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「メランコリー」
”メランコリー”
そんな名がついた美しい人の肖像画
アンティークの店の奥に飾ってあるその絵に
私はとても惹かれていた
青を基調としたその絵の美しい人は
優しく微笑んでいたが
どこか愁いをおびていて寂しそうに見えた
”メランコリー”という名がよく合う絵だった
或る日
いつものようにその絵を見に行くと
一人の女性が声をかけてきた
その店のオーナーだと名乗るその女性は
その絵についての話を聞かせてくれた
金持ちの未亡人と無名の画家が恋に落ちた
未亡人はその愛の証に画家に数々の金品を貢ぎ
画家はその愛の証に彼女の絵を描いた
燃える二人の愛は揺らぐことは無いように思えた
しかし・・・其れは残酷にそして着実に近づいていた
金品に欲した画家は絵を描きあげると
ただ自堕落に彼女の財産で豪遊し
彼女に何もなくなったのを知ると
画家は彼女を捨て他の女のもとへ去って行った
残された哀しい未亡人のもとには
もう其処には無い二人の愛の証である絵と
未だに残る画家への恋心と想い出
今は凶器になったそれらに
未亡人は苛み
その苦しみに耐えられなくなった彼女は
自らの命を絶った
「哀しいお話ですね」
「・・・ええ」
「なんだかお話を聞いて、この絵のこともっと気に入ってしまいました。
もしよかったら、譲っていただけないでしょうか・・・」
「無名の画家が描いた無名のモデルの絵ですので価値もありませんし、
売り物ではないんですが、・・・貴女になら」
「私になら?」
「こんなに気に入っていただいてるんですもの」
そういってオーナーの女性は優しく微笑んだ
その彼女の笑みを見て私はさっきからずっと気になっていたことを聞いた
「一つお聞きしてもいいですか?」
「ええ」
「・・・この女性と貴女、どこか似てる気がするんですが、もしかして・・・」
私がそういうと彼女は静かに頷いて言った
「未亡人には娘が一人いたんです」
店を出た私の手にあの絵は無かった
あの絵はあの店のあの場所にあるのが一番合っている
彼女の傍にあるのが本当なのだ
”メランコリー”という名の優しく愁いを持った微笑を持つ美しい人の肖像画と
その人によく似た微笑み方をするオーナーの女性
私はまたいつものように会いに行くだろう
2人の魅力ある女性にとても惹かれてしまっているから・・・
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