ねえ。

あなたは覚えてますか?

あたし達が

初めてキスした日のこと。

あなたを

すごく近くに感じた日のことを・・・

 

 

「真冬の奇跡」

 

チャイムが鳴って、周助は教科書をパタンと閉めた。

「じゃあ、今日はここまでな?次はこの続きからやるから、予習しとけよ!

あ、あと。小泉!!」

よばれて響子は顔を上げる。

「ちょっと話があるから後でオレのトコこい。じゃ、解散!」

周助はそう言って教室を出て行った。

響子は首を傾げつつ、周助の後を追うように教室を出た。

廊下に出てから、周助のスーツの袖を遠慮気味にひっぱる。

「周、どうしたの?」

小声で、周りには聞こえないように問いかける。

「あのさ、今日職員会議があるんだ。で、遅くなりそうだから、今日はさき帰ってろ」

「いいよ。待ってる」

じつは2人、下校はいつも一緒なのだ。

帰りの遅くなった生徒をしかたないなぁと言って送っているように見せかけて、

周助はいつも助手席に響子を乗せる。

だから、別にいつもと変わらないのに。

「でも、お前今カゼひいてるだろ?今日、寒いし。受験生がカゼこじらせてどうする?

だから今日は先に帰れ。な?」

周助に顔を覗き込まれるようにして言われて、響子はコクンと頷いた。

1人で帰るのなんて、久しぶりだ。

 

 

『周、雪・・・』

『うわ!マジで?どうりで寒いと思った・・・』

暗い空を、2人で見上げる。

ふと、周助はマフラーをはずした。

『響子、コレ』

『えっ?いいよ。周がカゼひく』

『たまには甘えなさい』

そう言って、周助は自分の黒のマフラーを響子の首に巻いた。

それから、2人は唇を合わせて、

恥ずかしそうに2人して俯いた。

あぁ、そうか。

確かあの日も・・・

 

 

響子は、ハッと目を覚まし、辺りを見回した。

すっかり誰もいなくなった昇降口。

下駄箱の前にひかれたザラ板の上に体操座りをしていた響子はハァと息を漏らした。

「寒い・・・」

ポツリとつぶやいて、膝の上にコツンと額をのせる。

あたりまえだ。

今日は本当に寒いのだから。

そう。本当は家に帰るつもりでここまできたのに、

いざ靴を履いて学校を出ようとしたら足が動かなくて、

ザラ板の上に座ってしまった。

響子は手首を覆っていたコートの袖を少しだけまくって、腕時計を確認する。

友人たちがここを通り過ぎてから10分近くたっている。

けっこう寝たつもりだったのに、時間的にはあまり寝てなかったらしい。

友人がここを通り過ぎるときにくれたホッカイロを握り締め、

響子は再び息をもらす。

本当は、寒くて、

つまらなくて、

早く家に帰りたいのに。

なんでだろう。

「足、動かないや・・・」

ねぇ、早く来て?

ホッカイロを握り締めても、

自分の体を自分で抱きしめても、

全然あったかくならない。

からだが、

あなたの温もりだけを求めてる。

その、存在を、

求めている。

それに、ホラ。

こんな寒い日は、

あの時のことを思い出すから・・・

 

 

「じゃあ、今日はこれで」

そんな教頭の一言で、職員会議はやっと終わりを告げた。

周助は大きなあくびをして、それから大きく息をついた。

職員会議なんて、つまらないし、タルイだけだ。

しかも、時間の無駄遣い。

(・・・帰ったよなぁ)

時計を見て、周助はため息をつく。

1時間近く続いた会議。

こんな寒い中で待っているわけがない。

それに、

(帰れって言ったの自分だしなぁ・・・)

カゼ、こじらせたらいけないし。

こんな寒い中で待たせるなんて、絶対にできない。

そう思って先に帰れと言ったが・・・

(やっぱさぁ、)

一緒に帰りたかった。

ただでさえ、自分たちは人目を気にしなければいけないのに。

一緒に帰ることぐらいいいじゃないか。

だけど、どんなに文句を言ったって響子はもう帰ってしまった。

「三島先生。帰りに一杯やってきません?」

自分と同期の数学教師に誘われたが、

とても男と飲む気にはなれなくて「今日はちょっと遠慮しときます」と断った。

それから、さっさと書類をまとめ、空を見上げる。

すっかり暗くなった空。

気温も、どんどん下がってきている気がする。

(・・・帰っちまった、よなぁ?)

大きく息をつき、職員室を出る。

職員玄関まで来て、靴を履いたところで、後ろから名前を呼ばれた。

後ろにいたのは翔とサヤカ。

「松島に桜井。なに?お前ら勉強してたのか?」

「うん。それより周くん」

「こら。学校内でその呼び方はするな」

「だってコレが一番よびやすいんだもん。あぁ、そうじゃなくって!

早く行ってあげなよ?響子待ってる」

・・・・・・・・・えっ?

今、なんと言った?

待ってる?

誰が?

「なに、言ってるんだ?オレ、響子に先に帰れって・・・」

「でも、響子さん確かに下駄箱のところにいたッスよ?」

「うん。寒そうだったからあたしのカイロあげた。

なんだ。あたし周くん待ってるのかと思ってた」

翔の言葉にサヤカがうなづく。

周助は慌てて「さっちゃん、それどれくらい前の話?」と問いただす。

「んー・・・さっきコーヒー買いに行った時だから・・・15分ぐらい前かな?」

「そうだよね?」と、自信なさそうに確認してくるサヤカに、翔も頷いてやる。

翔が頷くのを見ると、周助は「ありがとう」と残して、職員玄関を出た。

職員駐車場には向かわず。生徒の昇降口へと走る。

「・・・・・・」

じーっとこちらを見てくる翔に、サヤカは「なに?」と首を傾げる。

「・・・三島先生、サヤカのこと『さっちゃん』って呼ぶんだな」

そういえば・・・・・・

意外すぎ。

 

 

『響子さん確かに下駄箱のところにいたッスよ?』

それが本当だというのなら、彼女は自分を待っていてくれたのだろうか。

だけど、

職員会議は1時間近くやっていたのだ。

校舎の外から回り込み、昇降口をくぐると、

サヤカ達の言っていたとおり、響子は下駄箱にもたれかかった形で座っていた。

「!!響子!!」

その姿を確認して、ここが学校だということも忘れて名前で呼ぶと、

俯いて座っていた響子は顔を上げこちらを向き、

「周・・・」と、

驚いたように名前を呼んだ。

「・・・こ・・・んの、バカ!!」

響子の肩をつかんで怒鳴りつける。

わけがわからず、響子はきょとんとした顔で周助を見上げた。

「なんで先に帰らないんだよ!?カゼ、悪くなるぞ!?」

「・・・・・・本当は、」

ゆっくりと、響子は言葉を紡ぐ。

「本当は、帰ろうと思ったの」

寒いし、

周助とは一緒に帰れないし、

学校にいたってつまんない。

だから、もう帰ろう。

そう思ったのに。

「でも、ここまで来たら、なんか足止まっちゃった」

どうしようかと悩んで、少しだけと思い下駄箱の前に座ったら、

もう動けなかった。

「やっぱり、どんなに寒くても、どんなに待たされても、周と一緒に帰りたかったのよ」

そう言って座ったまま笑う響子を、周助は強く抱きしめた。

「・・・ごめん。待っててくれたのに、バカなんて言って」

響子は周助の胸の中で小さく顔を横に振る。

「別に、平気。あたしが勝手に待ってただけなんだから」

それから、響子は自分を抱きしめる周助の首に腕を回した。

「おい、ここ学校・・・」

「今さらじゃない。それに、周あったかいんだもん」

「・・・どれくらいここにいた?お前、冷たい」

すっかり冷たくなった響子の体を温めるように、周助は抱きしめる手に力を込める。

「わかんない。けっこう長かったかな?」

「待ってるなら教室にいればよかったのに。さっちゃんとか桜井とか、

 まだ残ってるやついたからさ」

「うん、そうだね」

しばらくお互いを抱きしめてから、周助はそっと響子を放した。

「・・・帰ろう、響子」

「うん」

先に周助が立ち上がり、響子に手を差し出す。

響子はその手をためらうことなく取り、もう片方の手をザラ板の上について、

ゆっくりと立ち上がった。

さっきまでは全然動けなかったのに。

やっぱりこれは

あなたがいるからだろうか?

「あれ?響子、マフラーは?」

響子の首に、お気に入りのバーバリーのマフラーがないことに気付く。

「うん。今日忘れてきちゃって・・・」

「しょうがねぇなぁ・・・」

そう言って周助は、自分のマフラーを響子の首に巻いてやった。

ふと、なにかを思い出し、響子が笑う。

「・・・なに?」

「周、覚えてる?」

そう言われて、周助は「・・・あぁ」と頷いた。

2年前。

自分たちが付き合い始めたばかりのころ。

今日みたいに寒い日で、

その時も自分はこの恋人にマフラーをかした。

「・・・そういえば、ちょうど今頃だったな」

「うん。雪ふってきてさ・・・」

そう言って、2人が昇降口の外を見た直後。

ひら・・・・・・・

2人の目の前を、ひとひらの雪が舞っていった。

「周・・・雪・・・・・・」

「うん・・・すごいな。今話してたばっかなのに・・・」

空が、2人に話を合わせるように雪を降らせた。

いつまでも雪を見ている恋人をちらりと見ると、

周助は少しだけかがんで、響子の唇に自分の唇を重ねた。

触れるだけの、キス。

響子が驚いたまま周助の顔を見上げると、

周助は恥ずかしそうに口元を押さえて、ふいと顔を背けてしまった。

だけど、サッと響子の手をとり、自分のコートのポケットに入れてしまう。

「・・・周」

まるで、全てがあの時みたい。

響子は周助の横にピッタリとくっつくと嬉しそうに笑った。

「周」

帰ろう?

このまま、

手をつないで、あなたの車に向かおう?

今日は、

この奇跡のような偶然を、

2人でかみしめよう?

 

 

あとがき

 響子さん主役第2弾。三島先生とのラブラブ編。いや、前もラブラブしてたけどさ。

 しかし、周助さん。サヤカのこと「さっちゃん」って・・・

 なんだか大人な雰囲気を漂わせたかったけど、ただのゲロ甘?だめじゃん、ゆう。

 普段クールな響子さんは、周助さんの前だと甘えんぼなのね。

そういえば、周助さんはいくつぐらいなのかしら?20代後半ってとこ?

・・・もしかして、ロリ?

・・・・・・・・・考えるのやめよ。

  ちなみに響子愛用のバーバリーのマフラー。

  ただあたしが欲しいだけ。誰か買って・・・

  しかし・・・字の色灰色って見にくかったかしらん?

 
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