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もう見ることができないかもしれない、もう会うことができないかもしれないという事実を突きつけられたときに生じる衝動はどんなものだろうか。次はないという渇望感か、それともこれで十分だという満足感か。心斎橋のクラブクアトロに向かうパルコのエレベータの中には「今回の公演にはWilliam
Reidは参加しておりません」の張り紙がある。僕はインターネットで知っていたが、僕と同年代くらいの女の人は「えーっ、Williamを見に来たのに」と叫んでいた。Williamは先日のアメリカロサンゼルスでのライブ中にステージを降りてしまい、その後ツアーには参加していない。これが即座にバンドの解散に結びつくことはないとバンドのスポークスマンは言っているが、Jimもソロアルバムの製作に入るということもあり、今回が最後のライブになるかもしれない。今日のライブはそんな特別なライブだった。
定刻より10分弱遅れて照明が落とされ、少しコミカルな音楽がかかり始める。「Merry
Go-round」とかと歌っている。ステージ上の安っぽいイルミネーションが光る。しばらくしてメンバーが登場する。そして、注目の1曲目。これが全く何の曲だか分からない。僕は彼らのアルバムはリアルタイムでほぼすべて聞いているのだが、アルバムとしては認知しているものの、1曲1曲の区別がつかないことにここで気づいた。全体的に似ているから仕方ないという話もあるのだが。。。
演奏のほうは予想していたよりも随分しっかりとしている。しっかりとしているというよりは、リズムもギターも安定していて、彼らはライブが下手といういつのまにか抱いていた既成概念が打ち砕かれた。だけど、コンパクトにまとまりすぎていたような気がする。まとまったThe
Jesus & Marychainを聞くことになるとは少し寂しい気さえした。曲は最新アルバムと以前のアルバムからバランス良く演奏され、新曲も演奏された。この新曲というのがThe
Jesus & Marychainとしての新曲なのか、Jim
Reidとしての新曲なのかは分からない。それにしてもライブで始めて気づいたのは彼らのメロディーのキュートさだ。思えば以前は聞くものの意思を跳ね返すようなフィードバックノイズの向こう側で小さくしか聞こえなかったメロディーが最近の作品ではしっかりと前の方に出てきている。ライブでもその曲の良さに驚かされる。それを今回気づく自分もマヌケだ。もっと前から気づいておくべきだった。
ところが、客のノリが悪い。確かに彼らの曲は引きずるようなリズムの曲も多く、ノルのが難しいことは難しいのだが、じっと突っ立っている人が多い。Jimも少しいらついたり、切れそうになっているようにも見える。Jimはマイクスタンドをステージに叩きつけたり、マイクをマイクスタンドにつけたりはずしたりと少し落ち着きがない。これも全てWilliamの不在が原因なのか?それともこれが彼の普段どおりの行動なんだろうか。曲によってはWilliamが弾いていたと思われるリードギターの部分が省略されていて、重要なピースが一つかけ落ちてしまったことを強く実感させられる。そして、彼がいないことでバンドがコンパクトとなり、張り詰めるような良い意味での緊張感もなくなってしまっているようにも思える。とにかくコンパクト過ぎるのだ。それが客にも伝わっているのだろうか?一部を除いて信じられないくらいノリが悪い。
最新のヒット曲"I Love Rock'n' Roll"や昔の名曲"Sidewalking"を演奏しても一部以外はそれほど盛り上がらない。Jimは曲の途中で苦笑しながらも真面目に最後まで歌っている。それが余計に物寂しい印象さえあった。結局最後まで不完全燃焼なままライブは1時間10分程度で終了した。失われたピースはギターという音楽的要素以外の部分で非常に大きな影響をバンドに与えているように思える。今になって、そのことにどうのこうの言っても仕方がないのかもしれないが、あまりにも大きな物を失ってしまったような気がする。音楽的にはうまくまとまった「普通の」ロックのライブだった、というよりしっかりとした良いライブだったと思う。しかし、こういった単純な感想しか持てないことに少し物足りなさを感じるライブだったことも確かだ。まさか、The
Jesus & Marychainに普通を感じるとは思ってもみなかった。もう見ることができない、もう会うことはできないかもしれない。今回のライブは今後の彼らへの欠乏感を吹き飛ばすものではなかった。本当に次はないのだろうか・・・
最後の曲でJimがマイクを放り投げるように引き上げていったのは気のせいだろうか。一番寂しかったのはJimだったのかもしれない。 |