ANOTER WORLD  第一章 旅立ち




・・・・・・・・・・・・・。
「くっ・・・やめろ!目を覚ませ!!」
「・・・私は・・・」
「ふん・・・何を言っても無駄だ。その女は私が完璧な洗脳を施してある。まぁ止めるに
は殺すしかないな。ふ・・・ふははははははは!!」 “くそ・・・なにかいい手はないのか・・・。シズクを元に戻す方法は・・・” その時・・・シズクの指が素早く“風・闇・牙・烈”と空に書き始めた。 「!!なぜそんな上級な・・・」 そういいつつも男も素早く“風・壁”と・・・。 すさまじい魔力がぶつかりあう・・・そして・・・。 「ぐはぁ・・・」 男が鮮血を噴出して倒れた。彼女の魔力を防ぎきれなかったのだ。 「たわいもないやつめ・・・それでもお前はシュパルの息子か!我が体に触れることもで
きんとはとんだ期待はずれだな・・・。」 「お前ももう用済みだ。消えろ。」 そう冷たく言い放って洗脳したといった女に剣を突き刺す。その剣は普通の剣とは違い なぜか全体が黒びかりし不思議なオーラを放っている・・・。 「・・・・・・・」 無言で女は倒れた・・・。なぜか笑みが見える。死の直前で洗脳から逃れたのか。 「シオン・・・」 最期の一言を言った後男は動かなくなった・・・。 「シオン・・・そうか・・・お前の息子だな。くくく・・・おもしろい!シュパルとどち
らが強いか楽しみだ!せめて私の期待を裏切らないでくれよ。くくくくくくくくく・・・」 漆黒の暗闇の中で低い笑い声だけが響きわたっていた・・・。 カーテンから差し込む心地よい光の雨が朝を告げる。といってもまだ6時近くか。 突然ドアが開いた。 「・・・おはよう・・・ございます・・・シオン様。」 この弱々しく今にも消えてしまいそうな声の持ち主はルリだ。 「ああ・・・おはよう。あれ?まだこんな時間だけど?」 「出発は・・・早い方が・・・いいと思って・・・」 とぎれとぎれだが一生懸命話そうという意思が伝わってくる。不思議とうっとおしいとい
う気持ちが全くと言っていいほどあらわれなかった。 「ん・・・分かった。じゃぁ準備するから下で待ってて。」 「はい・・・分かりました・・・」 そういってドアを閉め階段を降りていった。 少し遅れたけど自己紹介を。僕の名前は、ルリが呼んだとおりシオンだ。 魔術師学校を卒業したばかりの15才。彼女も同じ卒業生だ。そして1年後 ほんとは高等学校の方へ進学する予定だったがあまり気が進まないからやめようと 思っている。そしてこの一週間少し“旅”をしてみようと思っている。僕には魔術師に 一番必要な「感情の起伏」が極めて平坦なんだ。この旅がきっかけとなって少しは 改善されることを願っているのだが。 そしてルリの方は・・・。僕もいまいち分からない・・・というのが現状だ。 もとは“主”と“付き人”という間柄だったのだが学校を卒業した今、全く意味を なさない。でも僕が少しの間旅に行きたいといって別れを告げようとした時、 “私も・・・一緒についていっても・・・いいでしょうか?”と言い出したんだ。 普段彼女は全くといっていいほど自分の意見を主張することはなかった。僕は驚きながら
も特に断る理由がなかったので、今一緒にここにいるわけだ。 「さて・・・ルリも待っていることだし、出発するか。」 そういって階段を降りる。1階には簡単な喫茶店がある。そこでルリは朝食を とっているのだろう。 「早かったですね・・・シオン様。」 「ルリを待たせるわけにはいかないしね。」 ルリが積極的に僕に話かけるようになったのはつい最近になってからのことだ。 卒業してもいまだに「様」なのが少々気になるが。 「モーニングのコーヒーで」 「はい、かしこまりました。」 何を注文するのかはあらかじめ決めてあったのでわずか数秒のオーダーだった。 「ところで・・・今日はどこの町へ行くんだっけ?」 そんな質問に呆れた顔など一切しずに笑顔でルリは答えた。 「はい。ファルスティアという所です。ここの町よりも少々大きくて賑やかな町だそうです。」 説明などをする時のルリの口調は驚くほど滑らかで聞きやすいものだった。
普段の会話もこれなら助かるのだが・・・まぁそれは無理だろう。 「へぇ〜それはおもしろそうだね。なにか見どころとかはあるのかな?」 別にどうでもよかったのだが、ここで話をきるとかなりの沈黙が続きそうだったので 適当に聞いてみた。すると少し困ったような表情で、 「そうですね・・・。噴水がきれいだとか。・・・といっても噴水を見に行くために旅を する訳ではありませんし・・・」 と、いいながら微笑した。 「ご注文の方、お持ちいたしました。」 「ああ、ありがと。」 半分の食パンにマーガリン、ゆで卵、サラダ。どれをとっても無難なものばかりだ。 まぁそれが食べたくて注文したのだが。ルリの方はもうほとんど食べ終わっていた。 紅茶をおいしそうに飲んでいる。 「私の顔に・・・何か・・・?」 なんとなく彼女の顔をまじまじと見つめてしまった僕は少し反省した。 「あ・・・なんでもない。ごめん。」 と、いいながら照れ隠しに食パンを一口食べる。 ルリは可愛い・・・と誰から見てもそう思われるだろう。美しい水色に近い髪の色 が特にそう思わせる原因となっていた。しかし別に“特別”な感情はなかった。 彼女が僕をどう思っているのかはさっぱりだが。 そしてしばしの沈黙が続き、僕も朝食を食べ終わった。 「じゃぁ早速行こうか。」 そういって席を立ちお金を払って外に出た。僕たちは学校から多少の援助金をもらったの
でその点はあまり困っていない。学校で真面目にしていてよかった・・・と今感じている。 「まず・・・身を守るための武器を買っておかないとね。」 僕には“魔術”があるので必要ないのだが彼女は必要となるだろう。彼女も“魔術”は 使えるのだが主に補助・回復系だ。まぁそういう教育しかうけてないのだからしかたがないことだ。 「え・・・そんな・・・大丈夫・・・です。多少なら・・・攻撃もできますし・・・」 「念のため・・・だよ。」 そうこういっているうちに武器屋らしきところについた。 「なにがいいか選んでいいよ。お金には余裕があるから多少高くてもいいよ。」 「で・・・でも・・・武器のことはあまりわからないし・・・使ったことがないから・・・ あまりよく分からない・・・どうすれば・・・いいですか?」 かなり戸惑った顔をしながらルリはそう答えた。 「そっか・・・ごめん。だったら扱いやすいコレが一番いいと思うよ。」 そういって手にとったのは“短剣”だ。メリットは軽いから使いやすいし、意外と 折れにくい。女性が扱うには最高の一品だ。デメリットは言うまでもなくリーチだが。 「超合金ならそう簡単には折れないし長く使えると思うよ。でも少し難点が。多少普通の
短剣よりも重いんだ。ほんの少しだけど。」 「でも・・・高いんじゃ・・・ないでしょうか?」 「そんなこと気にしなくっていいって!」 笑ってそう答えた。そして彼女も笑みを返し、 「じゃぁ・・・これで・・・いいです。」 「親父さん、コレ下さい。」 言った後で気づいたのだがなぜ「親父さん」なのだろう・・・。 「毎度あり!」 そういって「親父さん」は超合金の短剣を渡した。なにやら他ごとで忙しいらしく すぐに向こうの方にいってしまった。 「どうかな?手に馴染む?」 「どうでしょう・・・なんとも言えない・・・感じです。」 短剣を握りながらそう答えた。そしてすぐに鞘におさめた。 「使っていくうちに慣れると思うから大丈夫。」 そういってお店を出た。そして本格的にファルスティアへ向かうこととなった。 そしてこれから起こることなど予想もつかないだろう・・・。 「あの・・・さ。」 言いたいことははっきりしているのになぜかつまってしまった。 「どうしたん・・・ですか?」 ルリは微笑を浮かべながらそう答えた。 「僕に・・・別に敬語を使う必要はないし、様っていうのもなんだか・・・」 頭をかきながらそういった。 「でも・・・シオン様は“主”ですから・・・」 「もうそんなふうに思わなくてもいいんだよ。だから僕は君よりも偉い立場じゃないし なんというか・・・対等に話したいんだ。」 「そう・・・ですか・・・じゃぁこれからは“シオン”って・・・呼びますね。」 赤くなりながらも、なにやら嬉しそうに言った・・・様な気がした。 「そうしてくれるとうれしいよ。」 「ところで・・・ここからファルスティアはどのくらいかかるの?」 なにか・・・かなり嫌な予感がする。なにかとても強い気配を感じる。 「多分1時間もあれば着くと思いますよ。」 一時間・・・微妙だな。とりあえず一刻も早く町に到着しないと。 一つだけ心配がある。それは・・・ドラゴンの出現だ。この普通の街道には滅多に 現れないのだがこの強い気配は・・・。少し考えてしまう。この世界には大きく4つの ドラゴンが存在し「ディープドラゴン」「ミストドラゴン」「ダークドラゴン」「アンデットドラゴン」の4つ。
ここの近くに生存しているのは「ミストドラゴン」で少々厄介な敵だ。 なるべくなら出会いたくはないのだが・・・。 ふと顔をあげて見るとルリがなにやら心配そうにこちらを見ている。 「どうしたん・・・ですか?なにか心配事でも・・・」 微笑しながらそう尋ねられた。 「ああ・・・なんでもない。先を急ごうか・・・」 と言ったとほぼ同時に“それ”は出現した。すさまじい力を持って。 「悪い予感が見事的中とは・・・運が悪いな・・・」 「ルリ!!なるべく離れて!ここは僕がなんとかするから!」 多少の焦りがあった。 「はい・・・分かりました・・・」 といって離れ、物陰に隠れた。答えが敬語だったので少し苦笑したが今はそんな暇はない。 先制したのはミストドラゴン。「霧の息」を吐き始めた。 “これは相当厄介だな・・・目が使えないとなると・・・やはり周りごとふっとばすしかなさそうだ・・・” ミストドラゴンが霧と同化してゆく・・・。 そしてシオンはすばやく空に“風・巻・烈”と文字通り“書いた”のだ。 周りがすさまじい風に包まれる。まるで竜巻・・・だ。周りの木をなぎ倒し、霧が徐々にはれていく・・・。 「グ・・・グオオオオオオ・・・」 ミストドラゴンの悲鳴だ。さすがに体を分散されれば多少のダメージはあるだろう。 “この技の弱点は・・・自分を中心として放つとじぶんも少なからずダメージがあるということだ・・・” シオンの体は傷だらけになっていた。壁もはったのだがあまり意味がなかった。しかしそ
れぐらいしないとあいつは“逃げて”はくれない。 そしてミストドラゴンの気配は完全に消えた。どこか別のところへ“転移”したのだろう。 「だ・・・大丈夫ですか??」 焦燥が言葉で十分に分かった。ルリが焦るなんて久しぶりだ・・・と感じて少し笑ってしまった。 「ああ・・・大丈夫。それよりも・・・」 「あ・・・すいません・・・」 そして急いで僕に近づき“風・癒”と僕に向かって書いた。 「ふぅ・・・やっぱルリのヒーリングは効果抜群だね。自分じゃあこうはいかないし。」 「ありがとう・・・ございます。」 頬を赤くしながらそう答えた。この時ルリがほんとにうれしいと感じたことをシオンは 気づいてはいないが。 「じゃぁ・・・ちょっと休憩でもしようか。」 正直いって魔術を使った後にすぐはきつい。それを分かっているのかルリは 「はい。ゆっくり・・・やすんで・・・くださいね。」 優しい口調でそういってくれた。 さすがにルリもミストドラゴンには驚いたのだろう。手には汗を握っているし顔も少し 青ざめている。普通なら失神していてもおかしくないのだが。 ここで少し魔術の説明をしよう。僕たちの魔術は“空に文字を書く”ことを媒体にし魔術
を放出している。魔術にはさまざまな属性があるが僕と彼女は“風”だ。頭にまず“風”
と書くことが鍵となり、後の文字によって魔術の強さが決まる。人の文字を見て真似をす
ればいいと思うかもしれないがそう上手くはいかない。真似は・・・ほとんどといってい
いほど失敗する。だから自分の言葉を“作る”。そうすることによってより強力な魔術を放
出できるのだ。 「じゃぁそろそろいこうか。だいぶ楽になったしね!」 少し声量を上げてそういった。 「行きましょうか・・・。」 こうして二人の長い旅は始まった・・・。 一章終わり。