年の差は8コ。
初めて会ったのがいつかは、分からない。
だって、気付いたらそばにいたし。
だから、みんなこう言う。
それは違うよって。
錯覚だって。
でも。
誰がなんと言おうと、
これは間違いなくあたしの・・・

初恋 前編
「うっ・・・ひっく・・・うっく・・・」
たしか、3歳ぐらいのころ。
お散歩をしていたら、途中で転んで膝を擦り剥いてしまった。
周りに誰かいたら、強がって泣いたりしなかったかもしれないけど、
その時はたまたま1人で。
痛くて、辛くて、寂しく、て。
気がついたときには膝を抱えてしゃがんで、泣いていた。
だから、
だからね。
「!!響ちゃん!?どうしたの?大丈夫?」
そんな時、彼があたしを見つけてくれて嬉しかった。
―――要するに、彼は面倒見がよかったのよね。
あたしが3歳って言ったら、幼稚園の年少さんなんだけど、
8コ年の差があるってことは、むこうは当時11歳、小学5年生なのよ。
その年なら、近所のガキの面倒なんかより、友達と遊ぶほうを優先するハズなのに、
うちのお母さんやサヤカのお母さんが「ちょっと用事があって・・・」と
彼に度々あたしたちの面倒を頼むことがあったんだけど、
そんな時でも彼は嫌な顔1つしないで、それを快く引き受けたんだもん。
ホント。小さいころからできた男・・・
「しゅうっ!!」
小さなあたしは、彼の姿を認めると、いつもの呼び方で彼の名を呼んだ。
「響ちゃん、転んじゃったの?」
「しゅうぅ・・・」
擦り剥いて痛む足を引きずりながら駆け寄ってきたあたしを、
彼はかがんで抱きしめてくれた。
「うぇ・・・しゅうぅ・・・」
「響ちゃん、泣かないの。大丈夫だから。ね?」
「ふっ・・・1人でさみしかったのぉ!」
「うん。もう大丈夫だよ?オレここにいるから。一緒に帰ろう?」
そう言って、彼はあたしを抱き上げてくれた。
そのまま家まで送ってくれて、膝の手当てもしてくれた。
・・・そのころはね、まだ「好き」っていう感情を知らなかった。
だって、あたしもサヤカも1人っ子で(サヤカは妹も弟もいるけど。その時はまだね)、
彼を本当のお兄さんのように慕っていたのよ。
でも、これが、彼があたしの中で特別な存在になるきっけだったんだと思う。
その後、あたしの中の独占欲が大きくなったのよ。
彼と近くに自分以外の人がいるのがムカつくようになった。
それはサヤカも例外じゃなくて、彼のことでケンカしたこともあった・・・気がする。
まぁ、あのころのあたしはまだかわいかったわよ。
今じゃ、こんな生意気に育っちゃったけどさ。
そう。人間は成長するもの。
体も、心も。
あたしの彼に対する感情が変化するのに、そんなに時間はかからなかった。
小3になったころ。
みんな、友達の好きな人が誰とか気になりだしたころ。
みんな好きな人の名前を聞くと同じクラスや、隣のクラスの男の子の名前をあげるのに、
あたしはただ「周」と答えた。
どんどんカッコよくなっていく彼に、あたしはどんどんハマっていって。
いつのまにか、
本気になっていた。
自分が彼の特別でありたくて、名前で呼んでもらうようになったのが、小6の時。
「ねぇ。周。あたしのこと『響ちゃん』って呼ぶのやめて?」
「え?なんで?」
「・・・子供扱いされてるみたいでヤダ」
「・・・20歳のオレからすれば、響ちゃんはまだまだ子供なんだけど」
「とにかくイヤなの!」
そういうと、彼は困ったように苦笑して、続けた。
「じゃぁ、なんて呼べばいい?」
「・・・『響子』」
最初は呼びにくそうだったけれど、しだいにその呼び方に慣れてきたみたいだった。
それから時が経って、
中3の冬に、告白、した。
「周、あたし、周が、好き・・・」
「響子・・・」
最初は驚いたように目を丸くして、それから優しく笑って。
「うん。オレも響子のこと好きだよ?」
まるで、
わがままな子供をあやすような笑顔。
「じゃあ、キスして?抱きしめて・・・」
そう言えば、彼は笑顔のままあたしの頭を優しく撫でた。
「そういうのは、本当に好きな人にしてもらわないと。
それまではとっておきなさい」
なに、言ってるの?
あたし、本気よ?
その一言を、彼の笑顔は言わせてくれない。
はぐらかさないでよ?
子供の恋愛だと思わないで。
ズルイよ。
あたしの気持ちを、
無視しないで・・・
ねぇ、苦しいから。
この気持ち、
どうすればいいの・・・?
「英語の三島周助先生。1年6組の担任です」
校長に紹介され、体育館のステージの上で頭を下げるその教師に、
響子は見覚えがあった。
いや、見覚えがあるっていうか・・・隣の家に住んでます。
高校受験前、あんなことがあったから、あれ以来しゃべらなかった。
だって、気まずいし・・・
そう。わざわざ顔を合わせないようにしてたのに・・・
なのに、なぜここにいる?
(1年6組って・・・)
自分のクラスだ。
ちょっと待て。
そんな話は聞いていないぞ?
「響子!」
入学式が終わって、体育館を出た響子に、幼馴染で親友のサヤカが声をかけてきた。
「ちょっと・・・なんで周がいるのよ?」
「へへっ。周くんやみんなと協力して響子には秘密にしといたの。驚いた?」
「・・・驚いた」
そりゃあ、彼が高校教員になるため大学に通っていて、
2年前から教師として働いていることも知っていたけれど、
まさか自分が入学する高校に転任になっただなんて知らなかった。
「あれ?響子嫌そうだね。あんなに周くんにべったりだったのに・・・」
「・・・サヤカの気のせいじゃないの?」
「なんか冷たーい!」
ぷぅっと頬を膨らませたサヤカに苦笑しながら、
「あんまふくれないの」とその頭をポンポンとたたいた。
「・・・子供扱いしてない?」
「だって、あんたガキじゃん?」
「もー!なんで響子はそんなクールかなぁ?」
そう言われてまた苦笑する。
小さいころから大人っぽく装おうとしていたら、いつのまにかこんな性格になっていた。
(・・・もったいないことしたわよね、ホント)
他の女の子、例えばサヤカみたいにカワイイ性格にもなれだたろうに。
誰かさんのせいで・・・
その誰かさんに、年下の自分がつり合うように、大人っぽくあろうと・・・
(無駄だったけどね・・・)
横でため息をつく響子に、サヤカは首を傾げた。
「響子?どうしたの?」
「ん?なんでもない」
「それより、聞いてよ、響子!うちのクラスにね、翔くんがいたの!!」
「『翔くん』?あぁ、あんたが好きな『ジャニ』の?」
「そ。もー、びっくりしちゃった!!」
興奮して話すサヤカと教室の前でわかれて、響子は自分のクラスに入る。
1年6組・・・
「・・・もう1回クラス表見てこようかな?」
同じクラスで1年だなんて、耐えられない。
今更だけど「クラス間違えてました」なんてことはないだろうか?
呟いて教室を出ようとする響子は、
ちょうど中へ入ってきた人物に顔からぶつかった。
「こら。どこに行くんだ?」
顔を上げると、そこには見慣れた人物が。
愛しさと、気まずさが混じって、頭がぐちゃぐちゃになる。
「席につけ」
ポンと、出席簿で頭をたたかれ、促される。
大好きだった優しい笑顔。
優しい声。
「・・・はい」
返事をし、自分の席に戻る。
入ってきた教師は生徒全員が席に着いたのを確認すると、黒板に自分の名前を書いた。
「今日から皆の担任になる英語の三島周助だ」
容姿の良い担任に、女子生徒は「カッコイイねー」と言い、
男子生徒は「なんだ、ワカゾーじゃん」とバカにした。
その英語力に、後でそれを訂正することになるのだが。
もう、こうなったら極力関わらないようにしよう。そう決意する。
クラス担任とは言え、顔を合わせるのは朝と帰りと、英語の授業だけ。
できるだけ、近づかない。
だけど、響子の決意を、みんなあっさりと打ち破ってくれた。
黒板をボーッと見つめ、響子はゲッソリと息をつく。
「・・・最悪」
黒板に書かれた自分の名前の下にはたくさんの「正」の文字。横には「副クラス長」。
「じゃあ、副クラス長は小泉でいいか?」
周助がそう生徒に聞くと、誰も異議を申し立ててなんてくれない。
副クラス長・・・「副」だから楽かな?と思えば、
意外にクラス長よりも面倒臭い仕事が回ってくるのだ。
しかも、これでは周助と顔を合わせる機会が増えてしまう。
本当に、最悪だ。
「小泉!前出てきて?」
笑いながら周助は教壇から響子を呼ぶ。
(・・・周は、あのことなんてもう忘れてるんだろうな)
だから、自分に笑いかけれるのだ。
ズルイよ。
自分だけ、なにもなかったことにして。
あたしは、今もこの想いを捨てれずに苦しんでいるのに。
「小泉、みんなに自己紹介とあいさつして?」
笑わないでよ。
これ以上、好きにさせないで・・・
平然を装うのがどんなに辛いか、分かってる?
あんたは普段どおりでも、こっちは必死なんだから。
嫌いになれたら、楽なのに・・・ね?
「小泉!担任呼んでた。なんかL・Tで使うプリント取りに来てくれって」
クラス長の大谷にそう言われたが、響子はキッパリと答える。
「ヤダ」
「ヤダって、お前・・・」
「あたしいつも面倒臭い仕事ばっかしてんだから、力仕事ぐらいクラス長やってよ?」
副クラス長になっても、こんな調子でずっと周助を避け続けてきたが、
困ったことにそうもいかなくなってきた。
秋の文化祭。
文化祭までが前期学級組織の仕事で、
副クラス長の響子もいろいろと働かなくてはいけなくなった。
クラスの出し物の準備で担任と相談したり、書類を出したり、かなり忙しい。
「・・・みんな、やりたいことだけ言って、全部押し付けるんだもん」
備品購入許可をもらう為の書類を書きながら響子はボヤく。
今、教室には響子とクラス長、そして、周助しかいない。
「みんなお前ら2人を信用してるんだよ」
苦笑しながら周助が言う。
「・・・ハッキリ言って迷惑よ」
大きく息をつき、ペンを投げ出す。
「クラス長、これぐらいでいい?」
そう言って大谷にプリントを差し出す。
それを受け取ると、「これでいいと思う」と答え、大谷はそのままプリントを生徒会に
提出するため、教室を出て行った。
すると、必然的に響子は周助と2人で残されてしまう。
(・・・しまった)
自分が出しに行けばよかった。いまさら後悔してしまう。
「・・・あいかわらず、やることが早いな、響子は」
いきなり名前で呼ばれて、ドキリとする。
この人につりあえるようになりたくて、そうしてもらった呼び方。
あのころはそう呼んでもらう度、嬉しくて顔が緩んだけれど・・・
今は、ただ胸が痛むだけ。
「・・・先生がやること遅いだけじゃない?」
いつも、口から出てくるのは憎まれ口ばかり。
だって、そうでもしないと気持ちが爆発する。
「お前、先生に向かってそういうこと言うかぁ?」
情けなく笑う周助。
そうだ。
今の自分たちは先生と生徒。
でも、そう思っているのはあんただけよ?
あたしは、そう思おうと努力しているだけ。
「きょーこっ!終わったぁ?」
ひょこっと教室のドアからサヤカが友達を連れて顔をのぞかせる。
ひなただ。
高校に入ってからの友人。
サヤカと同じクラスだから、自分も仲良くなった。
「先生、あたしもう帰っていい?」
「ん?あぁ、書類生徒会にだせたし、もういいよ」
周助の返事を聞くと、響子はさっさと帰る仕度をする。
カバンを持ってサヤカとひなたのところへ行くと、後ろから声をかけられた。
「気をつけて帰れよ?」
・・・周助に、心配されることが嬉しくて、
でも、それは先生としての言葉、
あるいは妹のような存在に対しての言葉だと分かってしまって、
辛くなる。
響子は振り向いて小さく「はい」と答えると教室を出た。
「ね、響子はサヤカとは幼なじみなんだよね?」
帰り道、ふいにひなたにそう聞かれた。
突然のことに首をかしげながら、「そうだけど」と答えてやる。
「じゃあ、響子も三島先生と仲いいの?」
「・・・普通」
いや、普通より最悪な関係なのだが。
「なんかさ、響子は三島先生のこと避けてるみたいなカンジがするからさ」
「ゴメンね、へんなこと聞いて」と笑いながらひなたが言う。
案外ひなたって鋭いなとか思う一方、こんなこと、誰でも気付くのかもしれないとも思う。
自分はあからさまに周助を避けているから。
他のみんなも、「小泉響子は三島先生を嫌っている」と思ってるのかもしれない。
「響子、恥ずかしいだけだよね?」
サヤカの言葉に、響子は目を丸くした。
「響子、周くん昔から好きだもん。
でも、みんなの前で周くんにくっついてるのが恥ずかしいんだよね?」
笑顔で聞いてくるサヤカに、響子はため息をついた。
この子は・・・
本当に、松島サヤカという女の子は「いい子」なのだ。
それ故に人にねたまれることもあるけれど。
こんなふうに、優しくフォローしてくれる。
きっと、この子に悪意なんて汚いものはないんだと思う。
ただ、自分自身に素直に生きている。
「・・・サヤカって、かわいいよね」
「・・・・・・えっ?」
「かわいいってーか・・・純粋。
不純物なし。化学肥料不要ってカンジ」
「なに言ってるの、響子?」
いきなりそんなことを言われて、サヤカは首を傾げるが、その横で響子はため息をつく。
自分も、そんな風になれたら。
「サヤカさ・・・桜井くんとはどうなの?」
「えっ、『どうなの?』って、なにが!?」
「あ。いいかんじなんだよ、サヤカと翔くん」
うろたえるサヤカの代わりに、ひなたが答える。
サヤカが本気で翔を好きだということは、けっこう有名な話だ。
サヤカは案外翔と仲がいいし、同じファンの先輩達も、
サヤカのことを応援してくれている。
「いいなぁ、サヤカ。好きな人がそばにいて」
ひなたが羨ましそうに息をついて言う。
好きな人が、そばに・・・?
そういえば、ひなたの好きな人は聞いたことがない。
違う高校なのか・・・?
「・・・ひなたの好きな人って?」
「あ・・・うーん・・・」
ひなたは聞かれて、少しためらって、「笑わないでよ?」と響子に言った。
「亮くん・・・」
「・・・亮って・・・桜井くんと同じ事務所で、あんたが好きな?」
「うん。なんかもう、本気で好き。会ったことなんかないけど、でもね・・・」
言ってて恥ずかしくなったのか、ひなたは顔を赤くしてうつむいてしまった。
ほんとに、
どうして自分のまわりはこんな風にかわいいこばかりなのだろう。
自分はこんなにも素直じゃなくて、
かわいくないのに。
クスと笑みを漏らした響子に、ひなたは頬を膨らませる。
「笑わないでって言ったのに・・・やっぱ、ヘンかな?芸能人好きなんて、マズいよ、ね?」
自信なさげに言うひなたに、響子は違うよと首を振った。
「ううん。かわいいなと思って。
それに、全然変じゃない。あたしのが、マズいもん」
「「えっ?」」
響子の言葉に、サヤカとひなたは同時に首をかしげる。
「あたしは・・・周が好きだから」
この気持ちは、止められないから。
止められたら、楽なのに。
捨てられたら、楽なのに・・・
☆★☆あとがき☆★☆
いや・・・あの、長くなりそうなので途中できりました。
響子さんの初恋。
こんな中途半端にきるなよってカンジだけど。
だって、まだまだ続きそうだから・・・
え、あの・・・マジごめんなさい。