
愛と勇気とチェリーパイ おまけのおまけのおまけ
「ひっなたー!!」
サヤカはカバンを持って帰ろうとするひなたの背中に飛びついた。
「うわっ!なに、サヤカ?」
突然のことに戸惑いつつ、ひなたは聞き返す。
遅れてやってきた響子に「ハイ、離れなさい」とひなたからバリッと剥されるサヤカ。
「今日一緒に『eternal』行こ?マスターに聞きたいことが・・・」
「行かない」
サヤカが全てを言い終える前に、ひなたはちょー笑顔でキッパリ答えてくれる。
あれぇ?と首をかしげ、サヤカはもう1度聞き返した。
「なんで?だって、亮くん、今こっち来てるんでしょ?翔くん言ってたもん」
「ヤダ」
またキッパリと。
これは・・・
またケンカしたな、お前ら?
と、いうわけで。
話を聞くために3人は教室へ逆戻り。
2月になれば、いろんなところで「バレンタイン」という文字を見かけるようになる。
ひなたも、亮に何かを作ろうと思って、お菓子作りの本を手にワクワクしていた。
そう、これは2月のとても天気のいい日、憩いの場「eternal」で起きた。
「亮くん、どれがいい?」
店の席に座って、向かいにいる亮にひなたは聞いた。
てーか、お前ら仕事しろよ?
「コレ!生チョコ!」
「えー?作れるかなぁ?」
2人で本を見ながら話をする。
「あたし、チョコ好きーv」
「オレもー!」
「チョコって言ったら、やっぱ明治だよね?」
「アホ。グリコのアーモンドチョコやろ?」
―――その後、2時間以上口論していたらしいが、結局結論まで辿り着けなかったらしい。
「・・・・・・・・・くっ・・・だらなーい!!」
ひなたに話を聞いたサヤカは素直な感想を口にした。
そうしたら響子が横から「あんた、人のコト言えるの?」とつっこんできたが。
そんな・・・チョコレート会社のことでケンカするカップルがどこにいるというんだ?
いや、実際ここに片割れがいるんだけど・・・
「どーでもいいじゃん、そんなこと・・・」
「よくない!ぜったい明治だって!!」
「まぁ・・・あたしもチョコなら明治が好きだけどさ。響子は?どこのチョコが好き?」
「フェレロのロシェ」
・・・なんか、レベルが違う。
「じゃぁ、ひなた。明治の板チョコ使ってチョコレートケーキでも作ったら?
『ロッテもいいけど、明治もおいしいでしょ?』ってさ」
こういう時、サヤカはすぐに事を穏便に運ぶ方法を思いつくことが出来る。
優しいサヤカの性格が成す業なんだろう。
どうすれば人を傷つけずにすむか。瞬時に思いつくのだ。
「んー・・・そうする。サヤカは?なんか作るの?」
「ガトーショコラにしようかなって。
それで、マスターに作り方教えてもらおうと思ってたの」
「それいいなぁ。あたしも教えてもーらおと」
「じゃ、一緒に作ろ?」
「でも、亮くんにバレないように『eternal』行かなきゃ」
わきあいあいとする2人を横目に、響子はひなたが持っていたお菓子の本をめくっていた。
「響子はどうするの?」
「・・・周、甘いもの嫌いだからチョコはあげない。
カボチャ好きだから、カボチャ使ってなんか作る」
さすが響子さん。よく理解していらっしゃること。
で、バレンタイン当日。
―サヤカ&翔の場合―
珍しく、朝昇降口で顔を合わせた2人。
「おはよー、翔くん」
「おはよ・・・って、なんでこんなトコ(昇降口)で待ってるんだ?」
「だって、一番に翔くんにコレ渡したかったからさ」
言ってサヤカは「はい」とガトーショコラの入った箱を渡した。
サヤカの言葉と、バレンタインのプレゼントに翔は照れてしまう。
「だからって、こんなトコで待ってなくても・・・」
これは完璧に照れ隠し。
翔は手袋をしたままの手でサヤカの亮の頬をそっとはさんだ。
「寒かっただろ?」
「ん。平気」
あーあ・・・朝からイチャついてるよ。
「だってさ、翔くんモテるし、きっとゲタ箱開けたらチョコがいっぱい出てくるよ?」
そう言って、サヤカは翔のゲタ箱を指差した。
「まさか」と笑いながら靴から上履きに履き替えるためゲタ箱をあける、と・・・
ドサドサドサーッ!!
・・・・・・本当に出てきたよ、チョコ。
しかも開けた途端零れ落ちるほど。
「あのさ、食い物と靴を一緒のトコに入れるってどーよ?」
「まぁ・・・手渡しは恥ずかしいっていうのも分かるけど・・・
せめて机の中とかのがいいよね?」
てーか、今時靴箱にチョコなんてこと起きません。
(しょせんゆうの小説の世界)
―響子&周助の場合―
コンピューター室の机の上に、チョコレートの入った箱が5・6個。
「・・・あいかわらず人気者ね、三島先生」
いやみっぽく言うと周助は困ったように笑い、プレゼントの1つを響子に見せた。
「これは女の先生方からだよ。他の先生ももらってる」
「でも、残りは生徒でしょ?」
「授業終わった後に押し付けられたんだよ」
「三島先生、コレあげるー」と半強制的に受け取らされたのだ。
すっかりスネてしまった響子に、周助は苦笑しつつ息をついた。
「ほら、手ぇ出せ」
そう言って響子の両手に自分のもらったチョコをのせる。
「これで今日からしばらくおやつに困らないだろ?」
しっかりとメーカー名が書いてあった包みを開けて、
「お前の好きなロシェあるじゃん」と言って笑ってくる。
「・・・あたしが食べたって知ったら、コレくれた子達悲しむわよ?」
「んなこと言ったって、オレ甘いものダメだしなぁ・・・
それに、もっと欲しいモンあるしさ」
周助は1度言葉を区切ると、ワケが分からず首を傾げる響子を抱き寄せて、
「去年のカボチャのプリン、うまかたんだけど?」
耳元で言われて響子は顔を赤くする。
「・・・今年はカボチャのケーキにした」
「ホント、お前はなんでも作れるな」
「だって、いい奥さんになりたいじゃない?」
周助の前でしか見せない、やわらかい笑顔でそう言うと、
周助は愛しそうに響子にキスをした。
こんな、素直でかわいい響子は、きっと周助の前でなければ見れないと思う。
―ひなた&亮の場合―
ひなたは学校が終わると急いで家に帰り、昨夜作ったケーキを持って再び家を出た。
ケーキを揺らさないように気を配りながら、でも早足で「eternal」に向かう。
そういえば・・・あれ以来電話もしていなかったが、ちゃんと受け取ってくれるだろうか?
今週はずっとこっちにいると言ていたが、気が変わって帰ってしまっていないだろうか?
カランッカランッ
ベルを鳴らして、おそるおそる店のドアを開ける。
すると亮はカウンター席に座ってマスターと談笑していた。
亮がいたことにホッと胸をなでおろし、
それから大きく息を吸ってひなたは中へ足を踏み入れた。
「亮くん!」
呼びかけると亮は驚いてこちらを振り返り、
それから、どこかホッとしたような笑顔を見せた。
「ひな・・・ちょ・・・よかったぁ。オレ、ホンマ嫌われたか思っとったんやで?
お前、電話もせぇへんのやもん・・・」
言ってがっくりとうなだれる亮に、
ひなたは「それはこっちのセリフだよ」と笑いながら返して、亮の隣に座った。
それから、ちゃんと亮の目を見て、「ごめんね?」と謝ると、
「こっちこそごめんな?」と亮も謝ってくれた。
「コレ、バレンタインのプレゼント」
「マジ?開けてもえぇ?」
「開けて開けてv」
リボンをほどいて、中から出てきたガトーショコラに亮は目を輝かせた。
「うぉっ!ごっつうまそうやん。これ、ひながつくったん?」
「そ。マスターに教えてもらいながらね。サヤカと一緒に作ったんだ」
亮はカウンターの中にいるマスターに頼んで皿とケーキナイフ、
それとフォークをもってきてもらい、さっそく食べることにした。
「オレ、手作りのお菓子なんか初めてもらったわ。ごっつ嬉しい」
そんなことを言われると照れてしまう。
マスターの持ってきてくれた皿にケーキをとりわけながら、
ひなたはためらいがちに話し始めた。
「あのね、コレ、明治のチョコ使って作ったの。
確かに、グリコのアーモンドチョコもおいしいけど、でも明治のチョコもおいしいから。
あたしの好きな味、亮くんにも好きになってもらいたいじゃない?」
「・・・・・・」
亮はだまってひなたの話を聞き、フォークで一口大に切り分けたケーキを口に放り込んだ。
もくもくと口を動かす亮を、ひなたはそっと見守る。
ごくんっと飲み込んで。
「ん・・・うまい」
亮の一言にひなたはパッと顔をほころばせる。
「よかったv」
「明治もうまいんやな。でも・・・」
亮は言葉を区切り、いきなりひなたにキスをした。
「ひなが作ったモンなら、なんでもうまい」
ワンテンポ遅れて、ひなたの顔が赤くなる。
ていうか・・・
「亮くん、口にケーキついた」
口元を押さえて赤くなっているひなた。
「ん、わりっ」
そう言って口元を手の甲で拭う亮。
「(えーと・・・おじさんどうしよう?)」
目のやりばに困るマスター。
とりあえず、
「(若いっていいなぁ・・・)」
もう三十路だもんね、都さん。
こんなふうに、それぞれが幸せにバレンタインを過ごして。
けれどその夜、3人は再びお菓子の本を開くのだ。
(来年はなに作ろう?)
好きな人が喜んでくれると、嬉しいから。
自分の作ったものを食べて笑ってくれると嬉しいから。
だからさ
やめられない、よね?
☆★☆あとがき☆★☆
なんでこの2人はいつもくだらないことでケンカするんだろう・・・
今回はチョコで、前回はカレーで・・・
でもさ、こういうくだらないことでケンカするカップルの方が
「浮気してたのね!?」とかってケンカするヤツより全然かわいいじゃん?
愛があるからこそ本音を言えるというか。
あたしはすごく好きだし。
例えば、一緒にご飯食べに行って、
「あたしたらこスパ!」
「アホ!!それはオレが喰うんや!!」
とか。ほら、バカだけどかわいいでしょ?
あたしてきになぜか関西弁のイメージがあるから、
どうしてもこの2人にこういうことさせたくなる・・・
ごめん、バカ扱いで・・・
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