一度事務所に戻った2人だったが、シュウはずっと黙ったままだった。
「ねえ、平山さん・・・シュウさん、どうしちゃったんですか?」
神波が心配そうに平山に聞いてきた。
「さあね・・・俺にもわからん。ずっとクライアントの部屋出てからああなんだけど・・・」
平山は自分のデスクでマルボロの煙をくゆらせながら神波に言った。
石橋が茶化すように平山にこう言ってきた。
「どぉーしたのぉー、ひらぁまちゃーん☆今日はなんにも収穫なかったかなぁー?」
平山はいつものように明るく「ま、そこそこっすね☆」と笑って石橋に返した。
が、ほんの一瞬悲しげな表情を見せた平山に誰も気づくことはなかった。
平山は自分のデスクで今日の情報をまとめていた。が・・・今日、千佳から聞いた思わぬ名前が彼の意識を過去にさかのぼらせた・・・。

あれは平山がまだ警視庁で活躍していた頃・・・ある犯罪テロ集団を追っていた。
テロ集団の幹部が星野であった。星野は暴力団と手を組んで、窃盗、銃の密輸入及び密売、薬の闇取引などをやっていた。
あの日・・・もう何年も前の雨の日・・・
激しい銃撃戦になり、平山とコンビを組んでいた刑事が銃弾を受け死亡した・・・。
殺された、と言った方が早いだろうか・・・。その戦いの末、逮捕も出来、務所送りもできたが・・・それほど長くぶちこめるものでもなかった。
その事件には大物政治家も絡んでおり、誰も手を出さない中平山が食いついていったがために、その大物政治家も逮捕することが出来た。
だが・・・果たしてそれで良かったのか・・・自分のやり方は間違っていたのか・・・そういう思いに苦しめられ・・・平山は警視庁を辞めていったのだった・・・。
もうあれから何年も経っているのに、逮捕した時のあの星野の顔が・・・
あの逮捕されても勝ち誇ったようなあの顔が・・・今でも忘れられずに平山の 脳裏に焼き付いているのだ・・・。

  「嫌なこと思い出しちまったな・・・・・」と独り言をつぶやいて平山は苦笑した。
そんな平山をシュウは黙って見ていた。

千佳の店に行くのに事務所を早めに出た。それでもシュウは黙ったままだった。
6:00pm、千佳の経営する店バー「千佳」に着いた。中に入る。
「いらっしゃいませ☆」千佳が営業スマイルで迎えた。店は意外に広く、20人は入るくらいの広さだった。
席は様子をうかがいやすく、あまり目立たない奥の席に座ることにした。
「あ・・・仕事中なんで・・・ウーロン茶で・・・」店の女の子に2人は言った。
8:00pmになった頃、高久という男が現れた。なるほど小柄な男である。 すでに酔っているのか(手にはREDのボトルが!)ヘラヘラ笑っているのが実にあやしい・・・。
ソファーの席に座ると、高久は千佳に隣に座るよう言った。
そして、千佳が言っていたとおり口説きだした。それから10分ほどしてだろうか、一人の男が高久の席にやってきた。星野である。
(まちがいない・・・アノ星野だ・・・。あいつ・・・刑期が終わるまであと2年ほどあるはずじゃ・・・?!)

シュウはライター型の小型CCR(CCD?)カメラで2人の姿をおさえた。
しばらくすると2人が立ち上がり、店を出ていった。こちらも2人で出ていっては怪しまれるので1人ずつ出ていき、あとで合流することにした。
まずはシュウが出ていき、あとを付けていった。
シュウが出ていってから平山は何か引っかかるものを感じていた・・・。
(何だろう・・・何か・・・胸騒ぎがする・・・)
10分ぐらいしてからだろうか、シュウから連絡が入り、駅近くの喫茶店に2人が入っていったということだった。
平山もすぐそっちに向かうことにした。
連絡が入ってから10分後、平山はシュウと合流した。
「星野と高久は?」「ありがたいことに・・・ほら、あそこ・・・」
窓側の席に2人が座っていた。
「あとはお前の得意な読唇術の出番だ・・・」「OK☆」
平山は2人の口元に神経を集中させた。
『ウマクイキソウカ?』
『ワカラネェ。アノ女モ カナリガンコダ。』
『ダガ、オレハ、オマエニ“ストーカー”シロトマデハ イッテナイゾ』
『アイツガ セイシンテキニマイルタメニハ “ストーカー”シカネェト  オモッタンダヨ』
『コノサクセンガウマクイカネェト トレタチマデ ヤバインダゾ。アノ “イシバシ”ッテオトコハ ナメテカカッタンジャ オレタチマデコロサレチマウンダカラナ・・・』
(え?今なんて・・・???“イシバシ”???まさか・・・貴明さんが・・・星野たちと・・・???)
「どうした、平山?なんか顔色悪いぞ・・・」
「え?いや・・・なんでもない・・・大丈夫だ・・・」
(確かに貴明さんの様子が最近変な感じはしたし・・・なんか隠してるとも思った・・・。嫌な予感もしてた・・・でも・・・)
平山は石橋を信じたかった・・・信じたかったが最近彼が石橋に感じる違和感を思うと信じたい気持ちが揺らいでいきそうだった。が、次の言葉で彼の信じたいという思いは打ち砕かれた。
『アノヒトハ ジブンガノゾムモノハ ドンナシュダンヲツカッテデモ テニ イレルオカタダ。ダレヲキズツケヨウト ダレガドウナロウト カマヤシネェ。カンケェネェンダヨ。』
『タカク・・・ボロハダスナヨ』
『アァ・・・ワカッテルヨ、ホシノサン』
平山はまさかこんな形で自分の予感が当たるとは思ってもいなかった。そして シュウには気づかせまいと、冷静さを装った。
「あ・・・シュウ、2人が出てきた・・・」「よし、つけるぞ・・・」「OK☆」
あとをつけてはみたものの、彼らはどこに行くでもなく各々の家に帰っていった だけだった。
しかし何か動きがあるかもしれないとシュウが言い出し、二手に分かれて見張ることにした。
高久を見張る平山は、彼の部屋を見ながら、自問自答を繰り返していた。そして・・・さっきと同じ・・・胸騒ぎを感じた。


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