理工系大学における外国人留学生の日本語能力に関する調査分析
〜東京工業大学大学院課程を中心に〜
0.序
H2〜4年、科学技術日本語の教材開発の研究の一環として、東京工業大学留学生教育センターでは、大学院に在籍する理工系留学生を対象とした日本語能力に関するニーズアナリシスを行った。
*注:ニーズアナリシス……日本語を学ぶ人たちが、どんなところで日本語を必要としているのかを項目立ててアンケートの形にし、分析する作業のこと。学習者自代身だけでなく、彼らに接する日本人に対しても答えてもらう。
1日本語学習背景
東工大の日本語教育では、漢字圏・非漢字圏の2グループに分けて授業を行っているので、調査対象の学生223名の日本語学習背景もこの2つに大別することとする。
1.1 国籍
漢字圏……中国、韓国、台湾、香港の4カ国123人
非漢字圏……タイ、インドネシア、ブラジルなど35カ国100人
(東工大ではタイ、インドネシアの大学との交流があるのでこの国が上位)
1.2 身分
非漢字圏は修士課程と博士課程がほぼ同数であるが、漢字圏では博士課程が修士課程の2倍になっている。
1.3 日本滞在期間と日本語学習歴
来日以前に日本語を学習した者も、ほとんどが来日後も東工大もしくは語学専門学校で日本語を学習している。非漢字圏の学生は在日、在学時間が漢字圏の学生に比べて短いので、学習歴も漢字圏の学生に比べると短い者が多いといえる。逆に漢字圏の学生の滞在期間が比較的長いのは、日本語能力の高さによって更に高度な専門の研究活動を可能にしているからだとも思われる。
2. 日本語能力自己評価
漢字圏の学生に比べ非漢字圏の学生で自己評価のばらつきがみられる理由として、@滞在期間・学習期間の短さ、A専門用語の特殊性、B漢字の問題が挙げられるが、特に漢字の習得が最も問題になる。漢字に関する効果的な学習が必要。
3.専門分野での日本語使用について
実際の研究の場で留学生が日本語をどのように活用しているのかを調べた。
@ 指導教官・研究室の日本人学生と何語で話すか
教官より学生に対して日本語を多く使用している。非漢字圏の学生でも日常生活においては、できるだけ日本語で話そうと努力しているのがわかる。
A 講義やセミナーの日本語が理解できるか
B 講義やセミナーで質問するか、しない場合、それは何故か
漢字圏と非漢字圏とでは質問しない理由となっている日本語の内容が違う。非漢字圏学生は、自分の知っている範囲の語彙や文型を使って言いたいことがいえるが、講義の内容を理解しようとすると、学習語彙の範囲を大幅に越えてしまう。
C 専門書は何語で読むか。日本語の場合、理解できるか。
漢字圏では日本語と英語で読む者が多いが、非漢字圏では英語のみで読む者が一番多い。非漢字圏学生全体として、専門書を日本語で読んだときの理解度は高いとはいえない。
D 論文は何語で書きたいか
漢字圏では「日本語」及び「日本語と英語」と答えた者が一番多いが、非漢字圏では英語で書こうとする者が半数以上である。
4.日本語授業の「日本語」と専門課程での「日本語」の相違点
語彙レベル……カタカナ語の専門語(非漢字圏では漢語)
句レベル……会話中心の日本語教科書には出てこない文章的な言い回し
文レベル……長い名詞句の多い文構造に慣れていないため、文構造がつかめない
文章レベル……長い文章の論理構造をつかむ練習が少なく、専門書の長文に苦労する
4.1 その相違点に対する自己解決法
「友達や先生に聞く」が圧倒的に多い。特に非漢字圏学生の場合、漢字の読み仮名を周囲の日本人に振ってもらうようなこともしばしばあり、大きな負担になっている。
4.2 相違点を解決するために日本語授業に望むこと
漢字圏学生は専門書を読むことにはある程度の能力があるので、研究室での意志疎通のための会話や習慣の取得に関心が向けられる。非漢字圏学生はそれに加え、論文やレポートの読み書きが切実な問題となる。
理工系の学生は研究室にいる時間が長く、教授以下のスタッフや学生との一見なんでもないやり取りが非常に重要で、ときには研究成果の命運に響くことがある。
5.回答分析のまとめ
・漢字圏学生と非漢字圏学生とでは日本語能力の問題の所在はかなり違う。非漢字圏学生は日本語学習期間が比較的短く、限られた時間の中で漢字も学習しなければならない。
・専門書に現れる専門用語や文型の提示をできるだけ効率的に行うような処置が必要。
・理工系の研究方法は共同作業なので、研究室での意志疎通がよくできるようにしなければならない。