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「深海魚」



「ねぇ、人魚って居ると思う?」
「ン?何。急に」
「人魚」
「さぁ。君は居ると思うの?」
「ええ、深い深い海の底に」
「人魚姫みたいな?」
「・・・多分、御伽噺の人魚姫のように美しくはないわ。
 光を感じることは無いから目は退化してて
 深いところに居るから水圧で潰れてて
 とても醜いの。」
「物語だと美しい姫なのに?」
「そうね、その世界ではきっとそれが美しいのよ。
 馬鹿な子・・・。
 地上になんか夢見なければ
 王子様に恋なんてしなければ
 美しい声を無くすことも
 泡になって死ぬことも無く
 海の底で平和に暮らせていただろうに・・・。」
「・・・」
「・・・帰るの?」
「ああ、・・・もう時間だからね」
「・・・ねぇ、来週の木曜日は会える?」
「来週の木曜日か・・・、ゴメン。
 その日は家に帰らなきゃならないんだ。」
「そう・・・」
「すまない」
「いいのよ、気にしないで。
 ねぇ、あなた。・・・愛してる。」
「僕もだよ」
「・・・キスして」
最期のキスは涙と薬の味がして少し苦かった

そして私は王子様を永遠に手に入れた



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