大好きな君。

どうか、泣かないで?

いつものように、

笑って?

 

「君が、好き」

 

―――翔とサヤカがケンカした。

いや、ケンカすること自体は珍しいことではない。

最近は少なくなった、というかなくなったが、以前はよくケンカしていた。

だけど、今回のケンカは今までとは少し違う。

今まではサヤカが軽い嫉妬をおこして、サヤカが怒るという感じだった。

ケンカしても、その日のうちに仲直り。

だけど、2人がケンカしてからもう1週間近く経つ。

そして、今回は翔が本気で怒っている。

今まで見たことない翔の本気の怒りに、

サヤカはどうしたらいいかわからなくなっていた。

毎日泣いているのだろう。ここ最近、サヤカの目は真っ赤に腫れている。

さすがに見ていられなくなったクラスメートがサヤカをなだめている。

それを少し離れたところから見ながら、ひなたは響子に声をかけた。

「・・・翔くん、今日もいないね」

そう、肝心の桜井翔はここ最近仕事で学校を休んでいるのだ。

だから、サヤカが余計に弱っているのだが。

謝りたいのに、本人はいない。電話をかけようにも、怖くてできない。

「・・・ね、響子。あたし詳しいことしらないんだけど、なんでこんなことになったの?」

ひなたの問いに、響子は1つ息をついてから、話し出した。

タイミングが、わるかったのだと。

 

クリスマスや、年末、年始が近いせいだろう。翔はここのところかなり忙しかった。

そう。だからそれは翔が久しぶりに学校に出てきた日に起きた。

「え?クリスマス、仕事?」

「うん」

翔の言葉を聞いて、サヤカは少し困ったような顔をした。

ここのところ全然会えなくて。

でも、きっとクリスマスは一緒にいられるだろうからと、我慢してきたのに・・・

「・・・なに?」

なにか言いたそうだが、何も言わないサヤカに少しイラついたような口調で翔は聞いた。

「・・・ううん、なんでもない」

本当は言いたいことはいっぱいあったけど、

こんなのは自分の我侭だからと口を閉ざすサヤカに、

翔はイライラと「言えよ」と先を促す。

サヤカは少し考えてから、ゆっくりと言った。

「ん・・・やっぱ、クリスマスは2人でいたかったなって、思って・・・」

「だから、謝ってんじゃん」

「うん。分かってる・・・」

「・・・・・・わかった。仕事断る」

そう、投げやりに言い捨て、制服のポケットから携帯をだす翔を、サヤカは慌てて止めた。

「待って!!なんで仕事断るの!?」

「だって休んでほしいんだろ!?」

翔に怒鳴られ、サヤカはビクリと肩を震わす。

「そ・・・んなこと、言ってない」

「言ってるよ!!オレだって忙しいんだから人のことも考えろよ!!」

頭ごなしに怒鳴られ、サヤカはびっくりしたと同時にショックを受けて、

その瞳から涙が零れた。

翔はそれを見てハッとし、バツが悪そうに顔を歪めると踵を返し、

サヤカの前から走って行った。

翔は、忙しいことにイライラしていて、

すんなり「分かった」といってくれないサヤカにあたってしまい、

サヤカは、最近会えないことの寂しさから、

普段のように「寂しいけどしょうがないね」と返事ができなかったのだ。

どちらの言い分も、間違ってはいない。

そうしてしまう気持ちは分かる。

そう。

タイミングが悪かった。

せめて、クリスマスなんていうイベントさえなければ、

こんなことにはならなかったかもしれない。

響子に話を聞いたひなたはそう思った。

 

翔が久しぶりに学校に出てきたのは2人がケンカして1週間以上経ってからだった。

いつもは来ると必ずお互いの元へと走るサヤカと翔なのに、

今日は目を合わせると気まずそうに俯いてしまう。

そんな2人に、ひなたと響子はため息をついた。

「サヤカ、いいかげん翔くんと話しといでよ」

ひなたが言うと、サヤカはフルフルと首を横に振った。

「ダメ。無理。怖い・・・」

「そんなこと言ったって、あんたこのままでいいの?」

響子の問いに、サヤカはさっきと同じように首を振る。

「ヤダ。でも、あたし、翔くんに迷惑かけて・・・」

泣きそうなサヤカの頭を撫でてやりながら、ひなたは「ねぇ、サヤカ」と声をかける。

「自分が迷惑かけたって思ってるのなら謝らなきゃ。

それに、翔くんもサヤカに謝りたいはずだよ」

仮定ではなく、確信。

さっきサヤカに内緒で翔と話をしたときに聞いた言葉。

『ねぇ、桜井くん。まだ、サヤカのこと怒ってるの?』

響子の問いかけに、翔は情けなさそうに笑った。

怒ってなんかない、と。

『オレ、あの時すごいイラついてて、知れず知らずのうちにサヤカにあたっちゃったんだ。

あとからすごい後悔して・・・すぐに謝ろうかと思ったけど、サヤカを傷つけておいて、そんな一言で許してもらおうとしてる自分が情けなくてさ・・・』

2人は、同じなのだ。

自分が悪いことを認めておきながら、相手のことを想っているが故に、素直に謝れない。

(ややこしい関係)

響子はため息をつくが、

とりあえず、今は翔に動いてもらわないとなにも始まらないと考えた。

サヤカは今、全てを深く、悪いほうへ考えすぎている。

そう、先に謝るのはどちらでもいい。結果的に仲直りできれば。

ただ、きっかけとなる行動を起こすのは翔でなければダメだ。

サヤカは、動けないから。

「・・・今日、サヤカと帰ろうと思うんだ」

思いがけない翔の言葉に、響子は笑って「がんばれ」と返した。

早く2人を仲直りさせないと。

あんなサヤカは、辛くて見ていられない。

 

「サヤカ、一緒に帰ろ?」

放課後、ふと自分の元にやってきた翔の言葉に、

サヤカはびっくりしたように顔を上げ、それからまた俯いて、小さく頷いた。

それを見たひなたと響子は顔を見合わせると、2人の後ろをそっとついていった。

翔の後ろを、サヤカが数歩空けてついていく。

言葉はない。

ただ、2人縦に並ぶように歩いていく。

言わなければいけないことはたくさんあるのに。

謝りたいのに。

こんな所じゃなくて、もっと傍に、隣にいきたいのに。

傷つけたことへの罪悪感、我侭な自分への嫌悪感、

いろんなものが2人の距離を空けていく。

ふと、目の前の横断歩道の信号が赤になった。

立ち止まった翔に、やっとサヤカが追いつく。

サヤカは、チラリと横の翔の顔を見上げると再び俯き、

遠慮ぎみに翔の制服の袖の端っこをつかんだ。

それに気付いた翔は、キュッと唇を結ぶと、ポンッとサヤカの頭をなで、

無言で手をつなぐ。

ただ、手をつないでもらっただけなのに、サヤカは嬉しくて泣きそうになる。

俯いたままのサヤカの頭をもう1度撫でると、翔は強く手を握りなおした。

信号が青に変わり、今度は2人横に並んで歩き出す。

ちょうど信号の真ん中まで来たあたりで、サヤカが足を止めた。

「・・・サヤカ?」

「翔くん・・・」

サヤカが思い切って何かを言いかけた時。

キキキィッ!!

横断歩道の真ん中の2人をめがけて、車が走ってきた。

翔は慌ててサヤカの手を放すと、そのままサヤカをドンと後ろに突き飛ばした。

ガシャンッ!

サヤカが横断歩道の上にしりもちをついたのと、

そんな衝撃音がしたのは、ほぼ同時だった。

サヤカの目の前でもあもあと、白い煙が上がっている。

いったい、なにが・・・

わけが分からず呆然としてしまったサヤカの視界に、赤色が映った。

あれは・・・なに?

その赤のなかに、倒れている誰かの姿を捉える。

「ぁ・・・・・」

サヤカは震える手で道路に手をついた。

あれは・・・

「翔くん!!」

慌てて立ち上がり、血だまりの中の翔の元に駆け寄る。

そうだ。

車が突っ込んできたのだ。

それで自分は翔に突き飛ばされて・・・翔に助けられたのだ。

信号はまだ青だったのに。

自分たちはただ、横断歩道を渡っていただけなのに!!

「やだ、やだ!翔くん!!」

翔を抱き起こそうとするサヤカを、

2人を後ろから見守っていた響子とひなたが慌てて止めた。

頭を打っていたら動かさないほうがいい。

「翔くん!翔くん!!」

「サヤカ!!落ち着いて!動かしちゃダメ!!」

ただ翔の名前を呼び続けるサヤカを、ひなたが正面から抱きしめるように止める。

「サヤカ、今救急車来るから。大丈夫だから!」

響子に肩を揺すられ、サヤカの目から涙がこぼれた。

「やだ、やだよ翔くん!!目ぇ開けて!?こんなのやだぁ!!」

なんでこんなことになるの?

あたしが我侭言って翔くん困らせたから?

だったら謝るから。

いくらでも謝る。

なんだってする。

だから、

翔くん、目を開けて・・・・

 

 

 

―――誰かに、呼ばれた気がした。

すごく愛しい者の声。

・・・泣いている?

どうして?

泣いてるの?

サヤカ・・・

 

 

 

目を、覚ますとサヤカの泣き顔が目に入ってきた。

「サヤ・・・」

名前を呼ぶ前に、サヤカに思いっきり頬をひっぱたかれた。

「バカァ!!」

泣きながら怒鳴ってくるサヤカに、翔は困惑してしまう。

「待って・・・ここどこ?なんでサヤカ、泣いてるの?」

やっと、自分が見知らぬ部屋にいるのだと気付き、そう尋ねると、

サヤカは涙の零れる目を両手で覆い、「病院」と短く答えた。

そう言われて全てを思い出す。

自分は交通事故に遭ったのだと。

急に突っ込んできた車。

とっさにサヤカを守ろうと、サヤカの体を突き飛ばし、そのまま自分ははねられたのだ。

そういえば、自分の手には白い包帯が巻いてあるし、

額に触れると、そこにも包帯があった。

「・・・いろいろ検査したけど、今のところは異常はないって。足、骨折してるけど」

「そっか・・・サヤカは?怪我ない?」

そう聞くと、サヤカはまた頬をたたいてきた。

「人の心配なんていいから、自分の心配してよ!」

「サヤカ・・・」

涙の伝うサヤカの頬に、翔はそっと手をのばした。

「・・・・・・翔くんが、死んじゃうかと思った」

―――本当に、一瞬なにが起きたのか分からなくて。

でも、翔の額から流れる大量の血に、状況を把握せざるをえなかった。

いくら呼んでも目を開けてくれなくて。

響子とひなたに止められながら、ただただ名前を呼び続けた。

お願いだから、目を開けて、と。

上半身をゆっくりと起こした翔に、サヤカはしがみついた。

自分の首に手を回し、胸に顔を埋めるサヤカの頭を優しく撫でてやる。

「ごめんなさい・・・」

「え?」

「我侭ばかり言ってごめんなさい。

もう我侭言わない。

翔くん困らせない。

だから、もう2度とこんなことしないで・・・」

「サヤカ・・・」

「あたし・・・あたし、なんて言われても、なんて罵られても、翔くんが一番大切なの。

翔君がいなきゃ嫌なの!翔くんのそばにいたいの。翔くんじゃなきゃ嫌なの。

あたしは死んだっていいから。だけど、翔くんが死ぬのは嫌なの!

だから・・・もう絶対、あんなことしないで・・・」

翔はサヤカを強く抱きしめ、その額に唇をおとした。

「ごめん、サヤカ・・・」

心配かけて。

泣かせて。

だけど、自分にとっても、サヤカはとても大切な存在で。

だから、なにがあっても守り抜きたいんだ。

自分を犠牲にしてでもいい。

「サヤカ・・・君が好きです」

突然の告白に、サヤカはびっくりして翔の胸の中で顔を上げる。

「だから・・・」

オレに君を守らせてください。

翔の言葉に、サヤカはまた涙を零した。

大好きだから。

誰よりも。

大切だから。

どうか、

大切な君を守らせて・・・

 

 

 

数日後、翔は退院した。まだ、骨折した足にギブスをはめ、松葉杖をついているが。

その日、病院にはサヤカだけでなく、響子やひなた、ひなたに話を聞いた亮も来ていた。

翔を支えてやりながら隣を歩くサヤカ。

そんな2人を後ろから見守りながら、亮は隣を歩くひなたに声をかけた。

「なんや。ケンカしたって言ってたから心配しとったけど・・・仲直りしたみたいやな」

ホッとしたように笑う亮に、ひなたは少し困ったように笑う。

「ほら。ケンカするほど仲がいいって言うじゃない?」

「ま、それもそうやな」

すっかり仲よさそうに歩く2人に、みんな安心したように笑った。

 

 

 

ずっと傍にいさせてください。

守らせてください。

君が、

好きです。

 

 

 

 

 

―――あとがき―――

 ・・・・・・なんじゃこりゃ?消化不良すぎ。

 わけわかんねーよ。

 うーん・・・・・・とにかく、クリスマスプレゼント。

 って、全然クリスマスっぽくねーよ。

 書きたかったのは2人のケンカと、そのあとのラブラブな2人。なのに、翔くんを事故らせる侑子・・・お前サイテー・・・しかも、前半の翔くん、彼女にあたるダメダメ男になってるし・・・お前最悪。いや、あたしがだよ?翔くんじゃないよ?

 

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