
<白世>
ある日、鏡の向こう側が騒がしくて目が覚めた。
あまりにも五月蝿くて、段々気が狂ってきそうだった。。。
うるさい・・・。
うるさい・・・。
その時、開かないはずの重たい扉が音を立てて開いた。
その扉の向こうから車椅子を押して入ってきた女性・・・。
車椅子を押して入ってきた女性は僕の一番大切な人だった。
どうして彼女が・・・。
とても戸惑っていた僕・・・。
僕の発する言葉は彼女には全く届かないようだった。
僕の発する言葉を全て無視し、僕の意と異なることをし始めた。
彼女は僕を戒めていたベルトをほどき、車椅子に乗せて外へと連れ出してくれた。
でも外へ連れ出すという行為は僕の意とは異なっていて・・・。
やっぱり僕は戸惑い、彼女には悪いが病院へ戻りたかった。
それがみんなにとってもいいし、僕にとっても良いことだったから。。。
「どうしたの?」
彼女に僕から投げかけると、
「迎えに来たのよ・・・。」
そう温かいようで冷たく笑い僕に言った。
スローモーションで動く世界を不思議に思いながら、彼女に押されるままどこかへと移動した。
病院を出てからいつもの様な途切れ途切れの時間の流れではなく、
全てがゆっくりで白いもやがかかっては彼女の顔がよく見えなかった。
とても不思議な時の流れ・・・。
今までに体験したことのない時間の流れ・・・。
僕はその間に眠気に負けて眠ってしまう・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
気が付けば僕は白い部屋にいた。
又あの白い部屋に戻ってきたのだろうか・・・。
それならば僕は又安らぎを得られるのだが・・・。
何処の白い部屋なのか解らずにうなだれてると目の前に白百合が一輪飾られていた。
その一輪の白百合を手に取ろうとしたとき、気が付いてしまった。
そこは紛れもない教会の祭壇だった。
後方を見れば黒装束の人の波・・・。
浮いているような感覚がして下を見ると、棺が2つ置かれていた・・・。
眠っているのは黒装束を身にまとい、結婚指輪をした僕・・・。
もう1人はウェディングドレスの胸に銀貨を縫いつけてある姿の彼女だった。
彼女の指にも結婚指輪がしてあった。
「結ばれて、2人で死んだのよ・・・。」
後ろから声がした。
僕の手を取った人は泣いていた彼女だった。
「どうしてこうしたの?」
彼女に問いかけた。
ピンクのウェディングドレスの裾を揺らし後ろへ彼女は退いた。
でも何かを思い直し彼女は僕を見て僕の手を握り返した。
「他にも色々方法は合った・・・。待っていることもできたし、そうするべきだった・・・。
でも辛くて悲しくて側にいたくてせつなかった・・・。
貴方が壊れていくのを見るのが怖かった・・・。
それが一気に私の中で溢れ返って、貴方より先に私が狂ってしまった。
そのせいで貴方を・・・。それから私も・・・。」
そう・・・。
彼女のしたことは愛するが故にしてしまった過ち・・・。
曲がった愛し方だったかもしれない・・・。
でも僕は何故か彼女に感謝した。
壊れきった僕の姿を母にも彼女にも見せなくて済んだから・・・。
「良いよ、泣かなくて・・・。
どちらにせよ僕が狂ってしまっていたら君のことを・・・。
だから泣かないで・・・。
それと、ありがとう・・・。
君と母に狂ってしまった僕を見せなくて済んだよ・・・。」
僕は笑顔を見せた。
笑顔が出来る状態では無かったがそんな気にはなれなかったが、
彼女のことを考えると笑顔を見せることが今は救いになると思った。
だからその時精一杯の笑顔を彼女に見せてあげた。
彼女は僕の笑顔と言葉を目の当たりにし罪悪感で一杯になったのか、
何度も何度も壊れたボイスレコーダーのように呟いていた。
「ごめんなさい・・・。」と・・・・。
・・・・・・・・。
こうして又白い世界で過ごすことになった。
でも今の白い世界はとても優しくなれる、僕にとっては安らぎを得られるそんな場所だった。
本当に何もなくてつまらない気もしていたけど、2人で居られればと思ったら苦ではなかった。
日にちもない時間に縛られることもない。
毎日2人で過ごしている。
のんびりとしていてとても心地良い。
ある日2人で夜の空を地上へ降りて眺めていると、
杖をついてシルクハット被ったご老人と、人型をした機会が居た。
ご老人はこちらを見てシルクハットをとり軽く会釈した。
彼女と2人でまさか魂である僕達が見えるわけないと辺りを見回したが、僕たち2人しか居なかった・・・。
ご老人と機械はこっちに向かってくる。
彼女がご老人に尋ねた。
「私達が見えるんですか?」
ご老人はニッコリと微笑んで、
「私達もあなた方と同じです。」
そう言った。
「こちらの機械も・・・?」
「えぇ・・・。私が心を開花させてしまってね・・・。」
そう言うと一瞬悲しそうな顔をした。
「ごめんなさい。いきなりこんな質問・・・。」
「いいえ、大丈夫ですよ。この子も私も・・・。」
「大事なんですね。」
又微笑んでこう言い返された。
「いいえ、大切な存在、大切な子供なのです。」
僕は解らなかった。
ただの機械が心を持って、彼の大切な存在で大切な子供なのか・・・。
でもご老人にとってはその機械が大切な存在であることには間違いない。
それだけは僕と彼女は解っていた。
とても不思議な出会い・・・。
きっと忘れることはない出会いだろう・・・。
こんなにも不思議でインパクトの強い出会いなんか生きてても死んでても一度しかない上、
頭から離れることはないと思う。。。
