| 随想2(M家の思い出2) |
| ちょっとここで、ノンフィクション風にとあるM家の一日を描写してみたい。無論、克明な記憶は 残っていないので、こんなこともあったかな、というようなことをつなぎ合わせて一日の生活として みたい。 ある、春の良く晴れた日のことである。私は昼頃に起きて、いつものようにのらりくらりと寝床で タバコを吸うともなく吸っていた。平日であったが、すでにその曜日はいわゆる、”切ってしまった” 授業しかない曜日であったので、大学に足を運ぶ必要もなく倦怠感に満ちた起き抜けの一時を 一服してすごすというろくでもない態度を決め込んでいた。 その一時を裂くように携帯電話の着信音が鳴った。うすよごれた液晶画面を見ると、発信者が Sであることが知れた。丁度一日どう過ごすか思案していたところであったので、渡りに船とばかり 電話に出た。 「 よう、おはよう。起きたか?? 」 相変わらず人を食った関西弁で真実を単刀直入についてきた。 「 おう 」 「 ヌシは今日どないすんねん 」 「 今考えとったとこや 」 「 こいや、YBで、小金井公園いこや 」 ”YB” というのはSが格安で売ってくれた原付のことである。今も庭に置いてある。 「 あ?小金井??なに?? 」 「 あほやの〜、ヌッシァ〜、今小金井公園ゆうたら、桜しかないやんけ〜 」 「 おう、さよけ。ほな、出るときに電話するわ〜。 」 「 おう、3秒で支度せい。 」 「 無茶言うな。 」 そんなわけで、自分で考えることなく、私のその日の予定は決まった。起きて服を着て原付に またがる前にSに電話した。その日も国分寺へ続く道はたいして混むこともなく、快調に流れて いた。 やがてM家について、駐輪場に原付を置いた。ドアをノックしても誰も出ない。ちなみに今回 も暗黙の了解で待ち合わせはM家である。しかたないので、またしても暗黙の了解で窓から中に 侵入する。一服していると、Sがやってきた。こいつの足は原付ではなく、ちゃんとした中型である。 「 おう、まったか? 」 「 いや 」 「 ほないこけ 」 「 おう 」 というわけで、われわれはバイクで小金井公園に行き、花見をしてきた。小金井公園というのは 非常に大きな公園で、一度や二度言ったくらいでは道を全部覚えることは出来なかろうと思われる。 しかし、ただ花見をしてきただけでもあるし、何か重要な話をしたわけでもない。まぁ要するに行って 缶コーヒーでも飲みながら、タバコでもふかしていたんであろう。というわけで、二時間後・・・ 「 おう、晩飯は??どないする? 」 座椅子にひっくり返りながらペプシコーラを一口飲んだSはそう言って私を見た。 「 もうすぐ暖かなるし、もう鍋もあつうてでけんやろ。さいごのなべっちゅのはどないや? 」 「 ほぅ。・・・・・・。 」 この男にしては珍しく沈思した。しかしこの男、世に聞こえたせっかちである。さっそく、 「 お好み・・・・・・。 」 つぶやくようにこの一言を吐き出した。無論、私にも否やはなかった。 我々が使うスーパーは旧M家のときと同じであった。” OKストア ”という、なにがOKなのか 良く分からないが、なかなか価格もよく抑えられた良心的な−スーパーが行きつけであり、 その日もそこへ行った。 まず、スーパーというものは入ると野菜コーナーがある。理由はあるのだろうが、私としては 別にいきなり肉コーナーでも魚コーナーでも良いのだ。しかし大概は野菜である。そのスーパーもご多分に もれず、やはり野菜コーナーが入り口付近にあった。 「 もうメニュー決まっとんやからちゃちゃっといくで 」 わたしはもせっかちのSにあてられたかしてその日はすばやく買い物をした。 「 そやの 」 当然、Sも否やはない。 「 とりあえず、きゃべつや、にんじんや、小麦粉、たれ・・・・・・ 」 と、じつにスピーディーに買い物を終えると、 「 わしは例のもん(BEER)買うわ 」 と、コンビニへ直行。Sもおやつやペプシコーラなど、いつもの必需品(?)を、購入。 スムーズにM家に帰還した。 しかしここからなかなか動かないのがM家の真骨頂である。まず、かんじんのMがなかなか 帰ってこない。ゆえに、電話でMに断ってまずは飯を炊いておく。しかしまだ始まる気配もないのに 準備するのもだるいので、なかなか小麦粉を溶かしたりはしない。 「 ああ、腹減ったのう・・・・・。 」 とか二人でいいながらTVを見つつタバコをいつまでもふかし、 「 ヌシがやれや 」 などと、仕事を相手に押し付け合うちょっと贅沢な一時がメインイベントの前の静けさとしてまったり と流れて行く。 そして待つこと一時間弱・・・・、 「 ガタガタタッ!・・・がチャン!・・・ガサゴソ・・ガサ・・・ 」 帰ってきてもこの男、帰ったぞ-とか基本的に言わないのである。 「 おうー、Mさん、おかえりですか〜 」 そう、M家の主人、Mの帰還である。バイトからついに帰ってきたんである。 「 ほな、そろそろ焼こか〜 」 「 おーなんや桂野、用意ええな〜 」 珍しくあとは焼くだけといった、非常に手回しの良い私を見て、ちょっと嬉しそうにボールを覗きこむ M,そこには溶いた小麦粉に卵やキャベツ、肉などが放り込まれた例のとろりとした液体がたっぷり 入っている。 「 Mさん、ワシや、ワシ。こいつがほっといてこんな事するわけないやろ。 」 自分でやれといっておいて無体な発言のS、当然私も黙ってはいない。 「 何ゆうとんねん、オンドレ。わしがやったんやないけ!! 」 「 やれゆうたんはワシや。 」 と、S。 「 ああ、ありがとうございましたSさん、助かりますゎ〜 」 Mも冷淡な男である。私はメインディッシュを食べ始める前から”例のもの”をあおり始め、早くも 今夜のM家は荒れ模様を呈し始めた。 そして、TVか何か見ながら、やっと晩飯である。待ちに待ったお好み焼き。ちゃぶ台についに その座を与えられた、輝かしいホットプレート。ジュッと音を立てる、お好み。ガンガン私のノドの 奥に消えるビール。いつものM家の晩餐の始まりである。 「 じゃあさっそく 」 と、マヨネーズを取り出したのはMである。 「 !! 」 一転してまたしても顔を引きつらせる私。マヨネーズは苦手なのである。 「 焼けても俺のところには入れるなよ 」 と、ひときわ力をこめてビールを飲み下す私。 「 そんなことは保証できんなぁ・・・ 」 と、すっとぼけた顔でSがおちょくる。 そんなこんなで当然お好みが焼けてくるわけだが、三つに分けたお好みには無事ノンマヨネーズ の部分が作られ、3人ともそこはかとなく幸せな顔つきになっていき、ビールは着々と私達の肝臓へ 送りこまれ、夜は更けていった。 (終わり) |