腐敗都市
どんな苦しみでもなくせる薬なんて合ったら、
どれだけの自虐者を救えるだろう・・・。
どれだけの子供も救えるだろう・・・。
中途半端な精神安定剤を自販機で買って、
それでも落ち着かなくて、
朦朧とした世界を徘徊しては痛みを知ろうとしない現代人は弱き者を狩る。
闇が社会に張り付いて、
切り離そうとする光を人々は壊していく。
どれだけ良い世界にしようとしても、
みんなが全てを壊していく。
悪いモノに汚染されていく人々・・・。
すでに俺の腕は毒にやられて痺れてきている。
中途半端な精神安定剤を口にして身体の傷を見つめ直す。
そしてどれだけ愚かだったか思い知らされる。
みんな気付いちゃいけない。
社会に張り付く闇のことを・・・。
俺の他にもこの世界の汚れを知っている奴が居る。
なのに警告を出そうとしない。
きっとすでに闇の中なんだろう・・・。
そこら辺をふらついていると俺の後ろの方で誰かが叫んだ。
「みんな苦しみを抱えて生きている。
それを無視することは出来ないが、
苦しみよりも強い心で無理して歩くことは出来る。」と・・・。
キレイゴトを並べるしか出来なくなっている人々・・・。
俺は視線を落とした。
こんな所にいればいる程人々は混乱し、
今でこそ落ち着いている世の中が青黒い悲しい声で一杯になる。
『今の内夢を見ているのも良いが、
やりたいことを本当にやりたいことを思い出せ・・・。
キレイゴトを並べて朽ちるのが夢か?』
俺は何回も繰り返し口にした。
まるで呪文を唱えるように・・・。
そして同じ言葉を繰り返し自答した。
『こんな事一切望んでない・・・。
この世に生きることすら望めない・・・。』と・・・。
汚れきった灰色の雪を頬に感じながら途方に暮れていた。
ふとビルのビルの間の細い路地を見ると、
怯え丸まって眠る少女が居た。
俺はその子をずっと見つめていた。
少女は俺の視線に気が付いて飛び起き、逃げようとした。
それを俺は何を思ったのか声をかけ引き止める・・・。
「待て。怖いのか?」
「違う。嫌いだったから・・・。人と接するの嫌だったから。。。」
俺は面食らった。
初対面で人と接するの嫌だったから逃げようとしたと発する子を何故か愛らしくて妙に美しく感じた。
「どうして嫌いなんだ?」
「みんなが汚いから。」
「どうして汚く見えると思う?」
「正しいことを曲げるから。」
子供の答えがこんなにも核心を突くのだろうか・・・。
「私は虫を食べ、鼠も食料として捕らえる。
何かの血も啜り、泥も口に入れた。」
「全て生きるためのことだな。」
そう俺が言うと少女は首を横に振り、
「死に向かうため。」
とキッパリ言ってのけた。
彼女は真っ直ぐ空を見て
「みんな生きながら死を目指して歩いてる。」
と俺に言った。
俺はその子の横に立ち、
灰色の雪を手に取り自分の顔になすりつけた。
「そう。間違えたことをして悔やまない人達も、
ちゃんと気付いて懺悔をした人達も、
君や俺も死を目指して歩いてる。
でも、普通の死じゃない。
静かで優しく清らかな死を目標として歩いている。」
俺は彼女に向かってそういった。
その少女は俺の顔をじっと見据え、
ふと笑みを零し又空を見上げてこう言った。
「・・・。気が変わったから一緒にいる。駄目?」
俺は彼女を見ずに
「好きにすればいい。」
そういうと彼女はちょっとした笑みから満面の笑みへと変わっていった。
俺はさっき顔になじった雪の冷たさよりも彼女の言った
“死へと向かって歩いてる”
という言葉の方が温度のないモノとして身体の動きを止めていた。
季節が無くなったところでの雪・・・。
工業廃棄物を吐き出しているに過ぎない世の中で一人生き延びている少女・・・。
今俺の横で真っ直ぐ雲を眺めては何かを呟く。
一緒にいる内に俺達の距離は埋められよく話をするようになった。
汚い雲を2人で眺めていつもいつでも2人で居た。
ふとした時胸を押さえ様子がおかしい瞬間がある。
「なんでもない。」
と隠すところを見て成る可く触れないようにしていた。
日が過ぎる毎に彼女の苦しみは増していく・・・。
地を這い回って木陰で小さくなって動こうとしなかった・・・。
ここで普通なら医者に見せるが、
この世の中には本物の医者がいない・・・。
みんな金と自分のことしか考えない世の中に医者など居ても本当にちゃんと診てくれる医者がいない。。。
みんな詐欺師も同然だった・・・。
俺はきっと彼女のことを心配していたんだろう・・・。
どうしようもなく彼女のことを抱きかかえてた。
彼女も心配させまいと俺の腕の中で静かにしていた。
初めて人の体温を感じてた。
とても小さくて、
俺の腕におさまっていて、
本当に消えてしまいそうなほど何もかもが小さくて・・・・。
でも温かかった。
この温度の存在はとてつもなく大きく感じた。
腕の中だけで存在している温度なのに俺の全身を包むぐらい大きな存在で温かい。
その温度を知ったとき俺の中で何かがはじけた気がした。
俺の支えは彼女になってたとそういうことだったのか・・・。
でも人の体温をどうやって人々に知らせられるだろう・・・。
子供はもう産まれては来られない。
この子がきっと人類至上最後の子供だろう。
その最後の子供も体温を失いかけている。
大人達は解っていなかった。
絶望を綺麗な言葉で表現して諦め何もしない。
汚れて這いずり回ってでも何かをするべきなのに
汚れて危機を脱した後洗い流すことが出来るだろう?
全て流しては何も変わらないけど、
懺悔して罪を償い同じ過ちを犯さないように教えていき自分も教えられれば全て救われるだろう?
それでも何もしないのか?
金がある者よりも外見的愚者の方がこの世界のことを理解している・・・。
そのことを思ったら俺の身体は怒りに震え気が狂いそうだった・・・。
そして彼女を抱きかかえ黒い海へと向かった・・・。
黒い海は砂をも黒く染め始めていた・・・。
不意に腕の中で苦しみに歯を食いしばる少女を見ているのが辛くなった・・・。
そして段々と大事な物がなくなるという恐怖に駆り立てられ、
彼女を砂の上に置いて逃げた・・・。
出し切れるだけの力を出して力一杯そこから遠い場所へ走った。
走っても走っても砂の上の彼女の顔が浮かんできて、
その顔を振り払うためにも必死に走った・・・。
それでも拭いきれずついに立ち止まり、
腕に残る物を確かめた・・・。
腕には何もないはずなのに何かが残っている・・・。
それはやっぱりあの子の温度が腕に染みついていたのだろう・・・。
いくら手で腕をこすってもあの腕の感覚が全くとれなかった。
黒い海と空の間を見つめている間にも抱きかかえていたときより辛く、
彼女の声まで耳に聞こえた気がして泣きわめきながら元居た場所へと戻った。
彼女の側へ行くとさっき俺が降ろしたときのままの姿で弱々しく息をしていた。
目を開いて俺を見るなり首をそっと横へ振り、
「どうして戻ってきたの・・・?私はもういい・・・。もう眠りたいの・・・。」そう言った・・・。
俺は自分に頭が来た。
どうして彼女を砂浜に置いて逃げようとしたのか、自問自答していた。
「眠るまでで良い・・・。
俺の腕の中にいてくれないか・・・。」
彼女はコクリとうなずいて俺は抱き直した。
寒くないようにコートの中に入れて・・・。
もう何をして良いのか解らなくなってただその場で海を眺めているしかなかった。
夜は俺の腹の上に抱いて眠った。
彼女は徐々に体温を失っていき力尽きた。
俺は彼女の体温が無くなって何日も抱きしめていた。