デクノボート


例えば、デクノボートというボートがあるかもしれない。
どういう形態のボートかは皆様の想像におまかせするとして、

船頭は50がらみのずんぐりしたおっさんです。
彼は何があろうと、勃発しようと不動の精神力でもってデクノボーを貫いている。

敬われず、苦にもされず、またそうある為の努力を怠らない。
「いつも静かに笑っている」のだ。へらら。

そんな船頭は酔客が殺しあいを始めても「これこれ止しなさい」と静かに微笑。
「これこれ、」と血気にはやる両人の間にとことこ入ったところ、一刀の元に切り捨てられたのであった。

その彼の崇高な返り血は船べりの波が洗い、死に顔はいつものへらへら笑いだったという。

そしてのち、デクノボートはその時乗り合わせ、一部始終を傍観した乗客等の感傷的意志の元、「船と技術の科学館」に寄贈された。

しばらく科学館の片隅におさまっていたが、その科学館も営業不振。
館長が代わり、集客の為の思い切ったニューアルを行った際、誰も足を留めぬ不人気、非効率展示物の筆頭としてデクノボートは廃棄処分されたのである。

デクノボートは今は無い。
船頭の血を洗った波だけがどこか南洋でさんざめいている事であろう。

蛇足ながら船頭の遺体は行政が税金でもって手続き火葬処理し、株式会社メモリアルセレモニーの職員によって埋葬された。

戒名は無い。