RAIN DROPS


    
    大きくなかった君の肩越しで
    森の闇が夜になるとか
    夏の気配と足音が
    花火のように美しかったとか

    分け合った景色のはしっこを
    少しずつたどっていたら
    皮肉なことは言わなかった君の
    はにかんだ口元が浮かぶ

    少しも重要じゃないふりをして
    強がりばかりを口にしながら
    いつまでも笑っている目は
    切なくなるほど優しかった

    好きだって言ってた映画の
    結末はどんなだっけ?

    無鉄砲な指先が
    濡れた空気に混ざり合ったとき
    たまらなく好きだった君の声は
    終わりなき旋律にかわった

    シンプルな音は
    すぐ後ろを通り過ぎていく
    君の瞬間に惑わされて
    今も髪を伸ばし続けてる

                        2005/1/9

    
    グリーンのお湯の中のレモングラスの香り
    もうずっと無意識な物思いにふけってた
    世界の終りがこの雪の下にあると信じてたのは
    どれくらい前のことだっけ?

    同じようなエピソードを口ずさみながら
    重たい足を少しずつ前に進めて
    幼すぎる僅かな笑い声だけを
    そっと心の奥にしまいこんだ

    胸の中のざわめきが君を暗示するように
    遠い浜辺が僕を呼んでいる
    かすかに浮かんだ夜の喧騒に
    まとわりつかれて連れていかれそう

    気に入りの器に想いのすべてを映し出しても
    僕は未だ瞬きさえもできずにいるよ

                        2004/8/6

    
    知らないような夏の残酷と
    知らな過ぎた誰かの笑顔

    気づかないふりばかりしていた
    どうしてそんなに美しい
    わからないように手を伸ばした

    桜貝のような淡い世界で
    ぼんやり考え事ばかりして
    優しくなった気になってる

    君に殺されてみてもいいよ

                        2004/8/1

    
    君のことを思い出すとき
    世界は少し青に染まる
    グラスを片手に薄暗い中で笑う君
    瞬間は切り取ったはずなのに

    眠りが僕を呼ぶ
    頭痛にも似かよった香りのせい
    時折訪れる声の気配と夜の闇
    退屈の奇跡なんてわかるはずもなくて

    誰かを待つ午後にはない憂鬱
    香りを忍ばせて待っていよう
    あの日の花みたいに
    少し淋しく笑ってみせる

    さりげなく降り始めた雨
    どこからともなく流れる時の音
    君のしずくだけが目の前にある
    レモンティーは今飲み干した

                        2004/7/30

    
    退屈すぎた光の中のあくびが
    まばたきする暇もない色を帯びている
    風の隙間をすべるように
    ただひたすらに胸のわだかまりを隠してる

    苦しくて美しい感情の渦だけを
    気づかないふりをして走る夏
    流れている嘘みたいな時間の意味は
    にじみでる涙の理由だけが知る

    何かにとりつかれたような
    濡れる夏のざわめき
    狂いそうなほど甘い蜜は
    真昼の夜の強すぎた幻

    街を色取る囁きにも似た空が
    心の底をゆっくり掻き乱していく

    破れかけた淡いレコードの音色に
    僕のすべてを閉じ込めて
    むせび泣いたままの
    あの日の途方もないくちびる

    もうどうでもいいことだ

                        2004/7/29

    
    ふいによぎる君の話
    あの時知り得なかった一面が
    ソファーの上で繰り広げられる

    無邪気で大人になれなかった君
    笑い声は今も近くを通り過ぎる
    もう逢えるはずもないのに

    わがままな指を持て余していた
    熱情のような暑さの中で
    いつも近くばかりをみつめてる

    耐えがたい空白の想いを
    狂気にも似た水の中の
    どこか遠くへ置き去りにしたい

                        2004/7/26

    
    魔法がかかった
    太陽が溶け出したあの日差しの中
    君の透明なその声に
    すべてをあけわたすと決めた

    夢うつつのまなざし
    抱き寄せられたようなぬるい感情と
    どこまでも続くライムの香り
    思考の途絶えた僕がいた

    囁くような君の声は
    いつだって桜色の空気の中
    あきれるくらい何もかも捨て去って
    その世界に身を沈めてた

    白い吐息の午後に見た
    誰も気づかない悪戯な空間
    はかり知れないレモネードの甘さに
    夢中になって酔いしれてしまった

    時折やってくる形のないまやかし
    甘すぎてけだるいぼんやりした憂鬱
    知ってはいけない我儘な甘さは
    今も根を張ったままでいる

    魔法はとけてしまった
    君の色を忘れたわけじゃない
    もっと繋がっていたかったのに
    どこに置いてきてしまったんだろう

    君の魔法をかけて
    ねぇ もう一度だけでいいから

                        2004/1/6

    
    レモンのマーマレードの朝
    言葉数の少ない君が
    手招きしては逃げ去って

    はちみつ色のベランダで
    胸の中のひとかけらを
    電話で君に話してた

    とりとめのない蒼い花吹雪が
    いつしか君のものになって
    僕のもとから姿を消した

    秘められた角のない戯言を
    強すぎる風の中へ泳がせたら
    あの日の面影も見失えるんだろう

    限りある記憶は混ざり合って浮かぶ
    儚いのに覚めることのない夢
    続きはいつだってあの日のまま

    気づくことのなかった小さな手を
    確かな音の中に溶かし込んで

    優しすぎた君の言葉の色彩を
    曲がりくねった僕に映して

    曖昧さの交差する風景の中で
    許されなかった淡いまどろみ
    まぶたの裏に焼きついた君の微笑

                        2003/12/27