Little Screening Review
”リトル・スクリーニング・レビュウ”
のんびりしたり結論急いだりのエッセイコーナー (by midnight)

第10回 清志郎のプロポーズ・ソング

 このレビュウもとうとう10回目に突入しました。
 清志郎の歌によく出てくる言葉に焦点をあて、数々の楽曲の中からターゲットタームを pick up して、そこ
から見えてくる共通項をヒントに、清志郎の世界を覗いてみようという、無謀な試みであったのです。
 これまで、9個の言葉についてスクリーニングしてきましたが、まだまだネタがつきそうにありません。そ
んなところからも、清志郎の世界の深さ・普遍性の一端が伺えてるかもしれませんね。自分でも驚いています。

 さて、今回は10回記念ということで、ちょっと趣向をかえてみました。
 ”言葉”ではなく、歌の”テーマ”でスクリーニングしてみます。
 先月号の特集の「君が僕を知ってる」については、なかなかおもしろい対談ができました。なにより、我々
DRCが4人とも全く違うベクトルであの歌を捉えているというのは、これまでにないことでした。詳細は
先月の特集をご覧頂ければお判りかと思いますが、pie はプロポーズソングとして捉え、歌われた女性も喜ぶ
であろうと考えていたのに、私 midnight は全く違った見解だったのです。
 これは男性と女性の差なのか・・・それとも単なる個人差か・・・
 真相は判りませんが、今回は、私が”プロポーズソング”と思える曲についてレビュウしてみましょう。


 清志郎のラブソングはものすごく多いが、プロポーズや結婚を意識している曲は意外と少ない。
 多くの歌は「君が大切だ、必要だ」というただの(というと語弊があるが)ラブソングである。「弱い僕
だから」などもそう。
 「CALL ME」や「モーニングコールをよろしく」「Drive My Car」その他、多くのラブソングは同棲前
の彼女へのラブソング、”君の声で目を覚ます”というのは結婚ではなく、同棲や通い婚でもオッケーなのだ、
きっと。
 「ダーリン・ミシン」や「誰かがベッドで眠ってる」は同棲生活している彼女へのラブソングだが、結婚を
申し込んでいる訳ではない。
 特に「ダーリン・ミシン」「Drive My Car」にでてくる”君”への愛情はとても真摯で誠実なのだが、結
婚にまでは行き着いていないの(結婚の必要性も感じていないのかもしれない)
 「クールな気分」なんかは浮気相手へのラブソングっぽい感じがする。
 一方、「世界中の人に自慢したいよ」はもう結婚して伴侶となっている妻へのラブソングである。
 そして「ソングライター」「夢見るグルーヴィンタイム」などは、妻だけでなく子供達を含めた、家族へ
のラブソングに聴こえる。

 こうしてみると、プロポーズソングって少ないのだが、逆説的にいうと、プロポーズなんてそんな簡単に
するものではない。
 曲数が少なくて当然だ。


 前置きが長くなったが、本題に入ろう。

「君が僕を知ってる」
 これは私は男性からの一方的なラブソングと思う。たとえこれがプロポーズの歌であったとしても、これ
を歌われた彼女”君”は”僕のプロポーズを受け入れるために、かなりの決心を要するのではないだろうか?
つまり、覚悟を決める、腹をくくる、というやつである。この一方的なプロポーズを受け入れるくらい、肝
っ玉が座っていたのが今の奥様(石井さん)なのかもしれない。

「ラプソディ」
 この歌には、僕の気持ちだけでなく、彼女へのいたわりがある。”だから涙ふきなよ まかせとけよ僕に”
でも、逆に「君・僕」やその他のラブソングと違うのは、二人が一般社会という(言い方は悪いが)世俗に
縛られていて、二人以外の問題に翻弄されているところだ。大切なのは”君”と”僕”だけ、という清志郎
の不滅の愛のテーマからはずれているのである。
 ”君のパパもママも いつか判ってくれるさ”となぐさめてはいるものの、具体的に何か方策がある訳で
もない。”ダイジョウブ ダイジョウブ きっとうまくやれるさ”と彼女を慰めつつも、自分を元気づける
だけである、しかも根拠なしに。
 若い頃聞くとこの”僕”に感動したのだが・・・今聞くと「若いな」と思ってしまうのだ(曲に無感動だ
というのではありません。歌詞中の”僕”が子供に思えてしまうのです)今聞くと、「この2人はきっと別
れる」と思ってしまう、生活の重い現実が見えてきそうなのだ。(あの黄金のフォークソング時代を飾った
「かぐや姫」の「神田川」のような世界と似ている気がする)ただ、「ラプソディ」の場合は歌詞も曲も演
奏もボーカルもすべて、フォークソングとは比べものにならないくらい洒落ていたから気付かないが・・・
(ラプソディにロマンを感じた時期もあったのに・・・私が年齢と経験を重ねすぎたためにこう思うのかも)

「指輪をはめたい」
 この歌では”きみ”と”ぼく”の2人の世界、清志郎がよく歌う世界が戻ってきている。そして”ぼく”
の一方的な愛だけでなく、”ぼくにはきみが よくわかる 目を閉じてもきみが見える 離れているときで
も”と、”きみ”への愛情だけではなく理解をも歌い込んでいる。よけいな歌詞をそぎ落としている分、素
敵なプロポーズと思う。もしこれを言葉でいうなら「そばにきみがいれば、ぼくは何も怖くない。きみとこ
の指輪をはめたいのさ、受け取ってくれるかい?」といったところだろうか。

「Oh! Baby」
 これも、2人だけの世界を、家を舞台にして歌っている。この詩のなかでは「歌をつくる」という言葉で、
2人の生活を作り上げるということを比喩していると思う。
 ”そしたらぼくは ギターをペンを持って きみのための歌を きっと書くだろう”し、”きみはギター
を抱いて ぼくのための歌を きっと書くだろう”と、お互いを支えあい、新しい生活を築こうとしている
のだ。
 それは、ただ寂しさを紛らわすためや、楽しむためだけではなく、2人でずっと暮らしていくという決心
が感じられる。それは”キッチン”や”シャワー”という生活感を感じさせる言葉からも伺える。だから、
これは単なる同棲ではなく、プロポーズソングなんだと思う。
 余談だが、「O.K.」でのハワイ録音から帰国し、清志郎を迎えに行った現LSRのギタリスト三宅氏が車中
でこの曲のデモテープを聞き「石井さんの歌だと思って感動した」という記事をなにかで読んだ。

「お弁当箱」
 このラブソングが他と一線を画している点は、自分のことがちっとも出てこない点だ。
たとえば、”僕と2人で**しよう”とか”君がいれば僕は**”とかいう、”僕”と”君”に関わる関係
の記述がほとんどない。あるのは「僕は君のすべてを受け入れるよ」という命題だ。それこそ「君・僕」の
逆で、”(君が、いままでしてきた悪いこと・良くないこと・隠したいことを)全部食べてあげる”つまり
理屈なしで受け入れてくれるというのだ。そして、そんな”君”の影の部分・負い目を全部受け入れて、重
荷がなくなり空っぽになった君の心に”僕を全部つめてあげる”という。年齢を経験を重ねて、傷ついた女
性には涙してしまうプロポーズソングである。私の一押しプロポーズソングである。


 でも、そういえば、大事な曲を忘れてた。「石井さん」
 こんなタイトルでそのままの歌”石井さん、僕は君が好きさ”なんてそのものズバリと歌われるなんて、
女に生まれたら本望でしょう!


”プロポーズソング”を思われるものとしてスクリーニングした曲

「君が僕を知ってる」 {EPLP}
「ラプソディ」            {RAPSODY}
「指輪をはめたい」             {O.K}
「Oh! Baby」                {O.K}
「お弁当箱」     {Music From Power House}
「石井さん」              {Memphis}  (引用順 :{}は主な収録アルバム名)


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