朝から気持ちの良い風がふいていて、何か良い事があるような予感がしていた。

 

授業の前、HRの時間、担任の先生の後から入ってきた生徒にアイジは目を奪われた。

少し伸びた前髪の向こうに見える節目がちな瞳には、力強い魂が宿っている…そんな印象の彼に、アイジは引き込まれた。

初めて見るはずなのに、何故か懐かしさと暖かな香りを感じる。

そんな事をぼーっと考えながら凝視していると、彼と目が合った。

正確には合ったような気がしただけかもしれない。

しかしアイジの頭の中は彼の事でいっぱいだった。

 

昼休みになると、彼はそっと教室を出て行った。

弁当の持ち込みも自由であるし、学食のメニューも充実した学園であったから、きっと学食へとでも向かったのだろうか。

休み時間のたびに沢山のクラスメート達から質問を受けていた為に、アイジは近付きたくても近付けない状況にあったので、ここぞとばかりに後を追いかけた。

学食とは反対方向へと歩いていく。

「まさかサボり?」

学食の反対方向は、中庭へ向かう廊下があった。

足早に歩いていく彼についていくのに精一杯で、もうすっかり息が上がっていた。

「あれ…?何処行ったんだろう…」

ちょっと油断した隙に居なくなってしまったらしい。辺りを見回しても、中庭には沢山の木が生い茂っているので影も形も見えなかった。

うろうろと歩き回り、辺りをきょろきょろ見回したところで、肩に手が置かれる。

「わっ!!」

あまりにも吃驚して大声をあげてしまったが、何故か人に聞かれてはいけない気がして、慌てて手で口を覆った。

「こっちが吃驚するじゃないか。何だオマエ、尾行が趣味か?その割には下手糞だな。ずーっと気付いてたぜ?」

「何だよ、気付いてたなら声掛けてくれれば良いじゃないか。小走りで疲れた…」

「何だよそれ(笑)最初は俺に用が有るとは思ってなかったんだよ。暫くして気付いたんだけどな。」

微笑んだ彼にまた目を奪われる。

「飯、食ったのか??」

ボーっとしていた所に声を掛けられ、慌てて首を振った。

すると、キリトは手に持っていたパンを1つアイジに投げた。

「よかったら食えよ。」

そう言ってかすかに笑う顔に、再び何かを感じた。

怪訝そうな顔のアイジに、キリトは何か言いた気だったが、寸でのところで言葉を飲み込んでいた事にアイジは気付かなかった。

「あのさ…」

「ん?」

「変な事聞いて良いかな?」

「俺…前に逢った事ないかな?キリトくんに…」

口の端をわずかに上げて、何となく笑いながらキリトは

「さてね。」

そう言うと、まだ食べかけのパンを袋に戻し、アイジを置いてその場を去ってしまった。

 

 

 

「そっか…あいつ男だったんだ…」

キリトの囁きは風に乗ったが、アイジには届かなかった。