毎年5月病にかかる

        あんまさんの手

ある男が出張先のホテルでマッサージを頼みました。
あんまさんのマッサージはとても気持ちよく、すっかり疲れもとれ、身体も
軽くなりました。
次の日も男はマッサージを頼みました。
あまりあんまさんのマッサージが気持ちいいので、男は少し考え、その夜、
あんまさんの手を切り落としてしまいました。
そして男はその手でマッサージ器を作りました。
そのマッサージ器はとてもよくできたマッサージ器で、男は毎日それでマッ
サージをしました。
しばらくして男はまた考えました。
こんなによくできたマッサージ器なら売れるかも知れない、と。
そして男は次々にあんまさんの手を切り落としていきました。
男の作ったマッサージ器は飛ぶように売れました。
男はあっという間に大金持ちになり、大きな家を建て、悠々自適な暮らしを
手にいれました。
そんなある日、男のところに一人の女が尋ねてきました。
女は少し汚れたロングスカートに、薄茶色のシャツを着て、両腕には男の作っ
たマッサージ器をかかえていました。
その女には手がありませんでした。
女は男を睨み付け、両腕にかかえたマッサージ器を突き出しました。
「この手は、私の手です。このやけどの跡は、昔ストーブでつけたものです。
この手は私の手です。私の手を切り落としたのはあなたですね!!」
女は怒りに声を震わせながらそう言いました。
男はけげんそうな顔で女を眺め、こう言いました。
「そうですよ。あなたの手はわたしが切り落としました。でも、だからって
どうしようというのです?もう手は切り落とされてしまったんですよ。あな
たにはもう手がないんです。手のないあんまさんなんて、言ってみれば注ぎ
口のないポットのようなもの。もっと言えば座ることのできないイスと同じ
です。あなたにはもう何の価値もない。それよりそのマッサージ器の方がずっ
と役に立つし、素晴らしいですよ。あなたもそのマッサージ器で、マッサー
ジしてみてはどうですか?」
女は目を大きく見開き、噛み締めた唇からは血がにじんでいました。
「よくも!!よくもそんなことを‥‥‥!!!!!」
女は怒りで気が狂いそうになりました。
その時、女のかかえていたマッサージ器の手が勝手に動きだし、男を襲いま
した。男はびっくりしてその手をはらい落とそうとしましたが、手は強く男
の首を絞め、とうとう殺してしまいました。
女はその様子をわけがわからず、ただ見守っていました。
同じ頃、全国で男の作ったマッサージ器の手が、人々を襲い殺していきまし
た。
この事件で日本中は大騒ぎになりました。
警察はこの事件を、ある組織による計画的な無差別大量殺りく事件とし、手
のないあんまさんを次々に逮捕しました。
逮捕されたあんまさん達は、何がなんだかわけがわかりませんでした。
あんまさん達は切り落とされた自分たちの手が、勝手に動いてそんなことを
したなんて知らなかったのです。
あんまさん達は必死になって無実を証明しようとしました。
「私たちは被害者です。私たちはただマッサージをしていただけなんです。
そうしたら、手を切り落とされてしまって‥‥‥。」
たちまち「マッサージをすると手を切り落とされる」という恐怖が日本中を
襲いました。
人々はマッサージをすることを恐れ、誰もマッサージをしなくなりました。
マッサージをしてもらうのが大好きな人たちも、からだのコリを我慢しまし
た。瀕死の患者に対する心臓マッサージでさえしなくなりました。
そしてとうとうマッサージ禁止令が出されたということです。
おしまい。


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