1COINの憂鬱
あれほど霧に悩まされた森をあっさりと抜け、三蔵達一行は夜になってやっと
近在の村に辿り着くことができた。
「へえ?結構賑やかな村じゃん。」
「飯にしようぜ!俺もうお腹ペッコペコだよう。」
「先刻まで木の実喰ってたろ?」
「あんなもんとっくに消化したよ。三蔵、メシぃ〜」
背後でわいわいと騒ぐ二人に、三蔵は腕の銃を握りなおす。
「てめぇら・・・」
「まぁまぁ、とにかく宿を決めましょう。」
こんな街中で銃を出されては困ると判断したのか、八戒は慌てて人気のない場所へ
ジープを止める。
「じゃあ、僕ちょっと聞いてきます。」
(逃げたな・・・)
後部座席ではじゃれ合いが取っ組み合いに変わり、ジープをガタガタと揺する。
「大体悟浄が勝手に迷子になるからいけねぇんだろ?」
「あぁ?呼んでも来ねぇような躾の悪いお猿ちゃんには言われたくねぇな!」
「良い加減にしねぇか!」
額に目一杯の怒りマークを浮かび上がらせて三蔵が二人に張り扇を振り下ろしたのと、
八戒が宿を見つけて戻ってきたのはほぼ同じだった。
もう火を落としたと渋る宿の主人を拝み倒し、出してもらった夕食を食べ終えると、
三蔵は八戒から渡された部屋の鍵を手に立ち上がった。
「じゃあ、部屋割りは僕と悟浄、三蔵と悟空で良いですね?」
「構わん。・・・ってさっさと来ねぇかこの馬鹿!」
「だって悟浄が俺の餃子を」
「その前に俺のシュウマイ勝手に食っただろ!」
「・・・何だったらそれ以上喰わなくても済むようにしてやるぞ。」
はしゃぐ二人に銃を突きつけ、訳のわからない霧に振り回されて疲れた三蔵の目が
剣呑に光る。
「ご、ご馳走様。」
階段を上がる三蔵の背に、悟空が慌てて立ち上がった。
「痛って!」
「へへん、だ。八戒おやすみ。」
「おやすみなさい。」
「待てこの馬鹿猿!」
行きがけに脛を蹴られた悟浄が投げようとした皿を八戒が止める。
「ちっ。足癖の悪ぃ猿だぜ。ったく・・・。」
「これ以上宿の料金割増されない内に僕らも部屋に行きましょう?」
「おう。食後の一服が済んだらな。先行ってて良いぜ。」
ぶつぶつと言いながら悟浄は煙草をくわえ、何かに気づいたように舌打ちして
立ち上がった。
「参ったな・・・」
「ライター、オイル切れですか?」
「あぁ。なぁ、悪いけど火・・・」
奥の厨房には既に人気はなかった。
「ご主人たちも寝ちゃったみたいですね。」
「仕方ねぇなぁ。」
「寝るとしますか?」
八戒の言葉に悟浄は渋々立ち上がった。
「おーい、三蔵。火ぃ貸して」
寝るといったものの、吸えないとなると余計に気になり、悟浄はまだごそごそと
物音のする三蔵たちの部屋のドアをたたいた。
「何だ?」
顔中に『不機嫌。取扱要注意』と書いたような表情の三蔵が扉を開ける。
「火、貸して。」
「無ぇ。」
「ちょ、ちょっと待て!」
一言で閉じられそうになる扉にしがみつき、悟浄が食い下がる。
「さっき食堂で吸ってたじゃねぇか!」
「あれが最後だ。オイル切れ。」
「あ、そう・・・」
取り付くしまもないその様子に、悟浄はしおしおと自分たちの部屋に戻る。
先にシャワーを浴びていた八戒は眠ってしまったジープをベッドに寝かせて
やっている所だった。
「どうでした?」
「見りゃ分かんでしょ?」
不貞腐れたように空いているベッドに腰掛け、悟浄は仰向けに寝転がった。
「さっきの店で買って置けばよかったですね。」
宿へ行くまでの道に、まだ明かりの点いていた店があったことを八戒が思い出す。
「金がなかったの。ここ、酒場ねぇから賭けも出来ねぇし。」
「女の子もいませんしね。」
「まったくだ。あんな霧にとっつかまるし・・・」
「でも嫌なことばかりじゃなかったですよね?」
「あ?」
何でとききかけ、八戒の瞳が声ほどには優しくないことに気づく。
「独角?さんに逢ったんですか?」
「・・・すごいな。八戒って千里眼?」
隠しても無駄だと分かったのか、悟浄は苦笑する。
「霧が晴れた時、貴方がずいぶん優しそうな顔をしていたから。」
そんな表情をするのはあの人と逢った時だけですから、と八戒が微笑う。
「そうかな。」
「えぇ。おかげで僕はさっきからずっと自己嫌悪です。」
「何で?」
「貴方にそんな表情をさせる人がいることが嫌だと思ってしまうから。」
言葉を失くす悟浄に、独占欲って嫌ですよね、と八戒が俯く。
「八戒、あのさ・・・」
「ごめんなさい。今は何も聞きたくありません。」
俯いたままの八戒に伸ばした腕を引き寄せられ、悟浄はそのままシーツに押し付けられた。
「やっ・・・めろって」
拒絶の言葉を吐かれ、悟浄の上着にかけた八戒の手にいっそう力がこもる。
(やべっ・・・)
「どうして?」
声は優しいのに、八戒の瞳の奥には怒っているような強い光が宿る。ひるむ悟浄の手首を
掴み、八戒はシーツに縫い付けるように押し付けた。怯えたような悟浄の瞳に口元だけ
微笑み、八戒は口付け強引に舌を割り込ませる。いつもは応える悟浄の舌先は震え、
必死で首を振り逃げようとする。
「どうして・・・悟浄・・・?」
「らしく・・・ねぇだろ、こんな強引ッ・・・に。」
「そうですね・・・。でもこうしたいとも思っていましたよ。」
(憎まれても良いから。僕だけ見つめて、僕のことだけしか考えられなくなるように。)
八戒の手が悟浄の下衣をくつろげさせ身体を割り込ませると、悟浄を覆いかぶさるように
抱き、唇を指でなぞる。
「舐めて下さい、悟浄。」
背けようとする顎を捉え、開かせた口中に指を入れる。唾液を掬い取り、歯列を指で辿る。
舌とは違う異物感に、悟浄は何度も苦しげに咳き込んだ。
「・・・ッグ」
悟浄が十分濡らした指を、八戒は後孔に潜り込ませる。中の襞をなぞるように指を回して
やると、悟浄の眉が苦しげにひそめられる。
「痛ィ・・・。」
組み敷かれた身体を起こそうと、悟浄は八戒の胸に手をつき必死でもがく。その苦しげな
表情に八戒の中の暗い欲望が煽られる。
「なぁ・・・八戒。もっ・・・と・・・ァアッ!」
宥めるように無理に微笑もうとした悟浄に、八戒は強引に自身を埋め込む。悟浄は歯を
喰いしばり身を強張らせた。
「悟浄・・・力抜いてください。」
締め付けられ、八戒も苦しそうに告げる。
「ウ・・・ク。」
悟浄の額に汗が浮き出す。八戒は悟浄の脚を持ち上げ、深く腰を埋める。受け止めきれ
ない悟浄の後孔が裂け、シーツに鮮血が滴った。
「悟浄・・・。」
「八っか・・・痛ィ・・・。」
自分を見上げ、涙に濡れた目で見つめる悟浄に、八戒はそっと口付ける。微笑む八戒に、
ホッとしたように悟浄が身体の力を抜く。それを待っていたように八戒は動き始めた。
「アッ・・・八・・・ィ」
貫かれる痛みに、悟浄は何度も八戒の名を呼ぶ。腰を掴み、動きを激しくする八戒に
悟浄は小さく悲鳴を上げて八戒に縋り付く。
「八戒・・・ァアッ・・・ン。」
「悟浄」
見開かれた深紅の瞳に、自分が映る。
(このままこの瞳が自分しか見なければ良いのに。)
「愛してますよ、悟浄。」
悟浄の身体を抱き締め、八戒は悟浄の奥に、欲情を注ぎ込んだ。
END