森を抜け、昼過ぎに町に着いた一行は交渉に行った八戒がジープに戻るのを待っていた。
2人部屋ならOKだそうです。今日はここで決めて良いですか、三蔵?」
八戒・悟浄とも昨日の是音達との戦いが直りきっていない。三蔵もそれを分かっているらしく、
黙ってジープを降りる。
「えぇ〜。まだ全然来てねぇじゃん。」
「あのな・・・俺達一応けが人なんだよ。」
お前だってそうだろう?と言われ、悟空が驚いて悟浄を見上げる。
「知ってたの?」
「バレバレだ、サル。」
ジープに揺られている間、時折肩を抑えていた。
「腫れてはいねぇみたいだけど。ちゃんと冷やしとけよ。」
クシャクシャと撫でられた頭に、悟空が笑う。
「何だ?」
「何でもねぇ。」
悟浄が自分を気遣ってくれていたのが嬉しくて、悟空はひとり顔をほころばせる。
「2人部屋だそうですが・・・部屋割どうします?」
「昨夜と同じで構わん。」
「それじゃあ、食料の買出しに行って来ます。」
八戒は商店の方へ足を向ける。
「それでは各自解散、てとこだな。」
いつもなら町へ繰り出す悟浄が悟空たちと一緒に部屋へ向かう。
「あれ?珍しいじゃん。」
「たまには休みたいときもあるの。」
バイバイと手を振られ悟浄達の部屋の扉が閉まる。
「俺、あっちの部屋に行ってくる。」
荷物を置くと、悟空は部屋を飛び出した。
「あ〜それ俺の桃缶!」
机の上には封を切られた缶詰が置かれていた。手づかみで食べていた悟浄がニッと笑う。
「悪い。何か珍しいもんがあるなと思った。」
「返せよ!」
「食っちまったもんはしょうがねぇだろ?」
「ずりい!」
飛びついた悟空をよけきれず二人は床に転がる。
「て前っぇ・・・」
悟空を受け止めた悟浄がクスクスと笑う。床に広がった紅い髪に悟空の心臓が跳ね上がった。
「何だよ、もう。」
蜜で濡れた悟浄の指を掴み、悟空は口に含む。
「おいおい、噛むなよ。」
俺の指は食べ物じゃねぇぞ、と悟浄が笑う。三蔵や八戒といる時には悟浄はこんな子供のような
笑顔は見せない。餓鬼扱いされているのが何だか悔しくて、指を1本ずつ丁寧に舐め取っていく。
「甘い・・・」
覗き込んだ悟浄の顔は、いつもと変わらない皮肉っぽい表情で自分を見つめている。
「と、こらこら。」
引き剥がそうとする悟浄の手を床に押し付け、悟空は濡れている悟浄の唇に指を這わせる。
「こっちも甘い。」
「そりゃそうだろ。」
悟空のことを子供だと思っている悟浄は、悟空のこうした行動を驚きはしているものの、ふざけているくらいにしか思っていないらしい。
「子犬かお前は。」
悟浄に意識されないように、でも少しだけドキドキしながら悟空は悟浄に口づける。唇に零れる
甘い蜜を舐め、からかうように伸ばされた舌に触れ、そっと絡ませる。
「悟浄、・・・あのさ。」
「おや?」
言いかけた言葉は背中に突き刺さる氷のような視線に止められた。部屋の入り口には荷物を
抱えた八戒が立っている。
「お邪魔でしたか?
「何言ってるんだよ。ほら、悟空どけ。」
自分と違い全然焦っていない悟浄にちょっとがっくりしながら悟空が立ち上がる。
「八戒、飯早くしてやって。こいつの桃缶食ったからって食いつかれた。」
「そうですね。」
ニコニコしながらも八戒はじっと悟空を見つめる。(バレ・・・てるよなぁ)悟浄が思っている
ほど悟空は子供ではない。
「俺、部屋帰る。」
「あ、悟空。」
そそくさと部屋を逃げ出そうとした悟空を八戒が呼び止める。
「な、何?」
「いえ。肩にゴミがついてますよ。」
焔にやられた方の方を軽く掴み、八戒が微笑む。
「あ・・・と、ご、ゴメンなさい!」
「いいえ。」
にっこり笑って悟空を放す。後も見ずに悟空は慌てて出て行った。
「餓鬼のやることにそう目くじら立てんなよ、八戒。」
よっこらしょ、と起き上がる悟浄に八戒は深いため息をつく。
「貴方がそんなに無防備でなければ僕も心配しませんよ。」
「何?」
小さく呟く八戒に悟浄は首をかしげる。
「いいえ。ちょっと悟空に同情しただけです。」
八戒の言葉に悟浄はきょとんとした表情で肩を竦めて見せた。
「こ、怖かった・・・。」
部屋に戻ってきた悟空はパッタリとベッドに倒れこむ。
「どうした?」
「悟浄押し倒そうとしたら八戒が帰ってきた。」
ストレートな悟空の物言いに三蔵の手の中の煙草がグシャリと潰される。
「あぁもう!悟浄って何であんなに・・・痛ぇ!」
悟空の頭に思い切り張り扇が振り下ろされる。
「何すんだよ!
「うるせぇ!」
「うるせぇって・・・」
三蔵の不機嫌の意味がわからず涙目になる悟空だった。
END