東京ドラッグ 著者.ヤマモトユキコ
------思い出すとそこは光で溢れていたはずだった------
いつだってそう 夢見がちなことばかり考える
平凡に育ったはずで見るからに「田舎」と呼ばれる地で育ち
なぜそうなったかなんていつもわからない
きっと現実があたしにはどうしても信じたいモノで溢れていたんだ
でなきゃこんなに汚い現実に立ち向かおうなんて思うはずがない
でもたぶん今もどうにかしたくて生きている、いや生き残されている
そんな気がしてならない
----[東京]かつては「夢の街」と読んでいた----
ふつうに生まれふつうに育ち、コレというモノを持っているかはわからないが、
確かにこの夢の街で自分は輝くと願っていた
この街に出てきて約2年、
「まだ2年か」
そう思うくらい毎日がとても長く感じていた
いっしょに出てきた仲間は、この街にのみ込まれて
つぶされていくヤツもいた
私は、それを「東京ドラッグ」と名付けていた
東京は誰もが生き急ぐかのように見えた
毎日目がまわるような人混みの中で生きているのか死んでいるのか
自分という存在がここに本当にいるのか・・・不思議に思える瞬間がそこにはあった
そのせいだろうか、ショーウィンドウに映る自分を見ることで
「確かに、この場所に立っている」と確認する
自分も東京ドラッグにやられてるんじゃないか?
不安はいつだって夜に沈む・・
そして目がさめるのはだいたい朝で---
この家に、引っ越してからソファーで眠るくせがついた
はじめは眠れないのが理由だったが、今となっては大切な相方だ
東京ドラッグは一日に何人もの人々を呑み込んでいく
そして、私と同じようにこの街を「夢の街」と信じる者達がいれかわりに現れる
どうやらまた1人、呑み込まれたようだ
残念なことにそれは私の幼なじみのつばさだった
そしてジョーダンのように「つばさの翼が折れたならしばらく飛べないね」と
友達が私にいった
笑えない・・・笑えるわけがない・・・
同じ街でボクラはこの街に光を灯そうと誓い合ったのに・・・
そしてすっかり自分を見失ったつばさを前に
私はただ涙を流すしかなかった
「負けるもんか」
私は以前同じように呑み込まれそうになったことがある
けれど、そんな時傍にいてくれたのはつばさで
そして言葉をくれたのもつばさだった・・・
そう、この時つばさはあの誓いを、もいちど指切りして私にいってくれた
だからまた歩き出すことができたのに・・・
あの強い目は希望で満ちていた
だけどすっかり暗闇に埋もれている
何をいっても答えない
いったいあれから君の身に何があったというんだ
その目に映っているはずの私の姿さえも今は影でしかないんだろう・・
また1人また1人 心を閉ざす
私はもがいているだけなのかもしれない
でも、泳ぎ疲れる前に必ず光を灯してみせる
どんなに見栄えがわるく、ださいだけの私が
今ここに立っているとしても・・・・
だってつばさはその様を「美しい」といってくれたのだから
恋人だったわけではないが、いつも心の支えにあったのは
恋人以上につばさだった
神様のようにいつも見守っていてくれた
「次は私の番ですか?」
心の中でそうではないことを願った
”東京ドラッグ”ふざけてつけたはずの名がこんなにこの街を呑み込んでいくなんて・・・
こんな日はこの街から抜け出したくなる
だけどそれは私にとっての「負け」にすぎない
だからたまにドライブにいく
大好きなROCKを聞きながら・・・
あまり人に知られてないが私にとって一番の夜景スポットがある
東京にもこんな所から見下ろせば
胸にある希望をまた思い出せる気がする
まだ諦められない・・・
この街に私しかない光りを灯してみせる
できればつばさの光りもも1つあればいいなぁ
なんて・・・この夜はやけに静かで星さえつかめそうだ
大好きな照明とROCKに私は不思議と勇気がわいた
そして目には涙があふれた
結局この日も家の明かりをつけることなく毛布に身をつつんだ
目が覚めると外はもう薄暗かった
どれくらい眠ったのだろう
どれくらいの時間を無駄にしたんだろう
専門学校を卒業してから掴んだモノは大きいモノかはわからない
もらえる仕事はあまりなく、同じ夢を持った人が溢れているこの街で・・・
何かおもいきりすごいモノを作れないのだろうか
そして評価を得たい・・・
一生誰かに作品を見てもらえるならいいのに・・
写真家を目指したのは高2の時みた名もない作品の個展がきっかけだった
その時レンズ越しに見えるセカイに心を奪われた
どこにでもある空と地の美しさ・・・
そしてどこか汚さを混ぜ合わせたモノばかり
「東京ドラッグ」そう名付けはしたものの、この地にだって見えるモノは沢山あるはずだ
昔、箱に残しておいたフィルムを手にし、また夢を再確認するかのように目を閉じた
そして明日の計画を立て夜遅くまで小さい旅の準備をした
朝早く起きてつばさを連れていくことを決めた
同じ部屋にこもりきりのつばさを連れ出すのはきっとすごく困難だろう・・
不安の色にぬりつぶされそうになりながら再び浅い眠りについた
その日の夢は真っ白な箱に閉じこめられる夢だった
妙に優しく そして不思議な光りに照らされて・・
アラームがなりまた1日が始まった
つばさを思い、そしてカギをしめ、車に乗り込むと
20分ほどでついた・・・つばさの家だ
カーテンでしめきられた部屋に黒い影
私を見ると弱々しいエガオで現れた
この日のつばさは少し怖いと思えた
勇気をだし言葉を口にだした
「ねぇつばさ、こんな晴れた日にカーテンなんてしめてちゃつまんないわよ。
私のドライブにつきあってほしいの。」
明るく声をかけたもののつばさの返事は即答だった
「ムリだよ」
その一言だった
震えた声 何かを見つめてまた口をひらいた
「何で僕は生きてなきゃいけない?どんなに食べることをやめても、
歩くことをやめても僕はココに存在している。その現実にうんざりなんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
口を開いてくれただけでもいい方だった
そう、まだ希望があるような気がした
秘密の丘につづく長い坂道
半ば強制的に車の助手席にのせると
子共にもどったようにつばさは目を丸くして空を見上げた」
「外にでるのはいつぶりだろう」・・・・・・呟いた
まるで別セカイでもみるかのように小さく震えた声だった
そう、そこは特別の丘
地元に近いその場所は家から2時間半ほどのところだ
私は以前恋人と一度だけ訪れたことがあるのだが
あれ以来ココを見ることは一度もなかった。でも、記憶は深く胸に住み着いていた
まだ一人暮らしの間もない頃に見たその地は
時間と共に表情を変えてゆく
青々とした並木道を過ぎるとそこは白く輝いていた
この地に着く頃つばさは静かに呼吸をし涙を流しては微笑んでいた
どんなに深い闇を心に持つつばさでも綺麗なモノをみれば心洗われるのだろう
そしてこの私も”東京ドラッグ”に呑み込まれてしまう前に・・・
優しい日差しに照らされた今
ボクラに見えるセカイは 幼い頃の母のように優しく あたたかく
そして穏やかだった
闇に呑み込まれる前に手をかざそう
光りに 光りに手を・・
その目に映るモノが決してキタナイモノばかりでないことを・・・
気づかせてくれたその名は そう
”東京ドラッグ”
常に闇をもつこのセカイを愛すること
忘れないで・・・・・光りがあるということを
ねぇ 私にまた夢を教えてほしいの
東京ドラッグはまたどこかで誰かを闇に置き去りにする
そして光りをあからさまに照らす
気づけと・・・気付けと言っているんでしょ???