかはアレンジもメチャクチャカッコいいし、ヒットするのも当然だ。しかし、それまでのTears For Fearsを知るものとしてはこの変化には戸惑いを隠すことができなかった。おまけに、"Everybody Wants to Rule The World"はシャッフルだ。どういう顔をしてライブでこの違いを受け止めればいいんだろう、その思いは強かった。

 当時、英米でNo.1ヒットを連発していたTears For Fearsのライブのチケットは発売後すぐにソールドアウトになった。ほとんどの人は"Shout"そしてアルバム"Songs from The Big Chair"から聴き始めた人だろう。彼らが1stアルバムの"The Hurting"をどのように受け止めるのかは興味深かった。ただ、相変わらず自分の中ではあの全く違うサウンドをライブでどのように聴けばいいんだろうという思いは強かった。サウンドは変わっても歌詞で表現されているのは人間のメンタルなものが多い。それがせめてもの救いだった。そこに統一性を見出して何とかTears For Fearsの音楽を聴き続けることができた。

 ところが、ライブでは見事に裏切られる。Tears For Fearsのメンバーは笑顔を振りまきながらロックバンドとしてのパフォーマンスを見せている。観客もどんな曲が演奏されても踊っている。唯一静かになったのはピアノのバッキングで歌われた"I Believe"くらいだった。正直言って混乱した。観客はまだしも、メンバーが何故拳を突き上げて"Shout"を歌っているんだ。当時、マジメに音楽を聴こうとしていた高校生の自分には全く理解できなかった。

 でも、昔は比較的マイナーなバンドも良く日本に来ていたものだ。今、Tears For Fearsのライブを日本で見ることなんてまずできないはずだから、生で彼らを見ることができたのは良かったのかも知れない。今ならそういう風に割り切れるが、ライブを見た当時は「何だ、こいつら」という印象だけが残ったのを覚えている。

 ちなみに、その後リリースされたアルバム"The Seeds of Love"のジャケットはサイケである。アルバムからの1stシングル"Sowing The Seeds of Love"にそれまでとは全く違うサウンドである。まったく、良くこれだけ多くのことができるものだ。本当の天才か、ポリシーのないバカかどちらかだが、その後の作品を聴いていると決してバカではなさそうである。今なら彼らのライブを見てももう少し落ち着いて受け入れることができるような気がする。